4話 訴訟チーム
連邦議会議事堂に置かれていた統括チーム室はいったん解散となり、今は隠遁者たちの訴訟にフォーカスした訴訟チームに引き継がれ、検察庁へ事務所を移していた。正式名称は「金流入による騒乱首謀者を訴追するためのチーム」というが、誰もそんな長たらしい名称は使わない。
フェリーシアはベインのいた巡視チーム室を出ると、検察庁の建物へ向かった。ベインは巡視チーム室長兼訴訟チームの室長代理を務めていた。しかし、フェリーシアがチーム長に復帰することになったので、その負担はずいぶん減ることになる。
フェリーシアは検察庁に向かいつつ、気が重くなるのを紛らわそうとしていた。現場復帰となったからには、きちんとチームにも挨拶しなければならない。そこにはもちろんヨハンもいる。ヨハンに対するわだかまりはいったん横に置いて、ひとまず、目の前のことに集中して進めていこうと、歩きながら心と頭を整理した。
まずはこの膠着状態をどう打開しようか、、、問題はそこだが、アシータと話した後に、ベインから改めて立件へ向けての進捗状況を聞いて、彼らの行き詰まりをひしひしと感じていた。
ジムヨーク前知事とベルフォンヌ氏は相変わらず黙秘を続けている。おそらくこの状況で、打開の糸口となり得るのは、この二人しかいないと思うが、どう切り込んで行ったらいいのかわからない。特に叔父のライアン前ジムヨーク知事に関しては、一度も面会には行っていない、、。というより、会うことができないでいた。それに、、自分が面会に行ったところで、、真実を話すとは、到底思えない。
そういえば、ヨハンはライアン叔父と隠遁者のボスを、見たことがあると言っていなかったか、、、。そう、ジムヨークの別邸でヨハンはそう言っていた。ベインはヨハンからそれについて、もう話は聞いているのだろうか、、。彼のことだから、すでにアプローチはしているだろう、、ヨハンにも供述は取っているはずだ。私に説明がなかったのは、証拠としては物足りないということなのだろうか、、。ヨハンに直接聞いてみようか、、。
少し気が引けるが、それでもこれは仕事なのだ、、。フェリーシアは気持ちを引き締め、到着した検察庁の建物の中へ入って行った。
「金流入による騒乱首謀者を訴追するためのチーム」室のドアをノックし、中へ入った。中は広く、透明のパテーションでいくつも区切られ、チームごとにデスクが置かれていた。手前には、なつかしいジムヨーク警察局のメンバーがいた。彼らは統括チームからの居残りメンバーで、ジムヨーク州関係の証拠集めを担当している。もちろん、前州知事とベルフォンヌ氏の事情聴取や供述書作りも彼らが担当している。立件の陳述書からは検察官が入るが、容疑者とやり取りしているのは彼らだ。
フェリーシアが入ってきたのを見ると、彼らは驚き、すぐ立ち上がった。
「フェリーシア様、お久しぶりでございます!」
背筋を伸ばして敬礼し、彼らは嬉しそうに挨拶をした。
「久しぶりね、、。あなたがたには、とても苦労をかけているわね、、」
緊急事態宣言の間、彼らはジムヨーク州に戻り、州内の混乱収拾のために、物資の運搬もいとわず現場を駆けずり回っていた。
「いえ、とんでもございません。国家の危機にフェリーシア様と共に仕事ができるのは、光栄の極みであります!」
警察官らしい気持ちのよい返事だった。
「ところで、あの二人は相変わらず尋問には、一切答えないの?」
「はい、、事件に関しては黙秘を続けています」
「それ以外に関しては、、話はするの?」
「はい。弁護士とアイコンタクトを取りながら、事件と関係ない事柄については、会話をします」
「ヨハンが目撃していた、隠遁者との接触については、、、」
「はい、そこは事件の核心部分ですので、一切黙秘です」
そうだろうなと思いつつも、聞いてみた。
その時、奥の方からフェリーシアの声を聞きつけて、ウォルシュが出て来た。
「フェリーシア様、、コロントンに戻られてからご挨拶もせず失礼しておりました。ヨハンからお二人のご様子は伺っておりましたので、リルネ様の療養中は遠慮しておりました」
「ウォルシュ、久しぶりね。おかげ様でリルネもすっかりよくなって、、元気に動けるようになったわ。私もそろそろ現場復帰しないといけないでしょう。それで、挨拶に来たのよ」
「そうですか、チーム長に復帰されるのですね」
他のブースからも人が出て来て、フェリーシアを囲んだ。
「みなさん、遅くなってごめんなさいね。陛下からのご命令があって、今日から現場復帰することになりました。難しい状況だということはあちこちから聞いています。また、皆さんが十分頑張ってくださっていることも知っています。さきほどベイン室長代理からも説明を受けました。私も気を引き締めて取りかかろうと思います」
フェリーシアは、なるべく場が明るくなるよう、皆に挨拶をした。
捜査員たちから歓声が上がり、拍手が起こった。一番後ろにいたヨハンも笑顔で拍手していた。
「どうぞ、皆さん、今されている仕事を続けてください。私は打開策がないか、いろいろな角度から再度検討してみます」
捜査員たちの士気は明らかに上がっていた。フェリーシアがいくつもの問題を解決してきたことを、彼らは知っていた。フェリーシアの参加だけで、解決への一歩を踏み出したように感じられたのだ。
フェリーシアは、そのまま奥にいるヨハンに向かって歩き出した。
「ヨハン、少しお話、、いいかしら」
「もちろんだよ、、。毎日のように宮殿では顔を合わせているのに、ここでは、初めてだね」
ヨハンは胸が高鳴っていた。
「そうね。私も仕事復帰の初日だから、何だかちょっと、ぎこちない感じだわ」
フェリーシアはあまり意識せず、いつもの宮殿での雰囲気でヨハンに話した。
「あなたに少し話を聞きたいの。もうすでにベイン室長から聞かれているとは思うのだけど、、ベルフォンヌ氏のこと、、」
ヨハンの胸の高鳴りは急に減速し、どんよりと重い気持ちになった。しかし、それも重要なことだと認識している。
「ここに来てすぐに、ベイン室長との面談があったんだ。その時、自分が見たことや聞いたことなんかを全部話したよ。でもそれを裏付けるものがなくて、、、なんせ、ずいぶん前のことだから、、」
「そうね、、ずいぶん前のことよね、、」
そう言いながら、フェリーシアはヨハンとゆっくり話ができるスペースはないかと事務所内を見回した。
ヨハンは、自分たちのデスクの方を指さしながら言った。
「フェリーシア、ボクらのデスクはあそこにあるんだよ。小さな話し声くらいなら隣には聞こえないよ。もし重要な話であれば、その横は応接室になっている。応接室は、声はもれないよ」
フェリーシアはヨハンと二人きりになるのはちょっと避けたいと思い、ヨハンたちのデスクに向かった。




