24話 二人の行くべき道
その日の夕食は、クリストファー王、老師、フェリーシア、そしてリルネ4人でテーブルを囲んだ。しかし、国王の会見や事件のことは誰も話題にあげなかった。
夕食を終えると、老師は夜空が見えるベランダへと出て行った。リルネも老師について行った。
部屋では料理の片付いたテーブルで、国王とフェリーシアがお茶を飲みながら話し込んでいる。フェリーシアは初めて、父の口からその父祖たちについて、父親の思いも合わせて聞くことになる。
奇しくもこれから二人の行くべき道が、はっきり分岐していることを示すかのように、別々の場所で別々の人と対話していた。
「リルネ、おぬしはどんなところで暮らしていたのじゃ」
老師はきれいな星空を見上げながら話しかけてきた。
「私は旧大陸の東の山脈地帯にある、山村で暮らしていました。そこでフレデリックおじいさんとヘンリエッタおばあさんに育てられていました」
もしかしたら老師は二人を知っているかもしれないと思い、わざと名前を出した。二人も歪の橋を渡ったのだから、王族ゆかりか神仙峯ゆかりか、どちらかの人なのだろうから。しかし老師の関心は、そこへには行かないようだ。
「そうか、、山村か、、」
そこに何か意味でもあるのだろうかとリルネは思ったが、そう言えば気になることがあるのだった。
「あの、老師様、、神仙峯は一般の人は入れないのでしょうか」
「ふむ、、一般の人、、。いや誰でも来れるところじゃよ。修行者が毎年集まって来ておる。ただ、最後まで残る者は一握りじゃがな」
「あ、いや、その、、ジムヨークやコロントンのように、そこに住もうと思ったら住めるところなのでしょうか、という意味です」
「ふむ、、住むか、、。どうじゃろうな、、あそこは、人が場所を選ぶというより場所が人を選ぶのじゃよ。その者が、何らかの理由で神仙峯に来て住まうことになったとて、誰も何も言わんじゃろう。しかし、自然と淘汰されていくのじゃ。場所が人を選ぶかのようにな」
リルネはサックセンの修道院で、短い期間ではあったが、そこで暮らした感覚がよみがえってきた。あの清楚な空気や、内面を見つめて瞑想するような世界がリルネは好きだった。だからといって、ずっとそこにいたいかと問われれば、何とも言えない。もっと世界を見てみたいし、フェリーシアと旅もしてみたい。もっといろいろな体験を彼女と一緒にしてみたかった。
「フェリーシアも来たければ来てもいいのじゃよ。誰も何も言わんよ」
リルネの心を見透かしたかのように、老師は言った。
「クリストファー王は、何度か彼女を抱いて神仙峯まで来ておったよ。赤子の頃の話じゃから、彼女は覚えておらんじゃろう」
「そうだったんですか」
リルネは、エッジスタートでフェリーシアの言った言葉が気になっていた。いつか二人の道は分かれてしまう、住む世界が違うから、一緒にいることが難しくなる、、と。リルネはそれを認めたくなかった。
老師はいつの間にか神仙峯について語っていた。
「・・・霊山を中心に、湖があり、森があり、自然がある。大地の声を聞き、空のつぶやきに心を躍らせる。人はこの星に生まれた限り、大地や自然と切り離なされては生きていけない。人がこの星を理解し受け入れれば、この星は人を慈しむ。時空さえ超えられるようになる」
リルネは黙って聞いていた。この世の真理を知りたいかと問われれば、知りたいと答えるリルネに、老師の話は魅力的で興味深かった。だからといって、何か一つの宗教を信じようとは思わない。ただ、精神世界を深く掘り下げた話は神秘的だった。
しかし、フェリーシアはどうだろうか。彼女はリアリストで、精神世界に関心はないだろう。でもそれでいいのだ。自分の好奇心と彼女の好奇心がぴったりと重なる必要はない。彼女は私が悪漢に襲われそうになれば助けてくれるし、友人が不当に捕まれば、知恵を絞り助け出す。そんなこと自分には到底できない。自分にできないことだからこそ、彼女を頼もしく思うし、誇らしく思う。
老師の話は続いていたようだ。
「・・・この国は大丈夫じゃ。クリストファー国王は立派な方じゃ。いくら昔を回顧したい者たちがおっても、彼が揺るがなければ問題はない」
けっこう老師様は、人好き話好きのようで、聞いているこっちが無言でいられるのは助かる。これが、私を気づかってのことであったのならば、、少し、申し訳ないけれど、、。
「彼女は、、使命の大きい者のようじゃのう、、。神は時に、能力のある者に大きい使命をお与えになる。しかし人は往々にして、その能力におぼれ自己の欲心のためにそれを使う。公のために正しく使える者はそう多くはない。しかし、彼女にはその欠片も感じられない。彼女から刻印が消えることはないじゃろう」
いつのまにか、フェリーシアのことを話していた。
急に寂しさがこみ上げてきた。楽しかった旧大陸での旅、エッジスタートで過ごしたこと、コロントン、ジムヨーク、、事件に巻き込まれはしたけれど、彼女はずっと私を守ってきた。なぜかいろいろな場面が思い返されてくる。まずい、、こんなところで弱気になってしまったら、本当にそうなってしまう、、、。
リルネは自然と歯を食いしばった。
それぞれの思いを抱えながら、夜は静かに更けていく。




