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16話 リルネ救出とヨハンの葛藤

 ジムヨークの別邸に移って3日目の朝を向えた。


 早朝に、一報が入ってきた。ベインがフェリーシアの部屋をノックしながら言った。

「フェリーシア様、フェリーシア様、今、リルネ様が救出されました」

 フェリーシアは飛び起きた。すぐにベッドを下りて一階の事務室に走った。


 事務室では、ベインが通信パネルでランスと会話していた。彼はフェリーシアたちが別邸に移ってから現場復帰しており、今、リルネが閉じ込められていた部屋にいる。そして部屋の様子を送ってきている。

 部屋の中は比較的きれいだった。突入した時の乱闘で、物が散らばってはいたが、思ったより正常な生活はできていたようだ。

 次に病院から連絡が入った。リルネは身柄を保護された後、そのまま近くの病院に運ばれ治療を受けている。彼女は意識もはっきりしているし、怪我などの外傷も見られない。ただ精神的ショックを受けているようで、バイタル検査を終えたら、心療内科の受診をしたほうがいいと言われていた。

 続けざまに、警察局捜査本部の巡視チームから映像が入ってきた。リルネの救出と同時に『Mr』も逮捕されたのだ。捜査本部としてはこれを狙っていた。ヨハンが教えてくれた部屋の所有者、出入りする人物たちから、もう一カ所監禁場所が発見されていた。そこの監視を続け、『Mr』と関与している人物たちを取り押さえようとしていたのだ。

 『Mr』の有力候補として、ヨハンの話からジェス・ファーガストンという人物が浮上していた。彼は7年前、ベルフォンヌ議員の事務所に不定期のアルバイトとして働き始め、従来の職場だった食品加工工場はその3年後にやめていた。そこからの記録がない。ベルフォンヌ議員事務所からも籍は抜かれていた。その頃から、地下組織にもぐりこんだようだった。

 彼の4年前の画像記録をもとに、マンションに監視カメラを設置し網を張っていた。そして今日の早朝、彼が何人かの若者を伴ってマンションの部屋に来たのだった。ドアの中に入るのを確認し取り押さえたのだった。

 フェリーシアはベインの後ろでしゃがみこんでいた。両手で顔を覆って、肩を震わせ泣いていた。


 フェリーシアはいったん部屋に戻り、身支度をして再び事務室にやってきた。

「私、行くわ」

 そう言って事務室を飛び出そうとするので、すぐさまベインは止めた。

「フェリーシア様、どちらへ行かれるのですか」

「決まっているじゃない、病院よ」

「フェリーシア様、今、ランスがこちらに向かっています。もう少しお待ちください。彼が到着しましたら、病院と、捜査本部と、、フェリーシア様につけて運転をさせますので、もう少しお待ちください」

 今にも飛び出しそうなフェリーシアをベインは必死に押さえた。リルネが救出され、『Mr』が捕まったからといって、彼女が安全だとは限らない。


 ヨハンにもリルネの救出は告げられていた。部屋の外のあわただしさが伝わっていたが、ヨハンはどうにも動く気がしなかった。彼も、リルネには会いたかった。そのために、わざわざここまで来たのだから、、。しかし、、今、彼は、旧大陸にこのまま帰っていいのか、悩み始めていた。ずっとこのまま、、逃げ続けて生きていくのだろうか、、。ヨハンはこの2日間、自分はどうすべきかに苦悶していた。

 ヨハンはベッドからゆっくりと起き上がった。そして顔を洗い服を着替えて、事務室へと下りて行った。


「おはよう、ヨハン。リルネが救出されたわよ」

 フェリーシアが明るい声で言った。

 ヨハンは大きくうなずいた。

「フェリーシア、君はこれから病院に行くのかい? ボクも一緒に連れて行ってくれないか」

「ええ、もちろんよ。一緒に行きましょう。ランスが今こちらに向かっているから、彼が着きしだい出発よ」

 

 フェリーシアはこの2日間、ヨハンにR.C.の人と言われても、ヨハンに対する態度を変えなかった。正直なところ、フェリーシアもどうしたらいいのかわからなかった。ヨハンの苦悩は理解できるし、自分が責められるのもわかる。ただ、フェリーシアには前時代の父祖たちの行いが、自分も責めを負うべきものだとは、どうしても思えなかったのだ。父親がそれに重く責任を感じていることは、自分に何も言わなかったことから容易に推察できる。でも、自分には、、、正直、関係ないと、、思ってしまう。これは無責任なんだろうか、、身勝手なことなのだろうか、、。フェリーシア自身、まだそれを整理できないでいた。


「ヨハン、何か食べる? これからバタバタしそうだわ。今のうちに何か食べておきましょう」

 ヨハンは昨日まで部屋を出ず、ほとんど食事を取っていなかった。彼が自ら一階に下りてきてリルネに会いたいと言ってくれ、フェリーシアは少しほっとした。

 ベインは厨房のコック長に、消化のいい朝食を至急持ってくるよう連絡した。それを聞いてフェリーシアも厨房に向かった。

「私が直接口を出した方が、早いわね」

「はあ、、お嬢様は、、本当に、フットワークが軽くていらっしゃる、、、、」


 ヨハンも少しはフェリーシアの人となりを知っているつもりだ。デュッセルン村で助けられた時は、どこかのスパイかと思うほど、素早い動きと意表を突く計画で助けてもらった。弁競演会をリルネと一緒にひっくり返そうとしていた時は、フレンクランの脅威からエッジスタートを必死に守ろうとしていた。

 自分はいったい、何に、、不安を感じているんだろう、、。フェリーシアがR.C.だということと、自分の過去に何の関係があるのだろうか、、。直接、関係はないのに、何で彼女を恐れるのか、、。逆に、命を助けられている、、。

 ヨハンは過去のトラウマからくる自分の感情を、どう扱ったらいいのかわからなかった。


 10分も経たずに、厨房からコック長とフェリーシアが、2人分の朝食トレーを持って出て来た。野菜とスクランブルエッグ、ベーコンが皿にもられ、トーストにはすでにバターがのっている。昨日のスープも温められている。フェリーシアはテーブルの上にトレーを置いた。

「さあ、朝食よ。少し早いけど食べましょう」

 ヨハンはコーヒーポットを持ち上げると、2つのカップにコーヒーを注いだ。


 しばらくするとランスが別邸に到着した。フェリーシアとヨハンが車に乗り込むと、ランスはすぐに病院に向け車を発進させた。


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