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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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明智君の救出成功?

 舞い上がった阿部君がじっとしているわけはなく、私とトラゾウを置いて、どこかに走り出した。いやな予感しかない。明智君に甲冑をスムーズに着せるためにトラゾウで練習する旨を、せめて伝えておけば……伝えたところでだな。例え私が脂汗を流しながらお腹が痛いと呻いたとしても、今と同じように走り出したに決まっている。

 トラゾウのライオンの覆面の緩めた紐をすぐさま締め直し、私とトラゾウは阿部君を追いかけた。不幸中の幸いは、阿部君はモニター監視室や関係者控室を素通りしてくれたことだ。と思ったら、引き返してきた。そして関係者控室にロックオンだ。阿部君が明智君の気配に気づいたのか、阿部君の気配に気づいた明智君が呼んだのかは分からない。断言できることは、非常に良くないということだけだ。

 阿部君、考え直しておくれ。まだ、その時ではないのだ。明智君を出すと、モニター監視室の警備員に気づかれるのは、何度も言っているとおりだ。そして、私がドアの下から忍ばせた忠告で、部屋から出られないと気づく。外部に連絡してから、仲間の警備員なり警察なりが到着するまでの時間は、数分かもしれないし、数十分かもしれない。はっきり言って分からないのだ。だからこそ、万全を期して、明智君にスムーズに甲冑を着せるためにトラゾウで練習しないといけない。

 しかし、私に阿部君を止めるのは不可能だったな。観念しよう。明智君には別に甲冑を着せる必要はないし。速攻で逃げればいいだけだ。プランAだかBだかA’だか、どうでもいい。

 私は、怪盗の七つ道具をポケットの中で探す。ながらも、阿部君に近づいていった。しかし、阿部君はノープランを画策していたのだ。いわゆる行きあたりばったりの楽しければ何でもいいというやつだな。阿部君だもん。

 親切が趣味の私が、阿部君に代わって説明するか。阿部君も、私が思ったと同じように、明智君に甲冑を着せるのは面白いと思っている。ただ、それだけではない。断言できるが、絶対に二人おそろいの甲冑を着て何かを企んでいるのだ。甲冑を着ている阿部君の全身から喜びのオーラがとめどなく大放出されているから、誰が見ても明らかだな。

 おそらくだけど、阿部君は明智君とともにやりたい放題の大暴れをしたいのだ。阿部君は勘違いをしている。甲冑を着たからって強くなるわけではない。せいぜい打たれ強くなるだけだ。敏捷性と引き換えに。だいたい阿部君は、そもそもの甲冑の用途を忘れている。顔を隠すためだけなのだ。警察や警備員相手に全面戦争をするためではない。世界中のトップニュースになってしまうかもという危機意識が、今の阿部君にはないのだろう。ちなみに、負けるかもという不安は、我々怪盗団にはないがな。

 私が七つ道具を取り出すのに手間取っている間に、阿部君は待ちくたびれたようだ。もしくは、待つつもりなんてなかったのかもしれない。私に一瞥もくれず、関係者控室のドアノブをガチャガチャとこねくり回し始めた。開けられるはずがないだろと、私は高をくくっている。私だけでなく世界中の良識ある人もだろう。なのに、阿部君はドアノブを破壊するという暴挙で、私を驚かした。

 う、嘘だろ……。ど、ど、どどどうせ取れかかっていたに違いない。そういうことにしておこう。だけど、最悪だ。ドアノブが取れたといっても、ドアが開いたわけではないのだ。鍵穴がドアノブにあるタイプなので、私の七つ道具と技術を使いようがないし。端的に言うなら、ドアはあるがドアではない。壁の一部と言っていいだろう。一度壁を破壊したからって、再度というわけにもいかない。壁はまだいいが、道具として使う銅像がないのだ。いや、なくはないが、2個も3個も展示品を壊すのは、私の良心が許さないからな。美術館側がトラゾウ制作の銅像が欲しくて進んで素材を提供してくれたとしても、私にあの時の怒りのパワーがほとんど残っていない。

 万事休すだ。明智君、さようなら……ではなかった。私が帰路につくかつかないかで、なんと、阿部君は壁と化したドアに体当たりをしたのだ。まあまあの振動が美術館内にこだました。でも、ドアが開くはずがない。モニター監視室の警備員が、ただ異変に気づいただけだ。すぐ隣だったからな。中から大きな驚愕の声が聞こえたから間違いないだろう。

 警備員はどうするのだろうか。何もなかったと自分に言い聞かせ、粛々と仕事をしているふりを続けるかもしれない。もしくは、何らかの事故か天災があったと判断して、即帰宅する。迷った結果、ひとまず監視カメラのモニターで確認するだろう。モニター監視室だからな。帰宅するためには、部屋から出ないといけないし。

 いよいよ、警備員は私たちの存在に気づいたはず。見なかったことにはできない。後で上司に泣くまで叱られるから。仕方がないので、必死でポジティブ思考になる。結果、報奨金欲しさに勇気を振りしぼり、私たちを捕まえようとする。ゆっくりとゆっくりとドアまで来たところで、ドアのそばにある私が書いた手紙に、やっと目が行く。達筆に感心しながらゆっくり読んで、今ごろは、のぞき窓から倒れかけの銅像を確認しているだろうか。

 警備員は報奨金は残念に思いながらも、警備員になって最高の安堵を覚えたことだろう。直接対峙しなくていい最もな理由ができたからな。報奨金なんかでは到底補えない高額の銅像を壊してまでして私たちに対峙したところで、上司は褒めてくれない。ニヤつきながら請求書を渡すだけだ。なので、モニター監視室の中の警備員は淡々と外部に連絡したはずだ。さあ、タイムリミットは何分だ? 誰か教えておくれ。

 せめて直接、明智君に別れの挨拶をしようか。ドア越しでも、しないよりはいいかもしれないからな。それくらいの時間はあるだろう。私が最後の言葉を何と言おうか悩んでいると、先に明智君に別れの挨拶をしたのだろう。阿部君がドアから離れるように後退りをした。と思ったら、1回目とは比べようのない勢いでドアにまっしぐらだ。

 ドアは形状を残しながら部屋の中に吹っ飛んだ。明智君に当たっていたら、ドアに押しつぶされ壁紙の一部になっていたことだろう。まだ確認はしていないので、心の準備だけはしておくか。せめて笑顔で押しつぶされてますように。

「リーダー、明智君にも甲冑を!」

 阿部君の言葉で、押しつぶされる前に甲冑を着せてあげられていたなら、と不可能な事を後悔した。阿部君はアドレナリンが出ているからなのか、自分でも何を言ってるのか分からないのだろう。もし仮に私が壁を通り抜けることができて、明智君に甲冑を着せることが可能だっとしても、壁紙の模様が明智君から甲冑になっただけだ。それだけの勢いでドアは飛んでいったからな。

 しかし、阿部君の恐ろしさを再認識したので、私は何一つ意見をしないで、素直に従う。飛んでいったドアの進路上に明智君がいなかった可能性が、なきにしもあらずだし。いや、意味合いは合っているが、『あらず』で終わりたくないな。言霊とかあるし。よし、明智君はドアに当たっていない。これで大丈夫だ。

 私は感動的なお悔やみの言葉を考えながら、加害者の阿部君を一切糾弾する気なんてありませんよという感じを全身で表して、明智君の終の棲家になってしまったかもしれない美術館の関係者控室に恐る恐る近づいていった。奇跡だ。ドアは勢いが凄すぎて、少しばかり上昇しながら飛んでいったのだ。なので、明智君は無傷だった。体は。

 明智君は、私が見た明智君の恐怖表情の歴代一位を叩き出していた。冷や汗をかいているとか、鼻水を滝のように流しているとか、血のように真っ赤な涙がレーザービームのように飛び出ているとかではない。剥製のように微動だにせず生気もないのだ。立ったまま死ぬようなかっこいい明智君ではないので、生きていることは確実だ。恐ろしさのあまり記憶喪失にはなっているかもしれない。明智君の様子からして、少なくとも、直近の数時間の記憶は飛んだはずだ。明智君と遊んでくれていたマリーの事もジャン明智に改名していた事も忘れただろう。覚えていたところで、冗談交じりでも一生口には出せないだろうが。

 私は、そんな明智君に何の説明もせずに甲冑を着せ始めた。トラゾウも手伝ってくれる。そんな事をしている場合だろうか。場合なのだ。初めての犬に甲冑を着せる事の不安と迫りくるタイムリミットよりも、阿部君の要求に早急に応えなければならない。一般常識だな。幸い、明智君の大驚愕期間は継続中だった。なので全く抵抗せず為すがままだ。元気だったとしても、明智君なら喜んで着ただろうけど。それに、阿部君の命令だ。逆らうはずがないか。

 明智君の真意を考えても意味がないので、私はスピードを優先して乱暴に甲冑を着せた。トラゾウの補助が大きかったのでパーツを間違うこともなく。なので、頭部がお尻に乗っかってもないし、明智君の頭に足の部分が刺さってもいない。せめて私が明智君の頭に無理やり足部分を試してから、トラゾウがとめてくれたら良かったのに……なんて思わなかったぞ。

 というわけで、ものの数十秒で、甲冑を明智君に完全装備できた。すると、それまで剥製か木彫りのクマのような状態だった明智君が、急に元気を取り戻したのだ。それも普段以上の。凶悪なシロクマにでもなったと言っても言い過ぎではないくらいだ。もしかしたら、これは呪いの甲冑だったのだろうか。それとも、普段は猫を被っていて、戦いの制服でもある甲冑を着たことで本気を出してみようかなと思ったのだろうか。

 うーん、基本的には超自然現象を信じていないが、この甲冑は呪いの甲冑ということにしておくか。阿部君も装着した途端に豹変したようだったし。それとも、阿部君も猫を被って……いや、阿部君が猫を被るなんてするはずがない。嘘をつくのが好きじゃないし、何よりも遠慮を知らないのだから。うん、呪いの甲冑で決まりだな。それが、この先も私がリーダー面をできる、唯一の答えだ。

「リーダー、敵は何千人いるんですか?」「ワンワワオンワン、ワオッワン」

 ほら、阿部君と明智君は、ただの無法者というか乱暴者に成り下がっている。だけど、明智君は知らないので致し方ないが、阿部君には説明したはずだ。警察も警備員も、当面は皆無だということを。今すぐに逃げ出せば、おそらく何の障害もなしに外に出られ、あの決めていた目立たない場所で明智君を散髪できるのだ。

 うん? 阿部君は甲冑越しでも分かるくらいに、ものすごい形相で私を見ている。明智君もだ。ああー! どうやら、私の勘違いだ。私は阿部君に何も説明しなかった。私の記憶違いだったようだな。うん、そういうことにしておこう。

 私の記憶違いだろうが、阿部君と明智君の圧力に負けて自分を曲げたのだろうが、今はどうでもいいことだった。甲冑を着たことで潜在能力を解放したくなった……じゃなくて、甲冑に呪われた阿部君と明智君は何千人もの敵を要求しているのだから。せめて一人二人なら、モニター監視室を開ければ用意できるのに。よし、私の底力を見せてあげよう。

 私は、リーダー面をさらにパワーアップして、トラゾウに相談し……ようとしたのに、トラゾウは阿部君と明智君と横並びになっていた。なるほど。相談する時間が省けて良かった。だけど、トラゾウは呪いの甲冑を着ていないのに。呪いの甲冑を散々触ったからだな。私も触ったが、私は呪いなんかに負けない強い精神力があるのだ。

 トラゾウが呪いに侵されたのか、野生を取り戻しつつあるのか、単に明智君のファンなので行動を共にしたいと思ったのか、はっきり言って分からない。分かったところで、もう私のやるべき事は決定している。我々怪盗団は多数決に重きを置いているからな。

「リーダーの私が、お前たちの願いを聞いてやるからな。とりあえず、非常ベルを連打してみるか。さらに110番に直談判だ。フランスの警察は110番ではないだろうから、ちょっとそこの警備員に聞いてみるよ。もちろん、警備員はとっくに応援や警察も呼んでいるだろう。だけど、追加で来てもらわないと足りないだろ?」

「はいっ!」「ワンッ!」「ガオッ!」

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