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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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標的は、甲冑>明智君

 阿部君には、ああは言ったが、ここに甲冑なんて本当にあるのだろうか。改めて考えると、甲冑は美術館ではなく博物館の範疇のような気がしてきた。だけど、裏口とはいえこういうふざけた現代アートも展示してあるのだから、甲冑を飾っていてもおかしくはない。というのは飛躍しすぎだろうか。

 確か私の記憶では、フランス人は芸術をこよなく愛しているのだ。さらに美術館で働くとなったら、芸術愛が突出しているはず。そういう集合体でトップに立つ人は、芸術に制限を設けるはずがない。それに、上り詰めた人に共通するのが、何か未来永劫残る結果を欲しがることだ。

 しかし、そうそう新しくできることなんて残っていない。血迷って、くだらない現代アートに走るくらいだからな。そんな過去の血迷った館長の中に、私と同じように考えて雰囲気を出すなら甲冑はつきものだろと考える、ミーハーなやつが一人くらいはいただろう。それも、まあまあ古い時代に。甲冑を置いておいたら、なんとなく警備員に見えなくもないから、人件費を削れるだろうし。入場料と政府からの補助金だけでは、こういう古ぼけた……歴史ある組織を維持するのは難しいらしい。ある悪徳政治家が言ってたような気がする。

 言い訳はこれくらいにして、甲冑があった方が面白いので、私はある体で進めるぞ。ただ、裏口から侵入して3歩進んだら普通にありましたとしたら、都合が良すぎるのだろうな。探すとするか。あっ、でも、見つけるまでに明智君が捕われている部屋があったなら、どうしたらいいだろうか。

 迷うまでもなかった。甲冑優先だ。監視カメラのモニターを見ている警備員は、明智君のバカな行動を逐一見て楽しんでいるのだから、明智君がいなくなったなら大騒ぎしてしまう。そうなったら逃げるだけで精一杯で、甲冑を盗るどころではなくなるからな。だけど、それは阿部君が許してくれないので、美術館の警備員と警察相手に全面戦争だな。そして、残念ながら、阿部君と明智君の裏切りにあい、善戦及ばず惜敗だろう。なぜか捕まるのは私だけ。

 うん、初志貫徹で、阿部君のためではなく私自身のために甲冑を優先しよう。甲冑を手に入れるまでは、明智君を私の記憶から消去だ。明智君、邪魔するんじゃないぞ。明智君がいる部屋の前を私がうっかり無反応で通っても、大人しくしていておくれ。うーん、それは無理な相談か。ギャンギャン喚いてドアをドンドン叩くからな。だけど、まあ何度も言うが、私には阿部君という伝家の宝刀がある。明智君は、私の言い方一つで、名前を出せば気配だけでなく存在すらも消すだろう。

 不安要素がなくなったから、堂々と甲冑の捜索開始といこう。監視カメラが恐くない理由は、もう言わなくてもいいよな? だけど、赤外線センサーが反応して鳴り響く非常ベルの対応策は説明しておくか。あるかどうかは別として、怪盗映画なんかでは常連の防衛策だからな。例の赤外線が見える特別なメガネを、私が持ってないのは誰もが知っている事実だから、嘘をつくとすぐにバレて私の信用は失墜するのだろう。なので、くだらないが至極真っ当な理由を披露してやるか。

 なんと、警察が来ているのだから、赤外線センサーをオンにするスイッチを入れてないのだ。美術館にとっては私たち同様に部外者である警察官が、正面の入り口付近で『犬の宅急便屋さん』の話で盛り上がっているのは知っての通りだろう。そんな警察官でも一応実績を残すために美術館内を徘徊……巡回するかもしれないから、明智君の行動をモニターで見て楽しんでいる警備員はスイッチを入れない。警察官の徘徊に合わせてスイッチを切ればいいのだろうけど、そんなの面倒くさいからな。明智君の部屋のモニターに首ったけの時なのだから、特にだ。

 そんな警備員は失格だ、という仕事熱心で真面目で几帳面な警備員さんに言っておくか。私の仕事がやりづらくなるから、もっと気楽に働いておくれ。その方が人生が楽しいぞ。

 幸い、私が裏口を新設しても何の動きもないのだから、今日のモニター室担当の警備員は、仕事熱心でなく真面目でもなく几帳面でもないことが決定していた。なので、私は自由自在に我が物顔で美術館を歩き回れるのだ。そして阿部君が銅像を完成させるまでに甲冑を持って帰ればいい。

 ただ、センスのないやつほど、作るのがやけに早いのが往々にしてある。阿部君も例に漏れていないから、そこまでの猶予はないのだろう。それに、阿部君は飽きっぽい。中途半端の状態でも完成だと言い張る心臓も持っている。途中だろうが完成だろうが、どうせ阿部君の作品だ。何が何か分からない。どのような状態であろうとも、最悪粉々で放置されていようとも、前述したとおりに、私は普通に褒めるだけなのだ。

 さあ、甲冑よ、登場してもいいぞ。と何度も何度も唱えながら歩いているのに、あるのは絵画だけだった。やはり甲冑はお迎えするのに最高の門番だから、正面入り口付近で私の登場を今か今かと待っているに違いない。そう、警察官たちがバカな犬の話で盛り上がっている所だ。裏口で私が爆音を鳴らしても気づかないくらいに。そんな無警戒というか仕事を忘れているからって、すぐ目の前で甲冑のような大きいものを盗んでいたら怪しまれるだろうな。

 どうしたらいいだろうか。……。ああ、あれだ。木を隠すなら林だったか森だったか。簡単に言えば、目立たなければいい。そのためには、私の類まれなオーラを消すのも大事だけど、関係者か警備員に化けるしかない。いや、警備員が館内の展示物を移動させているのは不自然だな。関係者が点検か何かで、甲冑を取りに来た感じを演じるのが、最善であり唯一怪しまれない方法だ。

 ということは、顔を隠しているこのふざけた紙製お面を外さないといけない。デニムの上下も、なんだか美術館で働く人の服装にはそぐわないだろうな。私が客として来ても、そんなデニムの上下の人には専門的な事は聞きたくない。理由はないというか、言ってしまってから、もしそういうデニム上下が美術館で働いていたなら、私は引退を余儀なくされるほどにバッシングされるのだろう。それもデニムを上下で着たこともないやつからの。でも、小声で少しだけ言わせてもらうなら、ブルーのデニムの上下を着ている人に芸術のセンスは……?

 さあ気を取り直すぞ。さすがにフォーマルな着替えを持ってきてないので、現地調達するしかない。関係者のロッカールームに『ザッ美術館員の模範的な服』が一つ二つはあるに決まっている。なければ、イチかバチかでデニムの上下で決行だな。コソコソせずに堂々としていれば、案外成功するものだからな。それでもまあ万全を期してみよう。

 間違ってはいけないのは、うっかり女性用ロッカールームに侵入することだな。万が一捕まった時に、変質者のおまけまでついてしまう。すぐに気づいて出たとしても、入った時点で変質者は確定だからな。怪盗が変質者なんて疑われたら、それだけで怪盗の風上どころか怪盗協会から脱退させられてしまうだろう。まだ入会していないし、なぜか招待状も届いていないがな。引っ越しした時に行き違いになったのだろう。

 やはり、服を調達するようなリスクは避けようか。さっきも言ったようにデニムの上下でもやってやれなくもないし。いや待てよ。怪盗とは、限られた環境でも妥協を許さず最大限の努力をして、最高の結果を得るものだ。今の状況は、まさに怪盗の醍醐味を味わう良い機会だ。それに、捕まることを考えるなんて愚の骨頂だ。

 何らかの不幸が重なり、捕まらないとは言わない。だけど、その時は、『道に迷いました』という言い訳が場を和ましてくれるだろう。それだけでは不十分だから、徹底的に媚びよう。さらに警察には進んでめちゃくちゃ協力してやる。そうすれば『怪盗変質者、惨めに捕まる』なんて見出しを使わないように、新聞社に強く強く脅すように頼んでくれるだろう。

 というわけで、甲冑探しの前にロッカールームに行くとしよう。私は、関係者が出勤するであろう裏口近くの裏口もどきから入ったのだから、きっとこの辺りにあるはずだ。いや、よく考えたら、ロッカールームは関係者控室にあるのが普通じゃないか。そう、明智君が捕われていて、警備員が血眼になって見ている唯一のモニターに映されている部屋だ。着替えるのは諦めるか。しかし、あのバカ犬はどれだけ私に嫌がらせをすればいいんだ。お門違いとはいえ、明智君への説教の濃度は濃くなったな。

 仕方がない。Bプランのデニムの上下で決行だ。プラス思考の私としては、着替えをしなくて済んだので、時間的には余裕ができたと思うか。ああそうそう、言われなくてもお面は外すから、くだらない揚げ足取りはやめておくれ。

 腹をくくり、甲冑があるはずの正面入口へ向かって3歩進んだところで、左手にドアがあった。もしかしたらロッカールームかもしれない。と、儚い希望を持った私は、がっかりはしなかった。ロッカールームだったわけではない。なんと、ドアには分かりやすく『モニター監視室』と書かれていたのだ。そして、すぐに閃く。

 私は、近くにあった結構高そうですごく重そうな銅像を、台座ごと音も立てずドアの前まで移動させた。ドアストッパーにするためだ。だけど普通に重しとして置いても、そこそこの力の持ち主なら開けてしまう。なので、私は絶対に開けられないというか、開けてしまうと大惨事になる罠を仕込んだ。

 少しでもドアを開けてしまうと、倒れて木っ端微塵になるように銅像を設置した。台座部分をドアに立てかけ銅像が斜めになるようにしたのだ。簡単だな。だけど、中からは分からないので、私はきちんと保険を掛けておく。紙に『ドアを開けると銅像が倒れて、お前は一生タダ働きだぞ。嘘だと思うなら、のぞき窓から確認してみろ』と書いて、ドアの下の隙間からそっと忍び込ませた。明智君が脱出するまでは、この紙に気づかないだろう。

 これで、いくらかは時間稼ぎができるはずだ。といっても、内線の電話なり無線なりで外部に連絡はできるだろう。何人いるかは分からないが、この中にいる警備員が大幅に足止めされるだけで十分だ。なんならパニックになって慌てふためき、遂には現実逃避に走ってくれたら、言うことなしだな。血迷って無理やりドアを開けて銅像を倒したなら、少なくとも私は見て見ぬ振りをしてやるぞ。だから見つからないように庭に埋めておくんだぞ。

 私は、今度こそ意気揚々と甲冑ゲットに向かった。はずなのに、2歩進んだところで、『関係者控室』と書かれたドアがあった。そう、明智君が軟禁されている確率が最も高い部屋だ。いないならいないでいいが、まさかの『モニター監視室』で、警備員と一緒に私の行動を見て笑っているというのだけは、ないように切に願うか。

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