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12話 フェリーシアの苛立ち

 ホテルに戻ると、フェリーシアはランスを自分の部屋に呼んだ。フェリーシアはランスに冷蔵庫から冷たい飲み物を渡すと、自分も冷えた水を一気に飲んだ。


「ランス、あなたは今日の話の内容を知っていたの?」

 フェリーシアはランスを睨みながら聞いた。彼はいつもと変わらず表情を変えることはなかった。

「『アジェンダ』が連邦議会に送られてきたことは聞いておりました。しかしイルミナティに関しては、今日初めて聞きました」

 フェリーシアはため息をつきながら言った。

「あなたたちの秘密主義には本当うんざりするわ。何で知っていたなら私に言ってくれないの」

 ランスはいつもと同じように言った。

「陛下のご命令がなかったのでいたしませんでした」

「そう返答するのはわかっていたけど、言わずにはいられないわ。さて、それなら、、少なくとも嘘はつかないでちょうだいね。私が、これからいろいろ質問するから、話せることは話してちょうだい。そして、知っていても言えない場合は『わからない』ではなくて『話せない』と言ってちょうだい」

 フェリーシアがそう言うと、ランスも無表情ながら逡巡している様子だったが、うなずいた。


「最初、爆破事件が起きた時、要するに、まだ連続爆破事件に発展する前に巡視チームは、すぐにジムヨークに送りこまれて合同の捜査本部を作ったわね。それは最初から地下組織の仕業だとわかっていたの? それともそうにらんでいたの?」

 ランスは変わらず無表情のまま答えた。

「当初から地下組織の犯行だろうと狙いはつけていました。しかしその時点では、まだ何の確証もありませんでした。できれば地下組織の調査は秘密裏にしたいというのが国王のご意向でした。ですから爆破事件を早目に解決して、われわれだけで地下組織の調査ができればと考えていました」

「地下組織の規模や中心人物の特定はできているの?」

「いいえ、そこまではできていません。ただ政権中枢まで食い込まれている可能性があると考えています」

「『Mr』という人物に目星はついているの?」

「いいえ、ついていません」

「えっ、、まだ目星はついていないの」

 これはフェリーシアには意外だった。ずいぶん前から地下組織を調査していたのなら、その中心人物くらいの目星はついているだろうと思ったのだ。その上で合同捜査本部という建前を作ったと思った。

「はい、残念ながらわかりません」

 ただ、そう言いながら、ランスはちょっと躊躇して、、いるようにも見えた。何かを、、言おうか言うまいか悩んでいる、、ような、、。


「ランス、捜査に必要な情報だと思ったら話してちょうだい、、いいえ、そうでなくてもよ。お父様が私を気遣って必要最低限の情報しか聞かせたくないのはわかるわ。でもね、私もこれからこの国を背負っていかなくてはならないの。私にも責任があるのよ。リルネを探すことが私の目的ではあるけれども、同時に、この国の安全がかかっているの。それはあなたたちの方がよく知っているじゃないの」

 フェリーシアは、リルネを探し出せずに焦っていたが、ランスにはそれでは届かない。国の安全を主張する方が彼には届く。


「フェリーシア様、少しお時間をいただけないでしょうか」

 ランスはそれだけ言った。

 フェリーシアは、彼が国王に意見を求めるだろうことはわかっていた。だが、それが前向きなものであってほしいと願わずにはいられない。

「いいわよ」

 フェリーシアは内心、煮えたぎるような思いで一言だけ発した。ランスは自分の部屋に戻って行った。 


 少しして、ドアがノックされた。ランスが入ってきたが、彼は何事もなかったかのように、もといた椅子に再び座った。


「お話を中座してしまい申し訳ございませんでした。続きをいたしましょう」

 フェリーシアは、彼が国王とどういう話をしたのか知らない、そしてそれを聞くのも意味がない、そう思って、彼の言うようにさっきの話を続けた。

「『Mr』の目星はついていないということだったわね」

「はい、そうです。ただ、我々が今まで調査していたのは、『Mr』ではありません。といいますのも、我々が追っていた地下組織は、先ほども申し上げましたように、政権中枢に入り込んでいる者たちです。いわば、今日のベルフォンヌ議員の報告にあったイルミナティに近いものだと考えています」

 フェリーシアは、ランスが自分への態度を変えたのを感じた。彼は自分の知っている情報を公開しだしている。国王がゴーサインを出したのだ。

 フェリーシアは、これで雲がかかっていたような風景がはっきりし始めると思った。きっと、、きっとリルネに今度こそ手が届くと、、確信めいたものが湧いてきた。


「ということは、組織が二つあるということ?」

「いえ、それはまだはっきりしないのですが、『Mr』を含めた連続爆破事件の関係者たち、もしくは拉致監禁を行っている実行犯たちは、実働部隊か、もしくは何らかの援助を受けている過激派グループではないかと見ています」

「ということは、彼らは、表面で動いている人たちで、もっと奥に黒幕がいるということね。それが連邦議会に『アジェンダ』を送りつけて来た人たち?」

「はい、そのとおりです」

 

 フェリーシアはそのまま黙り込んだ。ランスはフェリーシアが話し出すまで待っていた。


「連邦議会に『アジェンダ』を送りつけて来た人たち、、、イルミナティでもいいしIFRでもいい、、その人たち、、そのうちの何人かの正体はわかっている?」

 フェリーシアはランスがそこまで話してくれるだろうか、、、と思いながら聞いた。

「はい。まだ確証はありませんが、疑いのある人物という意味で、何人かの名前は上がっています」

「そこに、ベルフォンヌ議員の名前も入っている?」

「はい、入っています」

 はっきりとランスは答えた。

 フェリーシアはもう一人、名前を出して確認したかったが、それは今はよした。まだそこまでは触れたくなかった。


「ベルフォンヌ議員が言っていたイルミナティの話だけど、、、イルミナティの憶測を流している議員たち、連邦議員も含めて、、さっき言った疑いのある人物リストの中に入っているのかしら?」

「おそらく入っているのではないかと思います。ただ今、確認中です。イルミナティの話は、私も今日始めて聞きました。彼らが自らその噂を広めようとしているのではないかと、私も感じました」

「それは報告したの?」

「はい、先ほど報告しました」

 今晩のベルフォンヌ議員の話は、他の巡視チームメンバーから国王へ報告が行っているだろう。さっそく噂を流していると思われる議員たちの確認作業は進められているのだ。少し前、ランスが国王に連絡を入れた時に、確認していることを聞いたということだ。

「だんだん全体像が見えてきたわね。あとはその中に入り込む入口ときっかけを探している、、、という状態ね」

「はい、そのとおりでございます」

 フェリーシアはランスに礼を言って、部屋に返した。


 ランスから全体像は聞かされ、黒幕ははっきりしないながらも全容は見え始めている。しかしだからといって、リルネの監禁場所が特定されたわけではなく、やはりここは、エッジスタートから彼が来るのを待つしかなかった。


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