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1話 フェリーシアとリルネ、そしてヨハン

第五章が始まりました。

お気づきの方も多いと思いますが、今まで歴史的人物を名前を変えつつ、彼らの主張を交えて登場させてきました。

今回は西洋から離れ、新しい解釈の日本古代史を、一瞬、覗き見る形になります。

今章も楽しんでいただければ、なによりです。

 リルネは宮殿の食堂で朝食を取っていた。目の前にある目玉焼きの色の濃い黄身をつつきながら、ふとおじいさんとおばあさんのことを思い出していた。おばあさんの薬草で栄養満点の玉子を生んでいたニワトリたち、毎日乳を出す牛たち、そして小さい時から一緒だったパト、、。みんな元気にしているだろうか、、。

 旧大陸にフェリーシアを助けに戻った時はそれどころではなく、フェリーシアを守ろうと死に物狂いで、無我夢中だった。自業自得とはいえ、竜巻を無理矢理起こして意識を失い、昏睡状態に陥ったが、フェリーシアの看病のおかげで一命を取りとめた。

 意識が戻ってからは、エッジスタートの湖畔の別荘で療養をし、歪の橋を渡れるまで回復させた。あの後、おじいさんやおばあさんたちの顔を見たかったけれど、まずは神仙峯に行って身体を完治させた方がいいと言われ、まずはエイマリアに戻ってきた。

 エイマリアでは一時滞在のつもりが、体調はみるみる良くなっており、神仙峯に行く必要もないくらい体力も気力も戻って来ている。


「あら、リルネ、早いのね」

 フェリーシアが食堂に入ってきた。二人とも部屋で食事を取ることもできるけれど、食堂で他の人たちと顔を合わせて食べる方が美味しくて、どうしてもここに来てしまう。

「うん、こっちに戻ってきてから日に日に良くなってるの。もう病人扱いしなくても大丈夫よ」

「そうね、そのようね」

 フェリーシアも嬉しそうだった。

「もう、神仙峯に行く必要はないかしら」

 フェリーシアの問いかけに、リルネは引き続き卵をつつきながら答えた。

「あの、、、そのことなんだけど、、私、おじいさんとおばあさんだけが家族だと思っていたでしょ。でも、その、、一応、、父親が現れて、、」

「現れてっていうか、判明したっていうことね」

 フェリーシアが正確に訂正する。

「えーっと、判明して、、そうなると、、、母親って、どこにいるんだろう、、、とか、思っちゃうわけよ、、」

 フェリーシアは尊師様がリルネの母親について、一度言葉を漏らしていたことを思い出した。

「そうね、、あなたのお母さまも、どこかにいらっしゃるはずよね、、」

「うん、それでね、、私が神仙峯で生まれたんだったら、お母さんもそこにいたはずだと思うの、、今はいなくても、、。それで、その、、神仙峯に行って、お母さんのことを調べてみたいな、、って思って、、」

 父と娘らしい交流がなかったとしても、父としての存在を意識すれば、やはり母の存在が気になるのもうなずける。何しろ自分のルーツなのだから。

「そうね、それも、自分探しなのかもしれないわね、、。あなたが望むのなら、そうしてはどう?」

「いいの?」

「いいもなにも、あなた自身のことなのだから、あなたが決めたらいいのよ」

 フェリーシアの心強いアドバイスにリルネは喜んだ。

「あ、ありがとう! フェル!」


 その時ドアが開いて、ヨハンが入ってきた。

「おはよう、お二人さん。今日は一段と元気そうだね」

「ヨハン、おはよう。ええ、日増しに回復してるって感じ。もう完治したと言ってもいいと思うわ」

 リルネはなぜかドヤ顔で言っている。

「ヨハン、あなたも早いのね。訴訟の資料集めなの?」

「うん、絶賛収集中だね。個々の押収資料は膨大にあって、その裏のつながりを探さないといけないんだけど、これがなかなかつながってくれないんだ。大きな絵は描けているんだけど、個々の証拠がないんだ。そこをどうやって埋めていったらいいか、、」

 ヨハンは、ここ宮殿のゲストルームを使用している。そのため、朝はよく顔を合わせる。彼はパンをかじりながら、直近の状況を説明してくれた。

 金採掘業者の一斉取り締まりで押さえた裏帳簿と、それに関与した者たちを拘束、そして彼らの膨大な聴取から、個々の違法行為に関しては十分立件できるが、横のつながりや組織的な部分を裏付けることができない。また、金の流入に関しては、無自覚に行っていた人も多く、と同時にその行為自体を違法とする法律が現行法ではなく、そこに法の網をかけることは今のところできない。強引に法解釈を広く当てはめて違法性を訴えようとすると、対象者は相当な数となり、確信犯とそうでない人の区別がつけられなくなってしまう。しかし、金の大量流入が隠遁者たちの指示のもと、組織的に行われていたと見るべきで、国家転覆罪を意図しての犯罪とみなせるが、その確信犯とそうでない人との区別すらまだできていない状況だという。

 話を聞きながらフェリーシアは、リルネもこんなに回復したのだから、そろそろヨハンたちのチームに加わらなければいけないと思っている。しかし、なぜか、、どういうわけか、、気が乗らない。そんなこと言い訳にもならないが、、、気が乗らない原因を突き止めることにも躊躇していた。

 ヨハンは一気に説明すると、コーヒーを飲んで一息ついた。

「大変だね、ヨハン。でも、なんか、すごく頼もしく見えるよ。旧大陸にいた時も、それなりに生き生きして見えたけど、どことなく頼りなさそうだったのに、、けど今は、まったく違って見える! 頼もしくて、それにもっと生き生きして見える!」

「なんだいっ、それ」

 ヨハンは笑った。

「あ、そうそう、フェリーシア、、ウォルシュとも話していたんだけど、そろそろまた君に戻って来てほしいなと思って、、どうだろう、、。君がいるのといないのとでは、モチベーションの面でも雲泥の差なんだよ」

「へえ、そうなんだ。さすが、フェル! 困った時のフェル頼みね」

 リルネは無邪気に喜んでいる。フェリーシアは笑うしかなかった。


 フェリーシアは、リルネと一緒にコロントンに戻ってきた時、ヨハンがとても喜んでくれたことを嬉しく思っていた。それはリルネが旧大陸で昏睡状態だという事を聞いていて、彼女の顔を見て安心したのだろうと思ったからだ。しかし、日が経ち、リルネが回復した今も、ヨハンの陽気さとテンションの高さは再会時と変わらなかった。そして今は、それはリルネというより、自分に向けられていたことだと気が付き始めた。

 今までヨハンのそんな様子にまったく気づかなかったのに、なぜ急に、今、気づいたのだろう、、。たぶん、自分が誰かを好きになって、その感情を自覚し認識を深めたことで、そういう気持ちに敏感になっているのかもしれない。

 緊急事態宣言が解除されるその日に、フェリーシアはヨハンに、ここにとどまってほしいと言った。それは純粋にヨハンを有能な人物だと思い、助力を仰ぎたかったからだ。でも、ヨハンはそうは取らなかったかもしれない。ヨハンに嫌われることはあっても好かれることはないと思っていたから、言葉も選ばずストレートな言い方になっていた。

 これ以上はあまり詮索したくなかったが、また同じチームで働くならば、何の覚悟もなく飛び込むよりは、ヨハンに対しての心の準備や対応の仕方を、考えておいた方がいいように思った。いつまでもチームに加わることを躊躇しているわけにはいかないのだから。



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