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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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私はポジティブリーダーだ

「えっ? アジトが使えなくなる? 私たちが逮捕されるからなのか?」

「何を言ってるんですか。私たちが逮捕されるわけがないじゃないですか。誰も被害届を出さないんだから。もし血迷って被害届を出したとしても、私たちが犯人の証拠なんて一切ないんですよ。何かの間違いで、私たちが犯人だと知られても、フランスへ高飛びすればいいんです」

 確かに、暴力団が被害届を出すとも思えないというか、代わりにお願いだって聞いてあげたのだから、あいつらに関しては気を病む必要はないな。悪徳政治家の方は……ああー、あいつは逮捕されたのだから、被害届どころではない。でも、あいつの家族が出さないだろうか。うーん、出すかもしれないが、阿部君の自信たっぷりの表情からして、少なくとも阿部君が謝りたい内容とは関係ないのだろう。

 ひとまず、逮捕とか刑務所は忘れよう。きっと、なんとかなる。それよりも、アジトが使えなくなる理由が気になってきた。すごく嫌な予感はしているが、勝手に結論は出さないようにしよう。

「では、どうしてアジトが使えなくなるんだい? あそこは、私の家でもあるよな?」

「そ、そうなりますね。正確に言うと、あと一週間で使えなくなります」

「なんとなく想像がついているけど、説明してくれるかい?」

「はい。簡潔に言いますと、『怪盗20面相』や素晴らしい戦利品のせいで浮かれた私たちがどんちゃん騒ぎをしているのを、どこかの誰かが警察だけでなく大家さんにまで密告したみたいなんです。なんて意地悪な人なんでしょうね。どんちゃん騒ぎ以外にも、夜中のまるで大きな岩石が落ちてきたかのようなものすごい音の原因にもされたんですけど、それは必死で真剣に否定しておきました。少なくとも私と明智君は、荷物の中身が大事なので、慎重にそっと降ろしたので。最後に入ってきた誰かが勢いよくバックパックを落とした時の音だとは思ったんですけど、きちんととぼけておきましたよ。真に受けてくれたようで、疑いの眼差しを浴びせ続ける警察も大家さんも、大人しく帰ってくれました。『一週間以内に出ていってね』と感情のこもっていない捨て台詞を残して。それが、どんちゃん騒ぎが終盤に差し掛かっていた、ここへ来る少し前のことです。それから仮眠をとって、急いでリーダーに報告しに来たしだいです」

 仮眠をとらなかったなら、もっと早くに私に知らせることができただろ、なんて言ったところでだな。何も結果は変わらないし、おかげで私も安眠できたのだから、阿部君の利己主義に感謝しておくか。

 それよりも、阿部君は責任逃れのために、私にも非があるように言っているのが気になったぞ。確かに、私は近所の迷惑になるのを覚悟でバックパックを降ろしたというか落とした。確信犯だろと言われれば否定はできないが、不可抗力に限りなく近い。ただ、あれだけのものすごい音がしたら、逆に、どの部屋からしたのか分かりづらいのでは。大抵の人は、あれを震度2程度の地震があったと感じたはずだ。

 だけど、それがどうした? 誰が一番悪いのかを決めようと、責任のなすりつけ合いをして何になるというんだ。珍しく奇跡的に阿部君が反省しているじゃないか。

 明智君だって、今ごろ私に謝りたくて、ごはんも喉が通らないくらい……いや、阿部君が朝ごはんを用意してあげたと言ってたな。まあ、反省していてもお腹は減るさ。それでも食後の散歩がてら阿部君についてきて謝った方が、少しでも早く落ち着くだろうに。

 ああ、そうか。トラゾウが寂しがるから、一緒にいてあげているのだな。うん、そうだ。さすがにトラゾウは気楽に表を歩けないからな。

 はあー、これだけの事を考えて、やっと私も落ち着いてきた。阿部君パパママも見ていることだし、ここは海よりも広い心の持ち主の私の人間の大きさを見せてやろうじゃないか。

「まあ、あれだけの成果があったんだから、舞い上がって大騒ぎするのも仕方がないよ。むしろ、こんな時に大騒ぎしないで、いつするのって感じだね。それに、これからもたくさんの戦利品を持ち込めるように、もっと大きなアジトに引っ越ししたかったんだよ。これで踏ん切りがついたから、背中を押してくれた阿部君と明智君とトラゾウにお礼を言いたいくらいだね」

 フォローするだけではなく、正当化してあげたうえに、感謝までもしてあげた。さあ、阿部君と阿部君パパママ、私を褒め称えてもいいぞ。どんなに褒められても、照れもせず恥ずかしがりもせず、まっすぐ目を見て聞いてやるからな。

 うん? どうした? なぜ黙っているんだ? 素晴らしい褒め言葉を考えているのか?

 とりあえず漠然と「すてきー」とか言って、また別の一人が「かっこいいー」とか、私をご機嫌にさせる言葉を順々に言う間に、言い終わった人はすぐに別の高等な褒め言葉を考えればいいだろ。気をつけないといけないのは、次に言う人が困らないようにいきなり難しくしないで、徐々に言葉のレベルを上げていくんだぞ。まあ、でも、無理して理想を突き詰めようとしないで、気楽に褒めておくれ。

 ほら、まずは阿部君が褒め始めないと、阿部君パパママが続けられないじゃないか。トランプの七並べで言ったら、阿部君が6も8も止めている状態だぞ。と、なかなか秀逸な例えを考えている間に、いよいよ阿部君がハートの8を……じゃなくて、何か言いそうだな。

 よーし、さあ、来い。

「リーダー、ただ出ていくというわけにはいかないようなんです」

 あれ? 褒め言葉は? まあいい。まだ何か隠しているようだし。ああ、そうか。ワインをこぼして床を汚してしまい、敷金が返ってくるか心配してくれているのだな。仕方のないやつだなあ。

 本音を言えば、敷金を捨てるのは痛いが……痛いが……おもいっきり泣けば忘れられるかもしれない。

 よし、今は虚勢を張ろう。たかだか数万円でごねていたら、今まで築いた誉れ高いリーダーの栄光に傷がつくからな。

「気にするな。敷金とかなら、初めから期待していない。私たちが盗った現金からしたら、微々たるものだしな。返してもらわなくて結構だ。今までお世話になった大家に寄付してやろうじゃないか。ハハッ。それよりも新しいアジトをどこにするか考える方が前向きじゃないか」

「まあ、そうですけど……」

「もしかしたら、今回は現金の収穫がなかったって言うのか? 明智君の鼻をもってしても見つけられなかったということは、悪徳政治家は自宅に現金を置いてなかったのだろう。あれだけの大物だから、脱税したお金や賄賂で受け取ったお金は必ずしも現金で残しているとは限らないか。もしくは、別荘とかに隠しているかもしれないな」

「あっ、いえ、現金は見つけましたよ。だけど、その現金が入っている金庫がちょっと……」

「そうか。私レベルの怪盗でないと開けられない難攻不落の頑丈な金庫を前に、為す術もなく退却してしまったんだな? 私は外で悪徳政治家のSPたちを引き付けないといかなかったからな。うーん、まあ、これも一つの経験として、次からはもっと綿密に作戦を練ろうじゃないか。新しいアジトで」

「あっ、金庫は金庫でも、手提げ金庫だったのだ。トラゾウが咥えて車から降りたのに気づきませんでしたか?」

「そう言えば。なんだやるじゃないか。なのになんで、いつまでもそんなに神妙にしているんだ?」

「リーダーの言っていることも半分正しくて、手提げ金庫とはいえ難攻不落だったんです」

「そうなんだ。だけど、そんなの私にかかれば造作もないから、いつまでも落ち込んでるんじゃない。私が開けるところを見て学んでおくれ」

「そ、そうですね。開けられたらいいですけど……」

「うん? もしかしたら、こじ開けようとして鍵穴を壊してしまったのかい? そ、それは……でもそんな簡単に鍵穴が壊れるのか?」

「いえ、鍵穴はものすごく頑丈ですよ。鍵穴だけでなく、金庫そのものも。それでも、私と明智君は頑張ったんですよ。『怪盗20面相』や『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』の力を借りて」

 阿部君と明智君が頑張った? それも『怪盗20面相』と『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』の力を借りて? うーん、一応聞いてみるか。

「どんな風に頑張ったの? ネットで金庫の開け方を調べたとか? もしくは、信じてもいない神様に必死にお願いしたとか?」

「いえいえ、シンプルに頑張ったんです。部屋の片隅にサスマタと一緒に置いてあった金属バットで何回も殴打したり、天井や壁や床に向かって全力で叩きつけたり、熱湯を大量に掛けたりと。火炙りもしたかったけど、お札に燃え移ると意味がなくなるのでできませんでしたよ。私も明智君もほどほどで諦めたかったのに、トラゾウが一生懸命応援してくれるし全然疲れないから、どこかの誰かの通報で駆けつけてきた警察官が呼び鈴を押すまで無我夢中で頑張りました」

「うん。皆まで言わなくていいよ。とてもじゃないけど、はした敷金なんかでは雀の涙にすらならないということだね」

「さっすが、世界一のリーダー! 察しがいいですね。とりあえず頑張ったのは、私と明智君だけですけど安心してくださいね。金庫の中のお金はきちんと3等分するので」

 そうか。そういう約束だったな。結果も出せず方向も違ったが、頑張ったのは事実だろう。逆に私はさほど頑張らずに金庫を開けられると思う。頑張った量だけを単純にかんがえるなら、3等分を喜ぶべきなのだろう。イエーイ、ヤッホー! ……。いや、ひねくれていたらだめだな。全体を通して見れば、みんな同じくらい頑張ったじゃないか。

 部屋の修繕費は私が全額払うのだけれど、部屋をボロボロにした張本人たちときっちり3等分するのは、当たり前じゃないか。何度も言うが、みんなが頑張ったのだからな。うん、民主主義って素晴らしいじゃないか。ハハッ、はーあ……。

 だめだ。怒りが鎮まらない。考え方を変えよう。部屋がボロボロになったのは、金庫があったからだ。それでも、金庫がなかったことに比べれば全然いいことじゃないか。だって、修繕費を払っても、きっと手元に多額のお金は残るのだ。もし金庫が空っぽもしくは赤字になるような額しか入ってないなら……そんな後ろ向きな考えはしないぞ。

 私は前向き大怪盗だった。新しいアジトは、賃貸ではなく、おもいきって購入してやる。金庫の中には頭金になるくらいのお金があるはずだからな。ヒヒヒヒヒ。職業が怪盗でも、ローンを組めるのだろうか。

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