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11話 リルネの変化

 リルネは老師の衝撃的な話を聞いてから、修行者の間に入って猛烈に修練をしだした。目標を立て何かを目指そうとしているわけでも、神仙峯のために何かをしようというわけでもない。ただ、自分の人生が新しい段階に来ており、一歩前に進まなければならないということだけを感じている。しかしそう感じている理由はわからない。ただ、じっとしていられないのだ。何かに背を押されるように、わけのわからない焦燥感に突き動かされていた。

 老師はそんなリルネに先生をつけた。リルネは見る見るうちに、気の扱いも身のこなしも見違えるように上達し、気を自由にコントロールし始めた。


 修練に邁進するリルネを横目に見つつ、フェリーシアは大聖殿の書庫に出入りし始めた。膨大な数の書物から、老師の呟いた言葉だけで、その文献を探すのは不可能に近かったが、書庫は幸い分類別に整理されていたため、いくつかのキーワードを宗旨と時代と地域で絞って探した。フェリーシアも自身の体験の確かな証拠を見つけ出したく、熱心に探した。



 二人は一緒に夕食を取っていた。

「今日はどんな訓練をしたの?」

 最近はフェリーシアが話し出さないと会話はなく、リルネから何かを話すことはほとんどなかった。

「水面を飛び跳ねて、身体を自由に宙に浮かすこと」

 聞けばリルネはきちんと答える。それに思っていることや考えていることも隠さず話してくれる。それは以前と変わらない。しかし自分から話すことはない。そして大きく変わったのは、人が変わったかのように修練のことしか頭にないことだ。まるで何かに取り憑かれでもしたかのようだった。老師はほっておけばよいという。「新しいおもちゃを与えられた子どものようなものじゃ」という。フェリーシアもリルネの性格が変わったとは思わない。ただその集中の度合いが激しすぎて、少し不安になってしまうのだ。


 ふと、入口からリョンファンがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

 彼女はまっすぐこちらへ来ると、軽く会釈をした。

「お食事中、失礼しますね。さきほど、エイマリアのフォーエン様よりご連絡がありました。緊急事態が発生したので、明日、こちらに迎えに上がるとのことです。詳しいことはその時にお話しします、とのことでした」

 フェリーシアは、とうとう来たかと思った。もう少しここにいたかったが、でも、そろそろお父様も限界なのかもしれない。


「わかりました」

 フェリーシアはそう一言だけ答えた。

 すると、めずらしくリルネから口を開いた。

「フェリーシア、国に戻るのね」

「ええ、もともとそういう約束だったし、お父様も、堪忍袋の緒が切れてしまったかもしれないわ」

「無理はしないでね」

 リルネの言葉を聞いて思わず笑ってしまった。リルネは表情を変えずに真剣な顔つきで言っている。

「あなたの方こそ、無理をしないでよ。あなたの言う焦燥感に任せて、身も心も酷使しないか、、その方が心配よ」

 リルネは一瞬目をきょとんとさせたが、久しぶりに笑った。

「ありがとう。私は大丈夫。老師様もついているし」

 フェリーシアも久しぶりのリルネの笑顔に、少し安心するのだった。



 翌日、朝早くに迎えの飛行機は来ていた。

 フェリーシアは滑走路のある地点まで歩いて下りた。リルネも来なくていいと言ったがついてきた。


「リルネ、お父様の方のお仕事が終わったら、またこっちに戻って来るわ。それまで元気でね」

「ええ、フェリーシアも身体に気をつけて、危ないことはしないでね。コロントンでの約束は変わらないから」

 フェリーシアは、リルネの思わぬ言葉に胸が熱くなったが、微笑みで返した。

「ええ、わかっているわ。以前のような不安はないわ。大丈夫、、頑張って来るから」

 そう言って、二人はハグをした。


 フェリーシアはリルネのもとを離れると、飛行機に向かった。タラップの下にはフォーエンが立っている。

 フェリーシアはフォーエンに一言二言話しかけると、一緒にタラップを登った。タラップを登り切ると、振り返ってリルネに手を振った。リルネも手を振り返す。そして、フェリーシアは機内へと消えていった。

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