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6話 行方不明のリルネ

 フェリーシアとリルネはこの3日間、ジムヨークのあちこちを観光していた。事件に関する新しい情報はなく、二人は思いのほか楽しむことができた。

 この日は大きな滝を見に行った。湖に3箇所から大きな川が50メートル以上の落差をつけて流れ落ちていた。激しい水しぶきを上げて落ちる滝は、今にも飲み込まれそうで壮大な景色だった。

 近くにはたくさんのアトラクションや展望台があり、リルネは大喜びだった。ちょうどイベント会場では暴れ馬のロデオ合戦が行われていた。興奮している馬に男たちがまたがっていかに馬をなだめられるかを競っている。それが終わるとサービス・アトラクションとして、一般客にも小柄の暴れ馬にじかに乗らせてくれた。

 リルネも挑戦してみたいと言ったが、フェリーシアに止められた。

「あなた、エンブルで乗ったのが初めてだったでしょう。まだそんなに慣れていないんだから、危ないわよ」

 もっともである。


 滝の観光を終えてジムヨーク市内のホテルまで戻ってくると、夕食を食べに近くのレストランに入った。二人はそれぞれのメニューを注文し、フェリーシアはレストルームに立った。

 フェリーシアが席に戻るとリルネがいなかった。あら、リルネもレストルームかしら、、でも会わなかったけど、行き違い、、と思ったが、フェリーシアは気になり、レストルームを見に行った。リルネの姿はなかった。

 フェリーシアは嫌な予感がし、すぐ席に戻り、近くのウエーターに聞いた。

「あの、さっきまでここに座っていた女の子を知りませんか?」

「さて、、、存じませんが、、、」

 フェリーシアは近くの席の人にも聞いた。

「あの、私と一緒に、ここに座っていた女の子を知りませんか?」

 すると客の一人が言った。

「あれ、、たしか、、お知り合いと一緒に、、席を立ったようだったけど、、」

「え、お知り合い、、、」

 ここにリルネの知り合いなんて誰もいない。これはいったいどういうことだろう。

「その人、どんな人か覚えていますか?」

 フェリーシアは急に心臓がドキドキし出した。

「はっきりとは、覚えていないけど、、男性と、話していたと思う、、、」

 それ以上、何もわからなかった。フェリーシアはすぐに警察局に連絡した。そして事情を話し捜索願いを出した。リルネはまだID登録していなかったので、警察局には、外国の友人でジムヨーク観光に来たと言った。そして自分のリンクからフェイス画像や声帯コードを抽出した。

 警察局が現場の鑑識をしてくれている間、フェリーシアはフォーエンに連絡を入れた。事情を話すとフォーエンもびっくりして、国王にすぐ報告すると言った。


 ホテルに戻ると、フェリーシアはリングのパネルを立ち上げ、国王を呼び出した。国王はすぐに出てきた。

「フェリーシア、ホテルに戻ったか。その時の状況を詳しく話しておくれ」

 フェリーシアはレストランであったことをそのまま話し、そして警察局に捜索願いを出したことを伝えた。リルネのことをあまり公にしないほうがいいのではないかと頭をよぎったが、事は急を要していると判断し、現場検証と捜索を優先した。確固たる根拠はないのだが、フェリーシアは嫌な予感がしていた。

 国王はフェリーシアの判断に対して何も言わなかったが、ひどく考え込んでいる。


「お父様、私には誰が何のためにリルネを連れ出したのか、全くわからないのだけど、お父様は何か心当たりがあるの?」

 国王は、すぐには口を開かなかった。

「今回の爆破事件と関係があるのかどうか、わからないけれど、、、とても嫌な予感がするの、、、」

 フェリーシアはこの国が、自分の知っていた以前の国とは変わってしまったことを、今ひしひしと感じていた。黙り込んでいる国王に、フェリーシアはそれでも話しかける。

「お父様、、、お父様が何かお隠しになっているのは知っているわ。お父様は、ご自分だけで問題を抱えていらっしゃり、そしてそれを解決しようとしている、、。きっと私にはお話しされないだろうし、心配をかけたくなくて、聞いても知らない振りをされるだろうと思っていた、、。でももう、、、リルネがいなくなったことが、それに関係あるのなら、もうこれ以上、、私は聞かないわけにはいられない」

 フェリーシアは強い口調で言った。

 国王は目をつぶったまま考え込んでいたが、とうとう、口を開いた。

「フェリーシア、、、これは、まだ公にされていないことだし、今の時点で君に全部話せる話ではないんだ。しかし、まず何よりも、リルネを探し出さなければいけない。私は国王直属の巡視チームをジムヨークの爆破事件捜査に送り込んでいる。そのうちの何人かを君に回すから、彼らと一緒にリルネを探してくれ。詳しいことは通話では憚られる。彼らを君のホテルへ行かせるから、その時に、彼らから状況を説明させる」

 国王は苦渋の選択だといわんばかりの顔つきだ。

「おそらく、、君の予想は当たっているよ、フェリーシア。あまり無理をせず、巡視チームのメンバーと一緒に行動するのだよ」

 そう言ってパネルは落ちた。フェリーシアは椅子に座り込んだまま、しばらくは何も考えられなかった。おそらく最悪の事態へと事が進んでいるように見える、、が、それを考えたくなかった。


 ドアがノックされた。フェリーシアは入口に近づき、モニターを確認した。ドアの外には男性が2人立っている。2人ともカメラに向かってIDを見せている。フェリーシアはそれを確認してドアを開けた。

 国王直属の巡視チームが今回の捜査に派遣されているというのは、パトリシアから聞いていた。彼らは国王の秘密任務を担う、インテリジェンスに精通した精鋭部隊だ。各種訓練を施されたエリートでもある。彼らが表立って捜査するということはない。だからパトリシアから合同捜査チームが編成されたと言われても、あまりピンとこなかったが、よくよく考えれば、これは非常事態だと言っているのに等しい。



 彼らの話を聞き終えると、フェリーシアは冷蔵庫から冷えた水を取り出した。2人にも渡して、自分も飲んだ。少し頭を冷やし、冷静さを取り戻したかった。

 彼らが話してくれたことは、おそらく今回の事件の一部に過ぎないのだろうが、それでもフェリーシアからすれば、事は十分大きかった。


 彼らの話はこうだった。

――半年前からある地下組織の存在が噂されていた。その組織は、この国をコロン革命以前の政治体制、すなわち共和制に戻し、当時の資本主義全盛期の社会に回帰させようとする秘密結社らしい。しかし、正体は一般人の中に紛れ込み、いまだわからない。その組織のトップは『Mr』と呼ばれ、どういう人物か皆目見当がつかないが、恐らく地位のある人物ではないかと思われる。今回の連続爆破事件は、その地下組織の一部が起こしたと考えられる。というのも、出所のはっきりしないスパムメールや事務局あてのメールだけで、組織の公式的な犯行声明がないため、内部分裂によるグループの一部による犯行か、単独犯ではないかと見ている。今のところ調査中。この事件とリルネが行方不明になったこととの因果関係ははっきりしないが、国王は彼らの仕業だと考えている。彼らがなぜリルネを狙ったのか、また彼らの仕業だと考えている根拠までは、国王は言わなかった。しかしこの地下組織を見つけ出すことでリルネを救出できるだろう――ということだ。


 フェリーシアは冷えた水を飲みながら考えていた。私とリルネ、犯人はリルネを狙った。なぜリルネを狙ったのか。神仙峯に縁のある者と知って拉致したと考えられる、、が、国を転覆させるには、王族を狙うより、神仙峯の人間を狙う方が利があるのか、、。


 フェリーシアは飲んでいる水のボトルを額に押し当てた。巡視チームがジムヨークに何人来ているのかは知らないが、目の前の2人のうち、一人はフェリーシアにつけられたSPであろう。国王はリルネが狙われたことでフェリーシアにも危険の及ぶ可能性があり、巡視チームと一緒に行動するよう言ったと思われる。

 自分の知らない間に、こんなことがこの国で起こっていたとは、、にわかには信じられない。


 フェリーシアは立ったまま、彼らに聞いた。

「捕まった爆破事件の実行犯はどんな人物なの?」

 先ほどから説明している男性が答えた。

「はい、20代前半の男です。逮捕時から、彼はずっと支離滅裂な事を言っていたので、すぐに精神鑑定にかけられました。鑑定書では、彼の思考は二重構造になっていて、中途半端な洗脳状態にあるということです。鑑定した医師によりますと、彼がもともと持っている従来の思考パターンがあり、その上に新しい価値観や考え方が彼の頭に植えつけられた。しかし、それがきちんと根付いていないため、彼自身が二つの価値観の間で揺れ動いているということです。より洗脳状態が進んでいれば、発言にも一貫性が保たれるだろうが、まだそこまで至っていない、不安定な状態だと言っています」

 フェリーシアは驚いた。

「えっ、それはどういうこと! 彼は誰かに洗脳されていたということ!?」

「はい、そうです。合同捜査チームは、その線ですでに捜査を進めています」

 フェリーシアは驚きを隠せなかった。今の、、この時代に、洗脳行為が行われているなんて、、。何と言っていいのか、、言葉が見つからない。

 そしてフェリーシアは、はたと思った。国王の考えが当たっていれば、リルネも洗脳される! まずい! 時間がない、、早くリルネを見つけ出さなくては!


「私をその犯人に会わせてくれないかしら。少し話がしてみたい」

 フェリーシアは彼らにそう言った。国王は一緒にリルネを探せと言った。そして彼らは、合同捜査チームのメンバーで、おそらくより上位の権限を持っている。


「わかりました。すぐそのように手続きいたします」

「それから、リルネのように捜索願いが出ている人たちはいないかしら、、それはもう調べている?」

「はい、犯人の身元を調べたところ、3ヶ月前に大学の友人から捜索願いが出されていました。そのため、捜索願いの出ている人々とその地域のリストを作成しています」

「そう。途中でかまわないから、10代、20代の人について教えてちょうだい。それから過去捜索願いが出されて、今は解決済になっている人のリストも作ってちょうだい」

 フェリーシアは立て続けに言った。

「彼のご両親やご家族とはもう会ったの?」

「はい。直接面会し、話を聞きました。彼はテカサス州の出身ですが、地元にいた頃はいたってやさしい青年だったということです。しいて言えば、正義感の強い青年で、頭のよい学生だったと話していました」

「そう、、、正義感の強い学生だったの、、、」

 フェリーシアはそうつぶやいた。はたから見てもわかるくらいに、彼女の頭はギアを変えて動き始めている。何かを描き出すようにフェリーシアは犯人をトレースした。

 



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