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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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明智君救出作戦の準備完了

 私とトラゾウが何をして遊ぶか考えていると、二人同時に阿部君が残していったヒョウ柄の布に目が行った。そしてアイコンタクトだ。人間用の服は作れなくても、犬用というかトラ用のなら作れるかもしれないと。服とはいっても、明智君が付けていたマントのようなものだけれど。

 そしてそれをトラゾウに付けてあげれば、周囲からは大きめの犬がヒョウ柄の服を着ているように見えるのではないだろうか。うん、きっとそう見える。そうすれば、ライオンの覆面を被っているだけの不自然さがなくなり、さほど人目につかないかもしれない。

 トラゾウを明智君救出作戦に連れていくかどうか迷っていたけど、これで自信を持って連れていけるようになるはずだ。どうせ阿部君はトラ丸出しのトラゾウを有無を言わさず連れていくつもりだろうし、一つ心配のタネが減ったじゃないか。トラゾウ、私の裁縫能力を120パーセント出して、すごくオシャレなものを作ってやるからな。……。気持ちだけは、1200パーセント出すか。気に入らなくても、喜んぶんだぞ、トラゾウ。

 私は、まず、大きなヒョウ柄の布を5つに切り分けた。簡単に言うと、一つは首からお尻までを覆い隠せる大きさで、あとの4つは足を筒状で隠せる大きさだ。マントと言っていたが、カッパのイメージだな。

 阿部君にしては気が利いたようで、マジックテープがふんだんにあったので、手足の布には何か所かにマジックテープを縫い付けた。これで、手足に袖を通すのではなく、マジックテープの取り外しで着たり脱いだりできるので、格段に融通がきくようになった。

 私はマジックテープを駆使して、首回りと胴回りもマジックテープで覆えるようにした。これで少々暴れ回っても、ずれ落ちることはないだろう。この胴体部分に足の部分を縫い付けて、オシャレ……実用的なカッパは完成だ。いや、ヒョウ柄というだけでオシャレと言ってもいいのでは。だろ? 

 私は世間の声を聞く間も惜しんで、トラゾウの訴える目に応えようとした。トラゾウは、そんなダサいの着たくないなんて言ってないからな。例えそんな気持ちがあっても、優しいトラゾウが言うわけがないのだ。針が刺さって所々血が滲んでいる私の手を見て、救急箱を探してくれていたトラゾウが。私は期待に応え、ヒョウ柄カッパをトラゾウに着せてあげると、どこからどう見てもヒョウ柄のカッパを着せられた犬にしか見えない……ように期待しよう。隠れてないのは尻尾だけか。まだ布は余っている。私は慣れた手付きで足部分を作ったのと同じように尻尾部分も作り、トラゾウが着ている状態で縫い付けてあげた。

「トラゾウ、完璧だぞ。これで一緒に明智君救出作戦に行こうな」

「ガオーン!」

 トラゾウのコスチュームはできたし、阿部君もそれなりに変装してくれるので、ミッションに臨んでも正体はバレないだろう。あっ、私のお面はできたが、コスチュームの説明もしておかないといけないな。実は、私はいつもの地味なブルーのコスチュームという名のデニムの上下を、普段着として持ってきていたのだ。さすが私だな。いついかなる時も、無意識に怪盗になる準備ができているのだから。

 あれ? 『ブルー』というコードネームは今回もトラゾウのものなのだろうか。うーん、考えるまでもないな。トラゾウの出で立ちに青の要素が全くないが、そんな事を気にしている場合ではない。はっきり言って、今回のミッションは今までとは桁違いに困難なのだから、真剣にやらなければならない事があるのだ。

 それは、緻密な作戦を練ることだ。それを放棄したなら、私たちは怪盗を続けられなくなる。分かりやすく言うと、自由を失う。そう、刑務所に入るのだ。それも、フランスの。そのくせ、原因を作った明智君は犬だという理由だけで、日本よりも動物愛護の精神が行き届いているこのフランスで余生を謳歌するのだろう。もっと酷いのは、阿部君だ。私に誘拐されたとか言って、自分は世間に同情されて全責任を私に負わせるに決まっている。被害妄想と断言できる奴はいるか?

 あれ? 私らしくないな。失敗するのをイメージしていたらだめじゃないか。私のミジンコ並の愚痴なんて忘れてくれ。私のスーパーコンピューター3個分の脳細胞が、失敗しないための作戦を練ればいいだけだし、できるようになっている。

 阿部君が帰ってくるまでに、ある程度は作戦を考えておくかと決断してから、やっぱり少し休憩してからにしようと、私は珍しく自分を甘やかした。それがいけなかったようだ。いや、悪いのは、頼んだコーヒーとスイーツを持ってくるのが遅かったホテルのルームサービスだ。うん。まあ、トラゾウの服の制作に思いの外時間を費やしてしまったのもあるのだろう。

 なんと、私の予想を遥かに超えて早く、阿部君が帰ってきてしまった。ルームサービスだと思って会心の笑顔を作った私の努力を返しやがれ、という気持ちで心の中で舌打ちした後ろに、ルームサービスが控えていた。私が頼んだコーヒーとスイーツが、阿部君の胃袋に行くのを、私は確信する。当たり前だけどトラゾウの分も頼んでいたので、このままだとトラゾウが遠慮して口にできないと瞬時に判断した私は、ルームサービスの人に3人分の追加をオーダーした。なぜ3人分かを一応説明すると、もし遅れて私の分だけ来たら、阿部君とトラゾウが訴えるような目で見つめるのが分かっているからだ。コーヒーもスイーツも2人前なんて余裕で食べられるからな。

 スイーツ談義に花を咲かせている場合ではないので、作戦を考えるか。もちろん阿部君も加えてやる。私は心が広いからな。それに私の口車があれば、ひよっこの阿部君なんて、知らず識らずのうちに思い通りに操作できるのだ。そうすれば、素晴らしく完璧な作戦はできているだろうし、阿部君はいかにも作戦は自分が考えたと錯覚して上機嫌になっていることだろう。スイーツのおかわりもあることだし。

 それ以前に、阿部君はすっかり上機嫌になっていたのは良い兆候だ。裁縫の壁にボコボコにされていた買い物に行く前とは、まるで別人と言っていい。ミッションで着る服以外にも、いろいろ買ってストレス発散できたのが良かったのだろう。でもまあ、リーダーとして、買い物を楽しんでいる時ではないだろうと、心の中で厳しく叱責はしたがな。プラス材料だってあったし。いくら大量生産の服とはいえ、あんな趣味の悪いヒョウ柄のワンピースなんてそうそう売れないのだから、それだけを買うよりはいろいろ買った方が店員さんの印象にも残らないのからな。ヒョウ柄のワンピースを買ったとは決まっていないし、あんな趣味の悪いものをオシャレなフランスの服屋さんに置いているのか疑問が残るが。

 しかし、コスチュームに関する話はやめておこう。ろくなことがないに決まっている。

「阿部君、明智君救出作戦を考えようか?」

「はい」

 コーヒーとスイーツを目の前にした阿部君はくだらないイチャモンを付けることもなく、二つ返事だ。私の分だけがないのを全く意に介していないが、私は何も言わない。トラゾウは少し遠慮がちに味わっている。トラゾウが図々しいわけではないからな。遠慮したところで、結局は阿部君がトラゾウに食べるように強制するのを知っているのだ。それに、私が追加を注文したのも知っている。だから、私はトラゾウには優しく笑顔で食べるように促したのだ。この状況で私が注意しないといけないのは、コーヒーとスイーツの話をしないことくらいだな。明智君救出作戦を続けるか。

「一縷の望みがなかったわけではないけど、この時間になっても明智君が帰って来ないということは、作戦を決行しないといけないようだな」

「そうですね。買い物がてらもう一度美術館の前を通ってきたんですけど、パトカーもたくさん来てました。なので、今ごろは確実に明智君は警察に確保されてますね。時間的にも美術館の明智君好みのお姉さんは仕事を終えて帰ってるから、明智君は我に返っているはずなのに戻ってこないのが、それを表してますね」

「そうだな。だけど、明智君なら警察を振り切って脱出できそうなものだけど。よほど厳重に閉じ込められているのだろう。もっしかすると、もう警察署に連れていかれたかも。それだと少々厄介だな」

「それなら、諦めるのも選択肢の一つですよ。とりあえずは、いると思って美術館に行ってみましょう。それから決行するかどうかも含めて考えても作戦の微調整をしてもいいかもしれませんね」

「そ、そうだな……。現場検証のたびに明智君をあっちこっちに連れ回すよりは、美術館のスタッフ控室のようなところに閉じ込めておくほうが合理的だと判断して、美術館にいることを期待しよう。それに、美術館なら、明智君好みのお姉さんがまたやって来ると思って、明智君が大人しくしてくれると、警察も考えるだろうし。でも、いるかどうかは、中に入らないと分からないか」

「大丈夫ですよ。外から大声で呼びかければ、明智君なら何かしらの反応をしますよ」

「そ、それは……。明智君は反応するかもしれないけど、警察や周囲の人も反応しないかい?」

「うーん、そうですねえ……。『あけちくーん』と言ったら目立つけど、『ワワンワーン』と呼びかければ問題ないですよ。美術館近辺にいる人はどこかで犬が鳴いているだけだと思うだけで、明智君だけが私たちに気づいてくれます」

「なるほど。なかなかの名案じゃないか。あっ、どうせなら、トラゾウに……。もしトラゾウが『ガガオガーン」と大きな声で吠えたら、周囲がパニックになるんじゃないか。そのどさくさに紛れて、私たちは容易に美術館に入れるかもしれないぞ」

「うーん、なくもないかもしれないですけど……。でも、こんな都会の真ん中にトラなんているわけがないから現実味がないし、トラゾウ一頭が吠えたくらいでは雑踏に紛れて消えてしまいますよ。トラが100頭くらいいれば違うかもしれないですけどね。でも着眼点はなかなか良いですね。褒めてあげます」

「あ、ありがと。それなら、いっそ、思い切って、トラゾウをそのまま美術館の周りで走り回らせればいいんじゃない? 絶対に盛り上がるぞ。そして収集がつかなくなったところで、トラゾウが私たちが隠れている暗闇まで逃げてきたらいいんだ。そこでライオンの覆面と私が作ったこのオシャレなカッパを着せてあげれば、犬に変装したトラゾウができあがりだな。それから3人で迷ったふりをして美術館に入れば、後はなんとでもなるさ」

「おおー、なかなかの名案じゃないですか。まあ、リーダーにも自信を付けさせたいので、採用してあげますよ。……。あれ、その作戦は、悪徳政治家の屋敷へ侵入するために私が考えたのに似てますね。完璧な作戦なはずなのに、リーダーが悪かったのか悪徳政治家たちに問題があったのか、予定通りにはいかなかったですけど」

「ああ、あれね。侵入してすぐの時には、悪徳政治家宅に警備員が一人いただけで、その唯一の目撃者が速攻で気絶してしまったから、全くパニックにはならなかったかな。だけど、今回は警察や野次馬や観光客が大勢いるから、この作戦は有効だよ。リーダーのこの私が考えたんだから、絶対に成功するぞ」

「そうですねー。それじゃ、暗くなるまで自由時間ということで。かいさーん!」

 ううー。掛け声はリーダーである私の大事な仕事なのに。もしや阿部君はリーダーの座を狙っているのだろうか。今回の明智君の致命的な失敗を私の責任にして、奪い取るつもりなのかもしれない。明智君救出作戦では一番目立って、リーダーに相応しいのは私だと分からせてやるからな。

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