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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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七転び八起きからの、ひと転びは辛いなんてものではない

「そう言われても、私は誇り高き一匹狼なので」

「そうか。心の広いワシからのチャンスをふいにしたのは、お前だからな。シャーロックホームズのような優秀な探偵を雇えば、盗まれた物は戻ってくるし犯人には天罰を与えられるから、あの世で仲良く再会させてやる。ワシは本当に優しいだろ?」

 ホームズは100年いや1000年に一人の名探偵だ。そんな簡単に見つからないというか、この21世紀にはまだ存在していないぞ。どんなに早くても、現れるのは29世紀だな。だけど、そこそこの探偵でも、阿部君と明智君の痕跡から事件を解決する可能性は高いような気がする。怪盗のイロハをきちんと教えておくべきだったな。

 阿部君と明智君の悪運の強さに期待してみるか。なにせ、世界一と言っても過言ではないくらいだからな。それに、間違ってもそこら中に指紋やDNAを残してはいない……可能性が少しばかりあるし。

 いや、阿部君と明智君を信じよう。天国で再会できるのは何十年後だ。阿部君は性格的に確実に天寿を全うする。明智君は、強欲ぶりを発揮した怪盗活動で荒稼ぎしたお金に物を言わせて最先端医療を受けまくり、犬の長寿記録を大幅に更新するのが目に見えた。二人がやってくるまでは、素直ゆえにトラの平均寿命で天国にやってくるトラゾウと、束の間の自由を謳歌しようじゃないか。

 よし、腹は括れた。後は体力の続く限り抵抗して、1秒でも長くこの世に踏みとどまってやる。私の恐ろしさを知ったなら、敵に回したことを後悔して、私の大事な仲間に手を出す気は失せるだろう。そのためにも、悪あがきは必須だな。

 さあ、かかってこい。銃弾くらいは避けてやる。

「私を、ほんの一挺の銃なんかで倒せると思ったら、大間違いだぞ」

「そうなのか? よし、もう一人、前に来い」 

 あれ? 拳銃を手にしたSPが二人に増えたぞ。口は災いの元だと、年下の上司の……いや、死ぬ間際に思い出すような奴じゃないな。それにしても、まいったなあ。1発くらいなら、根拠のない自信たっぷりで避けられるのに。例え元気だったとしても、2発となれば、自惚れ屋さんの私ですら……せめてもの抵抗として言わないでおくか。

 ただ、私以上に、拳銃を構えた二人ともに自信なさげだ。それはそうだ。この日本で人間相手に銃を撃つなんてまず考えられないというか、警察官でもないのに拳銃を持っているなんて違法だ。今のこいつらには、あらゆる葛藤が生まれているのだろう。悪徳政治家が個人で雇っているのだろうけど、いざとなったら守ってくれる保証なんてないだろうし。

 いや、そもそも、こいつらは拳銃なんて撃ったことがないのでは。悪徳政治家のことだから、弾代をケチって、練習なんてさせてなかっただろう。いるだけで抑止力として十分なのだから、拳銃を撃ったことないのはおろか、格闘技経験すらも怪しい。きっと、こいつらは見せかけのSPだ。

 もしかしたら、あの銃だってモデルガンの可能性があるんじゃないか。いや、さすがにそれはないか。私が言うのもなんだけど、こんな時のために、本物を用意しておいて損はない。少なくとも、あの二人のSPが持っている拳銃は本物だ。そしてそれで十分だ。もし他のSPが続いて偽物の拳銃で威嚇してきたとしても、この2つの本物を見せられた後なのだから、すべてを本物だと信じてしまう。賢く言えば、心理トリックのようなものだな。悪徳政治家を謳っているだけあって、悪知恵が働くじゃないか。経費削減にもなるしな。

 それにかけてみるというか、そういうことにしてみよう。本物の拳銃は2つ。あいつらはバカだから、きっと何も考えずに撃つ。私から情報を仕入れるためには、すぐに殺したくないから、致命傷を避けるために上半身よりは下半身を撃つだろう。華麗なジャンプでかわしてやる。

 幸いにも、2つともリボルバーだ。オートマチックに比べれば連射速度が遅い。2発目を撃つまでに最後の力を振り絞って、悪徳政治家の屋敷内まで逃げれば、私に勝機が出る。

 なんとか冷蔵庫を見つけて『超高級エナジードリンクのロイヤルプレミアムバージョン』を飲んでやる。いくら強欲な明智君でも、かさばる缶飲料を根こそぎ持っていってないだろう。明智君はそこまで飲みたいように見えてなかったし、私に売るためだけのものよりも、もっと割のいい物を見つけて持っていくからな。これだけの家だし、何より金に汚い悪徳政治家なのだから、他に金目の物をいくらでも目につく所に置いているはずだ。少しでも希望が湧いてきたぞ。

 後は、あのSPたちが銃を撃つ瞬間にタイミングよくジャンプするためにも、引き金にかかっているあいつらの指に集中するだけだ。いや、待てよ。あいつらの銃の腕を過信していては危険だな。練習すらまともにしていない……いや、撃ったことすらない可能性が高い奴らが、狙った所にまともに撃てるわけがないじゃないか。下手したら、私が跳んだ先に、期せずして弾が飛んでくるかもしれない。

 うーん、声を出すだけでも体力を削られる状態なのに……。だけど、確認は大事だな。なにせ命がかかっているもんな。

「お前たち、私に当てる自信はあるのか? どうせ銃なんて一度も撃ったことがないんだろ」

「ななな、なぜ分かった? ここここいつらの構えを見ただけで見抜くとは、お前はなかなか只者ではないな」

 分かりやすく動揺している。これしきの事でそんなに動揺して、よく何十年も悪徳政治家をやってこれたもんだな。日本の将来が心配になってきたじゃないか。

 明智君は、老後のために、『円』だけではなく『ドル』や『ユーロ』も持っておいた方が良さそうだ。なんとか忠告してあげたい。そのためにも生きて帰られるように頑張ってみるか。

 ただ、私の当てずっぽうがたまたま当たったからって、私が生き延びる確率が上がったかと言えば、それはない。あいつらが銃の名手だったなら、タイミングよく避けさえすれば良かった。だけど、撃った弾がどこに行くか分からないような、ド素人が確定してしまった。場合によっては、じっとしている方が良かったという、結末になってしまう。

 何か良い方法はないだろうか。…………。……。あー、かかか簡単じゃないか。やっぱり疲れているからか、脳の働きも鈍っているのだな。言い訳をしていないで、名案を披露してやるか。

 何もあいつらが撃つのを待たなくてもいいのだ。あいつらが撃った弾なんて、どうせどこに飛んでいくのか分からないのだから、こっちが先に動いてやる。そうすれば、あいつらは焦って、撃つまでに手間取るし。結果、あいつらとの距離が相当広がるぞ。当然、当たる確率は下がるだろう。

 ここまでして私に弾が命中したとしても、やるだけやったのだからと諦めが……渋々諦めてやるさ。

 さらに時間を稼ぐために、空に向かって指を差し「あれは何だ?」と言ってやるか。きっと、アホ面が釣られて一斉に向くので、それをきっかけにスタートだな。アホ面を拝めないのは残念だけど、その隙に猛ダッシュしてやる。

 この窮地でこんな完璧に、自分の生還のための道筋を立てられるなんて、私は本当に本物の天才だな。今は、高笑いしていられないから、アジトに戻ったら、まず高笑いしてやる。阿部君と明智君の冷たい視線なんか気にしないぞ。

 悦に浸っている場合ではなかったな。もたもたしていると、あいつらが先に動きかねない。善は急ごう。

「あれは何だ!」私は空を指差しながら、ありったけの力を使って叫んだ。悪徳政治家を筆頭に全員が、私が指し示す方に視線を移した。私は、アホ面を見てみたい好奇心をなんとか抑え、猛ダッシュ……。

 あれ? 体が動かない。脳は私の体にダッシュするように指示を出しているのに、手足からの応答がないのだ。どうやら私は体力だけでなく、気合いまでも使い果たしたようだな。

 何も言わずいきなりダッシュしても、あいつらは焦ったはずだから、それなりに時間はかせげただろうに。そして一度ダッシュしてしまえば、後は惰性でなんとか冷蔵庫まで辿り着けたのに。無駄口を叩くんじゃなかったな。それも、あんな大声で。

 はあー、私の最後の言葉が「あれは何だ!」になるのか。考えようによっては、哲学的じゃないのか。インテリを鼻にかけている奴ほど深く掘り下げて、案外名言となって後世に伝えられるかもしれない。この悪徳政治家が、私に情をかけるか、笑い話にするつもりで公にしたらだけど。

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