8話 不合理な数値
「ベイン室長! 見つけました! 数値が合っていません」
ウォルシュがノックもせず統括チーム室に飛び込んできた。
「どうした、急に。その数値が合っていないとは、何だ」
「はい、金の採掘量と市場流通量の数値です。調べましたところ金の採掘量、要するに国が保有する金の量が異様に少ないのです。いや、反対かもしれません」
「どういうことだ。順を追って説明してくれ」
ベインは興奮冷めやらぬウォルシュを落ち着かせた。
「ヨハンは金がポイントになるとして、金の市場流通量を調べていました。国の金の保有量は採掘量の半分ですので、市場流通量は国の保有量と同じのはずです。しかしそれがまったく違うのです。市場に出回っている金の量は、国が保有する量の6倍以上になります」
ベインはゲズル長官に至急アポを取るよう部下に言った。
「ウォルシュ、続けてくれ」
「どちらかの数値が間違っているのです。国の金の保有量の数値は財務省発行の報告書です。市場流通量の数値は金卸専門業者の経理報告書からのものです。市場に流通している金で、卸業者の手を介さないものがあるとしたら数値はもっと大きくなります」
ベインにも緊張が走り始めている。
「ヨハンも私も、財務省発行の報告書の方に間違いがあると見ています。その数値の出元はおそらく金採掘業者でしょう。そこに隠遁者に関係する者がいないかどうか調査するべきです」
「なるほど、、」
部下からベインに声がかかった。
「室長、ゲズル財務長官から連絡が来ました」
「そうか、つなげ」
室内の大型パネルにゲズル長官が映し出された。
「ゲズル財務長官、お忙しいところ申し訳ありません。急いでお聞きしたいことがあります」
「はい、緊急案件と聞いています。何でしょうか」
「我々が捜査している例の件での、金についてなのですが、、捜査員が市場流通量を細かく調べたところ、金の採掘量と大きな誤差のある可能性が出てきました」
ゲズル長官は目を見開いた。
「王立図書館で財務省の報告書を調べました。それは公式の、そちらの報告書で間違いないでしょうか」
「ええ、ほとんど政府文書は図書館にも保管され、閲覧可能にするのが法律で義務付けられていますから」
「採掘量の報告数値に間違いがある可能性は考えられますか」
ゲズル長官はショックを受けた。気持ちを落ち着けて答えた。
「もし、、数値に間違いがあるとするなら、、システムエラーかヒューマンエラーかのどちらかですが、、今は何とも言えません。いったん、我が省に引き取らせてください。詳しく調べるようにいたします」
「わかりました。よろしくお願いします。それから、僭越ながら、何らかの人為的操作が行われた可能性を否定できません。そのため、周りに気取られないよう進めていただきたく、、ご配慮をお願いいたします」
「は、はい、承知しました」
ゲズル長官の真っ青な顔と力ない言葉は痛々しかった。
「さて、こちらはこちらで調べなければならないな」
「はい」
「我々は採掘業者を徹底的に調べねばなるまい。ウォルシュ、さらに人員を回すから、ヨハンと一緒に業者にあたりをつけてくれ。私は、連邦側メンバーに隠遁者の関係者が採掘事業に関与していないかを調べてもらう」
「わかりました」
ウォルシュは数人のメンバーと一緒に図書館にいるヨハンの元へ戻った。そして図書館長とも話し、会議室の一つを調査室として使わせてもらうことにした。
それから図書館グループは昼夜を問わず、全採掘業者の報告書を片っ端から調べた。10年分の採掘量と、国と卸業者に納品した量と金額、卸先、それらを一つ一つ拾っていった。
ウォルシュも目の前の資料の山を減らしながら、時折買い出しに行き、息抜きにと差し入れをしつつはっぱをかけた。そうやって数日、だんだんと数字が出揃ってきた。
数字を積み重ねていく過程で、すでに怪しげな業者がいくつか出てきていた。全般的に右肩上がりの数値の上昇を見せている中で、同じ数値が続いたり、伸び率が大きく違ったりの、景気の上昇線と明らかに合わない数値の並ぶ業者が見られる。それも思ったより多い。
数字の出揃ってところで、業者の洗い出しに入った。下ろした先の卸業者との売買数値を見比べると、それは一目瞭然だった。卸業者の数値と大きくかけ離れていた。
この事実に、そこにいた者たちは皆青ざめた。
ウォルシュはベインに報告を入れると、ヨハンと共に統括チーム室へ行った。
「ウォルシュ、ヨハン、ご苦労でした。ヨハン、大金星ですよ。あなたの見立て通り採掘業者の中に不正にデータ改竄していた会社があったようですね。連邦メンバーの方の裏どりはまだ取れていませんが、採掘業者に急いで査察を入れます」
「はい、、早い方がいいと思います。それも同時に」
「そうですね。クロの業者すべて同時に入った方がいいでしょうね。私は手続きと人員確保をします。ヨハンとウォルシュは、査察において押さえるべき部署や担当者、そして資料など、査察時の要点をまとめてもらえないでしょうか。ずっと数字を追ってきたあなた方が適任かと思います」
「わかりました。何日も採掘業者の数字を追ってきましたので、担当部署やデータ改竄できるポジションなど、なんとなく見えています。要点をまとめますが、各社の社内人員表と経歴書も集めていただけるでしょうか」
「はい、それは財務省の方で準備できるでしょう」
ヨハンには、採掘業者の内部に人為的にデータを書き換えた担当者、そしてそれを隠蔽できるポジションが透けて見えていた。だんだんと隠遁者に迫っていると思った。




