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20話 金の退潮

 統括チーム室に並んでいるモニターは各州の拠点と繋がっていて、オンタイムで情報のやり取りをしている。各現場には情報処理班が常駐して、膨大な情報の処理と中央とのやり取りを担当している。

 フェリーシアはチーム室に籠ってずっと指揮を執っていた。現場から上がって来る情報に細心の注意を払いながら、隠遁者たちの動きを感じ取ろうとしていた。もし新たな攻撃が始まれば、すぐにその芽を摘み取れるよう神経を研ぎ澄ませていなければならない。


 初動のヨハンたちの動きが素早かったため、最初のステージはクリアしたと思われる。今は次のステージに入っている。

 ジムヨーク州の物流停止は今も復旧しておらず、一進一退の状況だった。隠遁者たちに他種のウイルスを血液中に送り込まれてしまえば、それが致命症になる恐れがある。それを探し食い止めるのがゲズル長官たちだった。ゲズル長官とのホットラインは予想以上にうまく機能していた。

 現場から上がって来る些細な情報もホットラインで彼らに伝えていた。今は財務省内を臨時に増員させて、24時間体制で稼働している。ゲズル長官はフェリーシアとほぼ同じくらい寝ていない。二人とも栄養剤を摂取しながら踏ん張っている。


 統括チーム室のモニターの内一つだけ、ニュースを流していた。サイバーチームとは別に一般の人々の様子を見たかったのだ。

 フェリーシアは、徹夜明けの身体にむち打って椅子から立ち上がり、顔を洗い、コーヒー片手に部屋に戻ってきた。モニターには相変わらず、無休で情報処理をしている各州の様子が映し出されている。

 コーヒーを飲みながら、ニュースのモニターを見た。そこではキャスターがジムヨークの隣接州のインターチェンジでインタビューをしていた。

 フェリーシアはニュースの音をオンにした。


―――

「あなたは、どちらに向かっているのですか?」

「ジムヨークの息子とその職場の同僚たちのところです。自分たちがいないとエネルギーが途絶えてしまうとかで、あの子たち、避難していないんですよ」

「車には何を積んでいるんですか?」

「10日分の食料とジュース、お菓子類ですかね、、」

「初めてですか、もう何度か行かれているんですか?」

「3回目になります。息子たちがジムヨークで頑張っているのでね、、、」

「他にもあなたのように、物を持って行かれる方々はいるのですか?」

「ええ、結構増えてきましたよ。最初はここも不安で不安で、、、食べる物もなくなるんじゃないかって、、。でも、幸いここは食料には困らないので、水と電気さえ通ってくれてれば、避難する必要はないですから。それより隣の州の方が大変なので、こっちから少し応援してあげなきゃってね」

「そうですか。気をつけて、いってらっしゃい」


「このように、応援物資を自ら足りない州へ持っていくボランティアの方々がいらっしゃいます…」

―――

 

 フェリーシアは気づかない内に涙をこぼしていた。寝不足のせいなのか、涙を止めることができない。

 そばにいたベインが驚いた。

「フェリーシア様、どうされましたか」

 フェリーシアは知らないうちに立ち上がっていたようだった、、が、静かに腰を下ろした。

「ベイン、、今のニュース、見た? 国民が動き出した。皆の方が、、動き出してくれた、、、」

 ベインも今のニュースを見たが、フェリーシアが涙を流すほどのことなのか、、その意図がよく理解できなかった。

「ベイン、報道機関に連絡して、協力を仰いで。どこが一番困っているのかを流してほしいと、伝えて、、」

 そう言われて、ベインはフェリーシアの意図を理解した。この小さな動きがもし全国的なものになれば、金の入り込む余地はなくなる。政府の信用は経済テロによって落ちることはない。

 ベインはプレスリリースを素早く作成し、各報道機関に送った。


 フェリーシアはさっそくゲズル長官に知らせた。

 すると、彼も泣き出した。張り詰めていた気持ちが何かに温かく包み込まれるような気分だった。国民が意思を持って相互扶助の動きに出れば、この信用競争で負けることはない。人々は金を選ぶのでなく、目の前の困った人を助けることを選んだのだ。

 私利私欲には陥らない、というこのマインドが広がれば、この人工的に作られた経済麻痺の泥沼から抜け出せる。隠遁者たちに勝つ道が見えてきたのだ。

 

「陛下、私も頑張って、、新通貨の浸透を進めます。金の回収も進めていきます」

 ゲズル長官はモニターの向こうで鼻をすすっていた。

「ええ、そうね。あと少し、頑張りましょう」

 人々の不安は回避されつつあり、政府の信用も維持されつつあった。

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