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14話 旧大陸の転換点

 エッジスタートのアルフレット国王は、新大陸の使者よりエイマリアの一連の事件と経済混乱の話を聞いた。

「ライアンが、、、そんなこと、、」

 言葉が出なかった。彼がジムヨーク州知事になってから滅多に連絡を取ることはなかったが、まさか国家転覆を狙う組織に入っていたなんて、、、想像できなかった。

 宰相のシューベルも慰める言葉が見つからない。

「新大陸は、やっかいなことになってきたな、、、こちらも大変な時だというのに、、」


 旧大陸も歴史の岐路に立たされていた。

 大祝祭が終わってから、教皇は威信を傷つけられたと、より白バラ十字団への取り締まりを強化しようとした。しかし教皇と距離を置きたい国々は、レフトゥルを支持する教会の伸長に好意的で、白バラ十字団の取り締まりはうやむやにしてやらなかった。

 フレンクランを始めとした親教皇派の国々は、白バラ十字団の取り締まりをするにはしたが、それは形ばかりのものだった。だんだんと教皇の神通力は効かなくなっていた。

 それと時を同じくして、市井の商人や下級貴族たちがだんだんとその勢力を強めた。


 フレンクランではそれが一番過激な形で表れた。

 現国王は弁競演会の後、国内ロッジの検閲に入った。もちろんエッジスタートのギルド技術の漏出の跡を探すためだった。しかし何も見つからず、そのうち業を煮やした王弟が王侯貴族の前で、王に諫言を述べるようになった。王は威信を保つために、強硬にギルドに踏み込んだ。その結果、いわれなき者たちの逮捕続出という事態を招き、また、懐刀だったトーボルクも、大型の武器工場建設が反故になる気配を察すると、素早くその責任を国に負わそうとした。ただでさえ、重税に苦しんでいた国民は、また増税かと反国王の気運はどんどん高まっていった。


 そんな折、カルレン公からエッジスタートに極秘の使者が送られてきたのだった。

 時勢に敏感な彼は、おそらく近いうちに国王は国弟に取って代わるが、それはただの王侯間の覇権争いの産物であり、国政方針は何ら変わらず、国民の不満は無視される。恐ろしいのは国民の不満の爆発であり、反乱の可能性である。それだけの力を平民側は持っているという彼の見立てを伝えてきていた。

 カルレン公の密書は、フレンクラン王室の様子を赤裸々に語った後、平民の反乱の可能性を示唆し、それを阻止するための密約を交わしたいという内容だった。

 アルフレット国王も王室内の詳しいことまではわからないが、フレンクラン国内の治安が乱れてきていることは、何度も報告を受けていた。これは軍や警察機構に対する国王の統治力の低下を意味している。

 バーグはその他にも、有力な商人や知識人がロッジ検閲下で続々と逮捕され、それに対する反発も大きいと報告している。


 

 アルフレット国王はシューベルと一緒に、待たせていた会議の席に着いた。これからフレンクランに対しての対処、そしてカルレン公の密書への対応について話し合う。

 新大陸については、今は何も考えないでおこう、、。そう思って国王は頭を切り替えた。


「皆、よく集まってくれた。昨日知らせた通り、フレンクランのカルレン公から密書が届いた。これについての皆の意見を聞きたい」

 エッジスタートの内政外政を問わず要職についている貴族たちが集まっている。外交についてはスコット外相が専門であるため、まずは彼が意見を述べた。

「フレンクランでは、現国王と教会の権威が落ちてきております。カルレン公の言われるように王弟がトップになるのは間違いないと思われます。ただ、平民の反乱が起こるというのは、まだどうも判断がつきません。私としては、それを前提とした約束はまだ時期早々だと考えます」

「バーグは平民の反乱についてはなんと言っておる」

 国王は全間者をまとめている外交情報相のダンスロット・ノンテブロワー公爵に聞いた。

「はい、バーグはあり得ると答えておりました。トーボルクに見るように、フレンクランでは商人たちの力は絶大です。今や国家よりも市井の商人の財力を合わせた方が規模は何倍も大きくなるでしょう」

「そうか、、他にこれに関する意見はないか」

 国王は他の者たちにも発言をさせた。大体は、スコット外相かダンスロット外交情報相の意見に従うものだった。


 国王は言った。

「カルレン公の密書の要点だが、、彼は平民の反乱に対して、エッジスタートと同盟を組んでいることを抑止力にしたいと言っている。今のところ、それ以上のことは書いていない、、実際に派兵を望むのか名前を貸すだけなのか、そこは言葉を濁している。ただどちらにしろ、平民の反乱を押さえるために我が国の名を使うということだ。これに関しては、皆はどう考える」


 これについては、答えはすぐ一つにまとまった。すなわち、名前を貸すだけならばそれをさせ、反乱を鎮めるのがよいということだ。

 しかし、国王はこれに意見をはさんだ。

「国民が重税で苦しみ、それに抗う手立てとして起こす反乱に、それを押さえる国王側の助け手として我が国の名が使われるのは、、私はどうも、納得がいかんのだ、、」

 宰相が皆を代表した。

「陛下、国民を思う陛下のお気持ちは、他国とて同じであること、よくわかります。しかし反乱が起きてしまえば、多くの死者が出ます。統治力の落ちた国といえども、国軍と商人や平民とがぶつかれば、力の差は歴然です。多くの平民が死に、悲惨な惨状のみ広がることとなるでしょう。まずはそれを回避することが賢明かと、、」

 国王もその点は同じなので、そう簡単に反論できない。しかし、それでも抗う。

「それでは、カルレン公に条件をつけるのはどうだろうか、、、。例えば、平民の意見を汲み取る王政改革を広く宣言するとか、、」

 それに対してスコット外相が意見を述べた。

「カルレン公は現国王に対して反対のお立場の王族です。しかし、王弟側についているわけでもありません。おそらく立場は平民側に近いものでしょう。ただ、平民の反乱が起こる前に反旗を翻せば、それではただの逆賊となってしまいます。彼はおそらく、タイミングを見ているのでしょう。王弟のクーデターと平民の爆発と、、そのタイミングを見て、両方を鎮めたいのだと思います」

「ふむ、、、しかし、それは、外相の見立てであって、確証はあるのか」

「確証はございませんが、フェリーシア様がやり取りされました内容を顧みますと、彼の強い意思が感じられます。現国王のエッジスタート派兵を阻止したかった彼の理由は、国内の疲弊を慮ってのことでした。重税で飢え苦しんでいる民がいることを彼は良しとしないのです」


 カルレン公がこうやって密使を送ってきたのは、弁競演会前のフレンクラン軍の派兵阻止のために、フェリーシアに力を貸したからだ。フェリーシアの考えに彼は利害の一致を見て、手を貸したのだ。

 外交上の相互主義の観点を思えば、こちらも利害が一致すれば、乗ってあげるべきであり、カルレン公はそれを期待し密使を送ってきている。


「わかった。では、こうしよう。平民の命を助けるために我が国の名を使うのはやぶさかではない。しかし我が国の国是と反する事柄には、手を貸せない、、。というのはどうだ」

「それは暗に、反乱が起きる前なら使ってもよいが、反乱が起きてしまったら、、反乱を鎮めるために使うことはするな、、ということでしょうか」

「そうだな、、そういうことだな、、」


 何人かは現実的でないと、保留を主張したが、大部分の者はその意見に同意した。

 アルフレット王はカルレン公の密使に、そのような返書を持たせた。

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