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15話 秘密の隠遁者たち

 ジムヨーク別邸は、市内の南部を流れる川を渡った高台にあった。市内を見渡せる一等地だった。

 フェリーシアたちが車から下りると玄関で待っていた使用人たちは一斉にお辞儀をした。フェリーシアは幼い時に数回連れられて来たことがあったが、自ら訪れたことはなかった。フェリーシアは彼らに挨拶をして中へ入って行った。ヨハンもそれについて行った。


 1階の広い応接室からは、車から見た風景と同じようにジムヨーク市内を一望することができた。壁には数点の絵がかけられており、古風な調度品や暖炉で室内をアンティークに飾っていた。

 応接室にはフェリーシアとヨハン、そしてランスとベインがいた。


「ベイン、ホテルでの話の続きなのだけれども、いいかしら、、、」

 フェリーシアは部屋の真ん中にあるソファにヨハンを座らせ、自分もその隣に座った。

「はい、フェリーシア様、私の方で把握している情報は、すべて話してよいと国王様より指示がございました」

 ベインはそう言いながら、ランスに視線を送った。ランスは会釈をして、部屋から出て行った。ランスに知らされていない内容も含まれているようだ。

 ベインはフェリーシアに目配せをしながら、ヨハンはどうするかと無言で問うてきた。フェリーシアはヨハンを同席させたかった。というのも、、ヨハンに対する不可思議な疑問を解きたかったからだ。


 おそらく巡視チームは、ヨハンの父親はベルフォンヌ議員だと見て、家族関係、そしてジェフという男のことも調べているだろう。しかし、ヨハンはベルフォンヌ議員の実の息子であるはずがないのだ。もしかしたら、ヨハン自身も知らないのかもしれない。それも合わせて、フェリーシアははっきりさせたかった。

 フェリーシアが新大陸と旧大陸を行き来できるのは、ある印を身に纏っているからだ。リルネやヨハンがあの「歪の橋」を渡って来れたのも、本人も知らずにその印を身に持っているのだ。皆が皆、時空を超えられるわけではない。その印、見えない刻印は、王族の血が入っている者、そして神仙峯の者たちだけが持っている。新大陸から旧大陸に行けた時点で、ヨハンはどちらかかに属する者であるはずなのだ。


 フェリーシアは、ベインにニコッと笑って視線を返した。

 ベインはフェリーシアの無言の指示に従って話し始めた。

「簡単な経緯はランスから昨日お聞きになっていると思います。少し重なるかもしれませんが、順を追ってもう一度ご説明いたします」

 ベインは連続爆破事件の概要と、巡視チーム派遣の理由を話した。だいたいランスから聞いていた内容と同じだった。


「『Mr』については、ヨハン様がお話してくださった内容を元に、調査を開始しております。ヨハン様のお話はとても具体的でしたので、それほど時間もかからず『Mr』の正体を突きとめられるかと思います」

 ベインはヨハンに向かって言った。


「その問題の黒幕たちについてでございます。彼らについては、実は、ある程度の見当はついているのでございます。しかし、連続爆破事件との関連については何の証拠もありません。どのように捜査の手を入れて行けばよいのか、手をこまねいている状態でございます」

 そう言ってベインは、黒幕たちについて今までわかっているすべてを話し始めた。それは、フェリーシアがこの国で生まれ育ちながら、今まで一度も耳にしたことのない話だった。


 彼の話は、50年前のコロン革命の話から始まった。

「半世紀前まで、この国は権力とお金で支配されていた国でした。国は少数の富裕者たちによってコントロールされており、それは政治という表舞台の裏で行われていました。政治家は自分たちの利権を守り、大企業はがむしゃらに利潤追求に走り、一般市民は金持ちになることを夢見ていました。

 少数の富裕者たちは自らを大きく肥大化させながら経済をコントロールし、コア財閥を作り上げていきました。その中心にはある一族がいました。しかし世間では、ある時期からこの格差社会に対する反感が広がり、抗議活動が行われるようになったのです。

 それと時を同じくして、コア財閥の中心にいたその一族の中から離反者が出て来ました。彼は一族の当主が変わるその時を狙って謀反を起こしました。

 もちろん、彼はすぐに一族から破門され、命を狙われました。しかし彼は世論を味方につけて、一族と結託している政治家や経済人たちを逆に告発して行き、激しく糾弾したのです。国内は騒然となり、世論はどんどん彼を応援し始めました。

 彼が名前をあげた政治家たちは全員弾劾裁判にかけられ、一人残らず辞職に追い込まれました。彼は新たな国体を模索し、クリーンな国を作ろうと呼びかけ、その中で臨時政府が樹立され、国民はそのトップに彼を推したのです。

 この時、彼を一番に支えたのは宗教界です。各宗派の牧師や僧侶、そして信仰心の篤い人々が彼を支援しました。


 フェリーシアは50年前のコロン革命について、詳しく聞いた事がなかった。学校では、政治と経済の刷新のため、大統領制による議会政治から王制による議会政治に変わったと学ぶだけだ。共和国に新しい国王が立てられて、王国になったというだけだった。そのため50代以下の人は詳しい経緯などは知らない。そして、年配の者たちは好んで昔を語ることはなかった。


 フェリーシアは、いつだったかセシルおばあさんに言われた、あなたの一族の歴史という言葉が思い出された。初代国王のことは、折に触れ聞くが、その前の人たち、父祖については聞いたことがなったのだ。


 一方、ヨハンはフェリーシアの隣で体をこわばらせていた。身動き一つせず、じっと一点を見つめている。

 ベインは、ヨハンが何かに警戒しながら、ずっと緊張していることに気づいていた。その理由ははっきりしなかったが、彼はヨハンの経歴からそれなりの見当をつけていた。


「ここまで申し上げれば、はっきりとおわかりになると思いますが、前時代を牛耳っていたのはロッキーチャック一族でございます。現国王のお名前、「クリストファー・ロッキーチャック」、そしてフェリーシア様のお名前「フェリーシア・ロッキーチャック」、普段、「R.C.」で表記いたしますので、今ではあまり耳にすることもございませんが、、。先々代の国王、現国王の曾祖父に当たられますが、「ジョージ・ロッキーチャック」、彼がロッキーチャック一族に反旗をひるがえし、この国をお立てになった人です」

 

 父親が何もそのことについて触れてこなかった理由が、今、わかったような気がする。その歴史に押しつぶされないようにフェリーシアを守っていたのだ。

 国王は献身的に国に尽くしている。おそらく先王もそうだったのだろう。歴史の贖いという思いがあるのかもしれない。もしかしたら、フェリーシアに伝えていなかったのは、その鎖を断ち切りたかったのかもしれない。それは父親に聞かなければわからない。


 ベインはヨハンに話しかけた。

「ヨハン様、、、もしかしてヨハン様は、このことをよくご存じだったのではありませんか」

 ヨハンは相変わらず一点を見つめ、無言のままだった。

「ヨハン様がご両親との確執にお悩みになった時、そのグループやメンバーについてお調べになったのではありませんか? そして、ご両親のバックにいる黒幕についても、ある程度察していらっしゃるようにお見受けします」

 ヨハンはうつむいたままだった。しかし、彼が無言であるということが、ベインの指摘の正しさをもの語っていた。


 ベインは続けた。

「今の話には続きがございます。先々代の国王が新しい施政に取り組みながら、ご自身の一族を含め、コア財閥を解体し、法律によってふるいをかけました。そして今の国の土台が作られたのですが、それで彼らがいなくなるわけではありません。力は失いましたが、一市民としてお暮しになっています」

 ベインは紅茶を一口飲んだ。


「彼らはおびただしい数の企業と土地、家屋を売り払って一般の生活を始めました。多くの者は地方都市に住みながら一国民としての暮らしを営んでおります。しかし中には、昔の栄華を夢見る者もいるようです。当局の目をくぐり、秘密組織を作っていた者たちがおりました」

 

 フェリーシアは目の前の現実に意識が戻ってきた。

「それでは、あなたたちは、彼らの、秘密組織の存在を昔から知っていたのね」

「いえ、、この秘密組織がいつ頃できたのかは定かではありませんが、、、その存在に気づいたのは、つい半年ほど前でございます。彼ら、、私たちは彼らを隠遁者と呼んでいますが、、、隠遁者たちが秘密裏に集まっていることを偶然知ったのでございます。そのグループが政治的意図のある組織だとわかり、国王は秘密裡に調査チームを立ち上げ、調査と監視を始めました。これは連邦議会も知りません。国王とそのミッションに関わっている者たちだけです。しかし、先日連邦議会にアジェンダが「IFR」の名前で送られてきました。「IFR」というのは、前時代にロッキーチャック家が作った政策シンクタンクです。事ここに及んで、国王も、もう隠遁者たちの存在を秘密にしておくことはできないと判断されました。連邦議会の長老メンバーたちには、その存在についてお話しされました。しかし調査内容までは伝えておりません。内部に食い込まれている以上、それは慎重に行われなくてはなりません」


 フェリーシアは戸惑った。平和だとばかり思っていたこの国に、そんな問題が巣くっていたなんて、、。それに、自分は部外者なのか当事者なのか、、、どう考え対処していいのか、わからなかった。


 隣で無言で座っていたヨハンが初めて口を開いた。

「ベインさん、あなたのお話は国王側からのお話ですが、、、同じ一族で、どうやって敵味方の違いを見分けるのですか?」

 フェリーシアはヨハンを見た。彼は強い視線をベインに向けている。今までのヨハンとは何か別人のようだった。

「ヨハン様、私は国王の部下ですので、ボスの指示に従って仕事をいたします。しかし幸いにも、国王の命令で、私は私の良心に背くようなことをしたことはございません。隠遁者たちは国王と比較するに値しないと、私は思っております」

 ヨハンは間髪入れずに反論する。

「50年前まで、この国を支配していた一族と同じ者たちが、今、この国を違うやり方で支配しているのに、その隠遁者と彼らとで、何が違うのですか?」

 フェリーシアには、ヨハンが国王批判をしたいようにしか見えなかったが、そうなのだろうか、、。

「新大陸の国王、そして旧大陸のエッジスタート国王、それからこの国の中心とも言えるジムヨークの州知事、彼らはみんな血のつながった兄弟ではありませんか。50年前と何が違うのですか」

 フェリーシアは、叔父たちの名前が出たところで、彼の言わんとしていることに思い当たった。

 リルネが誘拐された時に思ったこと、、そして、ベインやランスに聞き切れずにいたこと、、。


「ライアン・R.C.は私の父親と、そしてグローデン・R.C.と家族ぐるみで付き合っていますよ」

 事も無げにヨハンは言った。ライアン・R.C.はジムヨーク州知事のことだ。フェリーシアは聞き切れずにいたことを、口惜しくもヨハンから聞かされることになった。

「そうですか、、やはりヨハン様は、ライアン様を目撃されたのですね」

 ベインも、ヨハンは知っていると考えていたようだ。

「ベイン、、グローデンというのは誰なの、、」

 フェリーシアは声を絞り出した。

「はい、、、グローデンというのは、隠遁者のボスと見られている人物です」

 ヨハンは、黒幕たちまでも知っていたのだ。これでは新大陸へ逃げたくなるのも無理はない。エッジスタートに近寄りたくないのも、わかる気がする。


「ボクはここに来る時に、エッジスタート国王に約束をしてもらいました。リルネが見つかったら、すぐに旧大陸に返してもらうという約束です。それを守ってくれるなら行くと言いました。ボクはあまり深入りしたくはありません。リルネとフェリーシアは、ボクの恩人だと思っていたから、、ここまで来ました。しかしボクは、、、フェリーシアが、、R.C.の人だとは知りませんでした」

 ヨハンはフェリーシアをR.C.の人という言い方をした。

 ベインはヨハンに言った。

「はい、その件はうかがっております。リルネ様が見つかり次第、すぐヨハン様を旧大陸の方へお送りすると、、、」


 フェリーシアは何も言うことができなかった。ヨハンに、あなたはお父様や叔父様を誤解していると言いたかったけれど、、そう主張することは正しいのか、、今のフェリーシアにはわからなかった。ヨハンは、この国の暗部を垣間見、監禁され、洗脳されそうになったのだ。そんな彼に、自分は何かを言える立場ではないような気がした。


 窓の外では日が暮れかけていた。眼下に見える川に、夕日の色が美しく映えていた。



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