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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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明智君とトラゾウを喜ばせるぞ

 歩けど歩けど、やはりお店は閉まっていた。まあ分かっていたことなので、がっかりする者はいない。ホテルでの贅沢三昧のフルコースのパーティーが楽しみで、頭がいっぱいだったし。大サービスで阿部君のワインも認めてやろう。どうせ説教されるのは、明智君だけだ。ラブラドールになっただけで許されるとは思うなよ、明智君、ヒヒヒ。

 結局、阿部君が取ってくれていたペット同伴で泊まれるホテルに、私たちはノンストップで到着した。と同時に、かろうじて残っていたショッピング願望も、すべてが食欲へと変わる。はずだったのに、なんと、ホテルのすぐ隣に、24時間営業のペット用品店あったのだ。ホテルが先かお店が先か、もしくは同時にできたのかは分からないが、理にはかなっている。

 そして明智君が素通りを許さないのも当然のことだ。今日の失態を反省してなくもないが、だからって欲望を抑える明智君ではない。それでこそ明智君だし、そんな明智君をみんなが好きなのだ。だから、阿部君以外の3人は喜んでペット用品店に入る。阿部君もみんなに含まれているが、阿部君は……まず己の欲望優先なので、もう食べることしか頭にない。決して薄情でもなければ、明智君をどうでもいいと思ってはいない。それに、先に誰かがルームサービスを頼んでおいてくれたら、私たちはホテルに戻ってすぐにどんちゃん騒ぎができるのだ。阿部君のフォローはこれくらいで十分だろう。流れ弾のような説教は来ないはずだ。

「阿部君、私は明智君とトラゾウと一緒に、このペット用品店に行ってくるよ。すまないが、阿部君は先にホテルに戻ってルームサービスを頼んでおいてくれるかい? 好きなだけ頼んでいいから。もちろんワインだって」

「はいっ! 支払いは……」

「阿部君、みなまで言うな。私はリーダーなんだぞ」の言葉を最後まで待たず、阿部君は駆けていった。風呂敷包みの甲冑を置いて。捨てたわけではない。ペット用品店で買うであろう山盛りの明智君の私物と一緒に日本へ送っておいてということなのだ。まあ合理的だ。明智君が何の遠慮も見せず爆買いするくらいは、阿部君ならずとも分かるからな。

 買い物を終えホテルに着いたころには、阿部君が注文した料理が所狭しと並んでいるはず。何気にほとんど食べてなかったから、本当に楽しみだ。せっかくフランスにきたのだから、本場のフランス料理を堪能しないとな。しばらくはフランスに来られる立場ではなくなるし。

 それでも、ショッピングは明智君のペースでゆっくり楽しむか。阿部君は健気にもイライラせずに待ってくれているはず。私ではなく、明智君とトラゾウをだけど。

「明智君、欲しい物を好きなだけ買っていいぞ」

「ワッオーン!」

「トラゾウは、見るだけだな。いろんなお土産を持たせたいのは山々だけど、自然豊かなトラゾウの故郷に、人工的な物なんて持って行かない方がいい。少しくらいはいいだろという甘い考えが、トラゾウの故郷をめちゃくちゃにして、ひいては地球破壊に繋がるんだ。分かるな、トラゾウ?」

「ガッ……」

 明らかにへこんだな。なりは大きくても、トラゾウは子トラだもんな。ごめんよ、トラゾウ。うー、私も辛くなってきた。何か良い方法はないのだろうか。

「ワオンワオワオワンワワンオン」

「なんだい、明智君? 私には、明智君の言っている事が具体的には分からないぞ。かといって、ルームサービスを頼むという重大任務を遂行中の阿部君を呼んだところでだ。来ないか、来たなら無言で暴力を振るって速攻戻るだろう」

「ワ……ン……」

「ガオンガオ」

 うん? トラゾウが明智君にお礼を言ったような。ということは、明智君はトラゾウのために何らかの助言をしたのだ。「早くお店にはいろうよー」と言ったのではない。明智君をなんて自分勝手なやつなんだと思ってしまったことを謝ろうか。いや、誰も得をしないな。それよりも、かわいい明智君とトラゾウのために頑張って推測してみるか。

 ……。ああ、そうか。いつかトラゾウが我々怪盗団のアジトに戻って来た時のために、トラゾウ用のオシャレな服や覆面を買おうと、明智君は言ったに違いない。今思えば、そう言ったように聞こえたぞ。だけど、私が思いついたことにしようかな。そうすればトラゾウ相手に点数を稼げる。いや、だめだ。トラゾウは目の前で明智君の発言を聞いていたもんな。じょ、冗談だぞ。この私が大切な明智君の手柄を奪うわけないじゃないか。

「トラゾウ、そして明智君、トラゾウ用の衣装をたくさん買うぞ。送り先は日本だけどな。だって、トラゾウの故郷は、インドネシアと我がアジトなんだぞ」

「ワッオーン!」「ガッオーン!」

 外観が華やかなペット用品店は、店内も華やかだった。明智君やトラゾウだけでなく、私ですら手当り次第に買ってしまいそうなものが所狭しと飾られている。強欲な明智君が店ごと買うのを恐れた私は、すぐさま私の貯金額を明智君に耳打ちする。吟味に吟味を重ね買うものを選んでもらうためだ。なので私たちは、とめどなく溢れてくる購買欲を必死で抑え、まず全体を見て回ることにした。

 明智君にしては素直に快諾してくれたものだ。覚悟していた舌打ちすらもしなかった。明智君なりに救出されたことを恩義に感じてくれているのだろうか。もしくは、この見ているだけでも飽きないペット用品店なら、それも悪くないと思ったのかもしれない。普段から瞳は輝いているが、店内に入った途端に、眩しいくらいにキラキラしだしたからな。ラブラドールに散髪された時の鬱蒼とした卑屈な目に比べたら、暗黒と太陽のようだ。

 そんな私たちご機嫌さんトリオが店内で、ある意味フランス観光を楽しんでいると、いつしか最奥まで来ていた。するとそこには、華やかなお店にはそぐわない『VIPルーム』と書かれた革張りの重厚なドアがあった。一見さんのデニム上下の私が入りたいと言って、はたして入れてもらえるのだろうか。無理な自信がある。ドアの前で入りたそうに微動だにしていないのに、私に気づいているはずの店員さんが全く声をかけてこないのだ。

 こんな時に効き目があるのは、ブラックカードだろうか、それとも札束だろうか。世界七不思議の一つとして、私はブラックカードを持っていないので、使える手は一つだな。こういう事がいつあってもいいように、私は現金を用意しておいた。トラゾウが着ている犬用カッパの内側に秘密のポケットを作り隠してあるのだ。明智君をまねたのだけれど、明智君には内緒だ。特許料を請求してくるからな。阿部君にも気づかれていない。きちんと残されていたのだ。

 私は、札束を右手左手にそれぞれ5束ずつ持ち、扇子のように広げ天高くバンザイをした。明智君、うばんじゃないぞ。計10束だけど、そのうちの7束の中身は新聞紙だ。VIPルームとはいえ1000万ユーロも使うはずがないので、気づかれる心配はない。

 VIPルームの鍵を持った店員さんが音もたてず私の背後に来るまで、それほど時間は必要なかった。私のとった行動が、まさしくVIPルームのドアの開け方の正解だったかのように、笑顔を振りまきドアをすぐさま開けてくれる。私たちは、常連感をなんとなく醸し出したつもりで、VIPルームへ足を踏み入れた。すると、鍵を開けドアを押さえていてくれた店員さんが、私たちに続いて入ってきたのだ。

 そしてその店員さんは、すぐに内側から鍵を閉めた。私たちは罠にハマったのかと心配したのは、一瞬だ。悲鳴だって「ヒッ」だけだ。ちなみに、明智君は「ワオッ」だった。私の方が圧倒的に短い悲鳴だぞ。すぐさま、自分はコンシェルジュだと自己紹介してくれ、VIPルームについて簡単に説明してくれた。

 VIPルームは……名ばかりではない本物のVIPルームだった。延床面積だけでも一般顧客用と同じなのに、それが地上3階地下1階あるのだ。フロアごとに大まかに商品が別れている。3階は、ドッグランを併設した展望台。2階は、衣服。1階は、おもちゃ。地下1階に、ごはんだ。もちろん、すべてが動物用だ。ちなみに一般顧客用は高さはVIPルームと同じだけど、天井が果てしなく高いだけの1階しかない。キリンやゾウだって不自由なく入れるほどだ。元は大きな倉庫だったのだろう。VIPルームは、倉庫に併設する形で増築をしたようだ。

 VIPルームの階の行き来は、エレベーター、エスカレータ、階段、そして楕円形の観覧車のようなリフトのどれでも好きなものを使ってもいいようだ。観覧車は手作り感満載なので、ただのオブジェだろう。明智君、オブジェだぞ。私は無難にエレベーターを使いたかったが、明智君とトラゾウが観覧車を希望した。冗談交じりに、この観覧車から落ちた人はいないのか聞きたかったが、冗談交じりに2人に1人は落ちると言われたら、私は……。

 虚勢を張りながら明智君とトラゾウに続くと、コンシェルジュも続いてくれた。ひとまず安心してすぐに、少しでも軽い方が観覧車のカゴが落ちるリスクが減るのではと思う。コンシェルジュを突き飛ばそうか。コンシェルジュをチラ見して様子を確認すると、「この観覧車が壊れたことや、謝って墜落した事案は一つもありません」と優しい笑顔で説明してくれた。私の心を読んで、先手を打ったようだ。安心した。

 と思ったのに、コンシェルジュは「あなた様方は、この観覧車の初めてのお客様です」と言うと同時にスタートボタンを押しやがった。お、おいっ! お決まりのフランス風ジョークだよな? 冗談ですよと、早く言っておくれ。お願いだから。私の心を読めるんだろ? なぜ不気味に笑って何も言わないんだ? 私たちのような最高のお客と一緒に死ねるなら、コンシェルジュ冥利に尽きると思ってないだろうな。い、生きてこそだぞー。私は目を閉じ静かに覚悟した。

「お客様、3階展望台でございます」「ワンッ!」「ガオッ!」

 ここは……天国? やっぱり、あの観覧車は落ちたのか。痛くなかっただけでも良しとしておくか。死は誰にでも訪れるのだから。世界を股にかけるにはやや足りないかもしれないが、世界進出も果たせたし。何気に明智君とトラゾウも一緒なのは嬉しい。原因を作ったコンシェルジュは追い払おう。石でもぶつければ、遥か彼方に飛んでいくだろう。

「お客様、パリの夜景をご覧になられますか? それとも、まずは買い物なら、このまま下に向かいますよ」「ワーン?」「ガーオ?」

 何を言ってるんだ、この仕事バカコンシェルジュは。もう死んだのだから、仕事の事は忘れやがれ。どこかに石はないのだろうか。うん? よく見れば、ここは、観覧車の中じゃないか。もしかしたら、観覧車は落ちなかった? ということは、私は死んでいない。あれ? こういう勘違いを以前にもしたようなしてないような。まずい。私が根性なしのバカだと誤解されかねない。ち、ちがう。じょ、冗談だぞ。エヘヘ。くだらない誹謗中傷をするような陰険なやつに不幸が訪れますように。

「あ、ああ、そ、そうだな、まずはトラゾウのために衣装を見せてくれるかい?」

「かしこまりました」「ワーン!」「ガオーン!」

 私は平常心を保ちながら力強く言い放った。ほ、本当だぞ。全然声は震えていない。その証拠に、コンシェルジュは私をバカにしていない。コンシェルジュだからだなんて理由は無意味だぞ。なぜか分からないが、私の周りの人間は私をすぐにバカにしようとするんだ。私の心が海よりも広いからいいものを、これが並の怪盗なら、強盗に早変わりするところだ。愚痴は私に似合わないし、コンシェルジュが観覧車を再び動かしたから、私はしばらく無心になるぞ。

「2階でございます。主に身に着けるものをご用意させてもらっております」

「さあ降りるぞ、明智君トラゾウ。早く早く。私が一番先だー」

「……」「……」「……」

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