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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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裏口のドアを侮るな

 今さらだけど、私は周囲をさっと見回した。うん、警察官及び警備員はいない。いたら、既に何らかのアクションを起こしていただろう。せめて阿部君にだけ石の一つでもぶつけてくれるお茶目な警備員がいてくれたら良かったのに。いや、そんな警備員がいても、石が当たるのはなぜか私だな。……。くだらない被害妄想をしてないで前に進むか。阿部君とトラゾウは、私を笑うのに飽きたのか、いつしか脳天気に美術館に向かっているし。

 裏門から美術館までは、車が余裕で通れそうな一本の舗装された真っ直ぐな道があり、その両サイドにはきれいに整備された西洋風の庭園があった。西洋風の庭園は、各々で想像してくれたら、それでいい。それが正解だと保証してあげよう。何らかの都合で時間が十二分に余ったなら、本当の正解を披露してあげるが、そういう機会は永遠に来ないと断言しておくか。

 なので、私は阿部君とトラゾウに追いつくためにも、足早に美術館の裏口に向かった。時折さり気なく監視カメラを探したが、前にも説明したようにあったとてなので、突き進む。まあまあ急いだのにもかかわらず、私から逃げるように前を歩いていた阿部君とトラゾウに追いついたのは、ちょうど美術館の裏口にあるドアの前でだった。阿部君とトラゾウに他意はなかったと、私は信じている。仲間だからな。だから、悪口は絶対に口には出さない。

 念の為に、警備員の気配がないかを軽く見渡した。いるなら八つ当たりができるのにと期待しながら。だけど、そんなかわいそうな私の願いが叶うはずもない。少しがっかりしながら、裏口のドアに目を移した。そこには『関係者オンリー』と書かれていたので、真面目な私たちはここからの侵入を試みなかった……というくだらない冗談を言っている場合ではない。少し離れた所にも入り口らしきものが見えるが、わざわざ遠回りなんてしたくないので、ここから入ろう。

 ドアには、待望の鍵穴があった。今度こそ私の七つ道具の出番であり、名誉挽回のまたとない良い機会だ。ただ、鍵がかかっていない可能性がなくもない。他人を侮辱するのは私の本意ではないが、そういう杜撰な人たちはまあまあの確率でいるのだ。なので、まずはこのままドアノブを回してみるか。と思った時に閃いた。阿部君とトラゾウを脅かすのもありだな、と。私を怒らせたお前たちが悪いのだ。あっ、基本的には私はおおらかだし根に持つなんてありえないさっぱりとした性格に憧れている。だけど、そんな性格にたどり着くのを邪魔する周囲のやつらのせいで、残念ながら性格美人への道は険しく志半ばなのだ。

 言い訳をしたところで、阿部君とトラゾウを脅かす方法を説明しよう。ドアノブを握った瞬間に、電気が流れているかのように演じるのだ。そんな仕掛けは十分にありえるから信憑性も高い。私が最初に握らないと意味がないので、決めたが早いか、私は我先にドアノブを握った。

「ギャッ、ヒィー、ウォー、ア”ー、し、死ぬー……」

 芝居に熱中したようで、本当に電気を感じてしまった。私は役者の才能もあるようだ。今からでも……いや、私は怪盗人生を全うするぞ。芸能関係の人、私をスカウトしに来ても無駄足だぞ。そんなことよりも、恐れおののいている阿部君とトラゾウを見て、大爆笑してやる。

 うん? なんか冷めた目で私を見ている。思っていた反応と何か違うと言いたげに。

「あ、阿部君、トラゾウ、ででで電気が流れているぞ! 100万ボルトだー!」

「そらそうですよ。たっぷり静電気を溜め込んだので。だけど、リーダーの動きが私のイメージとかけ離れているんですよね。歳を取ると神経が鈍くなって、大して痛くなかったからかな。それでも、私たちに心配してもらいたいと、白々しく見えたんですよね」

「え? 静電気を?」

「はい」

 電気を感じたようではなくて、実際に電気が流れていたのか。なるほど。納得納得。じゃなーい。

「お、おい、なんでそんな酷い事をするんだ! 不死身の私だったから不屈の闘志でなんとか持ちこたえたけど、何も知らない美術館の警備員がうっかり触っていたら、パンツとズボンが台無しになっていたぞ」

「大丈夫ですよ。もしリーダー以外の人が触ろうとしたら、正直に説明して、リーダーが触るまで待ってもらうつもりでしたし。見渡したところ誰もいなかったので、リーダーが触るのは自信がありましたよ」

「そ、そうか。そこまで考えていたのなら、まあいいだろう……ちがーう。なんでわざわざ私にそんな酷い事をしたんだ? 明智君救出作戦に影響が出るかもしれないんだぞ」

「だってえ、私が話しかけてるのにリーダーは上の空だったから、目を覚まさせてあげようと。すっきりしたでしょ?」

「あ、ああ、ありがとう……なんて言うわけないだろ。私は集中していただけなんだぞ。このドアを開けるシミュレーションをするために。鍵はかかっているとは思うが、それでもまずは一応開くかどうかを確かめるだろ。開かないのは完全に想定内だから、すぐさま私の七つ道具で開けるがな。それからドアをゆっくり開けて、そおーっと中を覗いて警備員がいるかどうかを確かめる。いたなら、物理的な暴力で黙らせるか、もしくは言葉の暴力で戦意喪失か、あるいは賄賂的なもので買収して案内役に抜擢してやろうかと」

「あー、そうですか。それはそれは。せっかくのリーダーの妄想を打ち砕くようですけど、ドアは開きますよ。だけど、中には入れません」

「入れないって、中に屈強で意志が強くて真面目な警備員がいるのか? 大丈夫だ。どんなやつがいようとも、私にかかれば、警備員なんてやるんじゃなかったと思わせてやるさ」

「へえー。では、お願いします」

 阿部君にしては、やけに素直だな。とうとう私の偉大さに気づいたのだろうか。時間はかかったが、阿部君のような自己中心的な人なら、こんなものだろう。今は、阿部君のことなんかよりも、中にいるであろう警備員に集中しよう。お調子者の阿部君があっさりと白旗を揚げるような相手なら、再度シミュレーションをした方がいいのかもしれないからな。

 リスクを最小限にするためには、できるだけ見られないようにしないといけない。なので、言葉の暴力と賄賂で買収は却下だ。ということは、物理的な暴力で決まりだな。ただ、物理的な暴力も、方法は二通りある。ドアを音もたてずそっと開け、最大限に気配を消し小さくなりながらそっと背後から近づき、無警戒の相手をおもむろに……。もしくは、ドアが引きちぎれそうな勢いで豪快に開け、あえて警備員の注意を引き、臨戦態勢を十分に整えた相手に正々堂々と完勝するか。

 うーん……。うーん……。…………。何を考えているんだ。私のような大怪盗には、姑息に背後から攻撃なんて許されないじゃないか。しかし、まだまだ序盤だというのに、ささいとはいえわざわざリスクを取る必要があるのだろうか。阿部君がビビっているだけで、裏口の番をさせられている小物相手に、筋を通したところでだろ。

 いや、大怪盗だからこそだ。こういう簡単な相手で調子に乗らないで、初心に帰り慎重に……。

「リーダー、何やってるんですかー。早く開けてくださいよー。まさか、ビビってるんですかー」

 阿部君の挑発に、私は初心に帰る道を再び引き返し、景気づけの意味も加え勢いよくドアを開け、先手必勝とばかりに飛び込んでいった。考えようによっては、無警戒の相手に正々堂々と挑んだので、迷った二通りの方法の良いとこ取りなのだろう。実際には、そんな考えにたどり着くどころか、何を迷っていたのかすらも忘れてしまったが。

「ゴンッ! いってー!」

 中に入るか入らないかで、何かレンガのような硬いもので殴られたような気がした。私たちの気配に気づいた警備員が意表を突いて待ち伏せていたのだ。なんて卑怯なやつなんだ。正々堂々とかかってこないやつなんて大嫌いだ。今に見てろよ。ボコボコのギッタギタにしてやるからな。という思いとは裏腹に、私は後ずさりだ。紙製のお面は顔を隠すのだけが目的なので、防御力がゼロだったのだから、反射的にだけどな。それでも、誇り高き大怪盗の私がひれ伏すことはなかった。痛みに耐えながら、相手の次の攻撃に備える。

「ギャハハハハハハ」

 敵の笑い声が阿部君にそっくりなことで、私は異変に気づいた。目を凝らし周囲を見ると、阿部君とトラゾウしかいない。もちろん、笑っているのは阿部君だけだ。まさか私がドアを開けると同時に、阿部君が私を殴ったというのか。なぜだ? いや、いくら人でなしの極悪非道で利己主義でバカでアホで……とにかくそんな阿部君でも、この状況で私をレンガで殴るなんて万に一つ……しかない。えっ! 今が、その万に一つだった? いや、違う違う違う違う……と思うような気がする。

 私は改めて阿部君を特に手を見た。レンガは持っていない。周囲も念の為に探してみるかと、ふとドアに目がいった。違和感があった。ドアは開いている。うん、私が開けたのだからな。記憶があるから確かだ。そして、ドアが開いた先にはレンガ作りの壁が……。か、か、壁になってる。ドアを開けても、中は壁で遮られていた。簡単に言うと、壁にドアが付いているのだ。

 美術館らしいと言えば美術館らしいのだろう。だけど、この歴史ある美術館にはそぐわないと思うのは、私だけだろうか。芸術談義は、また後ほどという名の永遠にしないとして、阿部君はどうしてただドアだけがあるということに気づいたのだろうか。バカにされついでだ。聞いてやるか。でないと、物理的はもちろん精神的にも前に進めない。

 笑い声の勢いが全く衰えない阿部君に、私は同情を誘うような眼差しを送り質問した。ぶつけた痛みで涙が出ていて良かった。効果は限りなく皆無に近いが。

「阿部君、阿部君はどうしてこれがダミーのドアだと気づいたんだい?」

「ヒヒヒヒヒヒハハハハハハ……」

 しばし待つのが最善のようだ。ただ、私が大人しく待つと思ったら大間違いだ。私は阿部君に往復ビンタを半回だけした……つもりになった。そしてゆっくり目を閉じた。聞いたことのないモーツァルトの曲が頭の中に流れていると信じた。なんとなく落ち着いてきている自分がいる。目を開けた。再び阿部君に話しかける勇気が湧いた私は、平常心と手になぞってから、阿部君を促した。

「阿部君、そろそろ……」

「あー、おなかいたーい。ヒィー」

 私の日頃の行いが良いからなのだろう。神様が阿部君の腹筋に限界を作ってくれたようだ。ついでに、2、3日重めの筋肉痛になりますように。そんなことよりも、理由だな。

「阿部君、どうしてここからは入れないと知ったんだい?」

「簡単ですよ。『ドアオンリー』って書いてあるじゃないですか」

 えっ! 私は、阿部君のその言葉でドアを閉め確認した。……。確かに『ドアオンリー』と書かれている。『ドア』は消えそうな薄い字で『オンリー』は100メートル先からも見えるんじゃないかというくらいにはっきりと。

 どうやら私は『オンリー』だけを見て、勝手に『関係者オンリー』と判断したのだな。これを作ったやつの思う壺というやつなのだろう。そっちがその気なら、私にも考えがあるぞ。

「阿部君、ものは相談だけど、ここから入らないかい?」

「はあ?」

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