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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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今回の作戦で一番酷い目にあうのは、私ではなく明智君かも

 ボンジュール! お買い求め価格でキャンペーン中の最上階のちょっと手前のスイートルームで少し休んだだけで、私たちはいつもの元気をすぐさま取り戻した。なので落ち着いていられない。作戦会議を開く。悪徳大富豪やはだかの王様から何かを盗むための会議でもなければ、観光旅行をいかに楽しむかの会議でもない。

 忘れている極一部の人たちのためにも説明しておくと、私たちがフランスに来たのは、有名美術館に絵を返すためだ。慰安旅行は、ついでと言えばついでかもしれない。そして、その絵というのは、その美術館が日本で開いた展覧会に乗じて、ある悪人どもが盗んだものなので、本音を言えばかかわりたくない。だけど諸々の事情で私たちがこの重要任務を最前線で行うこととなった。

 といっても、普通に渡すと、私たちが犯人だと誤解される。少なくとも手に入れた経緯を説明しないといけない。本当の持ち主からは盗んでないが、犯人からは盗んだので、何も話したくないこの気持を理解してもらえるだろう。ついでといってはなんだけど、絵以外にも現金や美術品を盗んだのだから。

「さて、まずはこれを返さないといけないが、簡単な話ではなさそうだぞ。足がつくかもしれない郵送なんかで返すのはだめだし、直接持って行くのは論外だからな」

「夜中にこっそりと美術館の前にでも置いてくればいいんじゃないですか?」

「そ、そうだね。その場面をあらゆる監視カメラが映せないようにハッキングして、さらに雨が降らないように天候も操って、何らかの野生動物が叩いたり踏んづけたりしないように明智君とトラゾウが見張らないといけないけど」

「さすがに天候だけは厳しいですね」

 明智君、トラゾウ、そんな悲しい顔をしてはいけない。阿部君はこういう人だと知っているじゃないか。この意見は却下となったのだから、前を向こう。それに、触れないでおこうとは思ったが、そもそもハッキングだなんて、私はおろか阿部君だってできるわけがない。阿部君はできないというのが癪だから、天候の話を選んだのだ。

 なので「ハッキングならできるのかい?」なんて聞いてはいけない。セーヌ川で私に似たUMAの目撃情報がフランス中を席巻してしまう。なぜUMAかだって? ボコボコにされた私からは、おそらく人間の面影が皆無だからだ。想像するだけでも恐いので、私は素っ気なく返事するに留めた。

「そ、そうか」

「あー、いい事を思いつきましたよ」

 明智君、トラゾウ、大丈夫だ。たぶん。私も命にかかわる負担がありませんように。

「なんだい? 美術館に電話をして、取りに来いとか言ってはいけないよ」

 あれ? ただの冗談だぞ。阿部君と明智君だけならまだしも、トラゾウまでも、私をそんな目で見ないでくれよ。和んでほしかっただけなんだ。阿部君が凶悪な発想をしないように。

 阿部君と明智君とトラゾウは、私を冷たい目でみただけで、発言には無視をした。私も畳みかけないで、静かに阿部君の意見に耳を傾ける。

「明智君に届けてもらえばいいじゃないですか。犬なら治外法権なんだから」

「た、確かにそうだな。明智君だったら、誰もが何も警戒しないか。美術館の受付の人に絵を渡してすぐに、一目散に逃げれば、案外簡単に終わるのかもしれない。美術館の警備の人も通報を受けた警察も、わざわざ明智君を捕まえようとはしないだろう。もし仕事に執念を燃やしていて、かつ犬好きな美術館の警備員がいて、明智君を捕まえたとしても、何かできるわけではないから、すぐに解放されるはずだね」

 いや、もし捕まったなら、実際には簡単には解放されないだろう。だけど、口が避けても言えない。明智君に無用な心配をさせたくないだけだぞ。明智君が駄々をこねると、意味もなく私が巻き添えになって、最終的には私だけがリアル巌窟王になるからではないからな。

 それに、明智君ならどんな状況になっても脱出してくれるのだ。間違っても、私たちを売って司法取引には応じない……はず。私が捕まったなら、明智君に借りている2000万円を返せなくなるのだから。

 うーん、でも、逆に言えば、美術館の意向で3000万円あげると言われたら、何の迷いもなく私を差し出すな。この絵の価値からしたら、3000万円なんてやすいものだから、ない話ではないぞ。

 明智君、絶対に捕まらないでおくれ。潜在能力を100パーセント出せば、明智君なら軍隊相手でも逃げおおせるだろ。そして逃げてる間は、街中にある監視カメラにもできるだけ映らないように……。

「あっ、でも、明智君が逃げるところを、美術館からこのホテルまでそこら中にある監視カメラで追われたら、私たちまでたどり着くかもしれないぞ」

「そうですねえ。じゃあ、明智君に変装してもらいましょう」

「変装? 変装しても、その変装道具から足がつく可能性は捨てきれないぞ」

「いえ、変装道具なんて必要ありません」

「どういうことなんだい?」

「美術館に絵を届けて美術館から出るまでは、普段の明智君のままでいいです。そして、きっとあると思うんですけど、絶対に確実に監視カメラに映らなくて人目にもつかない場所で、リーダーと合流しましょう。それから、そこで、リーダーが手際よく明智君を散髪して、ゴールデンからラブラドールに変装じゃなくて変身ですね。そうしてあげれば、十分にごまかせられますよ。こんな事もあろうかと、この前使った唐草模様の大きな風呂敷とバリカンを持ってきたので」

 明智君は動揺を隠そうともしてないな。それに、風呂敷はまだ分かるが、バリカンなんて普通は海外旅行に持っていかないぞ。阿部君が何かに付けて明智君を散髪するつもりだったようだ。理由は分からないし、理由なんてないのかもしれない。ただの興味本位の可能性が高い。ゴールデンを散髪すると、本当にラブラドールに見えるかどうかの。

 でも、一応、明智君のためにささやかな抵抗をしてあげるか。今回の一番厳しい役目を気持ちよくやってもらうためにも。

「なるほど。その風呂敷の上で散髪して、毛を一本たりとも落とさず風呂敷を丸めてリュックサックにでも入れれば……。でも、それなら、私が持ってきたバックパックに、明智君を入れて戻ってきてもいいのでは?」

 明智君が私を応援しているな。任しとけと言いたいところだけど、これ以上の抵抗は私にはできない。十中八九、阿部君の希望通りになるのだ。ただ、これで明智君は少しだけでも私に恩義を感じてくれるので、私に八つ当たりすることなく最前線でミッションに臨んでくれることだろう。

「でも、フランスの次は、トラゾウを送りにインドネシアに行くんですよ」

 あれ? 阿部君にしては珍しく、何か理由がありそうだぞ。一応聞いておくか。それで少しでも明智君が前向きに散髪に応じてくれるなら、みんなが幸せになるかもしれない。

「うん、そうだけど……。それと明智君の散髪が関係あるの?」

「ありありですよ。インドネシアって、いわゆる南の島なんですよ。暑いじゃないですか」

「ああ、それで。明智君のためを思ってたんだ? 散髪してあげれば涼しくなるもんね」

 南というだけで暑いイメージはあるかもしれない。だけど、日本の暑い夏に普通にゴールデン生活を送っていた明智君にしたら、余裕で耐えられる暑さだろう。もちろん、そんな事を声を大にして言うつもりはない。小声でも言わないがな。

「いえ、飛行機に乗る時には、明智君はぬいぐるみになって、私が手荷物として抱きかかえながら歩き回らないといけないんですよ。さすがにそれは暑すぎます」

 嘘でも、明智君のためにって言って、終わってくれればいいのに。まったく、これだから正直者は……。いや、正直者にダメ出しはやめておこう。言ったところでだし、言っている方が何か嫌悪感を感じるかもしれない。

 それよりも、私は再び明智君のために頑張らないといけなくなったのだから、正直者に口答えをしてみるか。正直者さん、逆ギレだけはしないでくれよ。

「な、なるほど。明智君のためではなく、阿部君が少しでも涼しくなるようになんだね。でも、南国の空港や飛行機は寒いくらいに冷房が効いてるもんだよ」

「その可能性は否定しませんが、それなら着る服を増やせばいいことです。だけど、やっぱり暑いからといって、その場でぬいぐるみにバリカンを入れてたら、不審者扱いされて国外追放までありますよ。そうなったら、トラゾウを送り届けられなくなるし、インドネシアを満喫できなくなるじゃないですか」

「そうだね。阿部君の考えた作戦でいこう」

 ごめんよ、明智君。私なりに頑張ったけど、こうなることは明智君も分かっていたんだろ? それに、実際にインドネシアは暑いから、さっぱりして良かったと思えるかもしれないし。日本の夏だって暑いのに、ずっとゴールデンで通してきたんだぞ、なんて考えてはいけないよ。

 何事も良いように捉えた方が楽しいし、それに、しばらくすれば元通りに毛は伸びてくれるんだよ。ほんの束の間のイメチェンじゃないか。万が一にもフランスで捕まるわけにはいかないのだから、万全を尽くそうじゃないか。

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