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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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ジャン明智君救出作戦を若干見直すか

 明智君が自力で脱出は不可能と決まったので、当初の作戦でいくしかない。予定していたことなので不安はないが、バカ犬が私たちのペースを乱したことで時間を無駄にしてしまったのが残念だ。だけど、こんな時ほど焦りは禁物だろう。と、自分を戒めたところで、私はふと思い出した。

「阿部君、明智君を助けるが、ラブラドールにするのは変わらないよな?」

「当然です。お仕置きというのもありますけど、少しでも疑われないようにゴールデンレトリバーではなくラブラドールにしておくべきです。他にも理由はありますけど、尽きないので、言わないでおきますね」

「そうだったな。阿部君の個人的な理由もあったもんな」

「はい」

 私は安心した。安心すると、冷静になった。冷静になると、名案というか大事な事を思い出した。下調べをしていないじゃないか。美術館の内部は無理だけど、周囲だけでも見てみるか。

「阿部君、トラゾウに走り回ってパニックを起こしてもらう前に、一応美術館の周囲を偵察がてら回ってみないか?」

「そうですね。裏口とかの方が警備が手薄かもしれないですしね。だったら、そこから入ればいいですもんね。なるほどなるほど。そうしましょう。トラゾウを有意義に使うためにはできるだけ多くの人がいた方がパニックが大きくなるからと、正面から入ることしか考えてなかったですよ。トラゾウありきで考えたのは、トラゾウの存在が大きすぎたのかな。でも、警備が手薄な場所がなかったら、トラゾウの出番だよ」

「ガオー!」

「そうだな。例え手薄な所から侵入できたとしても、トラゾウがいてくてたら心強いのにはかわりがない。これまでの私の経験からして、序盤はスムーズに運んだとしても、トラゾウの出番はきっとやってくる。できるだけトラゾウを温存はするがな」

「そう言えばそうですね。いつもリーダーが一人で足を引っ張るから、今回も必ずピンチはやって来ますよ。トラゾウ、不本意かもだけど、リーダーの尻拭いをお願いね」

「ガ、ガオッ……」

 明智君の犯した失態のせいで、なぜ私がさり気なくバカにされないといけないんだ。それに、私は一度も足を引っ張ってなんかいないし。悪徳政治家宅でのピンチの時は確かに助けてもらったが、そこにいくまでの私の活躍を知ってくれないだろうか。阿部君には無理な相談か。

 少なくとも、トラゾウが私の頑張りを知っていてくれてるようだし、阿部君に対して少し納得のいかない感じで返事をしてささやかな抵抗を見せてくれたから、我慢しておくか。トラゾウ、まさか私の尻拭いという言葉に対して、納得のいかない感じで返事を……。心優しいトラゾウがそんな感情を持つわけがないな。トラゾウ、疑ってごめんよ。そして、大事な友だちの明智君を私の命にかえてでも助けてあげるからね。明智君、トラゾウのために助けるのだから、トラゾウに感謝するんだぞ。

「ワオー?」私の心の声が届いたのだろうか、明智君が何か言ってる。さすが私の大親友だな。

「明智君は何か伝えたいんじゃないか?」

「伝えたいというか……何と言ってるか知りたいですか?」

「まあ、一応。どんなささいな情報でもあった方がいい」

「情報ですか……。リーダーに知りたいかどうかを確認したので、私に八つ当たりは……もう何度も言いましたね。それでは発表します。明智君は『まだー?』と」

 明智君、大説教大会が実行される時には、トラゾウがいないんだぞ。明智君をかばってくれるトラゾウがな。あまり調子に乗らない方がいいぞ、とすぐにでも言ってやりたいが手遅れだな。

「そうか。あのバカ犬はわざと私たちをいらつかせようとしているのかな。怒りで私たちのパフォーマンスが上がるのを後押ししたいがために」

「違います。ただ思いついたことを何も考えずに発してるだけです。結果、怒りで強くなれたのなら、それは素直に喜んでおきましょうか。私はそうします」

 阿部君、私は初めて阿部君を尊敬したかもしれない。私は明智君をボコボコにしたくなっただけなのに。最近の大学の講義では、アンガーマネージメントがあるのだろうか。よし、阿部君を見習うぞ。

「ワオンオンワオー」

「明智君は何と?」

「『お腹空いたよー』」

「阿部君、明智君に伝えてくれないか。『すぐに助けるから、そこで静かにじっとしておいてくれ。とにかく黙ってろ』と。アンガーマネージメントが未熟な私には、これ以上の怒りは許容を超えてしまう。そうなると、いくらかわいいトラゾウのお願いでも聞いてやれなくなってしまうからな」

「ああ、聞いたことありますよ。老人になると、温厚になるどころか逆にキレやすくなる人がいると。だけど、私が伝えなくても、リーダーが言えばいいじゃないですか。明智君は言葉を理解できるんだから。あっ、でも、今さらですけど、私たちが明智君に話しかけてるのは、美術館を警備している警察官にも聞かれてしまいますね」

「ああ、それなら大丈夫だ。明智君は耳もいいから、集中している今ならさほど大きな声で話しかけなくてもいいし、それに警察官に聞かれたところでだ。だって、私たちは明智君という人に少々大きな声で話しかけているだけなんだぞ。警察は、あの明智君、今はジャンだったか、と今現在私たちが話しかけているであろう人物を同じだなんて全く思わないよ。ちなみに、私は老人ではないがな」

「ああ、なるほど。なんか強引な言い訳に聞こえなくもないですけど。それで、話は戻りますけど、リーダーが自分で言えばいいのでは? ちなみに、初老も老人ですよ。少なくとも、私のような若者からは」

「だめだ。今の私の怒りマックスの状態では、何と言うか自分でも分からない。阿部君相手だから普通に話しているが、あのバカ犬に話しかけたなら、私の口が勝手に『おい、バカ犬、そこで首を洗って待ってろよ』と言ってしまう。すると、明智君は今閉じ込められている所で後先考えずに大騒ぎをして、警察官をたくさん集めるに決まっている。警察と全面戦争をするくらいなら、明智君を諦める方が賢明だろ。結果、明智君大説教大会が永遠に開催されなくなってしまう。それと、くどいようだけど、私は老人では……いや、いい。この不毛なやり取りも私の怒りを助長してしまいそうだ。だから、そういう訳で、阿部君が明智君に話しかけてくれないかい?」

「なるほど。リーダーはもっと自分をコントロールできるようになってくださいね。それと……あっ、今は怒りマックスでしたね。落ち着いてくださいよ。何度も言ったとは思いますけど、年寄りは忘れっぽいので、再度言いますね。私に八つ当たりしたら、最低でも100倍にしてお返ししますよ」

「だ、だ、だ、大丈夫だ。なんとか耐えているから。だから、私のお願いを……」

「はい。あけちくーん、すぐに助けるから、そこで静かにじっとしていてね。間違っても、リーダーの悪口を言ったらだめだよー。どうしても言いたくなったら、リーダーに貸している2000万円を思い出して、自重するんだよー」

「……あ、ありがとう、阿部君。なんか分からないけど、悲しみのせいかな、怒りがいい加減に収まったかもしれない。嬉しい誤算だよ。阿部君に任せて大正解だった……と信じるのが大事だね」

「はい。では、美術館の周囲を偵察しましょうか」

 私たちは、野次馬のような観光客を完璧に演じながら、美術館の周囲の偵察を始めた。何を今さら、なんて言わないでほしい。しいて言い訳をするなら、限られた時間の中でコスチューム作成や作戦立案を優先しないといけなかったのだ。みんなも知っているだろ? それに、今までの私たちは、偵察というものをないがしろにしながらも数々の成功を収めてきたから、験担ぎの要素がなくもない。だからお願いだ。すっかり忘れていただけだろ、なんて思ったとしても、口に出さないでくれるかい。悲しみのあまり、しないはずのミスをやってしまいかねないから。いや、万が一明智君救出作戦が失敗に終わったなら、数々の誹謗中傷のせいにしてやるか。ヒヒ。明智君、悪いのは私たちではなくて、世間の声だからな。

 と、誰にともなく嘆き、ついでに明智君に言い訳をしていると、私たちは美術館の真裏に到着していた。もちろんそこまでの偵察も抜かりなくだ。さらに言うなら、私たちを不審に思った者はいなかった。暇な犬好きのやつがトラゾウを撫でに来た時は焦ったが、ライオンの覆面を被ってヒョウ柄のカッパを着ているトラゾウは完璧な犬を演じたので、そこまでの印象に残っていないだろう。私と阿部君が、そいつの背後でにらみながら早くどこかへ行けと口パクで連呼していたのも、全く知らない。なんて無神経なやつなのだろうか。あと10秒トラゾウを撫でていたなら、阿部君からの残酷な暴力が発動したというタイミングで、そいつに電話がかかってきて本当に良かった。

 私たちにとって、良い意味で予想外だったのは、美術館の真裏の状況だ。なんと、警備している雰囲気が全くないのだ。いやー、やっぱり偵察って大事だなー。ハハハ。な、なんだよー。こっちを見るなー。ウォッフォン……。一応言っておくと、私たちとトラゾウなら、正面突破をしたとしても、さほどの重傷は負わなかったと想像している。だけど、わざわざ真裏まで来たのだから、ここから侵入してみるか。阿部君もトラゾウも異論はないようで、驚くほど静かにしているし。気持ち顔が赤いのは触れないでおくか。

 よくよく考えれば、この状況は当たり前だ。私たちは、絵を返したのであって盗んだわけではないのだから。もちろん、怪盗が大好きな予告状を出しもしていないし。でも、『明智君をいただく』という予告状を出しても良かったな。私の怪盗人生で予告状を一度も出したことがないのが、実はなんか引っかかっていたのだ。今回はもう手遅れだから、その野望は次回に取っておこう。獲物が明智君じゃ絵にならないし。

 他にもこの静けさの理由はある。絵を付けた明智君を美術館に差し向けた人物が、わざわざ危険を冒してまで明智君を取り戻しに来るなんて、警察は考えてないのだろう。その割に美術館の正面にたくさん警察官がいたのは以外だけどな。おそらくだけど、犬が絵を返しに来たというかつてない珍しい出来事に、警察も野次馬根性で捜査に来たのかもしれない。その犬が、ただの犬ではなく、やけに人間味があるのも手伝っているのだろう。

 そうじゃないか。まさか、バカ犬ジャン明智を取り返しに来るなんて、誰が想像するだろうか。代わりなんていくらでも……。オブラートに包むなら、ハイリスクローリターンだと、私は思わないが、第三者なら、そう考える。私の大事な明智君、すぐに助けるからな。

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