27話 父と娘のすれ違い
フェリーシアとリルネが王城へ戻ってくると、いつになく人が多く、王の執務室を出入りしている。これから巡視チームが集まり、新しい体制で再出発するという。
少し離れた部屋で、国王と老師が話をしていた。
「この国は大丈夫じゃ。国王も国民たちもしっかりしておる。一部のたわけ者が問題を起こしているだけだ。もし手を焼くようであったら、そのたわけ者たちを神仙峯に送りなさい。私がたたき直してやるぞ」
老師の力強い言葉は、冗談だとしても、今の国王には励ましとなった。
「ありがとうございます。今までのように内密に調査を進めてきたのとは違い、全面的な捜査に入っていきますので、私も肝を据えて臨もうと思っています」
「ああ、おぬしならば、きっと出来るであろう。何しろ、ジョージ王以来の名君と神仙峯では噂しておるくらいじゃ。わしらがついておる」
国王は自信に満ちた目で微笑み返した。
「時にリルネは、いつ頃の出発になるのですか。フェリーシアも神仙峯に行きたいなんて、珍しいことを言っていましたが、、どこまで本気なのだか、、」
「はっはっはっ、そうか、フェリーシアがそんなことを言っておったか。それは確かに珍事じゃ」
老師は楽しそうに笑った。
「あの二人のことは、二人に任すがよいぞ。リルネとフェリーシア、、、あの二人は浅からぬ因縁を感ずる。前世の縁があるやもしれぬ」
老師はそう言ったが、国王はあまり要領を得ない様子だった。
「あの子は、昔からひと所にいるのが苦手で、いつも気づくとふらっと旅に出ていましてね、、。今回は、それが神仙峯なのかもしれませんが、、。しかし、、このタイミングで外回りすることもないだろうにと、、」
「おぬしもやはり、、人の親じゃのう」
老師は、これまた楽しそうに笑った。
フォーエンに連れられ、フェリーシアとリルネが来た。
「国王様、フェリーシア様とリルネ様が国王様にお話があるとのことでございます」
「そうか、ちょうど老師様もおられる。リルネの出発についても決めておかなければならない。入りなさい」
フェリーシアとリルネはフォーエンに礼を言い、部屋の中へ入ってきた。
「向こうは少し騒がしかったであろう。急遽、新たなチーム編成と顔合わせがされることになって、、、人が集まってきているんだよ」
国王はあらかじめフェリーシアに伝えらえていなかったことを、詫びるかのように言った。
「そうですか」
フェリーシアは気にする風もなく答えた。
そしてリルネが国王に言った。
「あの、国王様、私はこれから神仙峯の方へ参りますが、それについて一つお願いがございます」
「うん、、願い、。何だろうか」
「私が神仙峯に行くにあたり、フェリーシアにもついて来てもらいたいのです。彼女が、こちらで重要な仕事があることは重々承知しているのですが、少しの間だけ、彼女を貸していただきたいのです」
国王は、やはりそのことかと思った。なぜ二人はフェリーシアの神仙峯行きにこだわるのだろうか。
「それは昨日、彼女からも聞いたが、、。フェリーシア、君は本気なのかね。なぜ神仙峯に、今、行きたいんだ。今でないとそれはいけないことなのかね」
「国王様、私が頼んだのです。旧大陸の村から出て来てまだ数か月しか経っておりません。ずっと知らない土地ばかりを来ました。でも無事に旅を続けられたのは、フェリーシアがいつも私を守り、アドバイスをくれたおかげです。神仙峯が危険なところだとは思いませんが、初めてのところには変わりありません。私としては、最初の間だけでも、彼女に一緒にいてもらいたいのです」
国王は腕組みをした。
「ふむ、、リルネの言うことはわかる、が、、フェリーシアは神仙峯に詳しいわけではないぞ。案内なんてできなかろう。それに今回は老師様もいらっしゃる。神仙峯までは私が送りの便を出す。車輛でもセスナでも好きに選ぶがよいぞ」
やはり、国王はフェリーシアを手放したくないようだ。最初からチームに参加させたいのだ。
フェリーシアもそれを正式に断っていないから、国王は計画通り進めるつもりなのだ。
「お父様、、私が、私がリルネと一緒に神仙峯に行きたいのです。それではいけませんか」
フェリーシアがいつになく強い口調で言った。
国王もびっくりしてフェリーシアを見た。
「昨日言っていたのは、本気だったのだな、、神仙峯に行きたいと」
「はい」
フェリーシアはそれしか答えない。国王は理由を問いただそうと思ったが、躊躇した。フェリーシアがここまで自分を通そうとすることはあまりない。ふらっと旅に出るにしても、自分のすべきことはすべて片付けて行くのだから、誰も文句は言わない。しかし今回は違う。昨日、父祖たちについてじっくり話した。自分たちの責務や義務、そして父祖を同じくする隠遁者たちを捕まえることは、我々の使命だということ。フェリーシアは黙って聞いていたが、わかってくれているものだと思っていた。
「訳を聞かせなさい」
国王はめずらしく厳しい口調で言った。
「お父様、私は、隠遁者たちを捕まえるのは誰でもよいと思っています。特に私が同じ一族だから先頭に立たなくてはいけない、、とは、思っていません。だからと言って、野放しにしてよいと考えているのでもありません。この国を守るためにも捕まえなければならない人たちです。でも、是が非にでも私が、、という思いにはなれません、、、」
まずい、これでは親子の間に決定的な溝ができる、、。リルネはまずいと思った。センシティブな内容であるだけに、もっと時間をかけて話さなければいけないのに、、対話が圧倒的に少なすぎる。
その時、老師が口を開いた。
「クリストファー王よ、彼女たちはこれからの時代を担う若者じゃ。彼女らには彼女らの考えもある。わしらと同じように考えて行動しろと言うことはできんよ。それとも、、、何かな、、普段からフェリーシアは、民を顧みない冷血漢なのかな」
「いえ、そんなことは、、、」
しかしこの場合、隠遁者をこの手で一刻も早く捕まえることが、王族にとっての民への責務だった。
「フェリーシアは、しないと言っているのではない。リルネが行くのに自分も少しの間、ついて行くと言っているだけじゃ。わざわざ少しの間と、国王の気持ちを慮っているではないか。その隠遁者たちは、すぐ捕まえられるような者たちでもあるまい。じっくり腰を据えて取り組むのであろう。それであるなら、フェリーシアが少し遅れるくらい、、全体に差しさわりがあるとは思えんがのう、、。そんなにここは人材不足なのかのう、、、」
何とも言いにくいことをそのまま言う老人である。リルネはハラハラしてしまった。国王は戸惑っているだけなのだ。フェリーシアも気持ちは同じだと思っていたのに、違って、、戸惑い、もしくは寂しく思っているだけなのだ。老師も、そんな言い方しなくてもいいのに、、とリルネは思った。
「お父様、私は、もっとお父様とお話をする時間を持つべきでした。昨日、初めてお父様から直接お話を伺ったので、私も自分の気持ちの整理や心の準備に時間が足りないのです。たぶん、老師様がおっしゃるように、お父様と私の気持ちには、ズレがあるのだと思います。でも、、それは、私がこの国を軽く思っているとか、愛情や責任を感じていないとかではないのです」
よかった、、フェリーシアは、いつもの冷静なフェリーシアに戻っている。
「お父様が自分を追い込むほどに、そこまで捕まえたい人たちなら、私は余計に、全力で責務を全うします。ただその前に、少しの間だけ、リルネと一緒に神仙峯に行っておきたいのです」
こうも3人に言われては、国王が折れるしかなかった。フェリーシアも、今は感情的になっているわけではないし、彼女なりの強い意志も感じる。
「わかった。皆がそこまで言うのなら、それがよいのだろう。私が少し気負っていたきらいがあったのやもしれぬ。わかった、行ってきなさい。その代わりと言っては何だが、、、帰ってきたら、巡視チームだけでない、統括チームの責任者をしてもらうぞ。今回は、巡視チームに連邦の警察局メンバーが加わる。そこに数名のジムヨーク州警察局のメンバーも合流する。ジムヨークメンバーは君を知っているが、連邦のメンバーは君をまだよく知らない。だから、挨拶だけはしていってくれ。それから老師様、、あなたも、フェリーシアを後押ししたのですから、その責任は取ってもらいますよ」
老師は急なご指名に、首をすくっと持ち上げた。
「ほう、、、私に何かできることが、あるのかの」
「フェリーシアは、挨拶だけをして神仙峯に行くことになりますから、その理由を、今回の合同捜査チームが、安全に無事に目的を達成できるよう、神仙峯に祈りをささげに行くということにします。それを導くのが老師様です」
「なあるほど、、これはおもしろい」
老師は伸ばした首を戻して笑い出した。
フェリーシアは、老師が私たちの言い分を後押ししてくれるなんてと、少しびっくりしたが、でも人生って、あがいてみるのも悪くないと思った。自分一人ではうまくあがけなくても、、リルネとだったら、上手にあがけるのかもしれない。




