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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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明智君の戦利品

 飛んできた火の粉を、ひとまず追い払えたようだ。だけど、このままにはしておけない。運転手が必要になった時に頼みづらいからな。それに、現時点で必要ないというか役に立たないというだけで、この先状況が変わり奇跡的に阿部君パパママが必要にならないとは言えないだろう。

 なので、フォローをしておくか。それも、リーダーの大事な仕事だからな。

「無理ですと言いましたが、今のところはですよ。私がお見受けしたところ、お二人は精神的にも肉体的にも、私のような怪盗の水準に達していません。私たちは何事もなかったように装ってますが、怪盗のミッションにはあらゆる危険があります。今日の私がそうであったように、ほんのちょっとした失敗や勘違いで、命を落としそうになることもあるでしょう。だけど、決して諦めない不屈の精神を持っていたので、助かる道が開けたのです。不屈の精神とは、常人を遥かに超越した無敵の肉体があって、初めて身につくものなんです」

 やばい。かっこよすぎる。ここにいる全員の羨望の眼差しが眩しすぎるぞ。

 明智君ですら……うん、しばらくそっとしておいてあげよう。ワインを飲んで酔っ払った阿部君によって、正座させられて説教された事がよほど堪えているのだ。この車の中に上品なワインの香りが漂っているかぎり、明智君はぬいぐるみを貫き通す覚悟だな。

「そうなんですね。わがまま言って、ごめんなさいね」

 おおー、分かってくれたようだ。さすが、私。それに、心なしか、阿部君パパママの酔いが覚めている。やはり上品なワインだけあって、酒癖の悪い阿部君パパママでも、そこまでの悪酔いはしないのだろう。

 あー、私も飲みたいー。阿部君は『怪盗20面相』を何本盗ってきたのだろうか。だけど、阿部君と一緒には飲みたくないな。いくら上品なワインとはいえ、阿部君パパママのように本性を現すに決まっているから。

 フランス産ワインの『アルセーヌ・ヌーボー』を飲んだ時に比べたら、短時間で済むかもしれない。それでも辛いのにはかわらない。何より、明智君がかわいそうだ。もし本数に余裕があるなら、阿部君の言い値で1本譲ってもらうか。そして、阿部君が確実にアジトに寄り付かないであろう日に、厳重に戸締まりをしてから、明智君と一緒にゆっくりしみじみ飲もう。

 とりあえず、阿部君ママをもう少しフォローしよう。ついでに流れるように頼み事をしてみるか。断られたら、あからさまにいじけてやる。耐えきれなくなって、嫌々ながら聞き入れてくれるだろう。だけど、気持ちよく承諾しておくれ、阿部君ママ。

「でも、阿部君パパママは、私と同じでまだまだ若いじゃないですか。ちょっと努力すれば、簡単に肉体改造ができますよ。その時に晴れて一緒に作戦に臨みましょう。それまでは、怪盗活動にはなくてはならない、運転手と道案内だけをお願いできますか?」

「はい、頑張ります」

 さすが言葉の魔術師の面も持っている私だ。これで現場までの足を確保できたのだから、何気に作戦の幅が広がったぞ。アジトからの徒歩圏内だけでは標的に限界があるからな。

 それにしても、なんて純粋でキラキラした目をしているんだ。明智君も初めは、こんな目をしていたのに。お金に目がくらんだばっかりに薄汚れてしまって、すっかり阿部君と同じ目になってしまったなあ。

 怪盗活動の一環に座学も取り入れるべきかもしれない。『怪盗の心得』とか『リーダーは絶対論』なんかを根気よく教えるか。模範となる怪盗団に近づくことだろう。

 話がまとまったところで、ちょうど我が家兼アジトに着いた。明智君がはかったかのようにぬいぐるみから復活して、そそくさと後部座席へ移動する。トラゾウは気持ちよく眠っている。たくさんの事があったから、疲れているのだろう。猫はよく眠るらしいし。

 トラゾウは、このまま寝かせておいて、阿部君パパママを家まで送ってから、一緒に歩くかおんぶしてあげてアジトまで帰ってくるか。と、優しい私が決断してすぐに、人でなしの阿部君がトラゾウを起こしてしまった。暗い夜道とはいえ、トラが表をぶらぶら歩いていると不都合が生じるかもしれないので、まあいいだろう。

 そして、阿部君までもここで降りるようだ。阿部君パパママは酔いが覚めているので、一緒に帰っても説教の続きは始まらないと思われるのだけれど。そういえば、阿部君パパママが開けてしまった『怪盗20面相』がまだいくらか残っているか。阿部君パパママは、いろいろな感情を抑えるためにアルコールに逃げるのが、娘の阿部君なら痛いほどに理解しているのだろう。ということは、私は阿部君パパママを降ろすとすぐに、サヨナラを言って退避しないといけないな。

 そう言えば、阿部君がアジトに寄る理由は他にもあった。阿部君自身が本日の収穫を肴にワインを……いや、それは明智君が全力で阻止するはずだな。明智君、頑張っておくれよ。トラゾウにも協力させれば、阿部君からワインを遠ざけるなんて、なんとなく大変なレベルだ。簡単に言えば、ぎりぎり明智君トラゾウが勝つのだ。

 私? 私は阿部君パパママを送っていかないといけないから、明智君とトラゾウに協力してやれない。残念だな。私がアジトに戻ってきた頃には、話しがまとまっているだろう。

 かわいそうな気が雀の涙ほどはなくもないが、阿部君は今日に関してはワインにありつけない。うん、今日は炭酸ジュースで乾杯が確定だな。だけど、阿部君の思惑は別として、アジトに寄ってくれるのは、私にとっても良いことだ。戦利品や現金をすぐにでも山分けしたいからな。

 それにしても、阿部君も明智君もなかなか降りないな。まさか阿部君パパママが居直って、阿部君と明智君を人質にしたのだろうか。いや、酔いは覚めているのだから、そんな無鉄砲になるわけがない。ないとは信じているが、阿部君と明智君が何をしているのかくらいは確認するか。

 恐る恐る後部座席を見ると、阿部君パパママの二人に加えた阿部君の3人で、明智君を羽交い締めにしていた。なんて酷い一家なんだと思い、明智君を助けに行こうか躊躇しつつ、私は目を凝らす。しかし、薄暗い車内ではいまいち状況を掴めない。明るくなるまで待つかと決断してすぐに、視覚を聴覚が補ってくれた。

「明智君、本当に大丈夫?」

「ワ、ワンッ!」

 どうやら、阿部君一家3人がかりで、明智君に何かを背負わさせようとしているようだ。決して無理やりではなく、明智君の意思で。

 ああー、あれは、明智君のリュックサックだ。あまりに膨張して形が変わっているが、きっとそうだ。あそこまで何かを詰め込まれても壊れないリュックサックも、何気に只者ではないな。リュックサックなのだから、素材は伸縮性ではないだろうに。

 リュックサックに感心している場合ではなかった。あの中には一体何が入っているのだろうか。明智君が100パーセント自らの意思で持とうとしているということは、すごく価値のあるものだ。いや、価値とかよりも、そのものかもしれない。そう、札束だ。あれが全部札束だったなら、天文学的数字とは言い過ぎだけど、何億円になるぞ。お、おいおい。今日、私は億万長者になるのか?

「だからそんなに『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』を詰め込んだら大変だよって、言ったでしょ」

 なるほど。あれに関しては山分けはないな。私が飲みたければ、明智君から買うしかない。それも定価で。少しでも割り引いてもらうために、私も手伝おうか。いや、それくらいでは、割り引いてくれるはずがないな。気持ちよく明智君から買うためにも、眺めるのに徹しよう。

 車から降りるまでは、阿部君一家に手伝ってもらったが、そこからは明智君一人でアジトまで行くようだ。躊躇することなく一歩を踏み出した。と同時に全身に汗が吹き出すが、よろめきながらも大地を踏みしめるようにゆっくり前進する。

 でも、明智君の3倍の大きさになるまでパンパンに膨れたリュックサックを背負って、悪徳政治家から誰にも気づかれずにどうやって脱出したのだろうか。あんなに目立つのだから、大きな門のそばで何もせず漏らしていただけの悪徳政治家仲間たちの目に入らないはずがない。それに、あれだけよろよろしていたら、そんな根性なしの老いぼれでも、簡単に捕まえられるはずだ。

 事なかれ主義を存分に発揮して、見て見ぬ振りをしてくれたのだろうか。いや、違う。答えはいたって簡単だ。明智君は何度も往復したのだ。あんなに重いものを背負って、悪徳政治家の屋敷内から阿部君パパの車までの距離を歩くのは、明智君をもってしても厳しいからな。できなくもないだろうけど、時間的には、何度も往復の方が早い。

 明智君が一人で行ったり来たりしている間、阿部君は何をしていたのだろうか。うたた寝だろうか。それとも、私とSPたちの争いを、高みの見物していたのだろうか。趣味が悪いぞ、阿部君。と言いたいところだけど、明智君に負けず劣らずの強欲な阿部君が、お宝を前にして時間を無駄にするわけがない。

 阿部君も、明智君と同じように、何度も往復していろいろな物を運び出していたのだ。明智君に気を使って、『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』以外の価値あるものを。

 二人が強欲に走ったばっかりに、あんなに時間を要してしまった。だから、私は命の危機に。フランスの美術館に返す絵と気持ちばかりの現金だけで我慢できる阿部君と明智君でないことを、知っていたはずの私の自業自得かもしれないが。

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