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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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新しい我が家兼アジトを即決

「不動産屋さん?」

「はい。良さそうなのはありましたか?」

「はい。だけど少し予算オーバーなんですよ」

「少しくらいなら、私どもがなんとかいたしますが。10万円くらいですか?」

「いえ。もう少しかな」

「それでは、30万円くらいですか?」

「いえいえ。あと、もう一息って感じですかね」

「まさか……100万円とか言いませんよね?」

「ははっ。まさか、そんなわけないじゃないですか。1000万円ですよっ」

「…………。あのー、他にお求めやすい物件を数多く取り揃えておりますので、そちらを検討してもませんか?」

「いえ、気に入ったのは、一つだけなんです。ただ、私もバカではないので、普通に1000万円負けろとなんて言うつもりはありません。このリュックサックに5000万円入ってます。もし、この物件の消費税や諸費用込みで5000万円にしてくれるなら、念の為に一度だけ物件を見に行ったうえで、今日のうちに契約と支払いをしますよ。どうですか?」

「えっ! ええー! しょ、しょしょ、少々お待ち下さい。上司と相談してきます」

「リーダー、なんだか腹黒く感じたのは、私だけですか? でも成功なら、リーダーにご褒美として『怪盗20面相』を1本あげますよ」

「あ、ありがとう……うん? いや、その前に、『怪盗20面相』は山分けしないのかい? 30本ほどあるんだろ?」

「分けるつもりでいたんですけど、なんだかめんどくさくなっちゃって。どうせ保管する場所は1か所だし……アジトが決まったらワインセラーも作りましょうね。それで、あれだけのワインだから、飲む時っていうのは、ものすごく良い事があった時か仕事で大成功した時くらいじゃないですか。はっきり言って、リーダーの人生でものすごく良い事なんて起こるわけないですよね。そうなるとリーダーが飲めるのは仕事で大成功した時になるでしょ。ということは、結局、みんなで一緒に飲むじゃないですか。だけど、そんな時に誰のを開けるとかで揉めるのも、せっかくの良い気分を台無しにするだけでしょ。なので、『怪盗20面相』は私が責任を持って管理しておきますね」

「なるほど。実に理路整然とした意見だ。ただ、それなら、私がご褒美の1本をもらっても、大して意味がないのでは?」

「そんなこと……。じゃあ、その1本は、私と明智君は絶対に飲まないですよ。リーダーが好きなようにしてください。生活に困った時に売るのもよし。警察に捕まりそうになった時に賄賂として使うのもよし。死ぬ前に言っといてくれたら、棺の中のリーダーの遺体に掛けてあげてもいいですよ」

「そ、そうだな。せっかく阿部君がくれたのだから、よく考えて使うよ。おお、不動産屋さんが上司を連れて戻ってきたぞ」

 私たちの期待とは裏腹に、戻ってきた不動産屋さんと上司は複雑な顔をしていた。二つ返事でOKとはいってないようだな。だからって、全く話にならないって感じでもないような。何らかの駆け引きが始まるのかもしれない。

 私にだって、数百万円なら譲歩できる余裕はある。アジトの修繕費やフランスへの旅行費用を差し引いても、何百万円かは残るはずだし、少ないながらも銀行に貯金だってあるのだ。だけど、それを使うと、新しく家具や電化製品を買うのを先延ばしにしないといけなくなってしまう。今まで使っていたのは、阿部君たちが暴れたせいで使いものにならなそうだし、どうせなら豪邸に相応しいものを取り揃えたいからな。

 まずは話を聞いてからだな。そのうえで交渉を始めるか。私と明智君とトラゾウの泣き落としだけでなく、阿部君の脅しも必要になってくるかもしれないが。阿部君、警察を呼ばれるぎりぎりで踏みとどまっておくれ。

「お待たせしました。あのー、確認ですけど、今から物件を見に行ってそのうえで気に入っていただけたら、今日のうちに契約と支払いをしていただける、でいいでしょうか?」

 おおー、これは手応えありありじゃないか。私は猿芝居をしなくて済んだようだ。何気に明智君と阿部君は物足りなさそうだけど。阿部君は交渉という名の脅しをできなかったからだな。でも、明智君は……まさか私と一緒に猿芝居をしたかったのだろうか。いや、違う。明智君は阿部君と一緒に脅す方をしたかったのだ。明智君のことだからなりふり構わず狂犬病のふりをしたかもしれない。危なかった。私は飼い主の義務を果たしていないとかで警察に捕まり、明智君は……になるところだった。本当の意味で命拾いしたようだな。

 うん? みんなが私を見つめているぞ。なんだ? そんなに私が神々しいのか? あっ、私のターンだったな。

「は、はい。このリュックサックに、ちょうど5000万円入ってるので」

 本当は6000万円だから、後で不動産屋さんが見ていないところで1000万円ださないといけないな。全財産を使ったように見せかけた方が、相手も満足するのだ。

「…………、……」

「……」

 お、おい、気を持たせるんじゃない。いいのか? だめなのか? とりあえず、何か言ってくれ。

「分かりました。総額5000万円ちょうどで手を打ちましょう」

「ありがとうございます」「ありがとう」「ワオンオン」「……」

 私たちは冷静に返事をしたが、内心ではお祭り騒ぎだった。顔には出ていたが、それを抑えるなんて人として犬としてトラとして間違っているのだ。不動産屋さんの顔だって、お祭り騒ぎだったのだから。

 不動産屋さんは、内見の案内に、日本が誇るあの高級車を使ってくれた。不動産屋さんが車の鍵を取る時に何か考えているようだったので、おそらく、見に行く家のレベルに合わせて社用車にもいろいろあるのだろう。上は、今回の私たちの案内に使ってくれた高級車から、下は……必ずしも駐車スペースがあるとは限らないので、電動自転車まで。

 阿部君と明智君とトラゾウが電動自転車の鍵にも注目していたのには気づかなかったことにしておくか。三人の中では、私が自転車を漕いで、明智君が私の肩、トラゾウが座席、阿部君が荷台で立って乗っているさまができあがっていたのだろう。それはそれでなんか楽しそうだけど、不動産屋さんから見に行く家まで遠いので、少なくとも私は不動産屋さんに感謝だな。

 高級車に揺られること1時間と少しで、私たちはアジトになるであろう豪邸の前に寝ぼけ眼で立っていた。乗り心地が良すぎたのだ。電動自転車はあれだけど、オーソドックスな営業者で連れてきてくれれば、しっかりと内見できたのにと、眠気に負けながらも誰にともなく抗議しようとする。だけど、アジト候補の豪邸がすぐに目を覚まさせてくれた。

 私は1級建築士ではないので上手く説明できないが、どんな豪邸かは各々で想像してほしい。表現が苦手とか豪邸が具体的にどんなものか定まっていないとか、勘ぐるようなまねはしないでくれるかい。しいて言えば、場所割れを嫌ったのだ。なかなか上手い言い訳だなと自画自賛なんてしてないぞ。

 でもまあ、私のファンのために、どんな雰囲気かは説明しておくか。口下手なりに頑張ってるじゃないか、なんて思わないでおくれ。余計に悲しく……違う違う。どう思われても、大怪盗というバックボーンがある私は平気だぞ。そうじゃないか、私は大怪盗だ。別に豪邸の建築様式や間取りなんかを上手く説明できないことなんて恥ずかしがる必要はなかった。たまには正直になろうか。

 つたない説明を聞いておくれ。そして、皆さんになりの豪邸を想像してくれたら、それが私の新しい我が家兼アジトだ。

 物件は写真で見る何倍も素晴らしかった。高級住宅街と呼んで差し支えないような立地なので、建物の大きさは敷地面積に対して控えめだ。端的に言うと、建物周りには広々とした庭があるのだ。なので、隣近所の住居との距離も程よくある。これなら、夜中にどんちゃん騒ぎをしたところで、苦情は皆無だろう。

 肝心な建物自体は、言うなれば、ヨーロッパの小さくもおしゃれなホテルのようだ。阿部君が好き勝手にできる部屋を一つ提供したとしても、痛くも痒くもない。私だけでなく明智君までも、部屋を毎日取り替えていっても、同じ部屋を使うまで一週間はかかるほどにある。

 といっても、私と明智君ともに大きなリビングルームを根城とするのだろう。口には出せないが、今さら一人で寝るのは寂しいのだ。もちろん布団は別々だ。寝ぼけた明智君に蹴られるのだけはゴメンだからな。

 納得した私たちは、その場で購入を約束して、意気揚々と不動産屋さんへ戻った。既に契約書と領収書までが用意してある。不動産屋さんは領収書だけはしっかり持っていたが。なので、私は契約書にサインする前に、まず5000万円をリュックサックから出した。ゴリ押しついでに、明日から入居してもいいか尋ねる。即答だった。

 明日の予定が引っ越しとなった瞬間、私は考えた。ほとんどの家具は処分しないといけないが、引っ越しだろうが処分だろうが、業者には頼めない。見られたら困るものが盛り沢山だからな。一人で廃棄物処分所を往復したり、戦利品などを移動させるのは大変なのは言うまでもない。だからって、進んで手伝ってくれる仲間や家族が、私のそばにはいない。阿部君と明智君をいかに口車に乗せるかが、私の腕の見せ所だな。

 今日の仕事が終わり、帰宅すると言った阿部君を、急いで呼び止めた。破壊された今までのアジトでは、寝床がベッドの下しかない私と明智君とトラゾウも含めて、私のお金で高級ホテルに泊まるためだ。もう作戦は始まっているからな。これで明日の朝は、みんながご機嫌さんだ。

 さらに、食べ放題のビュッフェスタイルの朝食中に、引っ越しの手伝いをお願いすれば、考える間もなく了承してくれるに決まっている。それでも、阿部君はどこかで隙を突いて逃げ出そうとするだろう。引っ越し用にレンタカーではなく阿部君パパの車を借りるか。阿部君が逃げる機会を大幅に削れるはずだ。結果、阿部君は、逃げる負担と引っ越しの手伝いの負担を天秤にかける。さらにアジトを破壊した負い目が微妙ながらも残っていると期待しよう。よし、明日は怪盗団みんなで引っ越し確定だな。改めて自分の策士ぶりを実感してしまった夜だった。

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