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5話 財務長官ゲズル

「こんにちは。私は財務長官をしていますゲズルです。お話はベイン室長より聞いております。我が国の経済システムと経済及び財政状況でしたね」

「はい。あの、、我々皆、経済については門外漢ですので、、できれば素人にもわかりやすく、ご説明いただければと思います」

 ウォルシュが皆を代表して言った。

「はい。年に数回もない大学以外での講義とは、こんな機会、滅多にございませんので、誠心誠意努めさせていただきます」

 ゲズル長官は嬉しそうだった。


 ウォルシュはヨハンに言われ、すぐベインに相談した。ベインは隠遁者との戦いは、体を張った戦いでなく頭脳戦になる、それもおそらく経済方面の知識を要するだろうと言い、すぐに手配してくれた。しかし、いきなり財務長官のお出ましとあって、参加者はみな腰が引けていた。

 それとは反対に、財務長官はやる気満々だった。というのも、エイマリアでは経済分野はほとんど注目されておらず、大学の志望学部としても一二を争う不人気学部であった。教育を筆頭に自然科学、芸術、文学など、他学部は時の流行にも左右されはするが、安定した志望者数があり、それぞれの分野で一線を目指す若者たちがいる中、経済学部は王政の方針なのかと思うほど、人気もなく注目もされていなかった。


 ゲズル長官は複数のグラフを背に、意気揚々と話していた。

「エイマリアではコロン革命以後、緩やかな資本主義政策を取っております。特徴的なのは、通貨に減価通貨を採用している点です。これは、私の5代前、高祖父の父が発案したシステムです。このシステムの利点は…」

 皆、もう、初めから躓き出している。「緩やかな資本主義政策」「減価通貨」って、、。ウォルシュも聞きなれない言葉に、集中力が途切れがちになる。

 しかしヨハンは、自分が言い出したこともあり、メモを取りながら真剣に聞いている。


「現在はほとんどが電子決済ですので、通貨を使っている実感は少ないと思いますが、ご存知のように、我々は2種類の通貨を使っています。一つは身近に使っている地域通貨です。この通貨の発行権は各州にあります。そして、もう一つは政府通貨ですが、これは一般的な購買用通貨としては使われません。主に州間取引に使われ、地域通貨の信用補完のためにあります。地域通貨は減価通貨を採用しており、政府発行の政府通貨はそれを採用していません」

 

 ウォルシュが手を上げた。ここはもう、自分たちのレベルを彼に知らせなければいけない。

「質問してよろしいですか?」

「もちろんです」

「地域通貨と政府通貨では、具体的に何が違うのでしょうか、、、そして、革命前は、今と違ったのでしょうか?」

「なるほど、良い質問です」

 ゲズル長官はとても嬉しそうだ。彼が喜ぶのは、、ウォルシュの望むところではない。


「革命前は、いわゆるむき出しの資本主義でした。直近では金融システムが発達し、信用ばかりで資産を巨大化させてしまいました。ああ、失礼、、話を戻します」

 ゲズル長官は、話がズレそうなのを自重し矛先を戻すが、聞く方はどこがズレていたのかよくわからない。

「革命前、通貨にはその価値を減らすという機能はありませんでした。ですので貯めれば貯めるほど文字通り金持ちになり利権を得やすくなり、、利権とお金はセットになりやすかったのです。しかし、今採用されている減価システムは、お金を貯めると、年率で、決まったパーセンテージで価値が減っていきます。例えば、年率1%の減価率を採用している州ですと、10000あったお金が、1年後には9900になります。ですので、お金は使った方が得だというシステムです」

「ああ、お金は使うものだと思っていたので、あまり深くは考えませんでしたが、、例えば、それで、、昔みたいに金儲けをすることはできますか?」

 誰かがよい質問をしてくれた。

「昔みたいな金儲けは、、難しいでしょうね。確かに、政府通貨なら減価通貨ではありませんから、価値が減ることはありません。しかし、政府通貨での売買活動は限られています。州間の流通時に関してのみですので、実際にそれを富と言うには無理があるかと思います」

「政府通貨は貯めても、得はないのですか?」

「政府通貨は各州の銀行でその州の地域通貨に変換します。そうやって流通業者は州間事業を行っているのですが、その利率は、州間の為替レートにのっとっています。市場に流れる通貨も、革命前のような実体経済を無視した発行の仕方はしません。実体経済に則した上限を設けています。しかしそうすると今度は、投資活動が阻害されるという意見が出てきます、が、そこは投資倫理委員会が、」

「あ、そこまでは結構です! すると、政府通貨を貯め込んでも、うま味はないということですね」

 あまり詳しく説明されると、話について行ける者がいなくなってしまう。止めてくれた人はグッジョブである。

「そうですね、、私の考える範囲では、小銭稼ぎはできますが、それほど魅力的な稼業とは言えないでしょうね」

 ヨハンも手を上げた。

「金は、金はどうでしょう。金を保有することで、何か得することはありますか?」

「金?、、、それはまた、なつかしい」

 ゲズル長官はしばし黙考した。


「革命期よりも前、私の高祖父の父の時代、金は富の象徴であり源でした。貨幣の価値の裏付けを金が担っていたのです。例えば、どこかの国の貨幣が暴落しても、富裕者たちは金を保有して、自らの財産を守っていました。しかし今は、通貨価値の担保は実体経済を基盤とした国家です。金融で貨幣を弄ばない堅実な国家では、この信用は揺るぎません。現在では、金が喜ばれるのは宝飾品としてだけだと思います」

「金はもちろん自由に売り買いしているのですよね」

「はい、基本的にはそうです。基本的というのは、金の採掘事業は国が管理しています。そして金の採掘量の50%は国が買い取ることになっています。というのも、これは代々の教訓として金の50%は常に押さえて、残りを市場に流すようにと言われている、、いわゆる不文律です。私としては、そこにあまり意味を感じないのですが、、まあ、何ら影響のない不文律ですので、わざわざそれを破ろうとは思っていません」

 ヨハンは金にこだわった。

「例えば、金の残りの50%を誰か一人、いや一つのグループが所有することになったとしたら、それは国家とって脅威となりますか?」

 ゲズル長官は再び腕組みをし、考えた。


「我が国において、金を一所に集めるというのは不可能に近いと思いますが、、まあ仮にできたとして、、金の現在の立ち位置は、宝飾品としての売買対象の品物です。通貨信用の担保の位置にはありません。それに、そういう意識も国民にはありません。私には、残り全部の金を集めたとして、、、それできること、と言っても、、、想像がつきません」

 ヨハンはゲズル長官の答えを聞き、少しがっかりした様子ではあったが、当代きっての経済通が言うのだ、、納得するしかなかった。


 ウォルシュが質問した。

「あの、、通貨は減価すると言いましたが、金は減価しますか?」

「はい、品物ですので、市場価値が下がれば価格は下がります」

「今の時代で、先ほど言われた、貨幣の暴落ということは起こり得ますか?」

「今のところないでしょうね。通貨の暴落は、ある意味信用経済においては付いて回るものではありますが、しかし先ほども申し上げましたとおり、実体経済に裏付けされた通貨発行は、暴落する理由を市場に与えません」

 ゲズル長官はきっぱりと言い切った。

 こうして講義は終わった。



 統括チーム室に戻る廊下で、ウォルシュは固まった背中を伸ばしながらヨハンに言った。

「これで金の保有は、ただの偶然と見ていいでしょうかね、、」

「そうですね、、、」

 そう言いながら、ヨハンはまだ納得できなかった。

「あの、、ボク、革命前のR.C.の資産の作り方や金についてなど、、少し調べてみたいと思うんですが、、手っ取り早い方法って、何でしょう?」

 「金」の次は「経済史」か、、尽きぬ探求心にウォルシュは感心した。

「そうですね、、、大学で経済史を研究されている教授をあたるか、図書館で文献を調べるか、、でしょうか」

「あ、ここ、王立図書館があるんですよね。一回行ってみたかったです。どこにあるんですか?」

「コロントン市内です。ご案内しましょう。経済史の先生は私の方で探してみます」


 二人はいったん統括チーム室に戻ると、今度は王立図書館へ向かった。

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