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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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我々怪盗団にトラゾウが臨時入団

 ただ、絵を盗むだけだと私に何も実入りがないので、ついでに何かお金になる物や現金そのものを盗りたいところだ。そうなると、ひよっこの阿部君でも、いないよりはマシなのだろう。一人留守番はかわいそうだし、経験を積ませるのも大事だから、連れていってやるか。

 前もって契約書を作っておこう。今までの経験上、収益を阿部君と明智君の二人占めにする確率が高いからな。私は確実に学習しているぞ。

 この件に二の足を踏んでいる阿部君は、せいぜい悪徳政治家宅の塀の外での待機がいっぱいいっぱいだから、1割だな。明智君は私と行動をともにするが、作戦は私が立てるので、明智君3割、私6割が妥当なところだろう。

 可能性としては五分五分だけど、明智君が脱出に失敗したなら、私が9割ぷらす明智君がこれまでに稼いだ650万円も、私のものになる。悪徳政治家の家でどれほどのお金を盗れるか想像もできないが、最悪0円だとしても、明智君の650万円で新秘書をいくらでも雇えるだろう。次は小型犬にしようかな。ごはんも少なくて済むだろうし。

 問題は、明智君が肌身離さず持っている通帳とキャッシュカードを、どうやって奪うかだな。よく考えたら、そのミッションは果てしなく難しい。

 うーん、うーん、うーん、悪徳政治家から次の秘書を雇えるだけのお金を、意地でも奪ってやる。明智君の安否は二の次だ。明智君なら捕えられたとしても、世渡りが上手いので、悪徳政治家の家で小間使いとしてやっていけるだろう。許せ、明智君。

 もっと心配なことがある。家の外の安全圏に配置する阿部君に、私がひとまず敷地内から奪ったお金や絵を投げ渡したら、阿部君が一人で逃げてその後消息不明になってしまう。かといって、大量のお金と絵を持ちながらSPや番犬などの追撃をかわすのは、私でも至難の業だろう。もちろん見つからないように万全を尽くすが、万一のために身軽でいた方がいい。

 悩むよりも、まずは下調べをしないといけないな。今までのような結果オーライのいきあたりばったり作戦では、『元警察官が、国民のために身を粉にして働いている政治家宅に押し入り、3秒で確保される』というニュースが世界中に配信されてしまう。阿部君が行方をくらますとして、その候補地もピックアップして先手を打っておかないとな。

 ミッションは困難だけど、怪盗としてやっとやりがいのある仕事が巡ってきた私は、ものすごくわくわくしてきた。そしてこんな時にお決まりのように水を差す阿部君が、やっと口を開くようだ。

 さすがに今回は、泣きべそをかいて私にすがり、少しでも関わらなくていいようにお願いするのだろう。安心しろ。素人同然の阿部君を、危険なミッションに同行はさせない。運び屋の仕事を全うしてくれさえすればいい。

「リーダー、お願いがあります」

 ほらきた。それでいい。自信がないのを隠して、私についてきても、足手まといになるだけだ。正直が一番だな。阿部君の唯一の良い所じゃないか。

 ただ、いつまでもひよっ子というわけにはいかないのだから、私の名怪盗ぶりから目を離さず勉強するんだぞ。メモも忘れるな。

「なんだい、阿部君? 遠慮せずに何でも言ってみなさい」

 内容は分かっているが、自分の口で言わそう。優越感に浸りたいとかではないぞ。自分のできなさを口にすることによって、私のようになれるように努力する闘志が湧くのだ。

「トラゾウをインドネシアの故郷に帰すのを、少し遅らせてください」

 うん? トラゾウ? 話が見えないな。悪徳政治家関連の話をしていたはずだろ。仕事は順番に確実にこなしていかないと、後になってシッチャカメッチャカになるのだぞ。

 ゆっくり会話して落ち着かせるか。まったく世話の焼けるやつだな。

「トラゾウに対して情が湧いたのかもしれないけど、お別れを先延ばしにしても何も解決しないし、より辛くなるだけだぞ。トラゾウだって少しでも早く家族に会いたいだろうし。図体はでかいが、まだほんの子どもなんだから」

「トラゾウの気持ちは分かりますよ。だけど、悪徳政治家宅に盗みに入るなら、トラゾウに手伝ってもらいましょうよ」

 え! 何を言ってるんだ? トラゾウにいったい何ができると言うんだ? 阿部君だけじゃなくて、トラゾウまでがいたなら、足手まといが多すぎるだろ。さすがに私と明智君の二人だけでフォローするのは大変じゃないか。確実に明智君は捕まって、政府の犬になる。なかなか上手い事を言ってしまった。

 いやいや。そんな事よりも、阿部君は何を考えているんだ? 悪徳政治家宅でのミッションがあまりに恐いからって、ぬいぐるみのようなトラゾウをずっと抱きしめて、現実から目を逸らすつもりなんじゃないのか。そうなら、運び屋すら、まともにできないじゃないか。弱ったぞ。他に頼れる人はいないし。

 そうだ。阿部君のパパとママは? 行き場のない阿部君を雇っている社長の私の言う事なら、聞いてくれるだろう。だけど、阿部君の仕事内容を知っているのだろうか。阿部君は、どのように説明しているのだろうか。

 だめだ。私は何を考えているんだ。動揺しすぎたからって、変な考えを起こしてはいけない。とりあえず、もう少し話を聞いてからだな。

「どういうつもりなんだい、阿部君? トラゾウは怪盗ではないんだよ」

「トラゾウも一緒に行きたいよね? 楽しいよ」

「ガオー。ガガガッオー」

 通訳するまでもない。私でも、トラゾウが何と言ったのかが分かった。表情も明らかに楽しそうだし。なんかかわいいな。よしよし。

 こんなかわいいトラを、親から無理やり離して遥か遠い日本に連れてくるなんて。一番の加害者は、白シカ組組長に違いない。その白シカ組組長に頼まれたとはいえ、手引をした悪徳政治家だって同罪のようなものだ。

 トラゾウ自身に仕返しさせてあげるのもありだな。

「分かった。だけど、トラゾウはまだまだ子どもだ。最優先事項は、トラゾウの安全だからな。トラゾウに危険が迫っているなら、例え絵とお金を手に入れていても捨てる覚悟でいてくれよ」

「へえー、リーダーってなかなか良い所があるじゃないですか。トラゾウ、安心してね。私たちが絶対にインドネシアの家族の所に連れていってあげるから」

「ガオーオー」

「ところで、阿部君はご両親に仕事について、どのように話してるんだい?」

「どうしたんですか、急に?」

「いや、まあ、なんとなく……阿部君は正直者だろ? だったら、親にも自分が怪盗だと言ってると思って。そしてそうなら、人手が欲しい時に手伝ってもらえないかと。現場は危険だから、例えば車を運転してくれるとかさ。虫が良すぎるか。忘れてくれ。『悪徳政治家宅の絵の強奪作戦』を話し合おうか……」

「知ってますよ」

「え?」

「だから、私はちゃんと親に言いましたよ。最初は、あまりにセンスのない冗談だと思って、鼻で笑ってましたけど。だけど、白イノシシ会から盗った150万円を見せると、やっと詳しく話を聞く気になってくれて、今では応援してくれてますよ」

 まあ、なんと言うか、この子にしてこの親ありというところか。しかしこれで作戦の幅が広がったというものだ。

 でも、阿部君の親ということは、阿部君のような冷酷で自分勝手で役立たずかもしれない。もし手伝ってもらったなら、大して活躍をしないのはおろか、足を引っ張る可能性が高いな。そのくせ、莫大な報酬を要求するに決まっている。

 極力頼まないようにしよう。場合によっては、私が身銭を切らないといけなくなる。

 まずは、一度機会を作って、四者面談ウイズ明智君をやっておくか。

「なかなか、話の分かる親御さんだな」

「そうでしょ。でもちょっと不安もあるんですよ。口には出さないけど、なんか羨ましそうに私を見るんです。だから、手伝ってなんか言ったら、喜んでやってくれるでしょうね。ただでさえ初老の足手まといがいるのに、それが二人も増えたら、リスクが爆上がりするじゃないですか。だからって、親を見捨てて逃げるような人でなしになんてなりたくなし」

「た、確かに……」

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