21話 緊急事態宣言の解除
緊急事態宣言の発令から3週間が経ち、ゲズル長官の対処療法も効いてきて、新しい通貨での決済が少しずつ軌道に乗り始めてきた。まだ不安定要素はあるが山を越えた感はあった。
今日は全体ミーティングが開かれる。国王、ゲズル長官、フェリーシア、そしてそれぞれの部署の主要メンバーが集まる。
昨晩フェリーシアは、久しぶりにぐっすりと眠ることができた。
今朝は遅めの朝食を取り、数週間ぶりにゆったりとした気分で、食後のコーヒーを味わっている。
「フェリーシア、朝食はもう食べたのかい?」
「ええ、さっきいただいたわ。ヨハンは、これから?」
明るい笑顔でヨハンが食堂に入ってきた。
「ああ、隣、座ってもいいかな」
「もちろん、どうぞ」
遅い朝の時間、城の食堂にはもう二人しかいない。
「今日のミーティングで、緊急事態宣言は解除されそうかい」
「そうね、、ゲゼル長官の見立て次第だけど、もう解除されるんじゃないかしら」
「そういえばここに来た時、真っ先に彼の講義を受けたんだよ。その時は、ただの学者長官かって思ったけど、、あんな電光石火の技を使って、経済混乱を沈めてしまうなんて、、、びっくりしたよ」
「本当ね。彼は、すごい働きぶりだったわ」
フェリーシアも嬉しそうだった。
「君も3週間以上、あまり睡眠を取っていなかったんだろう。大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。私は体力には自信があるの、、と言っても、あなたも同じようなものじゃない。戻ってきてからずっと、ゲズル長官のところで作業してたじゃないの。あなたこそ、よく倒れなかったわね」
フェリーシアに切り返されてヨハンは笑った。
「君はすごいな、、。つくづくそう思うよ。不謹慎かもしれないけれど、、ボクは今回、君と一緒に仕事ができて、ホント嬉しかったよ」
ヨハンは、少しはにかみながら言った。
「私もあなたがチームに加わってくれて、嬉しかったわ」
フェリーシアもにっこりと笑い返した。
「君は、この後、どうするんだい?」
「う~ん、どの時点でこの騒乱が終わりと言えるのか、、まだわからないけど、、少なくとも、隠遁者たちを法廷に引きずり出すまでは終わりとは言えないわね。この国を混乱に陥れた罪は贖ってもらわないと」
「そうだね」
ヨハンは頼もしそうにフェリーシアを見た。
「あなたはどうするの、、、よかったら、、」
そこでフェリーシアは言葉に詰まった。ヨハンが、もし、もう新大陸にいることに抵抗がないならば、このまま残ってもらいたいと思っている。実家に戻るには、まだ複雑な問題があるし、だからと言って、旧大陸にまで今さら戻ることもないと思うし、、。
「なんだい、、。何か、フェリーシアの方から提案があるのなら、聞きたいよ」
ヨハンは少し心が躍った。彼女がもし、自分を必要としてくれているのなら、、、それに応えたい、、。
「その、、ここに残ってはどうかと、思ったの。もちろん、行きたいところややりたいことがあるのなら別よ。だけど、、もしなかったら、ここで、最後まで、ウォルシュや私たちと一緒に仕事をしてくれないかと、、」
フェリーシアも、ヨハンに言い出すには、どうも気後れした。ヨハンにとって隠遁者たちは、彼の人生を狂わせた仇だ。親に道を踏み外させ、息子を監禁へと追い込み、旧大陸まで逃げざるを得ない痛手を負わせた。そんな彼に、まだ延々とこの問題に関わらせてもいいのか、、、フェリーシアには判断できなかった。
「君がそう望むのなら、、ボクはここで手伝うよ。ウォルシュもとてもよくしてくれるんだ」
ヨハンは嬉しそうに言った。
フェリーシアは、彼がそれを望んでくれるなら、、それに越したことはない、よかった、と思った。
ヨハンがそう答えながら少し顔を赤らめたのを、フェリーシアは自分のせいだとは微塵たりとも思わなかった。
2時間後、全体ミーティングが開かれ、緊急事態宣言は3週間ぶりに解除された。




