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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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天国か地獄か

「あれは、お月さんだぞ。知らないのか? それとも、一匹狼とか言ってたくらいだから、オオカミにでも変身して、ワシらをやっつけるってか? ハハハーヒヒー」

 ふんっ。悪徳政治家の割に、なかなか面白い冗談を言うじゃないか。たまたま、私が指差した先にお月さんがあったから、この程度の冗談で済んだのだろう。もし何もなかったなら、コンプライアンスに引っかかるような悪口を、こいつら全員から矢継ぎ早に浴びせられたのかもしれない。死にゆく前に、それは辛すぎるだろ。

 お月さまに感謝して、生まれ変わったら、怪盗オオカミ男になってやろうかな。いや、だめだ。普通の人間にしておこう。悪いな、お月さま。私にも事情があるんだ。

 私が天国生活を十分に満喫した後で生まれ変わる頃には、明智君も少し遅れて生まれ変わっていることだろう。ということは、私は再度明智君を飼うことになる。なのに、私がオオカミ男で満月のたびにオオカミになっていたら、気軽に明智君と散歩できなくなってしまう。

 明智君のことだから、オオカミに変身した私を敵とみなしたふりをするだろう。殴る蹴るかじるの暴行をここぞとばかりにするのが目に見えるのだ。

 そして私が人間に戻ったら、「どうしたの、そのケガは?」と、わざとらしく聞いてくるまでが、お決まりのパターンとなってしまう。私だから、それでも見捨てるなんてしない。ただ、明智君のようなわがままで強欲な犬と一緒に生活していても平気な人間は、残念ながら多くはない。

 明智君、私がこの世に不在の間は、犬だろうが猫を被って新しい飼い主のもとで、模範的な飼い犬を演じるんだぞ。明智君が我慢できそうなら、阿部君の家に居座るのもありかもしれない。法外な家賃を取られ、晩酌時は理不尽な説教の対象になるのを耐えればすむことだ。

 どうせ阿部君は、新団員として自分の両親を加えるだろうから、明智君も阿部家にいた方が集まるのも容易だ。それで思いついた時に作戦会議なり活動そのものをやりやすくなる。居候の身なので、取り分は新米の阿部君パパママと同じに設定され、阿部君7、阿部君パパママ明智君がそれぞれ1なのは確実だな。世の中そういう風にできていると、明智君なら既に知っているので問題はない。

 さようなら、明智君。

 そして、短い間だったけど、一緒に暮らせて楽しかったぞ、トラゾウ。

 ついでに、阿部君にもお礼を言わないと。……何か言う事があったかな。全く思い出せない。これは、まいった。お世辞でも作り話でもなんでもいいから何かお礼を言わないと、阿部君のことだから想像もつかな暴挙に出るに決まっている。

 仕方がない。阿部君に何をされてもいいように、天国に行ったら体力と精神力を鍛えよう。天国がまるで地獄のように感じるほどのトレーニングが必要だな。

 あっ、お礼の一つも言えなくて申し訳ないが、明智君とトラゾウの事は頼んだぞ、阿部君。

「バンッ!」

 とうとう撃ちやがった。でも、極限を超えた疲労困憊のせいか、痛みを全く感じない。もしくは即死だったのだろう。それとも、私に命中しなかったのだろうか。いや、でも、意識は朦朧としてきてる。

 これで、本当にさよならのようだ。……。

「と、トラが出たー」「こっちのトラは、頭はトラだけど胴体は小さなライオンみたいだぞー」「ひぃー、助けてくれー」「警察を呼んでくれー」「バカヤロー、警察なんて呼ぶんじゃないぞ」「誰かを生贄にして、その隙に逃げろー」

 はあー。天国は穏やかで静かな所だと想像していたのに、地上よりも賑やかだな。まあ賑やかな所は嫌いじゃないから、十分にやっていけるだろう。一つ誤算があるとしたなら、天国に来ても、体中がだるいし目を開ける元気すらも回復していないことか。

 そういうものなのか? まあいい。少しばかり眠れば、なんとでもなるだろう。その後で、ゆっくり天国を散策してみるか。これからは嫌というほど時間はたっぷりあるのだから。

「リーダー? リーダー! リィーダァー!」

 痛い痛い。私の頭を遠慮なくバンバン叩くのは、誰だ? まるで阿部君みたいじゃないか。まさか天国にも阿部君のような非情な人がいるというのか。なんか想像と全然違うな。このままじっとしていたら、何をされるか分かったものではないぞ。

 私の目よ、開けー。やったぞ。こんな力がまだ残っていたんだな。私を叩いている天国に紛れたやつの顔を確認してやるか。

 ん? こ、これは……『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』で視界が塞がれている。私の手よ、動けー。

 あれ? 蓋が開いている。でも中身はぎっしり詰まっている。迷っている場合ではない。これが誰かに毒か何かと入れ替えられていたとしても、飲むしかない。飲まないなら、ここが天国であろうと、私は死んでしまうような気がする。

 私は飲んだ。それも一気に。

 おおー。みるみるうちに体力が回復してきているのが実感できる。これは、この『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』のおかげなのだろう。それとも、たまたまちょっとした手違いがあって、時間差でやっと天国らしさを発揮してくれて回復したのかもしれない。

 はっきりさせないとな。とりあえず、ここが本当に天国なのか、あの賑やかな人たちに聞きにいくか。いや、待てよ。何らかの不幸な行き違いがあって、この私が間違って地獄に来てしまったのなら、あいつらは地獄の鬼かもしれないな。でも、なんとなく見覚えがあるような気がするし。

 うーん、どうしようか。元気にはなったが、当初の予定通りに、ひと眠りしてから行動に移そうかな。

「リーダー?」

 誰かが私を呼んでいる。なぜ私が『リーダー』だと分かったんだ。そんなに『リーダー』のオーラが出ているのだろうか。出ているのだろう。

 すぐにでも返事をしてあげないとかわいそうだな。私のファンだろうし。いや、待てよ。どこかのおとぎ話で、返事をしたら瓢箪の中に吸い込まれて閉じ込められるのがあったな。もしここが地獄だったなら、そういう輩がいても、何の不思議もない。

 私は何を迷っているんだ。体力が完全に戻っている私に、できない事なんてないじゃないか。何も恐れる必要はない。でも、一応、小声で返事しよう。

「リーダー、大丈夫ですか?」

 せっかちなやつだな。今、返事してやるよ。

「だいじょ……ええー! あ、阿部君じゃないか」

 ここは、天国か、もしくは地獄だぞ。そして阿部君がいるということは、残念ながら地獄だな。

 それよりも、阿部君までもが、悪徳政治家の毒牙にかかったっていうのか? じゃあ、誰が明智君とトラゾウの面倒をみてやるというんだ? いや、もしかすると、明智君とトラゾウまでも。

 許さんぞ、悪徳政治家。何がなんでも今すぐ地上に戻って、お前たちに制裁を加えてやるからな。

「リーダー、何をぶつぶつ言ってるんですか? 気持ち悪いですよ。じゃなくて、もう大丈夫そうですね。元気になりました? あと、ミッション中は、私は『レッド』ですよ」

「ミッション中? 大丈夫か、阿部君? 阿部君は悪徳政治家に殺されて、じご……天国に来てしまったんだぞ。辛い気持ちは分かるが、現実を受け止めないといけないよ」

「ああー、リーダー! かわいそうに。とうとう本当に頭がおかしくなったんですね? もしかしたら私がさっき調子に乗ってフルパワーでリーダーの頭を何回も叩いたせいですか? どうしようかな? 同じ衝撃を加えれば元通りになるって、ドラマの中のお医者さんが言ってたような。リーダー、治してあげますからね」

「痛い痛い痛ーい!」

 やっぱりここは地獄確定だな。しょうがない諦めよう。地獄なら地獄なりに振る舞えばいいだけだ。私は自他ともに認める臨機応変人間だからな。おそらくだけど、二代目閻魔様は私だ。

「リーダー、治りました?」

 えっとー、『レッド』と呼べばいいのだな。

「ありがとう、レッド。私はもう大丈夫だ。だから、もう帰ってもいいぞ。私は、ちょっと閻魔様に挨拶を……」

「……。分かりましたー。それじゃ先にアジトに戻りますね。たくさん盗ったから、分け前を楽しみにしておいてくださいね。治療代には十分だと……」

「ああ」

 阿部君は死んでもまだミッション中だと思っているのだな。それはそれで幸せなのかもしれない。私が正式に閻魔様に就任したあかつきには、怪盗部を作って、阿部君を部長にしてあげるからな。

「ああー、どうしよう」

「どうした、あ……レッド?」

「パトカーが来ちゃいました。屋敷の方まで後退して隠れましょう。ブルー、おいで。イエローは目立たないように偵察をお願い」

 引きづられるように屋敷の方まで行きじっとしていると、トラゾウのようなトラが私の足元までやって来た。この屋敷は見覚えがある。それに、ちょっと離れた所に記憶に新しいへっぽこ警備員が、まだ気持ちよさそうに気絶している。案外こういう奴が長生きするんだろう。

 うん? あれ? もしかすると、私は死んでいないんじゃないか。よく考えたら、生命力の塊の阿部君が簡単に死ぬわけがない。閻魔様だって、阿部君なんかには会いたくないだろうし。あっ、そもそも、閻魔様って地獄の人だったかな? そんなことどうでもいいか。もう私には縁のないことだ。

「レッド、確認だが、私は生きてるよな?」

「あれー、また頭がおかしくなったのかな? よし、もう一度。それー」

「やめろー! 私は、まともだ。そして元気だ。いやっほー」

「リーダー、静かに。おとなしくしないと……」

 私は瞬時に石となった。でも状況は飲み込めていない。私は撃たれたはずなのに。これはどういうことなんだ? あー、簡単だ。あの体力しか取り柄のないSPが外したのだ。2人とも。

 でもなんで阿部君がいるんだ? まさか私を助けに? いやいや、阿部君が……来てくれた。

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