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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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阿部君パパママの罠に落ちたのだろうか

 運転に集中したいので、話しかけないでくださいと、私は念を押してから発車した。本当はペラペラ喋りながらでも、完璧な安全運転はできるが。警察官時代は、年下の上司の巡査部長とパトカーでドライブ……じゃなくて、巡回中は、黙ったことがないくらいだからな。

 車中での阿部君パパママとの会話を拒絶したのは、分け前に関する話が出ないようにするためだ。言うまでもなかったか。私との記念写真という保険を残しつつ、できればガソリン代だけ、あわよくばボランティアで終わることを期待しよう。別に記念写真を撮るのが嫌とか言ってるのではないぞ。阿部君パパママが生粋のひねくれ者なら、私との記念写真の価値が分からない可能性があるからだ。

「はい、着きましたよ。今日は、手伝っていただいて、ありがとうございました。この御礼は、また後ほど。それでは、おやすみなさい」

 私は、目も合わせず一方的に話すと、速攻で帰路についた。何を言われても振り返るつもりなんてない。私は意志が強いからな。なのに、阿部君ママの言葉で立ち止まり、そして振り返り、対応してしまった。

「ちょっと、リーダー? まさかそんな顔で歩いて帰るつもりじゃないわよね? ほとんど人通りがないかもしれないけど、万一誰かに見られたら、この辺りで変な噂が立って警察の巡回強化地域に指定されてしまうじゃない。ひまわりに怒られるわよ」

 そう言えば、私の顔はトラ柄のままだった。このまま歩いていたら、警察に捕まるか、酔っぱらいに石をぶつけられるか、お化けに逆ギレされるかもしれない。

「ああー、忘れてました。洗面所だけ貸していただけますか?」

「洗面所と言わず、お風呂も入ってさっぱりしてから、頑張ったリーダーはお腹も空いていると思うので、ちょっと早い朝ごはんでも食べていってくださいね」

 うーん、どうしようか。せっかくの申し出を断るのは失礼だとは思う。だけど、後で阿部君に図々しいとか言われ罵倒されたうえに、法外な朝食代を請求されないだろうか。

 私が考えあぐねていると、阿部君ママが畳み掛けてきた。

「今日のリーダーの大活躍の話をどうしても聞きたいので、遠慮せず是非お願いします。ねえ、パパ?」

「そうですそうです。大活躍の話を聞きたいのもありますけど、ひまわりがいつも足を引っ張って迷惑を掛けてると思うので、その罪滅ぼしもさせてくださいよ」

 おおー。さすが親だけあって、阿部君が私に多大なる負担を強いていることを見なくとも分かるのだな。そういうことなら、形だけでも一応謹んで受けようじゃないか。きちんと盛大にもてなすのだぞ。

「そうですね。あんまり遠慮するのも失礼かと思うので、お言葉に甘えさせてもらいますね。でも、本当に気を使わないでくださいね」

 シャワーだけを浴びてすぐにお風呂から出ても、心のこもった豪華な料理がまだまだ未完成だと思い、私は阿部君パパママのためだけを考え、時間を潰すことにした。湯船にお湯を張りお風呂に行く途中で目に入った高そうな入浴剤を入れて、にわか温泉を楽しみ疲れを取ることに専念しよう。念を押しておくが、阿部君パパママに気を使わせないためだからな。

 十分にお風呂を満喫してから出ると、新品の下着と阿部君パパのお古のパジャマが用意されていた。ほとんど文句を言わずそれに身を包む。文句の内容は察しておくれ。

 それから、ダイニングではなく、阿部君パパママの二人の話し声がするリビングらしき部屋に入っていった。なんと、阿部君パパママは『怪盗20面相』を飲んでいる。私は嵌められたのだろうか。

 いや、大丈夫だ。見たところ、『怪盗20面相』はほとんど残っていないが、車の中で3分の2ほど飲んでいるので今ここで3分の1を飲んだに過ぎない。そもそも悪酔いするような酒ではないので、限りなくシラフに近いはず。阿部君ファミリーの場合は悪酔い云々ではないだろうけど、例え絡んできても短時間で終わるだろう。

 ただ、それ以上に気になることがあった。用意してあるはずの豪華な料理が見当たらないし、美味しそうな匂いがどこからも漂ってこないのだ。私から料理の話に触れるのは失礼だろうか。催促しているみたいだもんな。とてつもなく私にお世話になっている阿部君の親だからって、控えめな私にはどうせできないが。あー、阿部君や明智君のような厚かましい人になりたいー。

 私が戸惑い立ち尽くしていると、私が入ってきてすぐに気づいただろうに、やっと気づいたふりをして阿部君ママが話しかけてくれた。私にではなく、阿部君パパに対してだけど。

「パパ、リーダーがやっと来たから、冷蔵庫に冷やしてある『怪盗20面相』を取ってくるわね」

「ありがとう、ママ。はい、リーダーはここに座って。何かワインのアテを取ってくるので待っていてください」

 え? ワインのアテとか言ったぞ。ということは、飲むことしか考えてないじゃないか。豪華な料理は、私をおびき寄せるための罠だったのか。いや、よく考えたら、豪華な料理とは誰も言ってないかもしれない。私の妄想というか願望というか……早とちり? 控えめな私にしては珍しい失敗だな。うんうん。でも、豪華ではないにしても、朝ごはんと言ってたぞ。まあ、ワインとアテが朝ごはんでも何もおかしくないか。なにせ『怪盗20面相』なんだから。

「ええー! 『怪盗20面相』があるんですか?」

「あるわよ。あと2本だけ」

 なんとなく騙された感はあるが、『怪盗20面相』を飲めるのなら許してやるか。あと、阿部君パパママからの激しいダメ出し及び愚痴も、我慢してやる。いや、我慢なんてしなくてもいいかもしれない。どんな罵詈雑言を浴びようが、『怪盗20面相』が小鳥のさえずりに変えてくれるはずだからな。

 しかし、『怪盗20面相』ほどの幻のワインを、阿部君から3本も奪うなんてなかなかやるじゃないか。我々怪盗団がいない間の犯行なのは確実だろう。だけど、どんなに頑張っても1本が限度だ。2本も3本もとなると、気づかれる恐れがある。まして、強欲な娘の性格を知り尽くしているのだから、並の心臓の持ち主なら自重するだろう。

 あの阿部君が、1本でも目ざとく気づくかもしれないのに、2本3本減っていて気づかないはずがないのだ。それとも、2、3本減ったくらいでは気づかないほど大量に盗ってきたのだろうか。

 阿部君が車から降りる時に背負っていた大きな風呂敷の中身は、フランスの美術館に返す絵以外は、『怪盗20面相』で占められていたのかもしれない。十分にありえるぞ。あの悪徳政治家だったら、様々なコネや脅したりで、幻とはいえ『怪盗20面相』をたくさん所有していた可能性は高いからな。

 私の自慢の脳細胞が、そのように結論を導いたところでちょうど、阿部君パパママが同時に戻ってきた。何か企んでいるような顔をしている。気のせいかもしれないが。

「リーダーは『怪盗20面相』を飲んだことがありますよね? 私は初めて飲んだけど、美味しすぎて感動しましたよ。ねえ、パパ?」

 阿部君パパは目をつぶり深く2回頷くだけだ。下手に言葉で表されるよりも、美味しさが伝わってくる。こいつは本当に俳優を生業にしているかもしれないな。どうでもいいことだけど。

「あっ、いえ、私もたまたま機会に恵まれなくて、飲んだことがないんですよ」

「そうなんですか? ああ、そうですよね。30年前に突如現れて世界中のワイン愛好家の人たちの舌を唸らせたと思ったら、わずか1シーズンしか生産しないで終わった幻のワインですものね。あの頃は私たちも未成年でまだ飲めない歳でしたけど、あれだけ話題になっていたから、名前は知ってましたよ」

「私も名前だけは。こうやって目にできるとは、夢にも思ってなかったですけどね」

 ごちゃごちゃくっちゃべってないで、早く私にも飲ませてくれ。話はそれからでいいじゃないか。お願いだー。

「飲みたいですか?」

 当たり前だろ。これ以上もったいつけるなら、後で明智君に八つ当たりするぞ。

「そ、そうですね。できれば。どんなものか味わってみたくもないというか、まあ話の種になるかもと」

「うーん、どうしようかなー。ねえ、パパ?」

 いつまでもったいぶるつもりなんだ。さっさと飲ませろと言いたいところだけど……やはり何か企んでいたようだな。

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