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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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囚われ?の明智君の処遇

 阿部君とトラゾウは、ものの数秒で私に合流してくれると思って、10分が過ぎた。もう少し細かく言うと、私が視界に捉えてから、10分だ。電話をしてからではないので、勘違いしないでくれよ。

 なぜそんなに時間が流れているかと言えば、私が待っている人目につき辛い場所のすぐ近くにあるドーナツ屋さんに、阿部君とトラゾウが入っていったからだ。いわゆる寄り道というやつだな。ハハハ。なので、閃いた明智君救出作戦の数々を、私はすっかり完璧に忘れてしまった。そんなもの思いついてないだろ、なんて言う人でなしはいないと、私は信じているからな。信頼を裏切らないでくれよ。

 それよりも、この緊急事態に道草を食う大馬鹿者を責め立ててくれないだろうか。私にはできないから。

 ドーナツをくわえながらも一応深刻な顔は作って、阿部君は現れた。トラゾウはライオンの覆面を付けているので表情は分からないが、目を逸らしながらもドーナツを味わっている。阿部君は、ドーナツをゆっくり味わってから、さも焦っている感じで聞いてきた。私は、その間、阿部君とトラゾウを交互に睨みながら無言を貫いて堪えていたが、全く意味がなかったようだ。声に出して叱り飛ばしていたとしても、同じように意味はなかったというか、逆ギレされただろう。なので、ドーナツには一切触れずに、私は普通に受け答えするだけだ。

「リーダー、明智君はまだ戻らないんですか?」

「ああ。おそらく捕まったと思う」

「でもっ……あんな完璧な作戦だったのに……」

「たぶんというか十中八九、明智君好みの素敵な金髪のお姉さんが美術館で働いていたのだろうね」

「なるほど。それを全く考慮してなかったです。すいません、私のミスです」

「阿部君のミスだろうが、明智君が欲望を抑えきれなかったのだろうが、今はどうでもいい。それよりも明智君をなんとかしないと。まずは、観光客を装って、美術館の様子を見に行こう。その上で救出作戦を考えようよ」

「はい。絶対に助けましょうね」

「阿部君、意外と言ったら失礼だけど、優しいんだね」

「だって明智君がいなくなったら、リーダーと二人だけの怪盗団が現実味を帯びるじゃないですか。前も言ったと思いますけど、それはちょっと……なので」

「そ、そうだったね。二軍のメンバーはまだ実績すらないし……」

「二軍? 何ですか、それ? 前もそんな風な事を……」

「あっ、いや、忘れてくれ。ただの戯言だ。そんな事よりも、明智君を助けに行くぞ」

「はい!」「ガオ!」

 私たちが美術館に着くと、美術館とは厳かなものだろうという私の先入観を、打ち砕かれてしまった。有名美術館なので人が多いのはある程度想像はしていた。だけど、多いどころではなく、周囲はたくさんの人がひしめき合っているのだ。大抵の人は美術館に向かって何やら文句を言っているが、興味本位の野次馬が楽しそうにあれやこれやと噂話をしている。美術館に異変があったのは明らかだった。まあ、原因は明智君だろうけど。

 少しばかり遅くなったが、説明しておかないといけないことが一つある。物語の都合上、フランスの人や観光客も日本語で会話していることにしてくれるかい? 私がフランス語をペラペラの設定にしてもいいのだけれど、約1名がそれは無理がありすぎるだろと睨んでいるのだ。フランスの人が全員、日本語を話すよりも無理があるようには思わないが、私が反論しないことは誰もが知っているよな? ついでなので、ここからは世界の共通語が日本語ということにしておくれ。その方が、我々怪盗団が世界を股にかけるのにも都合がいいだろう。私は転んでもただでは起きないのだ。それでは本編に戻るぞ。

 状況をもっと詳しく知るためには、最低でも美術館の入り口までは行かないといけないようだ。入り口の門に明智君が繋がれているなら、ついうっかりのふりをして逃がせるのだろうけど、さすがにそれはないだろう。それでも何らかの手がかりはあるはずなので、私たちは、いろいろな感情をむき出しにしている人の中を強引に縫って奥へと進み、はぐれることもなく無事に美術館の入り口の前まで着いた。予想通り、入り口は大きな鉄の門が閉められていた。もちろん、明智君は繋がれていない。だけど、明智君の面影はあったのだ。

 大きな鉄の門には『本日臨時休館』の張り紙がでかでかと貼り付けられていたのだけれど、その張り紙に、何気に明智君のらしき肉球が何個かインクを使って押されていた。それを見てニヤけてしまった自分の顔を阿部君に見られるわけにはいかないので、しばし落ち着くまで私は考えた。

 とりあえず明智君は無事で、小さな檻の中に閉じ込められているわけでもないし、手足を縛られてもないようだ。どこかに閉じ込められているのは間違いないと思うが、おそらく、金髪のきれいなお姉さんと一緒に美術館の一室に隔離されているのだ。それでも、明智君は自分が拘束されているだなんて想像すらしていないはず。ただお姉さんと楽しく遊ぶのに、自分の使命も時間も忘れているのだ。バカ犬がっ!

 よし、怒りで私のニヤけ面も収まったようなので、阿部君と向き合うか。阿部君も私同様にニヤけた可能性もあるが、怒りの形相をしている可能性の方が遥かに高いだろう。だって、阿部君だから。

 うん? でも阿部君は真顔というか無表情で張り紙を見つめている。もしかしたら、この張り紙に明智君からのメッセージでもあるのだろうか。いくら阿部君が犬語を理解しているからって、肉球跡から何か読み取れるとは……。阿部君ならありえるのだろうか。聞けば済むことだな。

「阿部君、どうしたんだい? そんなにこの張り紙を凝視して……。もしかしたら明智君の肉球に何か意味があるのかい? 囚われている場所とか?」

「いくらなんでも、肉球で何を言ってるかなんて分かりません。だけど分かることもあります。明智君は、すごくはしゃいでます。お姉さんがこの張り紙を作っているところを、ぎりぎり邪魔にならないくらいにちょっかいを出してたしなめられている様が、鮮明に浮かんできました」

 やはりそうか。恥ずかしながら、考えが当たって少し嬉しくなったじゃないか。明智君を知っていれば、自然とその答えにたどり着くとか言わないでおくれ。明智君がかわいそう……いや、明智君は気にしないな。気にするくらいなら、捕まることはなかったもんな。

 そんなどうしようもない事で悩んでないで、これからの事を考えないといけない。明智君を助けるか見捨てるかを。……。嘘嘘。助けるに決まってるじゃないか。少なくとも私はそっちに傾いているが、この浮かれた明智君の肉球を見た阿部君はどうなのだろうか。さっきまでは助ける気が満々だったが。

「そ、そうか。まあこれで、明智君が捕まっているのか捕まられているのかは別として、この美術館の中にいることがはっきりしたわけだな。問題は、どうやって助けるかだな」

「そうですねえ。明智君は楽しそうにしているので、このままフランスに置いていきましょうか? リーダーと私の二人だけではどうしようもない考えは変わらないですけど、明智君を救出するリスクに比べたら、何か方法があると思うんです。例えば、どこかのペットショップで売れ残っている犬をスカウトすれば、なんとかなりそうですよ」

 やはり阿部君は明智君を見限ったようだな。仕方がない。この次はゴールデンレトリバーのような大型犬ではなくチワワのような小型犬にしようか。我が家のエンゲル係数が大幅に改善されるぞ。……。違う違う。明智君の自業自得とはいえ、明智君の自己責任とはいえ、明智君の自己満足とはいえ、私の大切な仲間であり家族を見捨てるわけにはいかない。

「いやー、それはどうかなあ。売れ残っているとはいえ、子犬だからね。戦力になるまでには2、3年かかるよ。それに、明智君のことだから、きれいなお姉さんが目の前で札束をちらつかせれば、あっさりと私たちのことを売るだろうし」

「ああー、そうですねえ。ということは、明智君を救出するか、それが難しそうなら記憶が失くなるくらいの暴力に訴えるしかないですね。どちらにしても、最低限、明智君にまではたどり着かないといけないのか。放置という選択肢はないようですね」

「そ、そうだね。そして明智君が口を割るのは時間の問題だから、私たちには悠長に構えている時間はないよ。もう既に何もかも白状しているかもしれないけどね。それでも、阿部君のように簡単に明智君の言いたい事を理解はできないから、時間が全くないこともないはずだよ。でも、美術館のきれいなお姉さんにいい所を見せようと、明智君が余計な機転を利かせて私たちの匂いをたどって案内する可能性もあるかな」

「ありますね。とりあえずは遊ぶのに夢中で、それどころではないと思いますけど。でもまあ、きれいなお姉さんからしたら扱いやすい明智君なので、すぐにでも救出したいところです。……。ここで焦って当たって砕けたくないので、夜まで待ちましょうか」

「うん、それがいいね。もしかしたら明智君が自分の立場を思い出して、自ら脱出するかもしれないし」

「いえ、それはないです」

「う、うん。とりあえずホテルに戻って作戦会議といこうか?」

「はい。あっ、その前に覆面を買いに行きましょう。最低限の変装はしないと。まさかこっちで怪盗になるだなんて考えてなかったし、かといって、夜とはいえ変装もしないで入るのは証拠を提供するようなものなので」

「そうだね。今回は、一般的な目出し帽でいいんじゃないか?」

「何言ってるんですか。私たちは怪盗なんですよ。目出し帽なんかでミッションをするようになったら終わりですよ」

「そ、そうだな。だけど今回は今までのような悪者相手とは違うぞ。確実に警察が介入するから、買った店から足がつくかもしれない。阿部君が好む覆面なんてそうそう売れないから、店主がきっと覚えているだろうからな」

「ああー、そうですねえ。しょうがないなあ。材料と道具だけを買って、手作りでいきましょう。リーダーも自分の分は自分で作ってくださいね。トラゾウの分は……今被っているライオンの覆面は日本で買ったやつだしまあまあ大量にあるし、何より覆面を被っているようには見えないから大丈夫だね。顔だけなら、ちょっとだけ風変わりなミックス犬だよ。でも、そのおまわりさんの服はミッションで着ていったらだめだよ。日本にまではそうそう調べに行かないとは思うけど……いや、絵が盗まれたのは日本でだから用心に越したことはないかな。美術館や街中にあるすべての監視カメラから逃れるのは、私とトラゾウだけだったらできなくもないけど、足を引っ張るリーダーがいるから難しいもんね。そしてそんなリーダーのせいで撮られた映像を世界中に放映されたら、非売品のその珍しい服から簡単にリーダーまでたどり着けないとは言えないし。何事もなく済んだとしても、ミッションで使った服を普段着にはできなくなるよ。それは嫌でしょ? トラゾウのお気に入りだもんね?」

「ガオーン!」

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