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14話 悲しい過去

 ヨハンはレストランに入って、軽めの野菜サンドを頼んだが、食べ始めると胃が動き出したせいか、追加でたくさん注文し出した。ホワイトクリームのパスタとチキンソテーを注文した。それを食べ終えると、野菜スープを注文しそれにパンをつけた。とても食欲のない人とは思えなかった。

「ああ、なんておいしいんだろう、、。久しぶりだよ、ここの食事は。旧大陸もおいしいけど、やっぱり食べ慣れた食事には勝てないかな、、」

 ヨハンが満足そうにしているのを見て、フェリーシアは安心した。

 ただ、フェリーシアには、もう一つ不可思議な疑問があった。


 食後のコーヒーを飲みながら、ヨハンは気持ちに余裕が出たのか、もしくは、最初からそう決心していたのか、自分の話を少しずつし始めた。


「父親は、ボクの幼い頃から政治家を目指していて、いろいろな議員事務所で補佐をしていたんだ。そのうちジムヨークの州議会議員選挙に立候補して当選した。もともと人のために働くことが好きな人だったんだ。いつの頃からか、何かのグループに入ったみたいで、夜遅くまで誰かと会ったり、会合に出たりで、すごく忙しくなっていった。最初母は、そのグループの人と付き合うのを反対していたんだ。でも、どういう経緯でそうなったのかわからないけど、母もだんだんと父を応援するようになっていった」

 ヨハンは思い出すようにゆっくりと話している。

 フェリーシアとランスは同じことを考えていた。ジムヨークの州議会議員というのはもしかして、、彼のこと、、。

 

「ボクは自然や環境に関心があったから大学では地球科学を専攻したんだ。幼い時は医学にも興味があったんだけど、中学の時に針の先生に弟子入りして直に教えてもらっていたら、医療より自然科学の方に興味がわき始めた。人間の体と自然のサイクルは同じなんだとその先生はよく言っていたけど、針で人を治療するのは、自然が自律したサイクルを維持しているのとよく似ているんだ。それで結局、ボクは地球科学に進んだ。だけど、、、両親はそれをひどく反対した。おまえは指導者になる素質があるのだから政治や法律を勉強しろって言うのさ。でも、ボクはそっちに全く興味なくて、、。それでも、一時、法律も勉強してみたよ。でもやっぱり、おもしろいと思えなかった。それで両親は、、、特に父親はがっかりしたみたいだった」

 ヨハンは目の前にあるコーヒーを飲んだ。


「ある日、父と母が二人してボクの部屋にきて、急に、『君の人生についてじっくり話し合いたい』って言ってきた。両親は、自分のために自分を磨く生き方をしてほしいと言い、もっと利己的になれと言うんだ。もともと人間は利己的な生き物なんだから、それに沿って生きていくのが一番自然なんだと言うんだよ。でもボクは、そう思えなかった。父の言うこともわかるけど、ボクはそういう風には生きたくないって言ったら、さっきのマンションに入れられたんだよ。ボクの考えを変えさせるために、、」

 ヨハンはカップに残ったコーヒーを一気に飲み干し、水を一口飲んだ。

 フェリーシアは納得がいかなかった。しかし起きている出来事に疑義をはさんでもしかたない。


「ヨハン、ご両親は、あなたに政治家を目指してもらいたかったのかしら、、、それとも、ただ洗脳したかったのかしら、、」

 少し直接的すぎたかなと思いつつ、、ただ、彼らの動機をはっきり知りたかった。

 ヨハンは店の人にコーヒーのおかわりを頼んだ。店の人はすぐに新しいコーヒーを持って来てくれた。

「両方だろうね。ボクをその組織に入れたかったんだと思うよ」

 コーヒーを飲んで、ヨハンは「ふうー」と息を吐くと、また続けた。


「マンションの部屋には両親と知らない人たちが2、3人いた。何日かして、ボクに紹介したい人がいると言って、ある人を連れてきた。その人は父の仕事の補佐をしていると言っていたけど、、どちらかと言うと、それを生業にしていたんじゃないかと思う、、洗脳屋だね。彼は話すのがとてもうまかった。ボクは、こんなところで話なんてしたくないと言ったら、彼は怒り出したよ。『君の両親はこれほどまでに君の人生について考え悩んでいるのに、君はそこから逃げ出すのか』って。でも、『これでは話し合うにしてもアンフェアじゃないか』って言うと、『君はご両親と普通に家で話をしていたら、いったいどこまで真剣に話をすることができる?君が話したくないと思ったら、いつでも君は逃げ出せるじゃないか』と言うんだ。何か押し問答のようだったよ。でも、いくら向こうが詭弁を使って監禁を正当化しようとしても、結局彼らは、ボクを洗脳したくてしていることなんだよ、、」

 ヨハンは再びため息をついた。聞いているフェリーシアたちが腹立たしくなってくる。いったいヨハンの両親は息子を何だと思っているのか、、自分の息子を監禁してまで、なぜ利己主義を植えつけたいのだろうか、、。


「彼は、、確か父はジェスと呼んでいたような気がする。もともとどこかの工場で働いていたところを、父に声をかけられて父の手伝いをするようになったんだ。彼の口のうまさがかわれて、父がいろいろと仕事をさせたみたいだね。だから彼は父のことを恩人だと思っているよ、、。自分はIQの高い優れた人間だけど、父と出会うまではそれに見合う扱いを受けてこなかった、というのが彼の口癖だったからね」


 ランスは途中から、ヨハンの話を音声ラインを開いて巡視チームに送っていた。ジェスという名前が出たところで、チーム室の方では検索をかけていた。



 4人はホテルに戻った。エレベーターホールでエレベーターを待っていると、ラウンジの方から見知らぬ男が近づいてきた。ランスは近づいてくる男にすぐ気づいたが、表情を変えることなくエレベーターを見ていた。エレベーターのドアが開き、エレベーターホールの客たちは皆乗り込んだ。その男も一緒に乗ると、そのままフェリーシアたちと同じ階まで行き、一緒に降りた。降り際にランスが小声でフェリーシアに言った。

「お嬢様、この者は使いのものでございます。このままお部屋へお通しください」

 フェリーシアは不振な男にも、ランスが知らない振りをしていることにも気づいていたので、そのままうなづいた。そして、その男も自分の部屋へ入れた。

 

「お嬢様、お初にお目にかかります。私はベインと申します。巡視チームの室長をしております。フェリーシア様とヨハン様の身辺を警戒しお守りするようにと、国王より指示を受けました」

 横でヨハンがビクッとした。フェリーシアは彼を怖がらせてしまったかと思ったが、彼は今では重要な参考人だ、こちらで守らなければいけない。


「そう、、。それは、少しずつ、私たちが核心に近づいているという事ね」

「はい、フェリーシア様。国王は、特にヨハン様の存在は相手方にとっては脅威だろうからとおっしゃられました。それで、滞在先もジムヨークの別邸の方へお移り頂ければと存じます。ジムヨークの中では一番安全でございます。国王様としては、お二人を今すぐにでもコロントンのほうへお呼びしたいようなのですが、おそらくフェリーシア様は、リルネ様が救出されるまではそこを動かないだろうとおっしゃられまして、、」

「それはありがたい配慮だわ。お父様にお礼を言ってちょうだい。それから例の連続爆破事件の黒幕たちのことだけれど、、、その話は、場所を変えてからにしたほうがいいのかしら」

「はい、恐れ入ります。そうしていただけますと助かります。下にお車を用意しておりますので、さっそく、移動いたしましょう」

 


 ヨハンは、エッジスタートでフェリーシアの手紙の内容を知らされた時、リルネが新大陸で自分と同じ状況に陥ったのではないかと思い、意を決して戻ってきた。早く救出してあげたい、何か力になれればと思った。だが、、それが終われば、すぐにでも旧大陸に戻りたいと思っていた。リルネの救出だけを考えて来たのだった、、が。

 フェリーシアが、、、王族だとは、、それも王女だったとは、、知らなかった、、。

 ヨハンは必死に動揺を隠した。


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