表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/126

13話 ヨハンの上陸

 超高速艇はすごい速さで波をかき分けて進んだ。おかげで、ジムヨークの港に着いた時には、彼はへとへとになっていた。船は直接港に接岸し、陸に下りると、近くのベンチまでヨタヨタと歩き、座り込んだ。


「ちょっと休ませておくれよ。あんなスピードで走るなんて、、頭の中がずっと揺れているよ」

 船から一緒に降りた随伴者は、冷えた水を渡した。

 彼は礼を言ってその水をもらうと、まずは額につけて頭を冷やし、そしてふたを開けて一気に飲んだ。

 随伴者はそれを見守りながら、リングのパネルを立ち上げ、ヨハンが新大陸に到着したことを伝えた。


 同じ時間、ランスはフェリーシアの部屋をノックした。

「フェリーシア様、今、ヨハン様が港に着いたと連絡が入りました」

 ランスの言葉を聞いてフェリーシアは喜んだ。

「そう! 着いたのね」

「はい。今からこちらに来るそうです」

 賭けではあったが、フェリーシアは祈るような気持ちでその言葉を聞いた。


 再びフェリーシアの部屋がノックされた。すでに部屋で待機していたランスが、入口のモニターを確認し、ドアを開けた。

 そこには、巡視チームのメンバーに囲まれたヨハンが立っていた。

「どうぞ、中に入って」

 フェリーシアは立ち上がって彼らを迎え、そしてヨハンに微笑みながら言った。

「ヨハン、、元気だった?」

 ヨハンは少しはにかんだように笑った。

「うん、元気だったよ」

「あら、あの黒コートはもう着てないの? ああ、もう暑いから着てはいられないわね」

「ううん、暑くて着れないんじゃなくて、、、あの弁競演会の後、あのコートを着ているとあちこちで話かけられるんだ。『白バラ十字団の方ではありませんか?』って。だから当分の間、着るのをやめたのさ」

 ヨハンは笑いながら言った。

 フェリーシアもつられて笑った。そう、そうだった。あの弁競演会で、リルネがあのコートを着て演説したのだった。

「そうだったわね、、。あの時、あなたが偶然、フレンクランの食堂に現れて、リルネはあれを着て弁競演会で話すことになったんだったわね。ずいぶん、昔のことみたいに感じられるわ、、。それに、、まるで私たちに困ったことがあると、あなたは私たちの前に現れてくれるのね」

 フェリーシアは少し感傷気味に言うと、ヨハンは思い出したように言った。

「そうだ、どういうことなんだい、。リルネが大変だって、、」


 皆がソファに座わると、フェリーシアはヨハンに、リルネが拉致監禁されたいきさつを話した。黒幕と思われる秘密組織のことは話さなかった。ただ『Mr』を中心とした地下組織が、拉致監禁をしながら洗脳をし、この国でクーデターを起こそうとしている、という話だけをした。


 ヨハンは真剣に聞いていた。時折つらそうに顔をしかめることがあった。そして最後にフェリーシアは言った。

「私、マークに会った時、あなたを思い出したの。あなたがトーマスの家にいた時、ずっとテーブルの横で寝起きしていたでしょう。狭いところが苦手だって、、。そして、あなたが新大陸の人だってことも知っていたわ。何しろ『気』や『針』を扱う腕前はピカ一だったもの。この若さであれだけ使いこなせるのは、新大陸できちんとした専門教育を受けた人だと思ったわ」

 ヨハンはただフェリーシアの顔を見ていた。

「それにエッジスタートに行きたがらないのも、何かわけがあるのだろうと思った。今回リルネが監禁されて、そしてマークと話してから、、もしあなたにも同じような事があったのなら、、と考えたわ。きっと、、あなたも、、監禁されたことがあったんだろうって、、」

 ヨハンはうつむきかげんになりながら、フェリーシアの話を聞いた。フェリーシアが話し終えても、ヨハンは顔を上げなかった。その間、誰も、何も、言葉を発さなかった。そして、ヨハンは意を決したように、顔を上げて話し出した。


「フェリーシア、君の言うとおりだよ。ボクはここで生まれてここで育った。そして、ボクはここで、両親に監禁されたよ」

「えっ! 両親に、、、」

 フェリーシアはびっくりした。何で、、両親がそんなことをするのか、、。

 ヨハンは静かに話し始めた。

「両親は、ボクに自分と同じ考えを持ってほしかったんだ。だけどボクは、彼らの考え方はどうしても受け入れられなかった。すると、ある日突然、場所を変えてじっくり話がしたいと言い出したんだ。ボクは、別にそんな必要ないよって言ったんだけど、これは大事なことだからよく考えないといけないって言って、ボクを無理やり連れ出そうとしたんだ。仕方なくついていくと、あるマンションに連れて行かれた。そしてそこに閉じ込められた」

 フェリーシアは、にわかには信じ難かった。親が自分の子供にそんなことするなんて、、。いったい、どうしたら、自分の子供を監禁してまで洗脳しようと思うのだろうか。


 ヨハンは、いろいろなことを思い出しているようだった。それをなかなか言葉にできないでいる。だんだんとヨハンの肩が震えてきた。

 フェリーシアはヨハンの横に移り、肩に手を置いた。

「いいのよ、、話したくなければ、今は話さなくてもいいのよ、、」

 フェリーシアはヨハンが痛々しかった。彼は両親に監禁されていたのだ。そこまでして、自分の子どもを地下組織の一員にしたいのだろうか、、。フェリーシアには理解できなかった。

 

 フェリーシアはヨハンの様子を見ながら、少しずつ話を切り出した。

「リルネが、今、監禁されてしまったんだけど、、どこにいるのかわからないの。彼らの仲間を、ずっと見張っているんだけど、、なかなか尻尾を出さないのよ。それで、あなたが監禁されていた場所を、教えてもらいたいんだけど、、、覚えているかしら、、」

 フェリーシアはそう言いながら、ヨハンの顔を見ていたが、、、ヨハンは冷静に答えた。

「うん、覚えているよ、、案内しよう」

「そう、、ありがとう、、助かるわ」

 フェリーシアは、ヨハンに疲労がたまっているのはわかっていたが、何しろ早く監禁場所を特定したかった。

 

 フェリーシア、ヨハン、ランス、もう一人で、ヨハンの案内するとおりに車を走らせた。監禁場所はやはりジムヨーク市内だった。

 ヨハンはよく覚えていた。監禁から2年がたっていたが、それくらいでは心の傷はいえないのだろう。

 ヨハンが案内した場所は、ジムヨークのオフィス街を少し離れたところだった。たくさんのマンションが立ち並ぶ、その端にある30階立てのマンションだった。その前で車は止まった。

「ボクがいたのはこのマンションだよ。ここの最上階、、」

 双眼鏡で見た限りでは、中に人がいるのかどうかもわからなかった。窓はすべて閉められ、何かセロハンのようなもので中が見えないようにされていた。

「外からは中が見えないように、中からは外が見えないようになっている。窓も鍵が二重になっていて開けることはできないよ。セロハンが貼ってあるなら、まだ監禁部屋として使っているかもしれないね」

 ヨハンはそう説明してくれた。

「わかったわ。ありがとう、、。ランス、捜査本部にここのことを知らせて」

 フェリーシアはもっと細かく、いろいろな指示をしたかった。リルネがここにいるとは限らない。ヨハンに逃げられているのだから、場所を新しくしつらえているだろう。ドローンの張り込みはもちろん、部屋の権利者、マンションの所有者、そしてその権利者と所有者の別の物件を調べなければいけない。しかし、ヨハンの前でそういう指示はしたくなかった。それにランスならば、いや巡視チームであれば、そのくらいはするだろう。いくら事件が少ないからといっても、捜査本部だって、今はそれが本職なのだから、、。


 ランスが外で通話を終え車に戻ってくると、車は発進した。

「ヨハン、あなたお腹すいているんじゃないの? 食事、まだしていないでしょう?」

「ああ、そういえば、今日は朝から何も食べていなかった、、、」

「えっ、、それはごめんなさい。さあ、何か食べに行きましょう! 食べたいものはある?」

「そうだな、、、何か軽いものでいいんだけど、、。ボク、ずっと船酔いしていたんだよ、、いくら高速艇だっていっても、上限速度お構いなしに、すごいスピードで進むものだから、ずっと頭がクラクラしていたんだ」

「それなら、確かに軽いものがよさそうね」

 フェリーシアは笑いながら言った。

 彼らはレストランの並ぶ小じゃれた通りまで来ると、めぼしいレストランを見つけて入った。



 リルネは昼食が終わると少し横になった。だんだんと気力の萎えていっているのがわかる。自分の居場所を伝える手段もなく、誰も助けに来てくれないという絶望感、ここから逃げ出せないならば、出られる方法は一つしかない。それは、『Mr』の言うとおりに自分の考えを変えることだ。考えを変えたと偽装を試みても、向こうはプロだからすぐばれてしまう。

 リルネは、もう利己主義でも利他主義でも、そんなこと考えたくなかった。狭い部屋の中、殺傷与奪の権利を持った彼らに、どう対抗すればいいのかわからない。リルネはだんだんと思考停止が始まっていた。考えたくないものを無理やり考えようとすると、自分でも知らずに頭が動かなくなる。感情が無意識に頭の働きをストップさせてしまうのだ。しかし、『Mr』は監禁下で説得を受けている者が、そのような状態に陥ることを十分に承知している。リルネが思考停止になると、決まっておじいさんとおばあさんの悪口を言い出した。するとリルネは怒りが込み上げてくる。怒りが湧き上がるということは、同時に頭が動き出す、考え始めるということだ。それを狙ってまた考えろと迫る。

 リルネは、洗脳は薬や暴力を使わなくても可能なのだということを知った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ