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23話 フェリーシアの岐路

 全体ミーティング後、緊急事態宣言は解除されたが、まだ騒乱の余波はあり、関係各所の立ち入り捜査とそれに伴う立件作業の準備が続く。これから戦いの場が法廷へと移っていくにあたり、その証拠や証言を集めなければならない。いったん、統括チームは解散となり、次段階のまとめ役を務めるのは巡視チームとなった。解散後は、それぞれの持ち場でこの事件を追い、巡視チームと検察が協力し合い立件、起訴まで持っていくこととなる。

 フェリーシアは、どこかの時点で神仙峯に行って来ようと思っていた。リルネに会いたいし、話もしたかった。二人がこんなに離ればなれになっているのは、出会ってから初めてのことだ。

 神仙峯はリングが使えず、通話をするには呼び出さなければいけない。フェリーシアは、リルネの熱心な修行振りを知っているため、自分の寂しさや不安から彼女を呼び出すことはできなかった。ここ一ヵ月ずいぶんと我慢していたが、これで大手を振って彼女に会いに行ける。


 そんなことを考えていると、リングが点滅した。国王だった。

「おはようございます。お父様」

 フェリーシアは明るく挨拶した。

「フェリーシア、おはよう。朝食はもうすんだかな」

「ええ、すませたわ。お父様、どうかされたの」

「いや、、どうってことではないんだが、あとで、私の執務室に来てくれないか。少し話がしたいんだ」

 国王は機嫌がいいとも悪いとも判断のつかない表情だった。

「わかったわ。少ししたら伺います」

 フェリーシアは、ふと、自分が神仙峯に行こうと思っていることを見抜かれたのかしらと思ったが、すべきことはしたし、している。別に迷惑をかけることではない。


 フェリーシアが執務室へ行くと、国王はフォーレンと話をしているところだった。

 国王はフェリーシアを見るとフォーレンを下がらせて、ソファーに座るようフェリーシアを手招きした。


「今回はよくやってくれた。ありがとう」

「いいえ、私はお父様に感謝しています。お父様が早い段階で連邦議員たちと一緒に対処してくださり、食料不足を防いでくださったから、国民も安心したのだと思うわ」

「いやいや、こういう時、全体を見渡せる者が、素早く的確に判断と決断を下せるかどうかが重要になってくる。おまえはそれを見事にやり遂げてくれたよ」

 国王は誇らしく言った。

「まだ事件は終わっていないけれど、もし誰かをお褒めになりたいのならば、ぜひ推薦したい人が二人います」

「ああ、そうだな。ヨハンとゲズルだな」

 フェリーシアは、うなづいた。

「彼らは本当によくやってくれた」

 国王は感慨深そうにそう言った。


「ところで、おまえを呼んだのは、、、少々立て込んだ話があったからなんだ、、」

 そう言って、国王は書面をフェリーシアに渡した。それはエッジスタートからの手紙だった。

「一週間前に届いた。まだ緊急事態宣言の最中だったから、私の手元に置いておいた。内容はおまえに関することだ」

 フェリーシアは書面に目を通した。それはアルフレット王から父宛へのものだった。


「拝啓、エイマリアの国難を耳にして心痛むばかりです。殊、ライアン兄さんに関しては何と言ってよいのか言葉が見つかりません。それも含め、エイマリアを守る兄さんたちの苦労と献身に心から感謝すると共に、その任務完遂を衷心より祈っています。

 さて、こんな時にこのような申し入れをするのは甚だ心苦しいのですが、フェリーシアをこちらへ送ってはもらえないでしょうか。というのも、旧大陸の強国フレンクランで革命が起こりそうなのです。クーデターで国王が変わり、今は王弟が王の座についています。しかしそれで国民たちの不満が収まるはずもなく、爆発寸前まで来てしまっている。フレンクランに革命が起こればその余波は計り知れない。その一方で、有力貴族のカルレン公から革命を起こさせないための支援要請が来ています。彼は血を流さずに、緩やかな政権の移行を考えている。フェリーシアは直接彼と話をし、我が国への派兵を食い止めた経緯があり、彼はフェリーシアに深く信頼を寄せているようなのです。

 両国双方、外交のかじ取りが難しくなってきている状況で、フレンクランの反王弟勢力と信頼関係を持って話せる者が、残念ながら今の我が国にはいない。ただフェリーシアだけなのです。

 すまない、兄上、フェリーシアをこちらに送り出してはくれないだろうか。よろしく頼む」


 フェリーシアは手紙を膝に下ろした。目に浮かぶようだった。重税で苦しんでいる平民たち、、大祝祭で一瞬景気がよくなったかと思えば、国王やトーボルク周辺に財が集中し、自分たちの生活は変わらない、、。クーデターが起こるには起こったが、それは反国王勢力ではなく、同じ王侯貴族内での交代に過ぎなかった、、。それをカルレン公は、、、おそらく今回は自ら動こうとしている、、、。そうフェリーシアには思えた。


「フェリーシア、どう思う。率直な意見を聞かせてくれ」

 なるほど国王の掴みどころのない事務的態度は、これが原因だ。自分で判断するだけの材料がないとき、彼は決断をしない。人の意見を聞いたり、情報を集めたりするその間、客観的に物事を見ようとし、一切私情を挟まないのだ。

 R.C.の問題では、多少、感情的になっているように見えた国王だったが、これが本来の彼の姿だった。私情で動くのでなく、冷静に、そして公平に物事を見ようとする。フェリーシアの好きな父親の姿だった。こういう国王の姿に彼女は憧れるのだ。


「叔父様のお話をそのまま受け取ると、、ある意味、旧大陸の危機かもしれません。教皇がどれほど求心力を維持しているのかはわかりませんが、もし弱っていたとしたら、フレンクランの革命は王制から共和制に移行しようとする動きになります。しかしそれには、カルレン公が考える通り段階が必要です。今までエッジスタートは旧大陸の国々に、王制国家の平和を体現して見せてきました。しかしフレンクラン国王はそれを完全に無視していました。このままでは、、、惨劇と混乱に突入してしまう可能性が高いと思います」


 国王は腕組みをして考えた。エイマリアは、危機的状況は乗り越えた。あとは、隠遁者のあぶり出しに入る。しかし国王はここも肝心と考えている。ただ、フェリーシアをいつまでもこのポジションに引き留めておくのも、、とも思う。旧大陸に関して彼女の見立て通りなら、フェリーシアを向こうに送り出してあげるのが一番よいのかもしれない。


「フェリーシア、統括チームが解散して、君には巡視チームを率いてもらおうかと思っていたが、、ここで一度、お役御免としたほうがよいのかもしれない。君の判断に任せよう。一度フラットな状態に戻って、そして君のいるべき場所を自分で選択するのがよいだろう。私個人としては、巡視チームに残ってくれれば、それはうれしい。しかし君が、自分はエッジスタートに行った方がよいと判断するのならば、私は、それを後押しする」

 フェリーシアはニコリとした。そして少し考えてから、言った。


「旧大陸に行くようになってから、胸に深く刻まれたことがあります。それは過去と現在とでは、命の重さが天と地ほどに違うということです。旧大陸では、力のない者ほど命は軽い。戦いが始まれば殺し合いと蹂躙が始まります。それは、、この上ない悲劇です。だから私は、エッジスタートに行こうと思います」


「そうか、、。わかった。しかし、、くれぐれも無理をしてはならんぞ」

 国王はそれだけ言うと、私的な思いを飲み込み、目を閉じた。

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