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25話 リルネの狂乱

 リルネが大聖殿に戻ってきたのを見て、リョンファンは少々大げさに手を広げて話しかけてきた。

「リルネ、おとといエイマリアから連絡があったのよ。通話を希望されていたのだけど、尊師様のところへ行っているから、いつ戻るかわからないって言ったの。それで伝言に変えてもらったわ」

 そう言って、リョンファンは事務室にリルネを入れ、メモを探した。

 リルネはリョンファンと一緒に事務室に入りながら、なぜか動悸がしてきていた。

「2、3日中に対面で通話したいって、何度も言われたけど、尊師様の所だと予定がまったくわからないって言って、、あきらめてもらったの」

 リョンファンは見つけたメモをリルネに渡した。

 予想通り、フェリーシアからの連絡だった。リルネは緊張し、今や冷や汗が出てきている。

 震える手でリョンファンのメモを読んだ。

 エイマリアの経済混乱は一段落して、法的措置を取るための捜査はまだ続くが、山は越えたという主旨のことがメモ書きされてあった。そしてその後にメモ書きは次のように続いた。

――エッジスタートから救援要請が来た。フレンクランで革命の予兆あり。それを阻止するためカルレン公に呼ばれる。明日夕発つ――

 それを読んだとたん、リルネは叫んだ。


「だめぇぇぇぇぇ!!!」

 毛が総立つような声だった。

「フェリーシアが、、フェリーシアが、、」

 リルネが号泣し出した。場所も人も何もかもかまわず今や泣き叫んでいる。


 リルネは涙でぐしゃぐしゃになりながらしゃくりあげていた、、。絶対、絶対、フェリーシアを死なせない、死なせない! どうすればいい、どうすればいい、私は、どうすればいい、、。感情が頭の中を駆け巡り冷静でいられない。

 リルネは懸命に湧き上がる感情を押し殺し、、頭を回そうとする、、。冷静になれ、冷静になれ、、。


 リョンファンはリルネの様子に腰を抜かしてしまった。目の前で彼女は狂ったように、大声を上げて泣き叫んでいる。リョンファンは立ち上がって、老師を呼びに事務室を出た。老師は食堂にいる。


 リョンファンが老師を連れて事務室に戻って来ると、リルネはうつろな目をして、何かブツブツ言っていた。


「リルネ、どうした、何があったのじゃ」

 老師は落ち着いた声で、リルネに話しかけた。

 しかし、リルネには老師の声が届いていない。


 老師はリョンファンに気付けのお茶をもらってくるように言い、そして、リルネを横から見るようにして椅子に座った。


 リョンファンの話では、フェリーシアからの伝言を見た途端、大声を出して泣き出したという。伝言の内容を見てみたが、大声を出して取り乱すことでもない。エイマリアが落ち着き、フェリーシアがまた旧大陸に向かうという連絡だ。

 老師はずっとリルネを見つめたまま、考えた。


 リョンファンが気付けのお茶を持ってくると、老師はリルネの視界に入るように正面に立ち、リルネの中空に向けられた視線を遮るようにして言った。

「リルネ、そら、これをお飲み。考えるにしても少し落ち着いて考えたらどうじゃ」

 老師はお茶をリルネの手に持たせた。

 リルネは驚きともため息ともつかないような声を小さく発し、老師に目の焦点を合わせた。

 老師から、手に持たされたお茶に視線を移し、そして、ゆっくりとお茶を飲んだ。もう一回、お茶をすすると、今度ははっきりとした口調で老師に向かって話し出した。

「老師様、フェリーシアが、フレンクランの革命に、巻き込まれてしまいます。彼女は行っちゃいけない、、けど、、行っちゃう、、。私は、、私は、、どうしたら、いいの、、」

 老師はリルネの目をじっと見ている。

「おぬし、今、未来を見たのか」

 リルネは、頭を、整理しないと、答えられない。今、自分に何が起きているのか、、まだよくわからない。


「フェリーシアが、フレンクランの兵に囲まれている様子、、が、浮かび、フレンクランは、悲惨な戦場になる、、、フェリーシアは、、殺される、、、」

 リルネは、今にも泣きだしそうに顔を歪ませている。

「おぬしは、フェリーシアの伝言を見たときに、それが見えたのか」

 老師は冷静にリルネから事情を聞き出す。

「フェリーシアの、伝言を読んだら、、、雷が落ちたみたいに、なって、、、目の前が暗くなって、、映像が浮かんで、、。私は、、苦しくなって、、」

「おぬしは、フェリーシアを助けに行きたいのだな」

 リルネは即座にうなづいたものの、、また、泣き出した。

 老師はそこでだまり、リルネに、感情や考えを整理する時間を与えた。


「でも、、フェリーシアは、行ってしまう、、から、、私は、どうしたらいいのか、、わからない、、、」

「フェリーシアが旧大陸に行くのは、さだめか」

 リルネはうなづいた。

「彼女は、止めても、、きっと行くことになる、、。だから、、結局、止められない、、。でも、、行ったら、、彼女は、、、死んでしまう、、、」

 またリルネがしゃくりあげ始めた。


「リルネ、落ち着きなさい。まだ、フェリーシアは生きているし、元気じゃ」

 そう言って、老師はまたお茶を飲むように、リルネを促した。

 リルネはゆっくりとお茶を飲み、込み上げてくる感情を抑えようとした。残りのお茶を全部飲み干すと、ふうーっと息を吐いて、自分を励ますように、胸のあたりを手のひらでポンポンとたたいた。

 ようやく、半狂乱状態を脱したようだった。


「さて、それじゃ、これからどうするかを考えようかのう」

 リルネが落ち着いたのを見て、老師はそう言った。

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