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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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阿部君パパママは諦めていなかった

 どうしても怪盗団に入れてくれとか言い出しそうだな。一度断られたくらいで諦められるようなものではなかったのだろう。私のような魅力的な人間がリーダーをしている怪盗団には、誰しもが入りたいと熱望するからな。

 だけど、それをいちいち受け入れていたら、我々怪盗団の団員は気づけば何十億人になってしまう。我々怪盗団は、よほど人間離れもしくは犬離れしているものでないと務まらないっていうのに。ファンの域から出ないでおくれ。

 よーし、一度だろうが二度だろうが、意地でもきっぱり断ってやる。それがお互いのためなのだ。それに、私が物で釣られるような安い人物だと勘違いされたくないからな。

 そんな崇高な私でも思わず躊躇ってしまうほど、『怪盗20面相』は確かに魅力的だ。それは認めよう。私は素直さんだからな。ただ、今ここで飲めなくても、阿部君のあの大きな風呂敷包みの中にたんまりとあるはず。

 なんとか必死に泣きながら鼻水も垂らしてお願いすれば、1本くらい譲って……いや、そもそも私には戦利品をもらう権利があるじゃないか。あの風呂敷包みの大きさからいって、30本は堅いだろう。ということは、私は15本も手に入る。違う。何気に明智君はワインが好きだった。それ以前に、強欲な明智君がこんな高価なワインの権利を辞退するわけがない。私の権利は少なく見積もって、10本だな。十分だ。

 ちょっと我慢すれば、アジトで浴びるほど飲める。ここは強気に出てやろう。

「あっ、でも、無理して私に分けないで、お二人でせっかくの希少なワインを楽しんでくださいね。別に怒ったりすねたりしているわけではないですよ。正直なところ、私はワインにそこまでのこだわりがないんです。それに、阿部君パパママが『怪盗20面相』を飲んで幸せになってくれるのが、私にとって一番の喜ばしいことなので」

「そうなんですね。なるほどなるほど。そういうことなら、私たちだけでチビチビと頂くことにしますね。もうこのワインは多分世の中にあと2本しかないというか、どこかの億万長者が隠し持っている可能性がないわけではないですけど、見つけるのは不可能に近いので」

「えっ! 2本しかない? そんなことないでしょ。阿部君のあの大きな風呂敷包みの中に、まだまだいっぱいあるのでは?」

「あー、あれは、訳の分からない美術品よ。フランスの美術館に返す絵が分からなかったから、手当り次第に盗って、ついでに高そうな骨董品も盗ってきたって言ってたわよ。まあ、ひまわりは、風呂敷の中にこの『怪盗20面相』も、まだきちんと紛れていると信じているでしょうね」

 あー、肝心なことを忘れていた。てっきり、悪徳政治家は絵なんて1枚しか飾ってないと思い込んでいたから、私はどんな絵か知らないじゃないか。白シカ組の組長も詳しく教えてくれればよかったのに。あの絵が強奪された当時は大きなニュースになっていたから、日本国中の人が知っていると、白シカ組の組長は思っているのかもしれないな。

 確かに記憶の奥底にある。うん、段々と思い出してきたような。だめだ。きらびやかに彩られた長方形の額縁しか思い出せない。もともと絵に興味がなかったし。おそらくだけど、その絵が難しすぎて、私にはただの子供の落書きに見えたのかもしれない。まあ、後で過去のニュースを見て確かめれば済むことか。

 それよりも辛い記憶が蘇ってきた。せっかく忘れていたのに。絵を守れなかったうえに事件を迷宮入りにしてしまった警察が避難されまくっている時は、本当に肩身が狭かったからな。『私は当事者ではありません』と書いたタスキを、年下の上司の巡査部長に作るように命じられたから、私が二人分を自腹で用意するほどに。だけど、それをいざつける段階になると、これは逆効果になると理解したのだ。それは、年下の上司の巡査部長よりも私の方が数秒早かった。花を持たせるために黙っていてあげたが。

 1000万円とトラゾウを手に入れたのは別として、あんな派手な事件を起こした白シカ組の組長に対して、今さらながら怒りがこみ上げてきた。こんなことなら、白シカ組の組長宅に落書きの一つでもしておけばよかったな。あっ、今からでも間に合うじゃないか。盗ってきた絵を確認してもらうために、組長宅に行こう。ついでに落書きだ。

 あー、それはできない。あの時に付けていたお面を失くしてしまったままだ。素顔で行って暴力団に顔を知られるのは嫌だけど、阿部君が買ってくれたトラの覆面は阿部君パパに譲ってしまったしな。どちらにしても、あのバカ組長のことだから、私だと信じないか。うーん……あっ、別に落書きさえすればいいのだから、白シカ組の組長に会う必要なんてなかった。

 よし、早速、明日、阿部君と明智君を伴って落書き大会……いやいや違う違う。組長に落書きどころではない。そんなことよりも、『怪盗20面相』じゃないか。阿部君のあの大きな風呂敷包みの中に、30本どころか1本もないなんて。それが本当なら、阿部君パパママのご機嫌をとらないと、私は一生『怪盗20面相』を飲めないかもしれない。

 寿命を全うしようとしている時に、私は後悔しないだろうか。するに決まっている。悔しさのあまり寿命が伸びる……なんてあるはずがない。ただただ心残りを抱えてあの世に旅立つだろう。

 しかし阿部君パパママを怪盗団に入れたくはない。私がどんなに頑張って奇想天外な作戦を立てても、阿部君パパママが受け持つミッションはことごとく失敗するだろう。奇想天外だからだろなんて言う奴がいたら……そういう細かい事は言わないでください。危うく、ぶっ飛ばすって言いそうになってしまった。危ない危ない。私が暴力を振るうのは、怪盗のミッション中に身を護る時だけだったな。

 どうも話が逸れてしまう。今はいかにして『怪盗20面相』を飲むかだ。力づく、もしくは、ひたすらお願いするのは……私のプライドが許さないな。どうせ、ひねくれ者の阿部君の両親に正攻法は通じないだろうし。何か方法はないだろうか。あるかもしれないが、ちっとも見当がつかない。

 この私をここまで考えさせるなんて、阿部君パパママもなかなかやるじゃないか。とりあえず知能は合格とするか。ぎりぎりだけどな。問題は、運動神経及び体力だ。こればかりは衰える一方だからな。だけど、『怪盗20面相』を飲むためには、阿部君パパママの希望をきくしかないような気がするし。

 何か妥協案はないのだろうか。何か、何かあるはず。初老のミーハー夫婦が怪盗団に加わっても、リスクが全く増えない方法が。

 閃いた! やはり私は天才だ。ただ、こちらから言うのは、まだやめておくか。もしかしたら、全く違うお願いの可能性だって、まだまだまだまだ残されているかもしれないのだ。それに、下手に出ると、妥協案すら反故にするような人物だしな。まずは、それとなく飲みたい旨をアピールしてみるか。

「あっ、なんか、でも、急に……今日はスーパーアスリート並に走り回ったからかなー。ちょっと、のどが渇いてきましたよ」

 ほらほら、阿部君ママのその手に持っているものは飲み物だぞ。

「あらっ。私ったら。気づかないでごめんなさいね。冷蔵庫でキンキンに冷えている天然水30パーセント入りの水道水を取ってくるわね」

 いやいやいや、そうじゃないだろ。分かってやってやがるな。取りに行くとか言って、『怪盗20面相』のラベルがよく見えるようにワインのボトルを私に見せているだけだ。

 これは遠回しにアピールしても、『怪盗20面相』にはたどり着けない。この私が折れてやろうじゃないか。一縷の望みはあるし、最悪でも私の考えた妥協案で納得させる自信があるからな。

「初めはそうでもなかったのに、そんなに見せられたら飲みたくなってきたじゃないですか。ハハハー。ちょっと味見させてもらってもいいですか?」

「まあリーダーがそこまで言うなら、ちょっとと言わず好きなだけ飲んでくださいね。娘がお世話になってるんだから、遠慮しないでください。あっ……娘だけじゃなくて、ついでに私たちもお世話になっちゃおうかなー。エヘヘー」

 やはり諦めてなかったな。駆け引きばかりしていても、時間を無駄にするだけだ。最後で最高の妥協案を提示してやる。それで納得してくれないなら、私の記憶から『怪盗20面相』を消すしかない。阿部君と明智君に殴打されれば消えてくれるだろう。その他の記憶や、私自身が何者かも忘れてしまうかもしれないが。

 阿部君と明智君のフォローをしながら、阿部君パパママに足を引っ張られたら、刑務所に入ることになるに決まっている。それに比べたら、記憶喪失の方がいくらかましな気がする。すべては、私の妥協案を阿部君パパママがのんでくれるかだ。

「分かりました。さっきも話した通り、今の阿部君パパママの実力では、阿部君と明智君の身を危険に晒してしまいます。なので、阿部君パパママは私とだけ組んで、今の怪盗団とは別の3人組の怪盗団を作りましょう。言うなれば、阿部君と明智君が一軍で、阿部君パパママは二軍という形です。そして経験を積み、一軍でも十分にやっていける能力が備われば、晴れて一軍入りしてください。どうですか?」

「ええー! リーダーって一番のお荷物……いえ、頑張ります。結果を出せばいいんですよね?」

「そうですね。でも、結果を追い求めるあまり、判断を見誤らないでください。一番優先すべき事は、無事に帰ってくることなので。場合によっては、標的が目の前にあっても、撤退する勇気が必要です。もしくは、盗れたとしても逃げる時に足かせになるようなら、迷わず捨てないといけません。いいですね?」

「はい、リーダー!」「は、はい、リーダー」

 うん? 阿部君パパはそこまでじゃないのだろうか。まあいいか。その方が飽きてくれるかもしれないからな。

「あっ、それと、一軍に入るまでは、この事を阿部君には悟られないようにしてくださいね。心配させるだけなので。特に、今日みたいに一軍に帯同する時は、運転手と道案内に徹してください」

「はい、リーダー!」「はあ、リーダー」

 阿部君パパは『怪盗20面相』を見つめている。早く飲みたくて、阿部君ママと私の会話に集中していなかっただけなのかもしれないな。阿部君パパの真意なんてどうでもいいか。私さえしっかりしていれば、そうそう大失敗はないだろう。それよりも今は『怪盗20面相』だ。待たせたな、阿部君パパ。

「それでは、細かい取り決めは徐々にやるとして、結成記念に『怪盗20面相』でお祝いをしましょう」

「はい、リーダー!」「はい、リーダー!」

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