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リーダーにも、作戦を教えておくれ

 気がついたら、真夜中でも目立つ派手なコスチュームに身を包んだレッドとイエロー、そして機能性重視の暗がりでは青とは見分けづらい地味な服を着た私の、2人と1頭は白イノシシ会の組長宅の裏の塀の前に立っていた。

 警察官だった私は、ここが組長宅というのは知っていたが、それ以上の情報がないので不安しかない。ここまではリーダーのプライドを捨てて……じゃなくて、私の広い心で阿部君の言う通りに行動していた。しかしこのまま阿部君を信じてついて行っても問題ないのだろうか。

 今からでもリーダーの威厳を示さないと、とんでもないことになりそうな気がしてきたぞ。阿部君も明智君も、本心では私に引っ張ってもらいたいはずだ。

「阿部君、いや、レッド、そろそろ本日の作戦を教えてくれないか?」

 私は仁王立ちで胸を張り、リーダーらしく圧をかけながら、猫なで声で聞いてやった。すると阿部君は私の問いに答えず、明智君に意味ありげに目配せをしている。

 私と明智君なら、アイコンタクトであらゆる意思疎通をできる可能性が……。だけど、何を血迷ったのか、阿部君になんてできるわけがないじゃないか。まして、阿部君と明智君の二人とも、赤と黄色で色は違うが形はおそろいのライオンのような覆面をしていて、表情がほとんど読み取れないのに。

 ここで初めて、なんでライオンの覆面なんだという疑問が湧いた。百獣の王だからということにして、あまり考えないようにするか。だけど、明智君は犬なんだから、顔が出ていても問題ないだろ。と思ってすぐに、私は二人とは全く違う有名なロボットアニメのバッタモンのようなお面を付けさせられていることに、今ごろになって疎外感で悲しくなってきた。

 それに、そのライオンの覆面はプロレスラーが試合時に被るものに似ているので、目と口が出ていて視界は良さそうだし息苦しくもなさそうだ。比べて私のは、本当に夜店で売られているようなお面なのだ。ロボットの目と口にあたる部分が網目状に小さな穴が10数個開いているだけで、周囲を完全に把握するのは難しいし、万が一の時に体力の消耗が激しそうだ。

 と、考え巡らせていると、いつの間にか明智君がつぶらな瞳を潤ませ、私の目の前、いや、完全に私に鼻っ面を押し付けてきた。

 いざこれからが本番だと思って緊張してきたら、やはり頼れるのは私しかいないと確信したのだろう。それはそうだ。失敗すれば、命を落としかねないのだ。なのに、昨日今日会ったばかりの、どこの馬の骨とも知れない、全く信頼に値しない、単なる足手まといにしかならない阿部君のそばにいるのは、リスクしかない。

 私と一緒にいたいと思うのは、当然だろう。明智君は素直になったのだな。

 バカな子ほどかわいいとはよく言ったもので、なかなかかわいい明智君じゃないか。今まで何度も明智君の裏切り行為があったことなんて、水に流そう。

 よく見ると、明智君は私に何か言いたそうにしているな。だけど全く読めないので、とりあえず頭でも優しく撫でてあげるとするか。それだけで安心するだろう。

 そう決めつけて、私が右手を動かすか動かさないかで、明智君はよほど私を信頼しているのか、とてつもない力で押してきた。こんな自分の力を加減できないほどバカなところも、愛おしく感じる。思わず明智君を抱きしめたくなってしまった。

 そんな私が、両手を動かすか動かさないかで、明智君は私に対する愛情を抑えきれなくなったのか、悪魔が乗り移ったかのような極大な力を入れてきた。さすがの私でも踏ん張りきれず、組長宅の塀に背中を付けるまで後退するほどの。

 ここまでされると、バカ犬に説教じゃなくて注意じゃなくて、やっていい事だめな事を分かりやすく説明してあげないといけないのだろう。少々痛みを伴わせるかもしれないが。

 私が握りこぶしを作るか作らないかで、明智君は電池が切れたかのように、力を入れるのを止めて石のように固まった。明智君は一体何をしたいのだろうか。まさか遊びに来ていると思っているのか? うーん、明智君ならあるえるか。

 そう言えば、昨日、プロレス番組を熱心に観ていたな。そして今日、プロレスラーのような覆面を被せられて、プロレスごっこでもしたくなったのだな。

 しょうがないやつだなあ。少しだけ付き合ってやるか。そう思って、塀が壊れない程度にバックドロップで明智君を塀に叩きつけようとしたその時、私の頭から一時的にすっかり消えていた見習い怪盗が、存在をアピールしてきた。意味不明な事を声高らかに発して。

「ブルー、そこから塀をよじ登って、組長宅に侵入してください」

 待ってましたとばかりに阿部君が口を開くと、明智君も瞳は潤んでいるが無言で同調するかのように、私を諭すように2回頷いた。まさかとは思うが、共犯なのか? いやいや、明智君に限って……。

 とりあえず明智君は置いとくとしても、私は意味が分からない。理解したくないと言ってもいいだろう。確かに、この塀の向こう側は、静寂を絵に描いたような静けさを維持している。忍び込んだとしても、周囲には誰もいないのだろう。だけど、それ以前に塀は優に3メートルはあるし、その上部には獲物を欲しているような有刺鉄線を使った高さが1メートルほどの鉄条網が張り巡らされているのだ。

 梯子のようなものが何一つない……いや、あったとしてもだな。ここを乗り越えるためにどんなに注意深く頑張ったところで、私は傷だらけになるだろう。阿部君には、この塀は人を立ち入らせないために万全を期しているのが、分からないのだろうか。

 それとも、私が空を飛べると、本気で信じているのか。そう思わせる超人的な私も悪いのかもしれないが、今はまだ無理だ。

 しかし塀から離れたくても、バカ犬が鉄壁のガードをしていて、動くことすらできない。バカ犬……じゃなくて、明智君だったな。そんな明智君をよく見てみると、潤んだ瞳はまだそのままだけど、なんだか笑うのを堪えているようだ。もしかしたら楽しんでいるんじゃないのか。

 ということは、この潤んだ瞳は、演技かもしれない。いつの間に、そんな芸当を覚えたのだろう。明智君なりに、立派な怪盗になるための訓練をしていたようだな。うーん、感心感心。

 ……。いや、違う違う。

 ここは冷静に説得を試みてみるか。話せば分かるはずだ。私たちは絆で結ばれているのだから。明智君とは5年弱で阿部君とは2、3日だけど、時間は関係ない。大事なのは……とりあえず説得してから答えを探そう。

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