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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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ギャング団のアジトの場所を無事にゲットした……のに

 まず私は、こいつにバレないように深呼吸をした。覆面をしているのが功を奏して、上手くいったようだ。落ち着いたぞ。しかし、さっきまでビビって居留守を使ってたくせに、なんでそんな急に強気になれたのだろうか。バカだからだな。うん、そうだ。バカって、案外幸せなのかもしれない。幸福論を説いている場合ではなかったな。こいつも、やっと笑うのをやめて、私の次の失敗……言葉を待っているようだし。やっと目的を果たせる時が来たようだな。さくっと聞くから、さくっと答えろよ、根性なしのバカ警備員さん。

「フランスにいる悪人を教えてくれないか?」

 うん? なぜ黙る? 知らないなら、知らないと言っていいんだぞ。おもいっきりドアを閉めてから、他を当たるだけだ。いや、もしかすると、そうは見えないが、その小さな脳の中の貧素な記憶の箱から何らかの情報を引き出そうと頑張っているのかもしれない。私のような素晴らしい人の役に立ちたいのは分かるが、せめて状況を説明してくれないだろうか。黙られていると、私が身動きをとれない。この大怪盗から貴重な時間を奪うだけだ。バカだから、私が何を言ったかを理解して、そしてさらに答えを言うのに人一倍時間がかかるのだろうか。しかし、気のせいかもしれないが、なんだか私を小ばかにして蔑んだように見ている。と思ったら、相手してやるかという感じを隠そうともせずに、ため息をつきやがった。まさかだとは思うが、私をバカにしてないよな。

「悪人って言われても……いくらでもいるだろ」

 た、確かに。それに、このバカは暗に、もう少し具体的な聞き方があるだろと言わんばかりだな。そこまで言わないのは、そこまで言うのがバカらしくなったのだろう。こんなバカに呆れられるとは……。く、悔しい。いや、こいつは、そんなバカではないのだ。バカではなくなった、というのが正解だろうか。きっと、一時的とはいえ、こいつのバカが私に移ってしまったのだ、うん。こんな幼稚な言い訳をしてまで取り繕っていると、さらに悲しくなってきたな。

 ちょっと焦って質問をしてしまっただけで、どうしてここまで惨めな気分にならないといけないんだ。こいつ、もし何も情報を持ってなかったなら、去り際に顔に落書きをしてやるからな。

「暴力団というかマフィアというか、ギャングのような悪人の集まりは、あるのか?」

 私は睨みながら、あたかも初めての感じで質問した。警備員は、最初からそんな風に聞いてくれたら良かったんだぞ、という感じは一切見せずに、まずは視線を逸らせた。だからって平身低頭にならないのは、やせ我慢なのか、天然さんなのだろう。

「あるぞ。どこかのギャング団に入りたいのか? ああー! それで、こんな所で姑息に弱い者いじめをしてアピールをしてるんだな? バカだな、お前」

 わざわざ不必要な嫌味をチクチクと言いやがって。さらに、取ってつけたように、バカだとまで言いやがったな。ささやかな抵抗をしているつもりなのか分からないが、こいつは、いつかどこかで取り返しようのない暴言を吐くタイプだな。そして……。かわいそうに。なので、私は流してあげるか。諭したところで、何も響かないだろうし。

「フフッ。フフフフフッ。この私が、ギャングの仲間に? そんな……」

「病院なら、美術館を出て、右に曲がって4ブロック進んで、左に曲がってすぐにあるぞ」

「ふざけるなっ。私は、正義の大怪盗だぞ。フランスにいるギャング団を、この大怪盗様がぶっ潰してやるから、アジトを教えろと言ってるんだ」

「…………。今すぐに救急車を呼んでやるからな。救急車に乗れるなんて、ワクワクするだろ?」

「私をあまり怒らせると……」

「うそうそ。じゃあ、僕がギャング団に果たし状をだしておくので、いつでも殴り込みに行ってください」

「フランスでも、果たし状とか殴り込みとか言うのか?」

「僕は知的なので、いろいろな国の言い回しを知ってるんです。あなたは、日本人ですよね? それとも、バカ面国のバカ王の第三王子ですか?」

「お前は、どうしてそんなに私を怒らせようとするんだ? もしかして、殴り合いをしたいのか? いいぞ。お互いに納得のうえの殴り合いなら、私も気を使わなくていいからな。じゃあ、かかってこい!」

「じょ、じょ、冗談ですよー。えへへ。あなた様の心の広さに甘えてみただけなんです。お詫びといってはなんですけど、あなた様だけのために、この地図に、ギャング団のアジトをマークしておきました。有効に使ってください」

「そう言えば、アジトの場所を聞いてなかったな。なかなか気が利くじゃないか」

「お前は、まあまあ抜けてらっしゃる……あっ、いえ、はいどうぞ。この地図は、わざわざ返しに来なくても大丈夫ですよ。警備会社の備品ですけど、僕が怒られたら済むことなので」

「ああ、そうか。これ以上お前と話していたら、私の堪忍袋の緒が切れるから、さらばだ」

 私は、自分を抑える自信がなくなると思ったので、別れの言葉を言いながら立ち去った。そろそろ応援の警備員か警察が来るころだったし。最低限のお礼は言ったつもりなので、さほど礼儀知らずではないだろう。

「さよならー、おバカさん!」

 私が出口付近まで来たところで、はっきりと聞こえた。あ、あいつ……。せめて小声で言うか、私が完全に外に出てから言えばいいものを。

 私は躊躇なく自然にUターンしていた。応援の警備員や警察がいようとも、知ったことではない。かかってきたなら、八つ当たりができるし。そういう状況でも、あのバカ警備員がかかってくる可能性は極めて低いだろう。どう考えても弱っちいから、目立たないように後方待機するタイプだ。何回か言ったとは思うが、私は無抵抗のやつ相手に暴力を振るうつもりはない。まして、平和のために働いている警備員相手となれば、なおさらだ。じゃあ、どうして、Uターンしたんだと、疑問に思うかもしれない。それは……自分でも分からない。物理的には痛めない、とだけ言っておくか。

 まず私は、かかっていたチェーンロックを空手チョップで叩き切った。そしてモニター監視室に入る。私に暴言を吐いたバカ警備員以外に、もう一人いたが、隅っこに行って気配を消していた。はなからそいつには用がないので、私は気づかぬふりをする。お目当てのバカ警備員にロックオンだ。すかさず、無言で瞬き一つせずに見続けた。バカ警備員が目を逸らしても、逸らした先に私は回るので、ずっと目があっている。別に何かを期待しているわけではない。

 長い攻防の末に、勝利したのは私だった。バカ警備員は漏らし尽くしたのだ。意味合いは違うが、お互いにすっきりしたので、今度こそサヨナラだな。といっても、私は無言で立ち去る。ゆっくりと。

 バカ警備員のイタチの最後っ屁を期待していたが、出口にたどり着いてしまった。再度Uターンしてみたい衝動を抑えるのが難しい。どうしようか。ああー、因縁をつければいいのだ。「何か言ったか?」と戻って言うか。今度は大きい方を漏らすかもな。ヒヒヒ。

 なのに、ささやかな楽しみを実行しようとした私の耳に、応援の警備員らしき足音が響いてきた。ただ、思いの外、近づいてくるのが遅い。なるほど。足音がやけに大きいと思ったら、そういうことか。誰だって、素性の知れない侵入者とわざわざ争いたくないからな。私は弱い者いじめが大好きな乱暴者ではないから、期待に応えてあげよう。バカ漏らし警備員、仲間に感謝するんだな。漏らしたことを笑われても、逆ギレするんじゃないぞ。では、永遠にさらばだ。

 待ち合わせしていた場所に着くと、私の大切な仲間とは違う別の3人組がいた。一人の女性と一頭の犬種が分からない犬と一頭のラブラドールレトリバーだ。阿部君たちは、この3人組が来たことで、立ち去ったのだろう。ホテルの場所は電話で聞けばいいことなので、とりあえず私もここを素通りしよう。と、一頭のラブラドールレトリバーをチラ見すると、なぜか私を睨んでいる。どうやら私のくだらないおふざけが気に入らなかったようだな。明智君だけは。

「待たせたね。プッ……。あ、明智君だよな? さっぱりしたじゃないか」

「……」

 明智君は、なぜか私を睨み続けているだけだ。しかし、全く恐くない。最低限のエチケットとして目を逸らせたがな。あっ、本当に恐くないんだぞ。今回に限っては。だって、今回は、作戦を無視したあげく捕われた明智君が少数派で、危険を冒して救出に向かった私と阿部君とトラゾウが多数派だからな。なので、すぐさま、阿部君に話しかける。

「阿部君、この短時間で、こんな完璧にラブラドールにするなんて、カリスマ美容師なのかい?」

 トラゾウが手伝ったというか、99パーセントはトラゾウがやったのだろう。阿部君は、おそらく明智君の頭を少し刈っただけだ。それが証拠に直径1センチくらい極端に短い。分かりやすく言えば、そこだけがハゲている。それを見たトラゾウが慌てて代わったのが、私にははっきりと見える。それでも阿部君は、トラゾウに指図を続けて、あたかも自分がやった気分を味わっていたのだ。なので、阿部君の中では、阿部君がやったのだ。だけど、さほど自慢はしないだろう。遠慮とかではなく、カリスマ美容師の称号には興味ないからだ。阿部君は客商売には向いてないというか、できないからな。正直すぎるのだ。

「そんなもんですかねー。それよりも、悪人の居場所は分かりましたか?」

「ああ。よりどりみどりだぞ」と私は受け取った地図を見せる。きちんと見るのは私も初めてだ。地図の何か所かに星印があったが、その星の数が1つから5つまでの5種類ある。星の数でギャング団の大きさを表しているに違いない。

 あいつ……。すっきりするまでチビらせたのは、ちょっぴりかわいそうな気がしてきた。悪人退治が上手くいって、さらに現金収入があったなら、お礼の品を送ってやるか。『話す前に考えろ』とかいう本がフランスにあるだろうか。なければ、シンプルにオムツにしよう。あのバカ警備員は、これからも何度も漏らす局面に遭遇するからな。

「まあまあありますね。でも、せっかくですけど、腕試しは却下です」

「え? ええー! どどどどういうことなんだい? あんなにやりたがってたじゃないか。この情報を手に入れるために、一人の警備員に恥ずかしいニックネームが……必ずしもつくわけではないけど、私が同僚なら、『チビ太』と。いや、そんなことはどうでもいい。この短時間でいったい何があったんだい?」

「何があったとかではないんですよ。さっきは不思議と暴れたい気分で、腕試しでも怪盗業でも何でもやる気に満ち溢れていたんです。でも、明智君を散髪するために甲冑を脱いだら、なんか急に冷めたんですよね」

 本当に呪いの甲冑だったのだろうか。うーん、まあどうでもいいな。呪いに支配されて脱げないとかだったら、甲冑ごと阿部君と明智君を置いていかないといけなかったけど。とりあえず記念だから、持ってかえろう。

「そうか。まあ世界進出には、まだ時期尚早だったしな。まずは、日本を……」

「日本で盗り尽くしてからでもいいかなと」

 私が言おうとしたのに。明智君が気づいていないであろうハゲを密告してやろうかな。だめか。犯人が一目瞭然すぎる。それに言ったところで、明智君は阿部君に怒れないから、結局、私が八つ当たりされる。うん、話を変えよう。

「じゃあ、早速、インドネシアに向かおうか?」

「何言ってるんですか。このままだと、フランス土産が呪いの甲冑だけじゃないですか。パパとママが、フランスにしかないワインとチョコを買ってくるように、泣きながら頼んでいたのをいま、今思い出したんです。演技ですけどね」

 着ていた本人が、呪いのと……。阿部君は持ってかえるつもりだから、置いていくわけにはいかないな。別に害はなさそうだし。むしろ、着れば潜在能力を引き出せる、魔法の甲冑じゃないだろうか。強敵の家に忍び込む時に使える。ああー、私の分も盗ってくれば良かった。ううー。いや、私は魔法の甲冑を着なくても無敵だ。私の得意技の一つが、気の持ちようで強くなるなのだ。それに、フランス土産が甲冑で、それも自分用だなんて、人としてどうかだな。

「それなら、この手頃な星一つのギャング団に提供してもらおうか。この時間に開いている店を探すだけでも大変だろ?」

「そうなんですよねー。ギャング団が、パパとママが納得するような高価で美味しいワインとチョコレートを、持っているならいいんですけど。なかったら、時間を無駄にするだけでしょ? それに、星1つとはいえ、万が一がないとは言えないじゃないですか。トラゾウを故郷のインドネシアに送り届けるという崇高な目的があるのに、トラゾウが捕らえられ、即絨毯にでもされたら、トラウマになってしまいますよ。私たちのトレードマークであるトラの覆面を被れなくなったら……パンダか何かでもいいかな」

 あ、阿部君、トラゾウが聞いているぞ。トラゾウ、インドネシアに無事に送り届けるから、安心しておくれ。ミッションの話は、しないでおくか。

「とりあえず、ホテルまでの帰り道でお店が開いていたら入ろう。開いてなくてもがっかりしなくてもいいからな。フランスでの思い出作りのために、ホテルでどんちゃん騒ぎだ。だから、一泊だけしようか。美術館ではそんな大騒ぎにならなかったから、それくらいの猶予はあるだろう。それでも、早朝に出発するぞ。早朝もお店は開いてないけど、空港まで行けば、ほとんどの店が開いているはずだ。そこでお土産を買って、即、阿部君パパママに送ろう。よーし、ホテルに着くまでにお腹を減らせておけよー」

「はいっ!」「ワンッ!」「ガオッ!」

 さすが明智君。もうすっかりご機嫌さんだな。ホテルに鏡がありませんように。

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