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24話 尊師とリルネの対話

 リルネは尊師に呼ばれて湖水殿に来ていた。しかし実際に尊師と対面したのは、リルネが湖水殿に滞在し始めて2日目の夕刻だった。尊師には目に見えない忙しさがあるようだ。

 

 お付きの者に呼ばれ、リルネは尊師の部屋に行った。

「尊師様、リルネでございます」

 リルネはいまだに自分のフルネームを使えないでいた。老師様も自分のことはリルネと呼んでいるし、自己紹介もそうしている。


「入って来なさい」

 尊師の声が聞こえた。

 リルネはすだれを上げて中へと入って行った。


 尊師は以前と同じ場所に、同じ姿で座っていた。まるで時間が止まっていたかのようだ。

 リルネは部屋の隅から座布団を取ってきて、尊師の前に置いて座った。

 尊師はゆっくりとこちらに向き直り、リルネの周囲を見る、、そしてリルネと目を合わせた。


「ずいぶんと研鑽を重ねた、、まったく別人のようだ」

「老師様のおかげでございます」

 リルネは心からそう思った。


 尊師は心なしか微笑んでいるように見える。

「そなたの母を思い出す」


 思わぬ言葉に、リルネは心が揺れた。何か用事があって自分を呼んだのだろうが、、母親についてなのか、それとも違うことか、、。


「そなたも異質のものたちを感じているようだが、、」

 リルネはなるほどその話か、、と思った。

「私はそなたの生まれる数年前に、それを感じて子どもたちを外へと出した。何故、異質のものたちが刻印を帯びるのか、わからなかった。それが闇へと引きずり落とす可能性を感じていたが、その故がわからぬうちは、傍観するしかない」


 リルネが感じた違和感は、トッティが「肉が心地よい弾力をもって応える」と説明した時、一瞬その顔をのぞかせた。尊師が高揚感と言っていたが、それに近いものをリルネも感じた。しかしそれが悪なのか何なのか、、正直わからない。ただ、、興奮を感じるようなシチュエーションではない。痛めつけることへの快感か、支配欲か独占欲か、、。得体のしれないゆがんだ欲望の一端をその刹那に見たとは思った。

 しかしそれでトッティが悪い人間だとは思わない。ただ一瞬、彼に見えた姿だった。しかしそんな姿を常時見せている人がいるのだろうか、、、他の人には常時それが纏わりついているのだろうか。異質のものとは、、その欲望自体を指しているようにも思える。その不気味な高揚感を突き止めたいということなのか、、もしくは、それに対しての大地の反応を知りたいということか、、。それで、何年も前から観察しているのだろうか、、。

 そんなことを考えていると、尊師は急に何かを唱えだした。


「宇宙の理を漂いし存在、一の絆を持ちし者。双に覚えなし稀に片に覚えあり。しかれど時空の干渉あたわず引きを生ずる。一は宇宙の均衡守りて宇宙は一を中とする。絆は宇宙の下位にて時空の下位にあらず双を結びつけるなり」


 目をつぶって詠唱を終えると、尊師は、リルネと目を合わせた。

「同じ魂の力を持つ者とは、どこで出会ったのだ」

 尊師はフェリーシアのことを言っているのだろうと思った。

「私が住んでいました山村で、私を迎えに来た時にです」

「そなたは彼女を覚えておったか」

 覚えていたか、、、初対面だったけれども、、前世の記憶という意味だろうか、、。

「私は彼女を知りませんでした」

「そうか、、、双方とも覚えていなかったのか」

 覚えていなかったか、、、フェリーシアは、私を白馬の王子だと思ったと言っていた。

「フェリーシアは、私を幼いころ夢で見ていました」

 夢だったか、、何と言っていただろうか、、。

「それは、、まことか、、、」

 あれっ、、私は何か、見当はずれのことを言ったのだろうか。

「夢かどうかは、よく覚えておりませんが、幼いとき、啓示のようなものを受け、私を知っていたと言っていました。私の家を訪ねて来た時、彼女は夜も眠れないほど驚いたそうです」

 そう説明すると、尊師は驚愕の表情となった。そして口を半開きにしたまま、宙を見つめた。何かを一心に考えているようだ。

 自分の言葉のどこがそんなに引っかかったのだろう、、。今まで二度しか対面したことはないが、冷静沈着な尊師がこんな顔をするなんて、、。


 その表情は沈黙とともに続いた。10分、20分、、リルネにはわからなかったが、、きっとこれも瞑想の一つに違いないと、神妙な面持ちで一緒にそこに座り続けた。


 すると突然、尊師は肩を微かに振るわせ、そのうち声を出して笑い始めた。

 これにはリルネも度肝を抜かれた。瞑想の最後に笑うということがあるのだろうか、、今すぐ老師を呼びに行きたい、、。そんな衝動にかられたが、、身動きせずに、自分の動揺を必死に抑えた。


 尊師はひとしきり笑うと、やっとリルネを見た。

「この世はおもしろき哉! 双の芯、俗の者成りしとて聖より劣る所以なし。聖を統べる俗もまたこれ真理なり。あの書物に加えねばならぬ。いや、これは私のただの先入観だったか、、それゆえ見失っていたのだ」

 嬉しそうに話す尊師の言葉の意味が、リルネにはわからない。


 そのまま、面談は終わってしまった。


 湖水殿を出るとリルネは老師を探したが、彼はどこにいるのやら見つからない。

 あの尊師様との面談は何だったんだろう、、そう思いながら、リルネは大聖殿に戻った。

 

 そしてそこでは、リョンファンがリルネを待ち構えていた。


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