22話 リミット解除
リルネが湖のほとりにある大木の前で瞑想をしていると、老師が近づいてきた。そしてその横で寝転がった。
「リルネよ。ここに集まってきておる者たちの特徴、、それは何だかわかるか」
リルネは瞑想を止めた。
「さあ、、向上心、、にあふれた人たち、、でしょうか」
「うむ、、そうとも言えるな。じゃがその前に、彼らは大小の差こそあれ、皆、奇跡を起こすということじゃ」
「奇跡、、」
「そう。人知を超えた奇跡を起こす者、、と彼らの生まれた土地ではそう言われておる。神童と謳われ、そうやってここにやって来た。おぬしはそれらを奇跡と思わぬかもしれぬが、大半の者たちはそれらを奇跡と呼ぶ」
リルネは修行ばかりに邁進して、あまり周囲の人たちに思いを馳せたことがなかった。
「気を練ったり応用したりすることは、奇跡でも何でもない。それを自身の肉体に流し込み運動能力を飛躍的に上げるのも、奇跡とは言えぬ。しかしそれをできぬ者たちからすると、それを奇跡と呼んでしまうのじゃ。彼らは生まれ持ってそれを会得していた者たちじゃ」
老師は空を見上げて、続ける。
「しかしおぬしは、そのレベルをはるかに超えてしまう。大地の気を感じ、木々の生命力を感じ、それらを取り入れる。大気の流れを感じ次を予測する。大地の力を取り入れ何倍にも増幅させ操ることのできる者は、そう多くはない。この星と共存しようとする者であれば、尊師のように時空も司れる。ただ、共存しようとしない者は、我が道を行くことになる。どういう意味かわかるか」
リルネはいつになく、老師の話し方が重々しいのを感じていた。
「はい、、。星と共存する道を生きよ、ということですか」
「うむ、、。おぬしにそう聞こえてしまったのならば、わしの言い方が足らんのじゃろうな」
老師はリルネの目を見て言った。
「為すことに善悪はない。すべてその心じゃ。おぬしの行く道に決断はつきもの。その時の心得と考えよ」
「はい。ありがとうございます」
いつになく重々しい老師の言葉に、リルネはまずそう返答した。そして考えた。決断する時はその心が大事ということ、そのように頭の中に入れた。
「ところでリルネ、おぬしはあちらの土地では山村にいたと言っておったな、、何をして暮らしていたのじゃ」
珍しく、老師が旧大陸のことを聞いて来た。
「はい、家ではおじいさんが牛とニワトリを飼い、おばあさんが野菜と薬草を栽培していました。私は、学校に通いながら二人の手伝いをしていました」
「養育をしてくれていた二人は、名を何といったかな、、?」
「はい、フレデリックとヘンリエッタといいます。クリストファー国王の養育係を務めていたそうです」
老師はしばらく考え込んでいたが、はっと目が輝いた。
「ああ、クリストファー国王の教育係をしとった、、フレデリックというのか、、そしてその妻じゃな」
「はい、そうです」
老師はいろいろ記憶を辿っているようだった。
「なるほど、なるほど、、、国王もよく考えたものじゃ、、」
老師は意味ありげにそうつぶやくと、リルネに向き直った。
「おぬしは、本当によき人材に恵まれておるのう、、。二人とも年齢から察するに、歪の刻印を生まれながらに持つ者でなく、ここへ来てそれを得た者であろう。彼らは息災か?」
リルネは、なんで今頃、、、と思ったが、老師が二人を知ってくれていたことは嬉しかった。
「はい、二人とも元気だと、思います」
今までは元気だと言い切っていたが、、言い切るには時間が経ち過ぎている。リルネもずいぶんと遠くに来たのだった。
「それでは遠慮なくいくかのう」
そう言って老師は、おもむろに「竜巻を起こしてみなさい」と言った。
知識を自らの気の力で形に変えていく、、竜巻のメカニズム、どういう条件下で発生するか、その知識を自分が持っていると老師は判断して、そう言ったと思った。そしてその元となる知識を、あのおじいさんとおばあさんから学び得ていると、老師が確信していることに、リルネは誇らしさや喜びを感じた。
リルネはすくっと立ち上がると、目を輝かせながら水辺へと歩いて行った。
その後ろ姿を見ながら、老師は違うことを思っていた。彼らの育てた子なら、きっと真っすぐに進むことだろう。これからどんなに大きな力を得たとしても、彼女が得る力はすこやかに使われることだろう、、、そう確信したのだった。




