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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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我々怪盗団とフランス警察の全面戦争を止められるのは、世界一の大怪盗の私だけ

 はあー。本当にそんな意味のないどころか、下手したら地獄行きになるような愚行を行わないといけないのだろうか。ただのバカで非情で冷血な乱暴者だと決めつけられても、否定なんてもっての外で、粛々と受け止めないといけないんだぞ。世界中のチビっ子が憧れている大怪盗の私が。

 チビっ子たちは、私が悪人となったことで泣き叫び、世界中で批判されていることで喚き散らすに違いない。そして行き着く先は、悪人だ。世の中に絶望したのもあるが、結局は憧れの対象である私と同じ道を歩みたくなるからな。結果、世界の悪人率は爆上がりだ。地球がダメになってしまう。

 地球の未来のために、私だけでも逃げた方がいいのかもしれない。阿部君と明智君とトラゾウよりも、地球の方が色々な意味で遥かに重い……いや、お世辞で少しだけ重いと言っといてあげるか。なので、私は地球を守らないといけないのだ。

 それに、阿部君と明智君は銃で撃たれても平気なくらいに防御力が高いし、トラゾウは希少種だからせいぜい麻酔銃で撃たれる程度だろう。なのに私だけが、顔を隠すためだけの紙製のお面一つで、フランス警察相手に立ち向かうなんて理不尽この上ない。しいて長所を挙げるなら、動きやすいくらいだ。

 …………。うん? この動きやすさを生かして逃げればいいのでは。阿部君と明智君は、一度ならず二度までも、私を置いて逃げた前科がある。悪徳政治家相手の時は助けに来てくれたか。それでも、一回分余る。私にはその一回分を使う権利がある。そしてそれを行使するのは、今日だ。

 阿部君明智君、防御力が高いといっても、それだけだ。早めに降伏するんだぞ。警察相手に勝てるはずがないからな。阿部君は、刑務所を出所する時には迎えにいってあげよう。私へ八つ当たりしないならだけどな。明智君は、収容される保健所を探し出してあげるから、大人しくしていれば素知らぬ顔をして私が再び飼い主になってあげるぞ。トラゾウ、希少種のトラだと分かってもらうために、犬用のライオンの覆面と犬用のヒョウ柄のカッパは外して戦うんだぞ。そして早めに死んだふりをすれば、豪華フランス動物園で一生安泰だからな。

 以心伝心で私のアドバイスは届いただろう。よし、逃げよう。ヒヒッ。

「リーダー、リーダーがまさか逃げるだなんて、私は全く思わないですけど、一応忠告を。もし逃げたら……ヒヒヒヒヒヒヒヒ」「ワワワワワワワワ」「ガガガガガガガガ」

 し、しまった。逃げようとしたことまで、以心伝心で伝わってしまった。アドバイスなんてするんじゃなかったな。優しいゆえに、こんな愚かな失敗をしてしまったようだ。だけど、私から優しさを奪うなんて、歴代の有名な怪盗が束になっても不可能なのだ。

 あっ、今は私の崇高さを説明している時ではなかった。凶暴な自己中心的なやつらに言い訳をしないといけない。でないと、警察との全面戦争の第一犠牲者が、私になってしまう。

「この私が逃げるわけがないじゃないか。どうしてそう思ったのか理解に苦しむぞ。でもいちいち説明をするんじゃないぞ。それよりも、あえて宣言してやろうじゃないか。私の辞書に『逃げる』なんて言葉はないのだ。私は、リーダーだからな。それも、天下無敵の。ただ、いつもいつも美味しいところを私が持っていくのは気が引けるから、今回は晴れの舞台をみんなに譲ってあげようではないか」

「何言ってるんですか。私たちは、報酬をいつも平等に分け合ってきたじゃないですか。リーダー一人にだけ悲しい思いをさせませんよ」

 いやいや。警察との争いは報酬ではない。それに、報酬を平等に分けたのは一回だけだ。そんな揚げ足を取っても、何も解決しないな。それよりも、全面戦争を止める方法を考えないといけない。負けるからとかではない。負けるとも思わないし。阿部君と明智君がいたら、不思議と軍隊相手でも勝てるかもと真剣に感じるのだ。

 私が珍しく消極的なのは、それが卑劣な犯罪だからだ。それも、国をも巻き込むほどに巨大な。悪人相手に華麗に物を盗むとは別物だ。阿部君と明智君とトラゾウを説得して、警察相手の全面戦争を諦めさせないといけない。でないと私は一生後悔することだろう。

「阿部君、明智君、トラゾウ、聞いてくれ。私たちは、由緒正しき正統派の真面目な怪盗だ。それも、とりあえずは悪人からしか盗らない最先端で模範的な。いわば、正義の味方じゃないか。なのに、ある意味仲間である警察に牙を剥くなんて、怪盗以前に人としてどうかな? そこのところを少しばかり考えてくれないだろうか?」

「……」「……」「……」

 おおー! 珍しく私の意見に耳を傾けた。かつ検討している。畳み掛けるか。

「お前たちの気持ちは痛いほどに分かるぞ。そして私は、いつだって、お前たちの味方だ。だから、対象を警察ではなく、悪人を相手に腕試しといかないかい?」

「あくにん?」「ワオワン?」「ガガガン?」

「そう。フランスにだって数々の悪人がいるはずだ。そして、悪人は滅多にお目にかかれないお宝を所有しているものだから、ついでにフランス土産として頂こうじゃないか。あっ、その甲冑も日本に持ち帰って、アジトに飾るからな」

「は、はあ。でも、どうやって悪人を探すんですか? 私たちは明日にはフランスを離れないといけないんですよ」

「そ、それは……。ああー、そこに警備員を閉じ込めてるんだった。警備員なら悪人関連の情報を持っているに決まってるじゃないか。部屋から出してやるからと言えば、喜んで悪人の家を教えてくれるさ」

「なるほどー。じゃあ、そうしましょう」

「私が聞いている間に、阿部君たちは先に脱出しているかい?」

「はい」

「あっ、あの当初予定していた、あの目立たない所で待っていてくれるよね?」

「はい。そこで明智君を散髪しながら待ってます。本当はリーダーの仕事ですけど、私が代わりにやっておきますね。バリカンは、あそこに隠しましたよね?」

「ワッ……? オンワ……」

「ああ。明智君、観念するんだぞ」

 阿部君と明智君とトラゾウは、それ以上は何も言わず、そそくさと立ち去った。私が新設してあげた出口から消えるまで、私は見送り続けたが、トラゾウが一度振り返っただけだ。まあ別に最後のお別れではないので、こんなものだろう。それに、ただ警備員と話すだけで戦うわけではないし。

 例え私が強敵相手に戦いに臨むとしても、明智君は、私を応援する余裕はなかっただろう。阿部君は、余裕があろうがなかろうが、私を応援するという無駄なことはしない。なので、私は機械的に次の行動に移れるのだ。

 まず私は、ドアに立てかけておいた高そうな銅像を、元あった場所にどかせた。その間に警備員が出てくるかもしれないので、ドアからは目を離さない。出てきてくれたなら手っ取り早かったが、ドアが開くことはなかった。まあ想定内だ。次に、今さらと言われるかもしれないが、紳士的にモニター監視室のドアをノックした。すると……全く反応がない。いや、鍵を掛ける音がしただけだ。だろうな。私がこいつらの立場だったとしても、同じように居留守をしたに違いない。中にいるのは気づかれているのを理解したうえでだ。それでも、鍵を掛ける音が出ないように、最低限のマナーは守るがな。

 中の警備員は、甲冑を着た凶悪な無法者がまだどこかに隠れているかもしれない、この状況では、ごくごく当たり前の行動をしていた。それに、ノックしたのは、明らかにその無法者の仲間だ。紙製のお面とデニムの上下だからって、安心してドアを開けるはずがない。だからって、そうですよねと言って立ち去るわけにはいかない。私には、私にだけは妥協を許さない無法者の仲間がいるのだから。

 しかし、怪盗の七つ道具を駆使してドアを開け、鼻歌交じりで中に入るのも気が引ける。そんな強硬策を選んだ者の話を大人しく聞いてくれるかは、甚だ疑問なのだ。逃げ場を失った警備員たちは、破れかぶれで私に挑んでくる方を選択するに決まっている。腐っても警備員だからな。

 モニター監視室の中にいる警備員は、人件費を考えたら、多くても3人だな。私にかかれば、瞬殺だ。だけど、いくら身を護るためとはいえ、悪人でもないやつらを懲らしめるのは、我々怪盗団の憲章に引っかかるかもしれない。

 ちょっと計算してみよう。先に明智君を拘束したのは、確かにこいつらだ。それから、私たちが不法侵入して、何か所か破壊したようなしていないようなだな。うーん、差し引きしたら、ほんの僅か私たちに非があるのだろうか。いや、新しく芸術品を提供してあげたし。

 悩んでいても時間が過ぎるだけだったな。応援の警備員か警察が来るかもしれない。再チャレンジだ。

「トントン……」

 やはり返事はない。

「ドンドン……」

 逆効果かもな。

 一応筋は通したし、私の方から入っていくか。かかってきたなら、大けがしない程度に痛めつければいいだろう。話さえできれば、大けがではないからな。念の為に、最後忠告を兼ねて、リズミカルに敵意はありませんよという感じでノックしてみようか。どう取るかは、向こうに委ねるがな。

「トントントトントントトントトトントトトトトトントントン……」

 あれ? 閃いたぞ。モールス信号で話しかけてみれば反応があるかもしれないぞ。警備員をやってるなら、モールス信号習得率が一般の人よりも若干高いだろう。あっ、モールス信号を知らない一般の人は、ネットで調べておくれ。

 そんな面倒なことをせずに、話しかければ早いだろ、だなんて言わないでくれるかい。ノックに反応しないやつが、話かけたからって対応するはずがないのだ。じゃあ、モールス信号だって同じだろ、だなんて思うのはド素人だぞ。モールス信号なんて滅多にお目にかかれない、はっきり言って使える人でも一生に一回使うか使わないかの連絡手段なのだ。だからこそ、モールス信号で話しかけられたなら、居ても立っても居られなくて、ついつい対応してしまう。さらに、それを使えるのが、その中で一人だけだったなら、尊敬の眼差しを一身に浴びれるボーナスまで付くのだ。モールス信号の計り知れない効果を分かっていただけただろう。ネットで検索していた人も戻ってきたと思うので、やってみるか。

「トゥートゥトゥートゥー……」とモールスっぽく、ドアをノックしてみた。しばしの沈黙。

「トゥトゥトゥートゥートゥトゥートゥトゥ……」か、返ってきた。

 通訳しておくか。でないと、私が鳩か何かのモノマネをしていると、本物の鳩が寄ってきたと思われるかもしれないな。

「敵意はない。ただ話をしたいだけだ」と私は言った。

「騙されるもんか、このクソ野郎」と返ってきた。残念で腹立たしいが本当だ。

 反応があった事を素直に喜んでおくか。後は、私の口車に乗せればいいだけだし。1分後には、手頃な悪人の居場所を聞き出せていると断言してもいい。

「トゥトゥートゥートゥトゥ……(私が本気を出せば、このドアを破壊して中に入りお前たちをボロ雑巾のようにするのは容易いぞ。だけど、素直に話をしてくれるなら、一切手を出さないと約束しよう」

「トゥートゥートゥトゥトゥー……(本当だな、クソ野郎?)」

 こ、こいつ……。わざわざ私を怒らせるような事を言うなんて、バカかもしれないな。まあいいか。バカだからこそ、バカな知り合いの悪人がいることだって多分にあるからな。いわゆる、類は友を呼ぶというやつだ。

「トゥトゥトゥートゥー……(ああ、本当だ。神に誓うぞ)」

 少し間があき、ドアが開いた。何気にチェーンロックはかかっていたが。だけど、私はドアを壊すと脅していたのに、チェーンロックなんて意味がないだろ。まあ、バカなんてそんなもんだ。やーい、バカ! バカバカバカッ。ふうー、すっきりした。お前が先にクソ野郎と言ったんだからな。これで、おあいこだぞ。ああ、一応説明しておくと、口には出していない。なので、この警備員の前にいる私は、紳士そのものだ。時間が惜しいので、早速本題に入るか

「トゥートゥトゥトゥー……」

「ハッハハァーヒッヒヒヒヒィー。お、お前は、バカなのか。モールス信号は、もう必要ないぞ」

 ついつい癖になってただけじゃないか。ちくしょー。バカにバカって言われるだなんて。こいつだけでも、見せしめのために痛い思いをしてもらおうか。いや、だめだ。私は紳士の大怪盗だった。何事もなかったかのように振る舞おう。私は、こいつが3日連続で犬のフンを踏むように、誠心誠意祈るだけで許してやった。さあ、今度こそ本題に入るぞ。

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