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20話 目覚めたリルネ

 フェリーシアとヨハンはランスの運転で、またリルネの病院へと向かった。

 

 リルネはまだ目覚めていなかった。

「私は、しばらくの間、ここにいるわ。ヨハンは、、、これから、どうするの?」

 フェリーシアは、今この時間をどうするかというより、父親が逮捕されるという状況下で、ヨハンはこれからどうするのか、、それが心配だった。ヨハンもフェリーシアの言葉の意味を理解していた。


「フェリーシア、ボクはもうしばらく新大陸にいるよ。父親がどうなるのかを見届けなければいけないし、、ボクも、、気持ちの整理をしたいんだ、、。少しの間、、一人で、時間を過ごすよ」

 フェリーシアはヨハンの顔を見てうなづいた。

「わかったわ。あなたはまだIDリングを受け取っていなかったでしょう。あれがないと不便でしょうから、用意させるわ。私のIDを登録しておくから、何かあったらすぐに連絡をちょうだい、、、」

 フェリーシアはそう言って、ヨハンの顔をうかがった。

「ありがとう。リング、、用意してもらえると助かる」

 フェリーシアはうなづき、ランスに目くばせをした。

 ヨハンはフェリーシアに礼を言って、ランスと共に部屋を出て行った。


 病室に一人残ったフェリーシアは、椅子をベッドの脇に置いて座った。

「リルネ、、、、」

 実際に実行犯の『Mr』を見た後では、監禁洗脳現場でのやり取りが想像されて、ひどく胸が痛んだ。

「ごめんなさい、、あなたを守ってあげられなくて、、」

 涙がこぼれた。フェリーシアはリルネの手を握って話しかけた。

「新大陸から、ヨハンが来てくれて、、、あなたを助けてくれたの、、。私は、、全然知らなくて、、。ここは、、私が思っていたような国では、もうなくて、、まったく知らない国に、、なってしまってて、、私、それを、ぜんぜん、知らなくて、、、あなたを連れて来ていたの、。ごめんなさい、、」

 フェリーシアの涙がリルネの手の甲に落ちた。その時、フェリーシアはリルネが微かに自分の手を握り返しているのを感じた。

「リルネ、、」

 顔を覗き込んだが、まだ目を開く様子はない。夢でも見ているのだろうか、、。もし、見ているのなら、どうか幸せな夢を見ていますように、、フェリーシアはそう祈った。



 フェリーシアはリルネの手を握りながら、いつの間にか寝入ってしまっていた。突然、腕のリングがバイブし、フェリーシアは目を覚ました。

「お父様、、、」

 フェリーシアはここ数日、波乱の日々を過ごしたが、まだ一度も国王と直接話をしていなかった。

 少し躊躇した後、通信パネルを立ち上げた。


「フェリーシア、病室だね。リルネの様子はどうだい」

「はい、、まだ眠っていますが、顔色は悪くありません。お医者様も身体に異常はないとおっしゃっていました。ただ、カウンセリングは受けた方がいいと言っていました」

「そうか、、大変な目に合わせてしまった。健康であって、まずは何よりだ。君は、そこにしばらくいるのだろう」

「ええ、リルネについているつもり」

 国王はうなづいた。

「こちらに神仙峯の老師が到着されたよ。リルネのことは伝えてあるので、ゆっくり養生するといいと言われている。それから、、」

 次の言葉を発するのに間があった。

「ライアンに、任意同行がかかった。知事という政治的立場があるにもかかわらず、逮捕までの証拠がないうちの任意同行となった。こちらの覚悟を見せる意味合いもある。それについても、、、時間を取って、君とは一度話をしないといけないね」

 フェリーシアは、うなづいた。


 通話を終えると、フェリーシアはソファに座り、ため息をついて天井を見上げた。叔父様の逮捕は時間の問題だと思っている。自分でなくリルネが連れ去られた時点で、彼女の正体を知っている人物は限られていた。エッジスタートでは、リルネの養育を任されていたため、その何人かは承知していたが、ここでは私すら知らなかったのだ。知っていたのはおそらく国王と叔父だけだ。何で叔父は、リルネを洗脳させたのだろうか。悪手にもほどがある。国王は国王で、爆破事件に弟が何らかの関与をしていると思ったから、巡視チームを送り込んできたのだ。それは、、また今度、父親と話す時に、ゆっくり聞こう、、。

 今は、、、神仙峯の老師だ。とうとう、、リルネを迎えに来た。リルネは神仙峯に行くために、ここまで来たのだから、、当然ではあるのだが、、、。

 その時、ベッドの布団が動いた。リルネが目を覚ましたのだ。


 今、目の前のリルネはすごい勢いで食事をしている。

 リルネが目を覚ましたことを医師に伝えると、医師はすぐに来て数値を確認し食事を摂らせた。

 医師が身体は健康と言っていたのを体現するかのように、リルネはたくさんの料理を注文し、片っ端から食べている。


「リルネ、ゆっくり食べても、料理は逃げたりしないのよ、、」

「ええ、わかっているのよ、、でも、おいしくて、、おいしくて、、」

 監禁洗脳され、今まで気を失うように寝ていた人とは思えない食べっぷりだ。

 さっきまで重たくなっていたはずのフェリーシアの心持ちも、リルネの姿を見ていると、どこかに霧散してしまうようだった。


 リルネがやっと食べ終えて、一息つくと、フェリーシアは『Mr』が逮捕されたこと、ヨハンが旧大陸から来て、リルネを助けてくれたこと、そして『Mr』の事情聴取までして彼を落としてしまったことを話した。


「あの男、、ジェスっていうのね、、。ほんと憎たらしい! 毎日、取り巻き連中と一緒に来て、、嫌みしか言わないのよ! 取り巻き連中も『Mr』『Mr』なんて言っちゃって、、。でも、ヨハンが懲らしめてくれたのね、。それに、、彼も、閉じ込められていたなんて、、」

「ええ、それも、ご両親から、。とても残酷ね、、」

「そうだったの、、、」

 リルネは目を曇らせたが、何を思ったか、すぐに気を取り直した。

「それで、ヨハンが取調室であいつをやっつけたのね!!」

 リルネは得意そうに言った。

「そう、すごかったわよ。あいつも頭の切れる男だから、最初、心配してしまったのだけど、、ヨハンは彼に何を言われても動じず、切り返して行ったの。そうしたらあの男のほうが、動揺して怒りだして、、自分からベラベラしゃべり出したのよ」

「すごい! すごい! あ~、私も見たかった、、」

「私も、ヨハンがあんなに切れる人だとは思わなかったわ」

 フェリーシアもその時の興奮が蘇っていた。

「それでヨハンは、今、どこにいるの?」

「あ、うん、、彼は、あなたの無事を確認してから、、少し一人になりたいって、、出て行ったわ」

「そう、、そうね、、。ヨハンは、、ここから逃げたくて、旧大陸に行ったのに、また戻ってきちゃったんだもんね。それに、ご両親のことも、、、」

「ええ、彼には今、時間が一番必要なんだわ、、」


 リルネは、食事が終わり一段落すると、さっそくカウンセリングを受けた。

 カウンセラー曰く、彼女はすごい勢いでこの10日間のことを話し続け、どれほど理不尽な扱いを受けたか、そして彼らの独善的な言動とその危険性まで、感情的に、理路整然とまくし立てたという。あと何回かカウンセリングを続けてもいいが、彼女はコロントンにお客さんを待たせているということなので、紹介状だけ準備し、もしコロントンでカウンセリングを受ける場合はそれを使うようにと、診察は終わってしまった。


 そして翌日、二人はランスと共にコロントンへと向かった。

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