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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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私の部下たちからの意外な提案

 開けられた金庫を見ると、内蓋などがなく、いきなり札束がお目見えした。阿部君の予想した通りに、金庫には札束がびっしり詰まっているようだ。いや、まだ喜んではいけない。表面だけで、下にはただの書類があるか、最悪の場合は意味のない上げ底にしてあるのかもしれないのだから。

「いつまでも見つめてないで、数えようか?」

「はい」「ワン」「ガン」

「私が出していってもいいかい?」

「もちろんです」「ワンワンワ」「ガオーン」

 運動会でよく行われる玉入れ競争で、カゴに入った玉を先生が一つづつ出していく時のように、私が一束づつゆっくり札束を出すごとに、みんなが声を揃えて数え始めた。

「ひとーつ、ふたーつ、みっつぅー、……」「ワワーン、ワンーワ、ワンワー、……」「ガガーン、ガンーオ、ガッガオー、……」

 札束を取っても取っても、金庫の中は札束しか見えなかった。私は夢を見ているのだろうか。夢かどうか確かめるために、この札束で明智君を叩いてみようか。今なら笑って許してくれそうだ。……。やめておくか。それが原因で私の取り分を減らされたら、損害は今までの比ではないからな。

 私のちっぽけな心の葛藤を尻目に、3人はあえて金庫を見ずに、私が出す札束が山となっている所だけを見ている。札束はまだまだあるが、冗談で次の札束が最後と言ってから、再び札束数えを開始するような演出をしたくなってきてしまった。それくらいなら、笑って許してくれるうえに盛り上がるとは思う。ただ、冗談と言いながら素手で殴られる恐れもあるが。

 うーん、盛り上がりは十分だから、普通に札束を出していこう。一理のために百害を取っている場合でない。トラゾウまでが釣られて私を叩いたなら、私は粉々になってしまうかもしれないし。

 私は機械に徹して金庫から札束を出し続けた。何度となくくだらない演出を仕掛けたくなったが、最後まで本分を全うして、いよいよ最後の一つを私は出した。

「……、ろっくじゅうー」「……、ワッオー」「……、ガーン」

 いつからか明智君とトラゾウは数えるのを止めていた。それは数が大きすぎて数えられなくなったのではなく、興奮しすぎて数えるどころではなくなったのだ。機械に徹していたはずの私ですら、手が震えるのを隠せないほどだったのだから。一応説明しておくと、阿部君だけは基本金持ちなので、興奮はしているが数えるのを止めるほどではなかったのだ。

 ちょっと額が大きすぎる気もしなくはないが、返しに行くくらいなら怪盗なんて引退した方がいいのだろう。心配なのは、悪徳政治家の裏帳簿に載っているであろう賄賂のお金に大幅な差異ができたことだな。あの豪邸を建てるのに思いの外かかったと判断してくれるように必死で期待するか。

 間違っても、あの裏帳簿はただの子供の落書きだと思わないでおくれ。でないと証拠不十分で悪徳政治家は、賄賂の件については無罪になってしまうかもしれない。公務執行妨害と銃刀法違反と……あっ、私に対する殺人未遂もあるじゃないか。被害者が行方不明だけどなんとか立件してくれないだろうか。これらの罪を全部合わせれば懲役100年くらいにはなるだろう。

 それで出所してきても悪徳政治家は百何十歳だから、仕返しに来ても返り討ちにしてやれるぞ。うん? 私か? 私は歳を取らない……笑うところだぞ。明智君は大爆笑してくれているし。

 …………。すまない。ついつい舞い上がってしまってくだらない事を言ってしまった。こんな大金がいきなり目の前に現れたことがある人なら、今の私の気持ちは分かるだろ? 分からなくてもいいが、一つだけ分かってほしいことがある。それは、この6000万円の正当な所有者は、我々怪盗団ということだ。これだけは譲らないからな。文句やダメ出しは一切受け付けない。

「それでは、阿部君、明智君、山分けだー!」

「イエエエエーイ!」「ワオオオオーン!」

 近所迷惑なんてもう気にしなくていい私たちは、気が狂って大騒ぎしても今さらだ。だけど再び警察が訪れるのは好ましくない。もしかしたら私が警察官をしていた時の顔見知りが来るかもしれないし、何よりも悲しいかなこの分不相応な大金を見られるわけにはいかない。そう思って、なんとか自重できた。

 阿部君と明智君は既にどんちゃん騒ぎも警察官の来訪も経験しているのもあって、驚くくらいに自制している。それもあって、リーダーである私は我を忘れなかったのだろう。こいつらは、きっと私をバカにしてくるからな。

 それにしても、特に阿部君は落ち着いている。何か悪い事を企んでいる時の阿部君だ。

「あのー、ちょっと考えたんですけど……」

 ほら、やっぱり。まさか、あれだけ約束したのに、またもや理不尽な因縁をつけて私の取り分を減らすのだろうか。ああ、神様、助けてくださいー。

「このお金で新しいアジトを買いませんか?」

「え? ええ? え! ええ! い、いいのかい?」

「どう、明智君? 私と明智君がそれぞれ2000万円づつリーダーに貸してあげようよ。リーダーだってフランス慰安旅行の代金を引いても、いくらか残るだろうから、なかなかの豪邸が買えるよ。リーダーが近い内にあの世に行ったとしても、明智君は住む所を確保しておけば問題ないでしょ。後はお手伝いさんを雇えるだけ稼ぐと、悠々自適の毎日が保証されるからね」

「ワッオーン!」

 なんだ。くれるのではなく、貸してくれるのか。ごねたいところだけど、利子がとんでもないことになってしまうから、ここは素直に喜んでおくか。

「ありがとう。ちなみに利子は何パーセントくらいになるのかな?」

「何を言ってるんですか。私たちとリーダーの仲で、利子なんて取らないですよ。『むりそくむたんぽ』とかいうやつですね」

 我々怪盗団みんなのアジトを、私が二人にそれぞれ2000万円づつ借金して買うことに、疑問や不満を持ってはいけない。少なくとも名義は私だし、なにより私の居場所でもあるのだから。明智君の家でもあるのだから、明智君は普通に資金を提供するべきだ、なんて考えるのは愚の骨頂だ。そんな考えを少しでも持とうものなら、心無い人たちが、私の人間としてのスケールに疑問を抱いてしまう。ついでに明智君は本気で怒ってしまうだろう。

 明智君、2000万円を貸してくれてありがとう。とは言っても、新居は明智君の家でもあるのだから、我が物顔でくつろいでおくれ。言わずもがなだったな。

 阿部君も、2000万円貸してくれてありがとう。感謝はするが、帰るのが面倒とか言って我が物顔で我が家兼アジトを使うのは遠慮しておくれ。と言っても、阿部君は好き勝手にするだろうな。まあいい。借金を返すまでの辛抱だ。一番良い部屋を阿部君専用の休憩室として当たり前に使われることも、表面上は喜んで受け入れてやろうじゃないか。

 しかし、無利息無担保とはいえ、4000万円も借金をするなんて……いや、借金がある方が人間頑張れるものだ。標的はいくらでもいるはず。ローカル暴力団は常に飽和状態だろう。悪徳政治家にしたって、一人が捕まったが、また別の奴がそのイスに座るようになっている。

 早い話、金脈は無くならないということだな。案外たった1回の仕事で借金を返せるかもしれないぞ。私の未来は、眩しいくらいに明るいのだ。首を洗って待ってろよ、金満悪人ども。

 そうと決まれば、まだ時間はあるし、不動産屋さんへ行くとするか。気まぐれでわがままで血も涙もない人でなし犬でなしで金の亡者でずる賢く運だけでここまで来たお調子者の、阿部君と明智君の気が変わらないうちに。

「阿部君、明智君、本当にありがとう。君たちは、神様が遣わしてくれた天使だよ。それで、早速だけど、まだ不動産屋さんが開いている時間だから、今すぐに家探しに行かないかい?」

「はーい」「ワーン」「ガオ?」

「そうか、明智君はまだしも、トラゾウは連れていけないか。トラゾウも行きたいかい?」

「ガオ。……ガーオガオーガーン」

 おそらくトラゾウは行きたいけど、自分が人前に出ると恐がられてパニックになるので遠慮しているのだろう。なんていじらしいんだ。

「阿部君、明智君、ものは相談だけど、トラゾウをなんとか連れていってあげられないかな?」

「そうですねえ。どうせ飛行機に乗る時にぬいぐるみにならないといけないから、練習がてら連れていってあげてもいいかな」

「ワンワワン。ワーンワンワンワワワーン」

「ああ、そうだね」

「明智君は何と?」

「最初の仕事の時に使ったライオンの覆面をトラゾウに被せれば、なんとなく犬っぽくなるかもと」

「なるほど。やってみる価値はあるな。その方がトラゾウはのびのびできるし、阿部君か私がずっと持っていなくてもいいね」

「まあ持つのはリーダーですけど、トラゾウのためにやれるだけやってみましょう」

 このめちゃくちゃに荒らされた部屋で犬用のライオンの覆面を探すのは大変かもなと、私に言われる前に、明智君が素早く持ってきた。なんか悔しい。だけど明智君、勝ち誇った顔は間違ってるぞ。とは言えない。責務者が債権者に説教をしたら、取り返しがつかないからな。

 なので、私はささやかな抵抗として無言で、明智君からライオンの覆面を受け取った。そしてすぐにトラゾウに被せる。ライオンの覆面がリアルでないのをいいことに、トラゾウは覆面を被った犬に見えなくもなかった。顔だけは。

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