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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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準備万端?

「じゃあさっそく作戦開始といくか。まずは、私がトラゾウに追いかけられながら、悪徳政治家の家に入っていけばいいな?」

「はい。悪徳政治家宅がパニックになったと分かったらすぐに、私と明智君もミッション開始します。終了したら、ドカンと派手に花火を打ち上げるので、それまで暴れまわってくださいね」

「悪徳政治家宅にいるであろう警備員やSPだけだったら、簡単にあしらえるが。今回ばっかりは、一般市民の代表の政治家だからな。きっとすぐに警察を呼ぶはずだ。そうなると、通報を受けた警察官がひっきりなしに来るから、いくら私でもそんなに長くは凌げないぞ。長くなればなるほど、トラゾウの身の危険も心配だし」

「そうですね。悪徳政治家宅で大騒動を起こしさえすればいいので、状況を見てトラゾウは早めに撤退してもいいですね。うん、そうしましょう。トラゾウは警察が来たら、すぐにこの車に避難してね」

「ガオー」

「うん、その方が安心だ。その後は、私一人でなんとかするよ。と言っても、必要以上に危害を加えたくないし、警察には特に指一本も触れるわけにはいかない。私にできる事は限られている。捕まるか捕まらないかぎりぎりのところで派手に逃げ回るだけだ。SPや警察官と対決するのが恐いとかそんなんじゃないからな」

「はいはい、そういう事にしておいてあげますよ。ただ、トラゾウがいなくなっても、リーダーはあたかもトラゾウがいるように振る舞うというかアピールしてくださいね。『助けてー』とか『うわー』とか『あの茂みに隠れたぞー』とか『火を吹いたぞー』とか『日本語をペラペラ話すぞー』とか『大きくなったり小さくなったり自由自在だぞー』とか信憑性のある事を言って盛り上げてくださいね」

「あ、ああ、努力するよ。それでもトラゾウが立ち去ったことに気づかれたら、その時はしょうがない。私がトラゾウの代わりに辺りをパニックに陥れてやるから、阿部君と明智君は安心して落ち着いてミッションに集中してくれ」

「リーダーにできるくらいなら、最初からトラゾウの助けを借りようなんて思わないんですけどね。でもまあ、トラゾウきっかけで、警備の人の精神状態は不安定になってます。なので、リーダー一人でも頑張れば、トラゾウがいた時の100分の1くらいのプチパニックは起こせるかな。全然期待していないので、リラックスしてダメ元でやってくださいね」

「あ、ああ。ちなみにだけど、獲物のありかには目処が立っているのかい?」

「はい。絵の方は、身内以外には見られたくないだろうから、寝室にあるはずです。後はお金だけど、明智君の鼻があれば、よっぽど分厚い金庫の中にでも入れてない限りはすぐに見つかりますよ。問題は、分厚くなくても開けるのが難しい金庫に隠してある場合です。今回は絵とトラゾウの安全が最優先なので、早々に諦めます。いいですよね?」

「もちろん。絵を取り返して、トラゾウも無傷なら、それだけで十分だ」

 ううー。本当はお金も欲しい。しかし言える雰囲気ではないし、言ったところで、未熟な阿部君と明智君では簡単な仕掛けの金庫ですら開けることなんてできるわけがない。

 それなら、私と阿部君の役目を交換すればいいんじゃないのか。いや、それだと、警備員とSPと警察を引きつけ続けるのは、阿部君には荷が重すぎる。阿部君とトラゾウともに秒殺のうえに、トラゾウの剥製が悪徳政治家宅に並ぶことになってしまう。

 そんなの、例え私が億万長者になったとしても、毎晩悪夢に悩まされる。もしくは罪の意識から廃人になるだろう。明智君は、言うまでもなく私を軽蔑して、とっくに家出をしているはず。

 阿部君は小憎らしくても、私の大事な部下だ。トラゾウは明智君に少し悪影響を受け始めているとはいえ、かわいいことに違いない。明智君に捨てられるなんて……。

 だめだ。怪盗団の限られた団員を適材適所に配置なんて、夢物語もいいとこだ。オールマイティで無敵で優秀な私が、一番困難なミッションを担当するしかない。そうしないと、この怪盗団はたち行かなくなってしまうからな。大金だけ残って怪盗団が消滅だなんて、そんな人生の何が面白いんだ。私にとっての一番の報酬は、怪盗活動そのものだ。

 お金は諦めよう。またどこかの金持ち田舎暴力団に寄付していただければ済むことだ。暴力団組合で怪盗注意報が出ているだろうか。それでも、阿部君と明智君が必要以上に足を引っ張らなければ、楽勝で来年度の慰安旅行費用を確保できるはず。厳しかったなら、来年度の慰安旅行は会費制にすればいいことだな。

「あー! もう一つ忘れてました」

「びっくりしたあ。何を忘れていたんだい?」

 今年度は仕方がないにしても、来年度の慰安旅行は会費制になるかもと、どうやって言いくるめようかと考えていた時に、いきなり大声を出しやがって。チビりそうになったじゃないか。阿部君に全額払わさしてやるぞ。さすがにどんな画期的な美辞麗句を並べ立てても不可能だな。それよりも、こんな大声で叫ぶくらいなのだから、何かとてつもない忘れ物をしたのかもしれない。聞いてやろうじゃないか。

「トラゾウのコードネームですよ。スポット参戦とはいえ、コードネームがないと、仲間じゃないじゃないですか」

 なんだそんな事かという意味で、私は思わず白い目で阿部君を見ようとした。だけど、阿部君に賛同するかのように、阿部君とトラゾウの間を私以外のみんなのキラキラした目が行ったり来たりしている。言うまでもなく、阿部君とトラゾウは見つめ合っている。

 誰よりも素早く動ける私は、電光石火の如くみんなに倣った。幸い明智君以外には気づかれていない。明智君には、後で300円渡しておくか。

「だめじゃないか、阿部君。私たちの大事な仲間であるトラゾウのコードネームを忘れるなんて。コードネームを付けるのは、阿部君の大事な仕事なんだぞ」続いて「今回の報酬の取り分を1割カットだな」とまでは言えなかった。小心者の私のバカヤロー。

「ごめんね、トラゾウ。すぐに考えるから許してね」

「あのー、パパとママも、まだコードネームが……」

「トラゾウ、ちょっとだけ待ってね。かっこいいの付けてあげるからね」

 阿部君パパママ、ここは黙っている方がいいと思うぞ。でないと、娘が老後の面倒を見てくれなくなるからな。

 おっ! さすが阿部君が生まれた時からの付き合いだけあって、一瞬で気配を消したな。この気配の消し方は、もしかしたら現場で使えるかも。一応、頭の片隅の押入れの隠し扉の中にでも入れておくか。

「トラゾウ、良かったな。そしてこの車を出た瞬間からお互いにコードネームで呼ばないといけなくなるから、教えといてあげるぞ。阿部君が『レッド』で、明智君が『イエロー』で、リーダーであり最も尊敬されている私が『ブルー』だからな。間違っても、私を『ゴッド』とか呼ぶんじゃないぞ」

「ガオー。ガオーガー」

 しかし、阿部君にしては時間がかかっているな。どうしたというんだ。

 トラと言えば、黄色と黒のイメージで、それにせいぜい白とかオレンジ色が加わる程度だ。見たから付けるなら、『イエロー』は明智君だから、『ブラック』と『ホワイト』と『オレンジ』の三択のような気がするが。ちなみに私個人のおすすめは、『オレンジ』がかわいくて、トラゾウにピッタリだな。だけど、私が提案すると、阿部君はわざと避けるので黙っていよう。

 それにしても、まだ決まらないのだろうか。私と明智君のコードネームを決めた時のように、何も考えずにさっさと3つの中から選べばいいのに。ご両親がいるからって、良い子を装ってどうする。私が知っているくらいなのだから、阿部君が利己主義でいいかげんだという事は、ご両親だって知っているだろ。

 今さら真面目な人を演じたところでだぞ。はっきり言って時間の無駄だ。いや、もしかして、命名権を私に譲りたいのでは。そうだったのか。仕方がない。トラゾウだって私に付けられたいと思っているだろうし。

 部下たちの期待に応えるのは、リーダーの大事な仕事だ。コードネームを一瞬で決め、発表しようとしたまさにその時、阿部君が口を開いた。命名権のように形ないものでも、やはり譲るのは我慢できなくなったのだな。口答えなんてしない。私の勝手な妄想だったし。

「決まりました。生まれ故郷のインドネシアのきれいな海からインスピレーションを得て、トラゾウのコードネームは『ブルー』です」

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