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11話 ベルフォンヌ議員

 フェリーシアはホテルにいた。リルネと一緒に泊まっていたホテルにそのまま滞在している。隣の部屋にはランスが入っている。

 現場検証からはめぼしいものは見つからなかった。周辺の定点カメラもすべてチェックしたが、犯人はカメラの死角を知り尽くしていたようだ。レストラン周辺、半径1キロまで範囲を広げたが、リルネは全く映っていなかった。近くで車内奥や屋内に入られたら追えない。カメラ死角内にある近くの建物は、すべて調べつくした。ワゴン車やトランクに入れられて連れ去られた可能性が高い。また、カメラハッキングされていた可能性も調べたが、痕跡はなかった。

 合同捜査本部は、現在捜索願いが出されている人のリストを作成し、その人物一人一人の家族や友人に聞き込み調査を行っていた。また、フェリーシアに言われた過去捜索願いが出され解決済となった人物のリストも作り、本人との接触も行われた。

 捜索願い解決済の人はそれほど多くはなく、18名だった。彼らには、どこに・なぜ・誰といたかなど、捜索願いが出された時の事情と、彼らもマークと同じように、洗脳されていないかどうか、秘密組織との接点はないかなど、丁寧な聞き取り調査もされた。利己主義に対する考え方など、いろいろな角度からアプローチをしてみたが、誰もそれらしい反応は示さなかった。そのため調査対象から外すことになったが、フェリーシアがそれを許さなかった。しかたなく捜査員たちは、彼らには尾行をつけて監視を続けた。

 フェリーシアも彼らに直接会って話を聞きたかったが、ランスに表立った行動は慎んでいただきたいと言われた。ランスがそう言うのは、父親がそう言っているということであった。リルネが狙われた以上、フェリーシアもいつ狙われるかわからないという判断だ。

 そして、それは合同捜査本部でもそうだった。フェリーシアは巡視チームの一メンバーということで参加していたが、警察局とのやりとりはランスがする。警察局で行われる捜査本部の会合や会議は、いつも部屋の後方で巡視チームの端に座り、参加していた。



 今日も夜に開かれた合同捜査本部の会議にフェリーシアとランスはいた。リルネがいなくなってから6日目の夜を迎えていた。

 今日は捜査本部で緊急の報告があるということで、どういうわけか会場がざわついている。皆が席について、フェリーシアとランスもいつもの定位置に座った。


 まず最初に、18名の動向の報告が行われた。当初、シロだと思われていた全く接点のない18名だったが、そのうちの何人かに、横のつながりのあることが判明、そしてマークと同じような洗脳行為を受けた可能性を示唆する言動が確認されるいたり、ここに来て最重要人物たちとして認識されるようになった。どこかで仲間や『Mr』と接触するのではないかと動向を監視していた。

 しかし、これはだんだんと持久戦になりつつある。相手の方も自分たちが監視されている事に気づき、むやみに接触しないよう、嵐をやり過ごすかのように静かにしているのだ。


 一通りの報告が終わると今日は重大な話があるということで、州議会議員が一人招かれていた。捜査本部長が紹介した。

「今日お越しいただいているこちらの方は、みなさんもご存知のジムヨーク州議会議員のベルフォンヌ議員です。今回の連続爆破事件は、実行犯が洗脳を受けていたという、予想外の事態から、『Mr』を中心とする秘密組織摘発という、大きな捜査方針の転換がありました。それに関して、ベルフォンヌ氏のほうから少しでも捜査の参考になればということで、先日、コロントンであった連邦議会会議の内容をお伝えしたいということです。私たちも捜査の役に立つのならばと思い、お越しいただきました」

 本部長はそう言って、ひな壇中央にベルフォンヌ議員のための席を空けた。


 ベルフォンヌ議員はひな壇の真ん中に座ると、捜査員たちに軽く会釈をして話し出した。

「皆さん、お疲れ様です。皆さんの日々の努力に我々は頭の下がる思いであります。その努力が報われるよう心からのエールを送る次第であります。さて、今日、私が皆さんの前に出てきましたのは、一昨日コロントンの連邦議会で話し合われた議題についてです。本来ならばジムヨーク州選出の連邦議会議員がこの場に来て話すべきなのですが、事が事なだけに、連邦議員たちも大変躊躇なさっています。連邦議会からの公式声明がまだないため、その議題についての公表は、各連邦議会議員の一存に任されています。当州5名の連邦議員の代理、そしてジムヨーク州知事からも捜査の助けになるのであれば、という温かい言葉もあり、こうしてまいりました」

 何かただならぬこの議員の話ぶりに、捜査員たちも緊張してきた。

「おととい、突然の連邦議会召集で議案に出ましたのは、ある書面が連邦議会宛に送られてきたからであります。それには『アジェンダ』と書かれていました」

 ベルフォンヌ議員はおとといの連邦議会の話をそのまま捜査員たちに話した。

 捜査員たちは驚愕した。そんな脅しのような書面が連邦議会に送られていたなんて、夢にも思っていなかった。捜査員たちは「IFR」について知らない者が多かったが、ベルフォンヌ議員はそれについては、詳しい説明はせず、新たな話をし始めた。


「我々若手議員の間では、この秘密組織はイルミナティではないかと話しています。前時代の秘密組織です。世界を統一しようと何百年もの間、生き続けてきた怪物です。彼らがまたどこからか復活して動き出したのではないかと、、、そういう憶測があります」

 会場がざわつき始めた。捜査員の一人が手を上げた。

「すいません。私はその「イルミナティ」というのを知らないのですが、それは何ですか?」

「あ、それを説明しないといけませんね。もうすでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、イルミナティとは前体制時まで存在していたといわれる秘密結社です。もともと我が国の建国もイルミナティが深く関与していたと言われています」

 ベルフォンヌ議員はポケットからハンカチを取り出し額をぬぐった。

「イルミナティは今から約300年前、アダムヴァイスという人物によって作られた秘密組織です。その意味は「神や人間についての内的啓示」という意味だと言われています。そこからも推察されるように、彼らは選ばれた優秀な者だけがこの世界を支配できると考え、世界統一政府を模索していました。そのメンバーには歴史上有名な人士も多くいるといわれています。また資金面の援助もしっかりとありました。歴史上の革命や事件の裏で暗躍していたとも言われています。彼らは前体制時に「IFR」という非常に質の高い政権のシンクタンクを作り、時の政権を裏から牛耳っていました。そして今回、連邦議会に送りつけてきた『アジェンダ』と全く同じ物を、前体制時にも送っていました」

 また捜査員の方から質問が出た。

「というと、、そのイルミナティというのが今回、また、連邦議会に『アジェンダ』を送りつけてきたと考えていいのでしょうか?」

「それはまだわかりません。イルミナティではないか、、というのは我々の憶測です」

 違う捜査員が質問した。

「今回の連続爆破事件に端を発した地下組織の存在が、このイルミナティではないかということですか?」

「それも何ともいえない状況です。ただ、今、実際に存在している地下組織と、そしてイルミナティと思われる『アジェンダ』を送りつけてきた人物、もしくは団体が、同じだという可能性がある、ということです」

 また違う捜査員が質問した。

「しかし先ほど、その『アジェンダ』の送り主は「IFR」と記してあったとおっしゃっいましたが、これが、その前時代のシンクタンクだとして、それが今もまだ存在しているということですか? それとイルミナティは同じものですか?」

「IFRは先ほども申し上げましたように、当時勢力を誇っていた政策シンクタンクです。彼らは50年前のコロン革命で解体されました。それとともにイルミナティも消滅したと言われています。しかし、おととい送られてきた『アジェンダ』の送り主はIFRとなっていました。これはもともとあったIFRなのか、もしくはそれを装う人物または団体なのかはわかりません。そしてもう一つの質問ですが、IFRはイルミナティが作ったシンクタンクです。まあ、ほとんど同じだと考えて間違いないでしょう」

 ベルフォンヌ議員は、またハンカチで額をぬぐった。次に質問が出てくる前に、彼から話し始めた。

「皆さん、まだわかっていることは少ないのです。おそらく皆さんの捜査によって、だんだんとその全容が見えてくるのではないかと期待します。ただ、今言えることは、この国に、政府転覆のクーデターを狙う地下組織があるということ、そして、連邦議会に正式にクーデターの意志を示した書面が送られてきたということです。そしてこの二つは、、一つであるだろうということです」

 ベルフォンヌ議員も疲労がピークに達しているようだ。ここまで話すと脱力したように、椅子に深くもたれかかった。捜査員たちも、もう一度今までの捜査内容を整理しないといけなかった。


 いったん話は、捜査本部長の方に戻された。ただ質問が出てくると思われるので、そのままベルフォンヌ議員には残ってもらった。

 これまでの捜査方針に付け加える事項について、本部長が話を進めている横で、ベルフォンヌ議員は疲れた目をして遠くを見つめていた。ふと、その視線の中にフェリーシアが入った。べルフォンヌ議員はフェリーシアを知っているのか、じっと彼女を見つめている。それに気づいたフェリーシアも彼を見ていた。


 長い捜査本部会議が終わり、ベルフォンヌ議員は何人かの警察局幹部に囲まれ話をしていた。それをうまく切り上げ抜け出すと、部屋の後ろにまだランスとともに残っていたフェリーシアに近づいてきた。


「あの、失礼ですが、、、国王陛下のご息女でいらっしゃいますか?」

 ランスは少しあせった。あまりフェリーシアの正体が知られるのはよくない。コロントンではまだしも、ここジムヨークではフェリーシアの顔と身分を知る者はごくわずかで、王家と個人的に交流のある人のみだ。なぜ彼はフェリーシアのことを知っているのだろうか。


「ベルフォンヌ議員は、なぜ私のことを知っていらっしゃるのかしら?」

「これは失礼しました。自分のことを申し上げずに相手のことを聞きだすとは、、。私はジムヨーク州知事と懇意にさせていただいています。州知事から、何かの折に写真を見せていただき、お顔を頭の隅に記憶していたのでございます。いつかお会いできれば光栄だと思っておりました。今日、このようなところでお目にかかるとは、びっくりいたしました」

 ベルフォンヌ議員はニコニコしながらそう言った。

「そうですか。知事とお親しい方ですか、、。それは存じ上げませんでした。今日はとても有意義なお話をしてくださり、ありがとうございました。どうぞこれからも捜査員たちのお力になってください」

 フェリーシアはそう言って、早々に席を離れようとしたが、ベルフォンヌ議員はすぐさま、それを遮るかのように手を差し出して来た。

「私にできることでしたら、どんなことでもさせていただきます」

 そう言って握手を求めてきた。

 フェリーシアは差し出された手を軽く握り、もう一度彼の顔を見て立ち去った。去り際に、ベルフォンヌ議員の額に5センチくらいの傷のあるが見えた。



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