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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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リーダーの覆面がない?

 くだらない事をいつまでも考えてないで、私も変装をしないとな。と言っても、安物のふざけたロボットのお面を失くしてしまった事を阿部君に伝えておいたので、代わりのお面なり覆面なりを渡されるのを待っていた。なのに、阿部君は渡してくれる素振りを全然見せない。

 阿部君ママにゴチャゴチャ言われ続けて、すっかり忘れているのだろうか。阿部君らしく上手に聞き流していたようにも見えたのだけれど、お気に入りのトラの覆面にダメ出しをされて落ち込んでいるのかもしれない。

 大事な作戦にそんな精神状態で困るのに。まだまだひよっ子の阿部君に、常に平常心を保てるような精神コントロールを要求する、私の方が間違っているのだろう。私が阿部君の分まで負担すれば済むことだ。

 私なら楽勝……だといいな。

 ただ、素顔で悪徳政治家宅へ入ると、後々街なかを普通に歩けなくなる可能性が非常に高い。いわゆる指名手配になるだろうからな。何らかの変装は必須条件だ。

 顔を見られても何ら問題のない明智君から、トラの覆面を借りようか。100円でも渡せば、それこそ尻尾を振って貸してくれるかもしれない。だけど、よくよく考えたら、サイズが合わないな。

 どうしようか。絵とお宝を盗れて、さらにフランスの美術館に無事に絵を返せたとしても、私だけが日本に帰れずに海外で逃亡生活を送らないといけなくなってしまう。そうなるくらいなら、みんなが延期に賛成してくれるだろう。

 一つ心配なのは、延期すれば、莫大なトラゾウのごはん代が、ほんの一日分とはいえなかなかの負担になることだ。貯金が目に見えて減っているのに、前回の報酬の100万円はなぜか慰安旅行に消えてしまう。それでも、大金持ちの明智君は、一銭も出してくれない。扶養家族面して、トラゾウに負けじとごはんをバクバク食べているだけだ。

 うーん……かくなる上は、得意の変顔を駆使して乗り切るか。インターホンのカメラ越しとはいえ、白シカ組相手には通用したからな。あれから一週間も経っているのに、白シカ組の誰にも街なかで指を差されていないし。己の完璧な変顔を信じよう。白シカ組の誰ともすれ違っていないとか、考えてはいけない。

「準備もできたことだし、最後に作戦を確認しましょ……あー、リーダー、ごめんなんさい。今回はトラゾウもいることだし、大サービスでリーダーにもトラの覆面を用意してあげたんだすけど。パパが……。もおー、パパがあれで遊んでるから、忘れちゃったじゃないの!」

「ごめんごめん。タイガーマスクは憧れだったから。リーダーなら分かりますよね?」

 なるほど。そういうことか。分からなくもないが、そのせいで、私は仲間外れどころか指名手配される危険まであるのだぞ。

 まったく、子が子なら、親も親だな。もしこれで報酬を少しでも要求してきたら、タイガーマスクの必殺技でボコボコにしてやる。さらに、これから毎回ボランティア運転手だ。酔い止め薬をたっぷり飲んで、目をつぶり続けないといけないのは苦痛だけど、他に頼める人がいないのだから仕方がない。

 ただ、ここは、心の広いリーダーをアピールしておくか。私の信者は、明智君を筆頭に多いに越したことはないからな。

「もちろん分かりますよ。私ならなんとでもなるので、気に入ったのなら、阿部君パパのものにしてくださいね」

 社交辞令だと分かるよな? 大人なんだから当たり前か。

「本当ですか! ありがとうございます。あれを被って仕事に行ってみようかなー。ハハハッ……娘がものすごい目で睨んでいるので……」

 うんうん、阿部君、ありがとう。どうせなら4、5百発くらい殴ってあげたらいいんじゃないか。私は絶対に止めないから。それにしても、私のお世辞を真に受けるとは。さすが、阿部君のパパだな。

「そんな訳で、今日はリーダーの顔を隠す物がありません……」

「うん……」

「本音を言えば、リーダー一人が指名手配されたあげく無様に逮捕されたところで、どうってことはないんです。だけど、リーダーのことだから、ちょっとした拷問で、すぐに私たちを警察に売るに決まっているじゃないですか。……延期しかないですね」

 おおー。理由はさておき、阿部君が延期するなんて。本当は私のことが心配だけど、ストレートに言うのは恥ずかしかったのかもな。阿部君、気持ちだけ受け取っておくよ。

 いや、トラゾウのごはん代を、せめて折半してくれるなら、延期でもいいぞ。それだけは、ないな。

 決行だ。

「いやいや、延期の必要なんてない。私の完璧な変顔があれば、絶対に身元はバレない。予定通りにいこう」

「じゃあ、明智君、トラゾウ、残念だけど、今日は帰ろうね」

「ワーン」「ガーン」

「いやいや、私なら大丈夫だから……」

「ひまわり、リーダーができるって言ってるんだから、やってあげなさいよ。名ばかりとはいえ、リーダーなんでしょ?」

「ママ、私、捕まりたくないもん」

「大丈夫よ。このリーダーが悪徳政治家宅から出てきたら、後はトラゾウの餌にすれば……」

「トラゾウはグルメだから食べないよ」

「あのー、聞こえてるんですけど」

「あっ! じょ、冗談ですよ。ママは冗談ばっかり言うんです。なので延期でいいですね? ママは、たまにですけど、冗談を冗談で終わらせないことがありますけど」

「もちろんだよ。さっそく帰ろうか?」

「はーい」「ワーン」「ガーン」

「あっ、ちょっと待って」

「どうしたの、ママ?」

「なぜか分からないけど、黄色と黒のマジックがあるわ。パパ、知ってる?」

「ああ、それは、せっかくだから、この車を黄色と黒のトラ色にしようかと思って」

「趣味が良いとは言えないから、それは却下ね。だけど、このマジックがあれば、作戦を遂行できるわね」

「どういうこと、まま?」

「このマジックで、リーダーの顔を塗りつぶせばいいじゃないの」

「ナイス、ママ。じゃあ、さっそく。リーダー、じっとしておいてくださいね」

 阿部君一人相手でも、私は拒否権を発動できないのだ。阿部君親子がいて、拒否どころかお願いすらする気も起きず、されるがままを選ぶしかなかった。油性マジックは普通の石鹸で落とせるのかがすごく不安で、二人がやけに嬉しそうなのは全然不安ではない。むしろ延期する必要がなくなって嬉しいくらいだ。

 黄色と黒のシマシマに塗るだけなのだから、あるかどうか分からない二人の芸術的センスは気にしなくてもいいだろう。間違ってもふざけて変な落書きだけはしないように祈るのみだな。するにしても、額に『虎』とか『怪』までで我慢しておくれ。

 明智君とトラゾウが羨ましそうにしている対象は、塗られる私だろうか、それとも塗る阿部君親子だろうか。答えは分かっているが、認めるつもりはない。

 心を無にして全く抵抗せず待つこと、5分。必死で我慢している5人分のくぐもった笑い声が、完成を教えてくれた。どうせならおもいっきり笑えばいいじゃないか。その方がおもいっきり愚痴を言えるのに。ただ、ミラーなどを使って確認するのだけはやめておくか。モチベーションに関わるからな。

 愚痴は言わないが、後で阿部君パパとは、真のタイガーマスクを決める本気のプロレスごっこでもするか。すべての責任はお前にあるのだから、逃げられないぞ。手加減なしの反則や凶器攻撃をこれでもかとやってやる。

「私だと分からないように、きれいに塗ってくれたかい?」

「かかかかかんぺきですぅー」

「そうか。明智君、トラゾウ、どうだい?」

「ワワワワオー」「ガッ……」

 うんうん、そうやって声を出して笑っておくれ。つられて阿部君一家も普通に笑っている。みんながリラックスしてくれて嬉しいよ。これもリーダーの大事な仕事だからな。だけど、ミッションに入るまでには慣れるんだぞ。

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