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明智君という名の犬と見習い怪盗小娘と自惚れ初老新米怪盗の私  作者: バスバスキヨキヨ


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初めての報酬

 ちくしょー、足元を見ているな。どうしようか。今回も、一番頑張った私の取り分を減らさないと行けないのか? 私が躊躇していると、阿部君の方から迫ってきた。

「今回も、お金を盗ってきたのは、私と明智君だけですよね?」

 あからさまじゃないか。清々しいくらいだ。だからって、リーダーの私が能無しの部下たちに屈服するなんて、考えられ……。

「阿部君と明智君の好きな配分でいいよ」

 はあー、私はなんて素直なんだろう。怪盗としてやっていけるのだろうか。

「私たちも鬼ではないというか、ものすごく優しいので。…………。では、今回の最終配分を発表しまーす」「ワオーン!」

「トラゾウを手に入れたのは、私だと、分かっているよね?」

 無駄だと分かっていても、最後の悪あがきをしてやったぞ。

「今回の最優秀怪盗である明智君は、5割だね」

「ワオーン、ワオーワオーワオーン!」

「私も頑張ったけど、明智君ほどじゃないので、4割で我慢です」

「ワンワワン」

「リーダー、計算できますよね? 今回は0ではないけど、これは次の作戦の期待を大いに込めてあるので、次こそは頑張ってくださいね」

 ここでごねたら否応なしに0になるので、ありがたく受け取ろう。いつか見てろよー。

「ありがと……」

 私は100万円を受け取った。まあ、嬉しくないと言えば嘘になる。だけど私は口車に乗ってしまったのだろうか。

「大サービスついでに、通訳もしてあげますよ。何を知りたいんですか?」

「トラゾウは、近所の動物園と生まれ故郷の、どっちで生活をしたいのかを。この二択にしてね。あくまでも保護が目的だから。調子に乗ってドバイあたりの金満動物園で生活したいとか言っても、動物園ということで、近所の動物園だからね」

「分かりました。一応リーダーに説明しますけど、明智君は日本語を話せないだけで理解はできるのは、知ってますよね? トラゾウも同じみたいなので、今のリーダーの言葉はトラゾウにも伝わってますからね」

「そうなんだ。それはだいぶ手間が省けていいな。ということは、明智君がトラゾウの通訳をして、阿部君が明智君のジェスチャーなんかを理解する手順でいいんだね?」

「はい、そうなります。トラゾウもこれからいろいろ経験すれば、明智君のように表情が豊かになるかもしれないですけど、今の段階では喜怒哀楽が分かるだけですね」

「何気に阿部君の理解力がすごいから、成立するんだろうね。報酬が欲しいがために、おだててるとかじゃないよ」

「何か言いました? あっ、いいです。トラゾウは生まれ故郷に帰りたいらしいので、慰安旅行を兼ねて送ってあげましょうよ。ちなみに慰安旅行の費用は、リーダー持ちですよね? 100万円入ったから、余裕ですね。ありがとーございまーす」」

「ええー! 冗談だよね?」と言ったところで、覆らないことくらいは知っている。私は先が読めるのだ。

「ほらっ、明智君とトラゾウも、リーダーにお礼を言って」

「ワオワワン」「ガー」

 仕方がない。こうなったら、旅行中は威張り散らしてやる。阿部君は荷物持ちで、明智君はパシリにして、トラゾウは……そうだ、お別れまでの間ずっと、乗り物として扱ってやる。お礼の言葉もトラゾウはやけに短かったのだから、自業自得だな。

 ただ、100万円で足りるのだろうか。もし足がでるなら、なけなしの貯金を切り崩さないといけないぞ。世の中って、本当に理不尽だな。

「トラゾウの故郷って、どこなんだい?」

「ガオガガガーガオガオーン」

「ワンワンワワッワーンワンワワ」

「インドネシアのスマトラ島です」

「あー、よく考えたら、明智君とトラゾウを、どうやって連れていったらいいんだろ?」

「簡単ですよ。ちょっとお金がかかるけど、箱に詰めて貨物扱いで運んでもらいましょ。もう仲良しだから、節約のために箱は一つでいいんじゃないですか」

 明智君は、阿部君の悪気のない冷酷さを知っていたので、顔が曇りながらも、食べるペースは変わらなかった。しかし、トラゾウはショックを受け、明らかに食欲をなくしている。ここはせめて明智君とトラゾウ相手に得点を稼いでおくか。

 トラゾウは別としても、明智君とはこれからも仲良くやっていかないといけないのだから。決してお金がかかるのを嫌ったわけではない。純粋な私の優しさだ。

「それはかわいそうだから、ぬいぐるみに見せかけて、手荷物として機内に持ち込んであげようよ」

「ええー。私はぬいぐるみが似合うから大丈夫ですけど、初老の気持ち悪いおじさんがぬいぐるみなんて持って機内に入ってきたら、乗務員を含め機内にいる人たち全員が気分悪くなりませんか?」

「阿部君以外のみんなは、微笑ましく見守ってくれるさ。ねえ、明智君、トラゾウ?」

「ワンッ!」「ガオー!」

「3対1じゃ、それでいくしかないですね。だけど、明智君とトラゾウは、出発までに完璧なぬいぐるみを演じられるようにしておかないとだめだからね」

「ワン」「ガオ」

「機内でくしゃみの一つでもしようものなら、緊急脱出ドアを開けて、上空からポイッだから」

「ワ……ン」「ガ……」

 出発までに、阿部君による残酷な訓練が行われるのだろう。訓練中、何度も何度も一般荷物として格納庫に入れられる方がいいと思うほどの。例えが、くすぐられ続けても動いてはいけないとか、脱ぎたての私の靴下を鼻っ面に押し付けられても涙一つ流してはいけないとか。

 訓練自体の効果よりも、ただ阿部君が楽しみたいだけだ。

 トラゾウだけでなく、明智君までもが、急性食欲不振に陥っているようだな。話題を変えてあげるとするか。

「そうだ。トラゾウを無事に送り届けたら、さっそくやらなければいけない仕事があるんだよ」

「せっかく楽しい旅行の話を始めたところなのに、仕事の話はまた今度にしましょうよ」

「そうだな。その仕事が上手くいけば、今度はフランス旅行が持っているが。今は、話さなくてもいいな」

「フランスー! わおー! ほんとですかー? ぜひ聞かせてください。さあ、さあ、ほら、早く!」

 明智君とトラゾウですらついていけないほど興奮している、阿部君を見て、私はなぜか嫌な胸騒ぎが起こった。でも話さないわけにはいかないのだろう。

 悪徳政治家から絵を奪い、それをフランスの美術館に返しにいく旨を、私が簡潔に話してあげた。すると、阿部君は空を見つめ押し黙り、自分のテリトリーでお肉が焼き上がっているというのに知らんぷりだ。

 これはチャンスじゃないか。あの超高級和牛は、このままだとまっ黒焦げになって、誰にも食べられずに生ゴミとなってしまう。

 自分の欲望なんかではなく超高級和牛の気持ちだけを考えて、私が箸を伸ばした瞬間、阿部君にマジックテープでフォークを右手に固定してもらっている明智君が、目にも留まらぬ速さで食べ頃の超高級和牛を華麗に奪っていった。明智君にすっかり心を開いているトラゾウが拍手をしている。うん、ぬいぐるみになる練習に、私も付き合うのが確定した。非常に楽しみだ。

 しかし、阿部君はどうしたのだろうか。標的が警備が万全な政治家だと聞いて、怖気づいたのかもしれない。私と違って、阿部君のレベルでは、捕まりにいくようなものだからな。阿部君は己の実力を知っているということだけでも、褒めてあげようじゃないか。

 そうは言っても、白シカ組組長と約束した手前、絵を盗りにいかないといけない。私と明智君の二人だけでもやるしかない。私の類まれなる運動神経と知能に加えて、明智君の何が何でも自分のものにする気力があって、さらに綿密な作戦を立てれば、成功間違いなしだ。最悪の場合は、明智君をダシにして、私だけでも脱出すればいい。よし、決行だ。

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