第3章:鉄火祭りの騒乱
鉄火市最大の祭り、鉄火祭りの日がやってきた。街中が提灯で飾られ、人々は賑やかな音楽に合わせて踊り、屋台からは美味しそうな匂いが漂っていた。司も明も、普段の喧騒を忘れ、祭りの雰囲気を楽しんでいた。
司は一人、人混みを離れて、少し高台にある神社へと足を運んでいた。祭りの喧騒を遠くに聞きながら、静かに夜空を見上げていた。
一方、明は祭りの中心部で、友人たちと屋台巡りをしていた。焼きそばやたこ焼きを頬張り、金魚すくいではしゃぎ、久しぶりの賑わいに心を躍らせていた。
しかし、楽しい時間は長くは続かなかった。祭りの熱気に煽られたのか、あちこちで小競り合いが起こり始めたのだ。最初は些細な言い争いだったものが、次第にエスカレートしていき、ついに大きな騒動へと発展していった。
怒号が飛び交い、屋台がひっくり返り、人々は悲鳴を上げて逃げ惑う。祭りの会場は、一瞬にして修羅場と化した。
明は、友人たちとはぐれてしまい、一人で群衆の中に取り残されていた。目の前では、数人の男たちが激しくぶつかり合っている。巻き込まれないように必死に避けていたが、誤って一人の男にぶつかってしまった。
「おい、邪魔だ!」
男は凄まじい形相で明を睨みつけた。明は慌てて謝ったが、男は聞く耳を持たない。周りの男たちも集まってきて、明を囲んでしまった。
「なんだコラ、喧嘩売ってんのか!」
絶体絶命の状況。明は覚悟を決めた。どうせ逃げられないなら、せめて抵抗だけでもしてみよう。そう思った瞬間、彼の背後から、聞き慣れた声が響いた。
「お前ら、何やってんだ?」
振り返ると、そこに立っていたのは司だった。彼は、騒ぎを聞きつけて駆けつけてきたらしい。その表情は険しく、周囲の空気が一瞬にして張り詰めた。
男たちは、司の姿を認めると、露骨に嫌な顔をした。祭りの騒ぎに乗じて暴れていた連中も、司には一目置いていたのだ。
「つ、司さん…別に、こいつがぶつかってきただけで…」
一人の男が、しどろもどろになりながら言った。
司は冷たい視線を男たちに向けた。
「祭りを楽しめない奴は、さっさと帰れ。」
その一言に、男たちは何も言い返せず、すごすごとその場を立ち去っていった。
明は、再び司に助けられたことに、感謝の言葉も出なかった。ただ、安堵の息を吐き出すだけだった。
「大丈夫か?」
司は、心配そうな表情で明に声をかけた。
「はい…ありがとうございます。また助けてもらって…」
明は頭を下げた。
「お前は、いつもトラブルに巻き込まれるな。」
司は呆れたように言ったが、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。
「すみません…でも、あの時も、助けずにはいられなかったんです。」
明は、自分の正義感を改めて主張した。
司は、しばらく明を見つめていたが、やがて静かに頷いた。
「そうか…」
祭りの騒ぎはまだ続いていたが、二人は少し離れた場所で、静かに夜空を見上げていた。喧嘩の天才と凡才。立場は違えど、二人の間には、不思議な友情のようなものが芽生え始めていた。