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30話 エッジスタート動く

 エッジスタートの王城では連日会議が開かれていた。今も国王を中心に長官たちが集まり、刻々と入ってくるバーグたちからの報告を聞いている。

「国王様、フェリーシア様からは一個師団の派兵の要請が来ております。首都市街地では小規模暴動が発生していて、死者も多数出ております。軍隊は一部を除いて機能しておらず、王弟も王宮に籠っている状況です。王弟らが民衆の手に落ちるのはもう時間の問題です」

 会議では、もはや始まりつつある民衆蜂起の被害を最小限に抑えるべく、どの時点で介入すべきかに話の中心は移っていた。

「サックセンもプロストリアもネイザンもニードルランデンも、ほとんど様子見です。我々の出方をうかがっています。我々が出ればそれに乗じて参戦する可能性もあります」

 シューベル宰相もスコット外相も、これ以上待っては被害が大きくなるばかりと、国王の決断を迫っている。


 情報を受け持つノンテブロワー公はバーグからの報告の一つに注目していた。

「陛下、かのカルレン公がフェリーシア様に婚約を申し入れたとの話、それを拠り所に彼を立てて、兵を進めてはいかがですか。陛下は、民衆を押さえるための兵派遣を躊躇されていたわけですから、カルレン公とフェリーシア様の婚姻と新王朝樹立を内外に知らしめ、それに反対する現王権を叩けば、民衆にも、上げたこぶしを下げる理由を与えられるはずです。それでも、暴動が続く場合は、それは略奪暴徒の輩、治安の面からも鎮めなければなりません」

 皆が言いにくいことを、彼はすんなりと口にした。

「しかし、それには2つ問題がある」

 シューベルが事務的に反論する。

「それは果たして、フレンクラン民衆が鎮まるに足る理由となるのか、そしてもう一つ、フェリーシア様のご意思だ」

 ノンテブロワー公もすぐに反論する。

「私の考えるところでは、エッジスタート軍を後ろ盾にそれを宣言すれば、反旗を翻すものは今のフレンクランにはいない。民衆も含めてだ。諸外国もカルレン公の存在が重石となって、即座に反対する者はいない」

 彼はそう言い切った。

「カルレン公は諸外国に顔を知られているお方、若いころの留学経験もあって各国首長からの覚えもいい。しかし、、フェリーシア様が何と言われるか」

 シューベルは彼の一番の気がかりを口にした。


 今までの議論を聞いていたのかいないのか、初めて国王が言葉を発した。

「フェリーシアは、一個師団をどう使いたいと言っているのだ」

「はい、フェリーシア様はカルレン公と共同戦線を張ると言っております。カルレン公とエッジスタートの軍旗を立てて、王宮を奪取する。その許可がほしいとのことでございます」

 そう言ったのはノンテブロワー公だったが、それに意見したのはスコット外相だった。

「ただの共同戦線では、諸外国に付け入るスキを与えてしまいます。自分たちが囲っているフレンクランの貴族を立てて、我れ先にと、勝ち戦に乗って来るやもしれません。もし一緒に戦うのでしたら、新王朝を立てるというところまで宣言なさらないと、不安定要素が増してしまいます。しかし二人による新王朝樹立は、フェリーシア様の望むところではないと考えます」

 それを聞いて、今度はシューベルがフェリーシアの真意を主張する。

「フェリーシア様は、とにかく王宮の奪取を民衆がする前にこちらがしなければ、民衆の代弁者としての大義名分を失ってしまう、とお考えです。王宮が落ちる前に動かないと、民衆を止める術がなくなってしまうとおっしゃっているのです。彼女の要請の本意はそこです」


 また沈黙が続いた。アルフレットもこれ以上時を逸しては、旧大陸への直接間接の被害が大きくなると思っている。自分の信念はいったん置いて、もう決断をするしかなかった。


 アルフレットの意を決した言葉が響いた。

「一個師団を送ることに反対の者はいるか」

 反対する者はいない。

「皆の意思はわかった。フェリーシアには、自身が前線にでないことを条件に軍を送ることを伝えよ。そしてスコット、諸外国には、エッジスタートとカルレン公との間の姻戚関係をちらつかせ、手を出させないように努めよ。フェリーシアの名は出すな。王族とだけ伝えろ。それもカルレン公からの求婚だったことを強調してだ。意見のある者はいるか」

 皆は一様にうなづいた。

 スコット外相は責任重大とばかりに、宙を見た。


 その決定はすぐにフェリーシアの元に伝えれらた。


 フェリーシアは、バーグを中心にフレンクランの間者たちとすぐに作戦を立てた。まず、エッジスタートが動き出したこと、カルレン公とエッジスタートの共同戦線が張られること、そしてその打倒の相手が現王朝であること、この3点をロッジの知友たちを中心に、話を広める方針を立て、動き出した。ロッジは紐帯は弱いが、知識人や商人たちとのつながりは広い。できるだけ民衆の暴発を押えらえるよう、エッジスタートという抑止力を最大限使いたかった。

 それから、カルレン公はこれで王権側に命を狙われる立場になるので、こちらでかくまうよう指示をした。


 しばらくすると市街中心部にいるメンバーから、カルレン公がこちらの保護を拒否したと連絡が入った。

「どういうこと、、なぜ、カルレン公は保護を拒んだの」

「自分は民衆の側に立ったのだから、ここにいなければ筋が立たないとおっしゃられたそうです」

 フェリーシアは信じられないと言わんばかりに声を荒げた。

「何を言っているの、民衆側にも命を狙う者はうようよいるのよ。こんなところで筋を立てても意味がないの、肝心なところで生きていなくては元も子もないのよ、彼は何を言っているの!」

「はい、、その、、エッジスタートの軍派遣に感謝する、自分はここでエッジスタート軍を迎えるとおっしゃったそうです」

 今度はフェリーシアが天井を見上げた。彼の気持ちもわからなくはないが、エッジスタート軍が到着した時、万が一彼がいなければ、軍を動かした意味が天と地ほどに大きく変わってしまうのだ。

「バーグ、もう一度彼を説得してちょうだい。それでも聞かないのであれば、彼にこう言いなさい。あなたがこちらの保護を受け入れないのであれば、あなたの替え玉を用意してこちらに寄こしなさい。我々はその人物と話を進めていく、と」

「わかりました」

 フェリーシアはある意味カルレン公を脅迫し保護下に入るよう促したのだが、カルレン公がこの喧嘩言葉を買ってくれるかどうかはわからない。


 エッジスタートから送られる軍の師団長はデュバインと言って、エッジスタート平民出身の大将だった。彼が現場の指揮を執ることになっている。しかし今回は、事情が複雑で流動的なため、フェリーシアの指示を尊重するよう言われている。

 師団長とフェリーシアの意思疎通をスムーズにさせるために、近衛兵にも出動がかかった。ヒースロック以下4名が、フェリーシア守護と軍との仲介役としてすぐに出動した。


 フェリーシアは自分の意図するところを、前もってデュバインとヒースロックに伝えた。それは二つ。カルレン公の安全をまず確保すること。もう一つは、王宮側と民衆側の戦意を同じようにくじきたいため、始めに圧倒的な火器で脅しをかけること。フェリーシアとしてはこれに期待していた。エッジスタートの大型兵器にはおそらく誰もが身を竦ませる。

 しかし大型兵器の移動には時間がかかるため、デュバインは先遣隊を先に送り、まずはそれでできるだけのことをすると言った。が、先遣隊ではあまり大きな脅しは期待できない。

 こうなると、デュバイン本隊が到着するまで、王宮が持ちこたえられるかどうか、、そこがフェリーシアの作戦の成否の分かれ目になる。フェリーシアにとっては、目の前の蜂起の進捗に一刻一刻祈るような気持ちだった。


 しかし運は、フェリーシアの味方をしなかった。

 市街中心地を流れる河沿いの店が襲われた5日後、ヒースロックたちがフェリーシアの元に着いた翌日、先遣隊すら到着する前に、王宮は民衆の手に落ちたのだった。

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