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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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万事阿部君の思惑通り……阿部君だけの

 私は、何事もなく裏口に着いた。まあまあの監視カメラに素顔を映されるのも気にしなかった。今さらだからな。なぜか分からないが、明智君がいる関係者控室のドアは、足で「ドンッ」と蹴っ飛ばしたが。足を使った理由は説明できる。甲冑で手がふさがっていたからだ。決して明智君を足蹴にしたいとかではない。これは本当だ。例え軽くでも明智君を蹴るのは、なんか嫌だからな。

 明智君のことはさておき、まずは阿部君に甲冑をプレゼントしよう。阿部君は驚くだろう。甲冑のプレゼントにではない。甲冑の頭を持ってくると言っておいたのだから、全身を持ってきたところで、ある程度想定内だからな。阿部君が驚くのは、私が顔を隠さずにミッションを遂行していたことにだ。

 だけど、阿部君は驚かなかった。というより、私が驚いていたので、阿部君の反応を見られなかったのだ。だって、立派な銅像が完成していたのだから。阿部君のてるてる坊主型トラ風お面はまだ着せられていないのに、どっからどう見ても人間に見える。それも、まるで本職の人が作ったかのように精巧にできている。ど、どういうことなんだ。

 芸術的センスが皆無の阿部君が、丸太に近い状態から、こんな本物の人間かと見間違うような銅像を作るなんて絶対に絶対に絶対に不可能だ。例え本職の人が99パーセント作った後で阿部君に託したとしても、阿部君なら、あっさりと宇宙人を作ってしまう。そして、笑われるのを嫌って、すぐさま粉々に壊す。99パーセントまで作った本職の人は怒る……なんてせずに、粛々と片付けるだけだ。

 では、どうしてこんな精巧な銅像があるのだろうか。外に展示してあったのを持ってきたとは思えない。銅像は経年劣化していないし、阿部君が一銭にもならない重労働をするわけがないからな。館内にいる関係者を探し出して無理やり作らせたのだろうか。阿部君に睨まれたら、大人しく従うだろうし、この先も決して口を割ることはない。いや、関係者といっても本職ではないし、例え本職崩れの人が関係者でいたとしても、これほどの傑作作成は本職崩れでは到底叶わぬ夢だ。阿部君が目をつぶって作ったら、偶然が重なり上手にできた、の方がまだ可能性が高い。どんぐりの背比べだけどな。

 どうでもいいと言えばどうでもいいことだけど、答えを出せないと前に進めないこともあるのだ。かといって、阿部君に聞いたら、私の負けのようだし。阿部君も正直に教えてくれないに決まっている。私たちを捕まえる警察官や警備員もいないことだし、徹夜覚悟でじっくり考えようか。と、意味もなく阿部君の足元に目がいくと、第三の人物というか動物が隠れていた。そう、トラゾウだ。

 ま、まさか、トラゾウが……。可能性でいったら、一番高い。それも群を抜いている。決まりだな。だけど、阿部君の後ろに隠れているということは、口止めされているのだ。仕方がない。阿部君作ということで手を打とう。私の中で答えが出ただけで十分だし。では、予定通りに普通に褒めるとするか。

「おっ、阿部君、完成したんだね。うん、見るからに侵入したばっかりの怪盗じゃないか。じゃあ、阿部君が被っている覆面を着せて、本当の完成といこうよ」

「はいっ!」

 私は分かっているよという感じでトラゾウを撫でながら、さも阿部君なら作れて当然という印象を必死に出して阿部君に話しかけた。トラゾウは目で感謝を表しながら、なすがままに撫でられている。阿部君は隠しきれない安堵を表してしまいながらも、素直に私の言うことをきく。うん、分かりやすい。

 私が持ってきた甲冑に全く触れることもなく、阿部君は銅像に覆面を被せ始めた。今の阿部君に二つの事を同時に処理できる余裕はないだろうから、ゆっくり待つか。下手に話しかけたなら、覆面が後ろ前逆に被せられてしまいかねない。

「はーい、かんせーい!」「ガオーン!」

「よし、完璧だね。これで、この美術館の名物が増えたから、感謝状が送られるかもしれないぞ。作者はどうしようか。私はほとんど関わってないから、当初考えていた『リーダー作』は却下だろ?」

「そうですねー。感謝状は欲しいですけど、こういうのはミステリアスな方が受けがいいんですよね。あえて名を残すのはやめておこうかな」

 おおー! あ、阿部君が少し謙虚さを見せるなんて。ほんの少しだけ後ろめたい気持ちがあるのかもしれないな。よし、みんなが喜ぶ名案を披露してやるか。阿部君、感謝するんだぞ。これで気持ちよく眠れるんだから。

「いや、名前は残しておかないと。どんなミステリアスな作品だって、必ずといっていいほどに作者名を残してあるからね。それがせめてもの礼儀でもあるし。だからって、警察に捕まる恐れがあるから、私たちの名前はやめておくのが正解だろうね。それで、ものは相談だけど、決して捕まらないトラゾウを作者名に使わないかい?」

「そうですね。動物なら基本的に治外法権だし。特に、トラゾウは希少生物だから、どんなに悪事を働いても、誰もが笑顔で許してくれますよね。笑顔で許すって、平和のためにも大事なことなんだよ、トラゾウ」

「ガオーン!」

 あ、阿部君、トラゾウの手柄を奪っておきながら、笑顔で許せと強要しているみたいだぞ。トラゾウは優しいから怒ってないのに。それに怒ったところで、一番恐いのは阿部君なのに。阿部君は気づいてないのかもしれないがな。

「あれ? リーダーの手にしているものは、甲冑じゃないですか。早くかしてくださいよ。どこに監視カメラがあるか分からないんだから」

「ああ。じゃあ、とりあえず頭部を」

 阿部君は無理やり甲冑の頭部を引っ張り取ろうとするが、そんな簡単に取れなかった。当たり前だ。引っ張っただけで取れるなら、甲冑として用途をなさないのだから。焦る必要がないということを、時間もたっぷりあるし、ゆっくりと説明しよう。だけど、阿部君、私も素顔を晒していて、全く焦っていないのに気づいておくれ。

「阿部君、落ち着いておくれ。今、この美術館に警察官はいないし、警備員は閉じ込めてある。そして監視カメラに撮られたところで、私たちは明日にはフランスにいない。もちろん映された映像は残るだろう。だけど、私たちが犯した罪は、国際指名手配までして真剣に犯人を捜索するような重大事件ではないだろ? 警察だって暇ではないのだから、他に優先しないといけない事件が多々あるからな。名前を付けるなら『明智君奪取及び美術館の裏口新設ついでのお土産甲冑事件』は、おそらく3日で迷宮入り事件にしてくれるさ」

「え? え? そんな一気に自慢気に話さないでくださいよ。警察官がいない? 警備員は閉じ込めた? 警察官は働き方改革か何かなんですか? 警備員は……あー、画期的な美術館だから、大きなゴキブリホイホイか何かがあったんですね?」

 説明するのも面倒くさいから、そういうことにしておこうかな。だめだ。阿部君のことだから、大きなゴキブリホイホイを見てみたいと言い出す。真実を知っておいた方が冷静に行動してくれるだろうし、あった事をゆっくりと正確に話すとするか。トラゾウは進んで私の助手をしてくれるだろう。

 私は、トラゾウと一緒に甲冑をバラしながら、阿部君に私の冒険談を話した。トラゾウは、もちろん話も聞いてくれている。阿部君は甲冑をバラすのを手伝わない。これに関しては、阿部君のわがままではない。私が止めたからだ。阿部君が手伝うと、力技に走るような気がしたのだ。

 そうなると、甲冑が使い物にならなくなるし、美術館もそこら中が修繕必要ありになってしまう。しばらくお客さんを入れられなくなるほどの。せっかく盗まれた名画が戻ってきて、新たな芸術作品が生まれたというのに。そういう状態が続いたなら、功労者である私たちを、警察が無罪放免にしてくれても、民事で損害賠償を要求してくるかもしれない。警察は忙しくても、美術館関係者は休館中なのだから、私たちを探す時間が十分にあるのだ。私たちが画期的な芸術作品の作者だと認めてくれても、それはそれで、喜んでしっかりと大金をふんだくる。もちろん、私からだけだ。

 阿部君に手伝わせたくない理由を誰ともなしに対して簡潔に説明し終えると、甲冑はマネキンから全て取り終えていた。もちろん明智君用もだ。なので、次は休む間もなく着せる作業だ。着せるといっても、阿部君はできる範囲は自分で着てくれるだろう。私は明智君に着せるための練習を、トラゾウでやるのに集中しよう。あっ、阿部君に確認を忘れていた。

「阿部君、甲冑の頭だけを被るかい? それとも全身?」

 阿部君は、そんな当たり前のことを聞くんじゃないと、目を鋭くしただけだ。私は「誰がこの甲冑を盗ってきてやったと思ってるんだ!」と心の中で言いながら、「一人で着るのは難しいから、いつでも呼んでね。私はトラゾウで明智君に着せる練習をしてるから」と反省している雰囲気も出しながら、きちんと言葉で応えた。私は礼儀正しい大人だからな。

 阿部君は、功労者の私に対してさすがに態度が悪かったかもと、微塵も思うはずもなく「はーい!」と元気よく応えてくれただけだった。これが、阿部君だ。私は何も気にしない。気にしたところでだからな。

 私は、落ち着いてトラゾウに甲冑を着せたかったので、阿部君に背を向けた。そんなに他意はない。そんなにな。いや、正直になろうか。ものすごく他意はある。怒りに震える手で、初めて触る甲冑をトラゾウに着せられるか不安だから。しばし、怒りの対象を遮断するためだ。説明不要だったか。

 まあいい。言葉にするのは良いことだ。こうやって適度に鬱憤を晴らしておくのも、怪盗団を継続するのに必要だからな。我慢が限界を超えてしまうと、仏の私であろうとも、泣き叫ぶ阿部君をクビにしてしまいかねないのだ。明智君が阿部君についていくかもなんて心配していないぞ。ほ、本当だ……。

 まずは、トラゾウが被っているライオンの覆面を外そう。このまま犬用の甲冑を着せるのには、少しばかり大きいからな。着せて着せられなくはないだろうけど、時間もあるし、慣れてないので、できるだけやりやすくしたいのだ。ほんの束の間の逡巡の後に、ライオンの覆面の紐を緩めたところで、阿部君が私を呼んだ。何から始めていいか分からないのだろうけど、少しくらい自分で考えやがれ、となんて私はこれっぽっちも思わなかった。ことにしておくれ。

 本心はともかく、私が会心の笑顔で振り向くか振り向かないかで、「リーダー、ロックしてください」と阿部君が、いや、甲冑が言ってきた。甲冑の幽霊だなんて思わなかった。甲冑の幽霊だとしても、阿部君に比べたら恐くない。幽霊に何ができるというんだ。あっ、幽霊をバカにするつもりなんてなかったんだ。阿部君に比べたら、恐いものがないと言いたいだけだからな。

 阿部君は、まるで甲冑の着方を完全に把握していたかのように、ほんの一瞬ですべてのパーツを装備していた。仕上げのロックだけは、自分では厳しいところもあるので、私を呼んだのだ。もちろん、私は阿部君を優先する。何か所かロックするだけだし。トラゾウも手伝ってくれたので、あっという間に阿部君の甲冑姿は完成した。全身に甲冑をまとっていても、阿部君が喜んでいるのがダダ漏れだった。

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