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第2章:天才の片鱗、凡才の苦悩

翌日、鉄火市てっかしの繁華街の一角で、司は一人、路地裏の壁に凭れかかっていた。彼の周りには、数人の男たちが地面にうずくまっている。皆、顔や体に痣を作り、苦悶の表情を浮かべていた。

彼らは、近隣の街からやってきた荒くれ者たちだった。鉄火市の縄張りを奪おうと企み、この街の連中に喧嘩を吹っかけてきたのだ。最初に立ち上がったのは司だった。彼はまるで踊るように相手の攻撃をかわし、的確な一撃で一人、また一人と倒していった。その動きは速く、正確で、まるで芸術のようだった。相手は為す術もなく、ただただ倒れていくしかなかった。

通りかかった人々は、その光景を息を呑んで見守っていた。誰もが、司の圧倒的な強さに畏敬の念を抱いていた。

一方、その少し離れた場所では、明が別のトラブルに巻き込まれていた。彼は、街の不良グループに絡まれている女性を見かけ、勇気を出して助けに入ったのだ。しかし、結果は散々だった。相手は数人で、喧嘩慣れもしていた。明は必死に抵抗したが、多勢に無勢。あっという間に取り押さえられ、ボコボコにされてしまった。

地面に倒れ込み、痛みに顔を歪める明。不良たちは彼を嘲笑い、吐き捨てて去っていった。

「くそ…やっぱり、俺はダメだ…」

明は自分の弱さを呪った。正義感はあっても、それを貫く力がない。昨夜の司の強さが、脳裏に鮮明に蘇った。自分とは全く違う、圧倒的な力。羨ましいと思うと同時に、自分の不甲斐なさに深く落ち込んだ。

その日の夜、明は一人、行きつけのラーメン屋でどんぶりをかき込んでいた。そこに、偶然にも司が一人で入ってきた。司はカウンターの隅に座り、静かにラーメンをすすり始めた。

明は、昨夜のお礼を言おうかどうか迷っていた。結局、勇気が出ず、ただちらちらと司の方を見てしまう。

すると、先に声をかけてきたのは司だった。

「昨日の…大丈夫だったか?」

低い声だったが、どこか気遣うような響きがあった。

明は驚きながらも、「あ、はい。おかげさまで…ありがとうございます」と頭を下げた。

司は軽く頷くと、再びラーメンに視線を戻した。二人の間に、しばらく沈黙が流れた。

その沈黙を破ったのは、またしても司だった。

「お前…喧嘩、強くないな。」

明はドキッとした。図星だったからだ。

「はい…」と、情けない声で答えるのが精一杯だった。

司は顔を上げ、真っ直ぐに明の目を見た。その瞳には、侮蔑の色は微塵もなかった。

「だが…逃げなかった。それは、評価できる。」

その言葉に、明はハッとした。自分の勇気を認めてくれた。それが、何よりも嬉しかった。

「俺は…強くないけど…間違ったことは許せないんです!」

明は、精一杯の言葉でそう答えた。

司は少しだけ口元を緩めたように見えた。

「そうか…」

それ以上、二人は何も話さなかった。しかし、この短い会話が、二人の間に微かな繋がりを生み出したのは確かだった。

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