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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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トラゾウのコードネーム

「あ、あのー……『ブルー』は私だよ、阿部君」

「そうでしたっけ? じゃあ、リーダーは『リーダー』でいいんじゃないですか? うん、それで何の問題もないですね。ねっ、明智君?」

「ワーン? ワン!」

 バカ犬はどうせコードネームのあるべき理由なんて理解していない。いや、奇跡的に理解していたとしても、阿部君が意見を求めれば、『イエスマン』ならぬ『イエスワン』となるだろう。

 ふうー、くだらないダジャレを言うのは、なかなかのストレス解消になるじゃないか。若者には分からないだろうな。

 もともと『ブルー』というコードネームは、私には似合わないと思っていた。だからって、変にふざけて『ブラウン』とか『シルバー』とか付けられたなら、私は感情むき出しの駄々をこねたかもしれない。ところがどうだ。私らしく、いつ何時も『リーダー』なら、申し分ないどころか大大歓迎だ。二代目『ブルー』がトラゾウというのも、じわじわと嬉しさがこみ上げて来てるし。

 なんかどんどんモチベーションが上がってきたぞ。ケガの功名とかいうやつだな。まさか阿部君の作戦……そんな訳がない。阿部君にそこまで考えるだけの能力があったなら、私は二度も死にかけていない。ただのいつもの阿部君の気まぐれだな。

 まあ、それはさておき、ポジティブになってきたのは事実だ。並み居る猛者の警備員やSPや警察官相手に、逃げ回るのではなく、全員を相手に腕試しをしたくなってきている。か、勝てるかも。

 だめだだめだ。そんな一人のわがままでチームプレイを乱してはいけない。特に私はリーダー……いや、リーダー中のリーダーなのだから。己の感情を押し殺し、怪盗団の幸せに重きを置くべきなのだ。

 よしよし、落ち着いたぞ。

「それじゃ、そろそろ作戦開始といこうか」

「はいっ!」「ワンッ!」「ガオー!」「はいっ!」「はいっ!」

 余計な返事が二つばかりあったが、無視しよう。阿部君がそうするように目で訴えているからだ。悪徳政治家宅には連れていけないと、はっきり言葉で言って、下手にひねくれられるのも困るからな。我々怪盗団が戻ってきた時に、ここに車がなかったら、私たちは終わってしまう。だけど、万が一に備えて、戦利品と明智君とトラゾウを抱えながら歩いて帰る体力を残すように頑張るか。何日でアジトに戻れるかは、まだ計算しないでおこう。

 私と明智君と阿部君とトラゾウは、やや緊張した面持ちで車から降りた。言うまでもなく、阿部君パパママは車の中で待機だ。私たちが、特に私がかっこいいのもあって、二人は最後の最後まで無言で一緒に行きたいアピールをしていた。もちろん、阿部君を筆頭にガン無視だ。

 明智君だけは一味違ったが。阿部君ママがさり気なく見せている1000円札を眼光鋭く見つめていた。しかし、自分の一声で、私はともかく阿部君が考えを変えない事を知っている。結果、1000円札を奪うだけ奪って、知らない顔をするのを選んだ。さすが明智君。

 トラゾウの尊敬の眼差しに見守られながら、明智君は、肌身離さず付けているよだれかけのような首飾り型小物入れの中にコソコソと1000円札をしまった。私と阿部君は、気づかないふりをしつつ、歩くペースを最大限に落としてあげる。うん、これだけで、明智君のモチベーションは爆上がりだ。

 私とトラゾウと別れ、阿部君と二人だけのミッションに、口には出さずとも大いなる不安を抱えているのだ。私だけは、それを分かっているので、明智君を責めるはずもない。阿部君は責める気なんてさらさらない。これで今回も少々無茶を言っても、明智君は聞いてくれる、いや、聞かないといけなくなったと、ほくそ笑んでいた。やはり明智君よりも阿部君の方が一枚上手なのだろう。

 まあ、弱みを握られなくても、明智君は阿部君の理不尽な要求を断れないのだ。なので、この1000円札が明智君を後押ししてくれると考えれば、ウインウインとも言えるのかもしれないが。

 トラの覆面を被った一人とトラの覆面を被った一頭とトラの模様っぽく塗られた一人とトラそのものの4人は、悪徳政治家宅の車がゆうに通れるほどの大きな門から死角となる大きな街路樹まで、夜中というのもあって誰にも見つからずに到着した。正確に言うと、誰一人として付近を歩いていない。

 通行人や暇人とすれ違った時のために、いろいろとシミュレーションをしていたので、安堵よりは残念な気持ちがあった。それは、せっかく考えた回避方法を実験できなかったからではなく、トラゾウとの思い出を増やせなかったからかもしれない。

 『タイガーマスクなりきり選手権』の練習をしているファンキーな親子とそのペットのフリをできなかったのは、確かに残念だ。フランスで、もっと素敵な思い出を作ってあげるからな、トラゾウ。

「ブルー?」

「ガオ?」「なんだ? あっ、……」

「そこの『元ブルー』? 緊張感が足りてないですね。ブルー、大変だけど、こんなリーダーをフォローしてあげてね。ちょっとくらいかじった方が、リーダーも変な演技をしなくてもいいかな?」

「だだだ大丈夫だ。迫真の演技で悪徳政治家宅内を恐怖に陥れてやるから、ブルー、かじるんじゃないぞ。ケガなんてしたら、できる事もできなくなってしまうんだからな」

「ガー、ガオーガ、ガガガーオガオオーオーオ。ガオ?」

「レッド、ブルーは何て言ってるんだ?」

「『はい』と言ってますね」

 ははっ。どうやら私はトラゾウにかじられるようだな。いやだ。いやだ。い・や・だー。

 こうなったら、全力で逃げてやる。私が本気で走れば、トラゾウよりも速く走れる……わけないじゃないか。

 なんだかんだでトラゾウは今まで、私はおろか明智君すら噛まないでいてくれている。甘噛みすらしないのは、己の歯が凶器になると知っているからだ。だけど阿部君に言いくるめられて、かじらないとミッションが成功しないと勘違いしてしまったなら、純粋なトラゾウはかじるに決まっている。もちろん手加減をしてくれるだろう。トラの手加減は人間にとっては、さほど意味をなさないけどな。

 うーん……閃いたぞ。へっへっへっ。こうなったら禁断の技を使ってやる。

 阿部君と明智君とトラゾウが楽しく話している背後に、私はそっと周り、3人の意表を突いて走り出した。そう、いわゆる『フライング』というやつだ。ざまあみろ。噛まれてたまるか。

 何が起こっているのかを理解するのに手間取っているであろう3人を尻目に、私は悪徳政治家宅の大きな門の前にたどり着いた。トラゾウとの距離は十分な安全圏をキープできているだろう。一応確かめておくか。

 あれ? 安全圏どころか、トラゾウは全く動いていない。まだ大きな街路樹の下で、阿部君と明智君と一緒に笑顔で何か話している。おいおいおい。ミッションが始まったことに気づいてないのか。

 トラゾウがいないのに、私がこのまま泣き叫びながら悪徳政治家宅に入っていくわけにはいかないだろ。トラ模様の顔面の怪しい奴が、精神錯乱状態で不法侵入してきたと思われるだけだ。パニックに陥れるどころか、淡々と捕まり同情されるように説得される。そして、呼ばれた警察官に連れられた病院で精神安定剤のような注射を打たれた後で、おとなしく帰されて終わりじゃないか。

 うーん……戻るか。

「どうした、ブルー? ミッションは始まってるんだぞ。私を追いかけてこなきゃだめじゃないか。恐がってるのか? レッド、やっぱりトラゾウには荷が重いのかも。図体は明智君よりちょっと大きいけど、まだまだ子どもだからな」

「ガッガオーガー。ガオガオガオーガーン」

「リーダーがおしっこに行ったと思ったみたいですね。おじさんはトイレが近いから、しょうがないですね。すっきりしましたか? じゃあ、ブルー、リーダー、始めましょう」

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